#215/598 ●長編
★タイトル (AZA ) 04/03/14 00:00 (299)
地震過剰 2 永山
★内容 07/05/13 13:14 修正 第4版
塩胡椒はなかなか見つからなかったらしく、行方教授が戻って来てから程な
くして夕食の時間を迎えた。残念ながら徳田健司は床に伏せたままとのことで、
全員揃ってとはならなかった。
「彼の食事はどうするんだね」
「少し前に、お粥を届けました」
事情を聞いた教授の疑問に、フランカが答える。そこへ今度は寛司が聞いた。
「健司の奴、食べていたかい?」
「ひとすくい、口にするのは見ました。そのあとは、見られていると食べにく
いなと云うので、私と三鷹さんは下がりましたけれど、あれは本当のところ、
まだ食欲がないのではないかと感じました」
「しょうがないなあ。あとで見に行ってやろう」
今は自分の食事が先だとばかり、割箸に手を掛ける。卓上では鉄板が熱を持
ち、油が早くも蒸発を始めていた。
「では、私の姪の歓迎並びに健司君の快復祈念の意味を込めて、乾杯と行こう」
行方の音頭で食事が始まった。
塩胡椒がなかなか見当たらなかったことを取っ掛かりに、話題は転々とする。
当然、三鷹も話の種にされた。
「珠恵ちゃんは夢って、何かあるの? 将来これになりたいっていうような」
宇津井は、いつの間にか下の名前にちゃん付けで呼ぶようになっていた。
「機械いじりが好きなので、工学系の専門家になりたいです」
「ロボット作りとか?」
「やってみたいですね」
「じゃあ、将来はロボコン大会出場か」
伊倉がしっかり食べながらも、会話に加わる。三鷹は否定的な返事をした。
「ロボットコンテストにはあまり興味が湧かないのですけれど……」
「どうして? 色んなアイディアが見られて面白いけどな、あの大会」
「それを認めるのにやぶさかでありませんが、自分は性格上、順位争いをする
競技では、勝負を最優先にしてしまいます。ロボットコンテストでは最強のロ
ボットが、最良のアイディアと必ずしもイコールで結ばれません」
「はっはあ。分からんでもないな」
感心した様子の伊倉だが、すぐさま飲み食いに力点を置き直した。
「中学生にしては、理屈っぽいことを考えているんだねえ。こうじゃないと、
学者になれないのかな」
寛司が呆れたように云ってから、教授を見、首を竦めた。
「私としては、この子にはもう少し女の子らしいところを身に着けてほしいと
願っているんだがね。勉強とは別に」
行方は既に酔い始めたのか、やや怪しい呂律で述べる。寛司が今度はフォロ
ーに回る。
「見た目は充分、女の子らしいですけど」
「中身も大事だ。論理的な思考と女性らしさは、なかなか同居しない」
「あらら。では、先生。私やフランカさんもそうではないと?」
宇津井が云った。反論のニュアンスはなく、会話を楽しんでいる風情だ。
「君達の能力はある程度知っているつもりだが、普段の女性らしさがどんなも
のなのかは知らん」
「実験を始めてから今日までで、分かっていただけなかったんですね」
がっかりした口ぶりに転じ、はははと高い声で笑った宇津井。彼女もアルコ
ールが回ってきたようだ。
「教授はともかく、皆さん、飲み過ぎは困ります。明日の実験に響きかねない」
浮城山が云う。彼自身、酒の量をセーブしているようだ。
「大丈夫ですよ、浮城山さん。まだ徳田君が一人に見えるから。二人に見え始
めたら危ないか、健司君が復活したってことかしらね。あははは!」
本格的に酔い始めた雰囲気の宇津井に、多くの者が仕方ないといった顔を覗
かせる。
三鷹は話題を換えた方がいいのかなと思い、「寛司さんと健司さんて、本当
によく似ていますね」と発言した。
「そうねえ、二等辺三角形と正三角形ぐらいには似てるかな」
宇津井が愉快そうに答える。分かりにくいが、面白い喩えだと三鷹は思った。
「そうかね。私の感覚では、うーむ、桜と梅と桃の区別と同レベルだな」
伯父の喩えは、なおのこと分かりにくい。
「それって、あんまり似てないって意味ですか」
嬉しいのか悲しいのか、複雑な表情の徳田寛司。自身のことが話題にされる
のが嫌なのか、箸も止まりがちである。
「似てるよ。けれど、そっくりってほどじゃないんじゃないか。先輩はどう思
います?」
伊倉が浮城山に意見を求めた。
「そりゃ双子だから、似てるよ。区別は付くけどね。それよりも飲み過ぎない
ように!」
みんなの話を聞いて納得できなかった三鷹は小首を傾げ、多少むきになった。
「そのようなことはないと思います。瓜二つです」
「私も同感です」
隣に座るフランカが、起用に箸を使いこなしながら、三鷹を援護する。
「こんなそっくりな兄弟は、日本に来て初めて見ました」
「アメリカにはいないってか」
からかい気味に云って高笑いをした伊倉。小さい頃に躾されなかったのか、
飯粒は飛ぶわ、箸の使い方はなってないわで、マナーが悪い。
フランカは律儀に訂正を求めた。
「区切る位置が間違っています。分かり易く云い直すと、日本で初めて見たの
ではなくて、日本では初めて見たのです」
「これはまた失礼をしました」
箸を持った手を振る伊倉の様は、議論の相手になるのをいかにも面倒臭がっ
たように、三鷹の目に映った。
夕餉の席も終わりに近付き、フランカが三鷹の手伝いでデザートの用意を始
めたときだった。
それまで酔い潰れていたはずの宇津井が、テーブルからむくりと上半身を起
こし、照明をじっと見つめる。
「地震?」
彼女の疑問形の声を合図としたかのごとく、建物全体が振動を始めた。かな
り大きいとの予感が走る。
浮城山とフランカの行動が早かった。どちらも「ガス、電気!」と叫んで、
コンロや鉄板を見る。使用状態にないと分かるや、テーブルの下に潜り込んだ。
行方や三鷹、寛司に伊倉もこれに続く。
最初に気付いた宇津井は、矢張り酔いのせいだろう、動きが鈍く、椅子がか
たかた鳴り始めた頃にやっとテーブル下に身を潜めた。
それから二十秒ほど続いた揺れは、潮が引くのにも似て、すっと収まった。
「……大きかったですね」
三鷹が初めに動いた。
「震度四ぐらいかしら……」
「そうだな。ああ、テレビを」
教授の声に呼応し、浮城山が歩き出す。食堂のテレビを入れてリモコンを握
ると、元の位置に戻った。
チャンネルはNHKだが、画面の上側にそれらしき速報はまだ出ない。
「余所も見てみます?」
「いや。このままでいい」
今更ながら悠然とした態度を取り繕い、座り直した行方。三鷹は密かに笑い
そうになったが、はたと思い出した。
「あの、健司さんの様子を見に行くべきではありませんか」
「――そうだ」
寛司が椅子の背もたれを掴んで立ち上がり、急ぐ。だが、足を止めて、「誰
か着いて来てくれませんか」と振り返った。
「地震のショックなのかな。足腰が震えてる感じで」
「しょうがないわね」
宇津井が応じた。でも、ふらついている。見かねて、三鷹も着いて行くこと
にした。
一人はほろ酔い、一人は膝ががくがくだったが、それでもなるべく急いで駆
け付け、ドアをノックする。応答はなかった。
「熟睡しているのかな」
宇津井が壁にもたれ掛かり、煙草を取り出す仕種をする。どこかに置き忘れ
たのか、空振りだったようだ。
「かもしれません。でも、一応、見ておかないといけませんわ」
三鷹の主張が通り、寛司がノブを回した。
「開いてる。電気も点いてる」
彼は呟きながら、そろりそろりと扉を開けていった。
「おーい、健司、無事か……?」
声が途切れ、息を呑むような気配が、寛司の背中から発せられる。壁にもた
れたままの宇津井は、空気のちょっとした変化を感じ取れないようだ。
「どうかしましたか」
三鷹が尋ねる。しかし、寛司は無言のまま、道を空けた。その右手の人差し
指は、室内のどこかを示し、小刻みに震えていた。地震のショックが伝播した
訳でなく……。
「あっ」
三鷹の目は、その惨状に釘付けになった。
この頃になって宇津井もようやく変だなと思ったのか、身体を壁から剥がし、
どうしたと真剣な口調で割り込んできた。
そして室内に視線を巡らせるや、両手で三鷹の目を覆った。
「子供には強烈過ぎるわ。私も酔いが一発で覚めた」
宇津井の冷静、いや干上がったような声が響く。
三鷹はでも、忘れられそうになかった。
徳田健司らしき人物が、ベッドの端に窮屈そうに横たわったまま、顔を潰さ
れて血塗れになっていた。明らかに死んでいる。そう思えた。
「珠恵ちゃんは回れ右をして……そう、先生に知らせて頂戴。珠恵ちゃんはこ
こに戻らなくていいからね!」
「はい」
云われるがままに方向転換し、目隠しを解かれた三鷹は、走り出す間際に、
宇津井の呟きを聞いた。
「窓から誰か侵入したのか?」
網膜に焼き付いた部屋の情景では、確かに窓が開いていた。
警察が呼ばれて以降、三鷹は完全に現場から遠ざけられた。中学生なのだか
ら、仕方がないであろう。
個室では近すぎるということで、キッチンに留め置かれた三鷹に、事件発覚
後、最初に話し掛けたのは宇津井だった。
「こういうときの話し相手は、私よりも教授かフランカの方がふさわしいと思
うけれど、勘弁してね」
しっかりした口吻で喋る宇津井。アルコールは勝手に飛んで行ったのかもし
れない。
「皆さん、どうなさってるのですか」
「ドラマなんかにある通りよ。刑事物のドラマ、見たことない?」
「あまり見ませんが……取り調べ、ですか」
「まあ、事情聴取だね。話を聴く段階であって、まだ本格的に疑ってるんじゃ
ないと思うよ。ただ、フランカは生きている健司君を見た最後の人だからか、
ちょっと厳しめに聴かれてるようだね」
「ああ……理解しました。でも、フランカさんがお粥を運ぶのに、自分も付き
合いました。どうして聴いてくれないんでしょう」
「そりゃあやっぱり、あなたが中学生だからであり、フランカ一人の証言で充
分と考えたからじゃないかな」
納得できなかった三鷹だが、ともかく宇津井の話の続きに耳を傾けた。
「行方教授は、関係各所に電話連絡で忙しい様子よ。寛司君は兄だから当然、
長く聴かれているし、浮城山さんと伊倉君はここでやっている実験について、
説明をさせられてた。私が解放されたのは、酔っ払いであることと、あなたへ
の話し相手になってくれっていう意味があるみたい」
云いながら、首をついと、出入口の方に向ける。三鷹が振り返ると、制服を
びしっと決めた警官が、それとなく中を窺うような体勢で立っていた。
「男に話し相手は難しいとしても、婦警さんはいないのかしらね」
「あの、宇津井さん。何故、皆さんを調べるんでしょう?」
「うん?」
煙草を弄んでいた宇津井が動作を止め、見返してくる。
「部屋の窓、開いていたのでしょう? そこから入った何者かが、健司さんを
殺害したと考えるのが物の道理ではありませんか。フランカさんがお粥を運ん
だ際、自分もドアのところから見ました。あのとき健司さんは間違いなく部屋
にいて、ベッドで上半身を起こし、お盆を受け取りました」
「……」
「あれ以後、食堂でみんな一緒にいた。誰も、健司さんを殺害できません」
「さすが、教授自慢の姪御さんだわ。観察力も論理的思考も、大したもの。こ
の混乱の中で、そこまで組み立てられるなんて」
感心したのか、短く口笛を吹き、宇津井は煙草を仕舞った。テーブルに両肘
を突くと、手を組み合わせる。
「実は私もそう考えて、楽観視していた。ところが警察は、何だか知らないけ
れど、疑惑の目を私達に向けてるみたいなんだよね」
「何故なんでしょう」
「まず、侵入した形跡が判然としないらしいんだ。はっきりと聞かされた訳じ
ゃないがそんな風なことを云ってたわ」
「でも、このところ晴天続きですから、足跡が残るとは限りません」
「外部犯だとしたら、その賊はどうやって窓を開けたのかってことよ、きっと。
窓は割れていなかった。冷房の効いた部屋で、健司君が窓のロックをわざわざ
解除していたとも思えない。だから賊は玄関から入って健司君の部屋まで行き、
犯行後、窓から出た。あるいは窓の外からノックして健司君自身に錠を開けさ
せ、中に入り、犯行後、同じ窓から出た。このどちらかになる」
「……ここへ着いた当初、防犯がなっていないと感じましたが、玄関から入ら
れて誰も気付かないなんて、信じられません」
「賛成だね。でも、健司君が窓を開けたのも妙だわ。知り合いが来たのなら、
出向くでしょうよ。それがしんどくて無理なら、相手に玄関を通って上がって
こいと云うはず。そしてそんなことしたら、私達が気付くはず。実際はそんな
ことは起きなかったと考えるのが妥当」
「窓から招き入れるのは、不自然極まりない……」
考え込む三鷹に、宇津井は「恋人と密会するつもりだった、なんてのもない
からね」と云い添えた。
「だって、私達は監禁されてる訳じゃないんだもの。出入り自由。仮令、秘密
の恋人がいたとしても、わざわざ中で密会する必要はありませんとも、ええ」
「おかしな点は把握できましたが、でも……内部犯行説はもっと無理があるよ
うに思います」
理屈と云うよりも気持ちを率直に述べる。宇津井は頭を振った。それは頷い
たのか否定したのか、よく分からない仕種である。
「無理を承知で、考えてみようと思うの。少しね、気になることがあるんだ」
声を潜めた宇津井。三鷹の声も、自然とボリュームが絞られる。
「何でしょう?」
「最後に健司君を見たのが、あなたとフランカだってこと」
「信憑性に疑問あり、ですか。私は健司さんと今日が初対面ですからそうかも
しれません。でも、フランカさんは違います」
「あの子は、健司と寛司がそっくりだと云ってるでしょ」
「……ええ」
意図が飲み込めないまま、ひとまず肯定しておく三鷹。
「私もそっくりだと思っています。簡単に見分けられると云う伯父や宇津井さ
ん達は凄いです」
「うん。それなんだけどね。仮に、徳田兄弟が入れ替わったとして、珠恵ちゃ
んは見分ける自信がないでしょ?」
「ありません」
きっぱりした返答に、宇津井は軽い苦笑を浮かべた。三鷹は少しだけ反発を
覚えた。
「健司さんと寛司さんが入れ替わったとしても、状況に大きな変化は生まれま
せん。被害者が代わるだけです」
「それじゃあ、いよいよ理の本質に差し掛かるから、よく聞いて。ううん、よ
く見て、かしら。この写真、徳田兄弟を写した物なんだけど」
宇津井は手帳に挟んだ集合写真を見せてくれた。その一箇所を指差す。二人
の男性。内一人は徳田寛司か健司で……。
「え? このお二人が寛司さんと健司さんなんですか?」
「そうよ」
三鷹は大声を上げたいところを、ぐっと堪えた。三鷹が会った寛司と健司は
そっくりだったのに、写真のその二人は顔立ちこそ似通っているが、確実に区
別できる。宇津井達が徳田兄弟を一目で見分けられるのも当然と思えた。
「……訳が分かりません」
「どうやら、私の考えが的を射ていたみたい。喜べないのが残念だわ。寛司が
弟を殺し、そのあと一時的に健司のふりをしていた。どうかしら、この推測」
「……あり得ません」
「何故?」
「寛司さんに健司さんをふりをされたら、私には分かるはずありません。でも、
フランカさんなら分かると思います。いくら何でも、これほど顔が違えば、じ
っくり見ることで分かるはずです」
「そこなのよね。フランカはアメリカ人だからか、アジア人、特に日本人の顔
を見分けづらいとこがあるみたいなのよ」
「ああ……」
もしそうならば。
あのとき、伯父の部屋にやって来た寛司は、三鷹に勘違いされたことを利用
して、自分のアリバイを成立させようとしたに違いない。そう、あの段階で、
既に健司を殺害していたのだ。恐らく突発的な犯行で、どうしようもないと思
った寛司は、教授に相談しようとしたのだろうか。ところが部屋に駆け付けて
から、教授の不在を思い出し、それと同時に罪から逃れたい意識が一気に強ま
った……。
三鷹との会話中に、廊下に人の気配がしたときは焦ったかもしれない。だが、
それがフランカだと知ると、まだ何とかなると考えた。そして実際、寛司は健
司として窮地を切り抜けたのだ。
「ベッドでお粥を受け取ったのは、健司さんではなく、寛司さんだったのです
ね」
「恐らくね。あのとき、食事の準備を寛司も手伝ってくれてたけれど、慌ただ
しかったから、一時的に姿が見えなくなっても誰も気に留めなかった。ベッド
上の健司君の遺体は、布団を被せて隠し、そのすぐ隣に寛司は足を伸ばして座
ったのね」
「筋は通ってきましたが……証拠がないです」
言葉を噛みしめるように三鷹。彼女の肩に、宇津井が手を置いた。
「あなたが証人よ」
程なくして、警察の調べにより凶器が発見された。クラブハウスの敷地のす
ぐ外、歩道の脇にある側溝に、金属製ハンガーと炬燵の脚が落ちていた。どち
らもクラブハウスの備品であり、ハンガーは健司の部屋の物が一本なくなって
いた。
三鷹の証言を元に追及を受けた寛司は、初めから騙し通せる可能性は低いと
覚悟していたらしく、比較的あっさりと陥落した。
それでも抵抗の態度を全く見せなかった訳ではなく、彼を諦めさせたのは、
震度四を記録したあの地震だった。
寛司の否認する通りだとすると、健司の夥しい出血量を考慮し、血が凝固し
たあとも、地震の直前まで血清が乾かずに浮いていたと推定できるらしい。と
なるとベッドにできた血溜まりの上の血清は、地震の揺れによって広がってい
なければならない。だが、現実にはそんな痕跡は認められなかった。既に乾き
きっていたからに他ならない。
持ち物を共有していた徳田兄弟だが、兄の寛司は恋人の共有までしようとし
ていたらしい。事件当日、実験に入る前にその女性との電話でのやり取りで事
情を悟った健司は、実験に取り掛かるも集中できず、途中で放棄。その彼を部
屋に訪ねた寛司と口論になる。詰られてかっとなった兄が、部屋にあったハン
ガーを掴み、その鉤状に曲がった部分で弟の顔を殴り付けると、血が激しく噴
き出した。そこまでするつもりはなかった寛司は気が動転したまま、殴り続け、
健司を死に至らしめた。
なお、シャツを着替えたのは返り血を浴びたためであり、そのシャツが健司
の物だったのは偶然だと云う。
炬燵の脚は、健司になりすましてのアリバイ作りを思い付いたあと、顔を分
からなくする必要から、クラブハウスの用具入れから探し出し、弟の顔面を叩
き潰すのに使った。期待したほど手頃な道具ではなく、おかげで再び着替えな
ければならない羽目に陥ったとのことだ。
――終