AWC 参加作品>かわらない想い 7   寺嶋公香


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★タイトル (AZA     )  99/ 2/13  23:27  (199)
参加作品>かわらない想い 7   寺嶋公香
★内容
「え?」
 思わず、公子は彼の横顔を見つめた。秋山は前を向いたまま、続ける。
「少なくとも、僕は」
 まだ秋山の言葉は続きそうだった。黙って待つ公子。
 しかし、邪魔が入った。
「なあ、こんなんじゃ遊べないぞっ。何でこんなとこ、来るんだよ」
「……」
 秋山は公子の方を向き、肩をすくめた。
「ここで昔、俺達は遊んだんだぜ」
「嘘だあ」
「本当よ」
 ぶうぶう言う一成に、公子も説明してやる。
「草がいっぱい生えててね。虫がたくさんいたのよ。私は苦手だったけど……。
それに、植物で色々なことしてね。笛とか冠とか作って」
「何十年前の話?」
 一成のこの質問には、公子も目が点になりそうだった。秋山と顔を見合わせ、
同時に吹き出してしまう。
「何かおかしかった?」
「あのなあ、一成。俺やおねえちゃんを何歳だと思ってるんだ?」
「えーっと……三十ぐらい」
 がっくりと力が抜けた。一成君、きっと一人っ子なのねと公子は思った。
「さて。家に帰るか」
「えー、まだ遊びたいよ!」
「お腹、空いていないのか? 昼ご飯だぞ」
「それは……。分かった」
 一成はさっさと歩き始めた。何故か、その表情は真剣そのものである。
「かわいい」
「たまに見る分にはね」
 後ろを行きながら、公子は秋山と、そんな会話を交わしていた。

 昼食が終わって、準備もすんだところで、公子は出かけた。母親から言われ
た通り、つば広の白い帽子をかぶって。
「ちょうどよかった」
 門を出たところで、後ろから呼びかけられた。振り返らなくても分かる、秋
山の声。
「秋山君、二時には早いけど」
「迷惑でなければ、いっしょに行こうかなと」
 並んで歩き出す秋山。
「迷惑だなんて……。さっきの宿題どうこうって、本気にした……?」
「本気だったんじゃないの?」
「……図星」
 認めて苦笑する公子。
「よかった。頼井の奴よりも教え甲斐ある、なんてね」
「聞いたら怒るわよ、頼井君」
「聞いてないから言ってんの。ははは」
 楽しそうな彼の様子に、つられて公子も笑ってしまう。
「ねえねえ、部活は?」
「夏休み中はもうないよ。拳法の練習なんて暑いときにやるもんじゃない」
 本気なのかどうか、強く言い切る秋山。
「日本拳法部って、どんなことするのかしら」
「見たことないんだっけ……。そうだね。公子ちゃん、拳法って聞いたら、ど
ういうイメージ?」
「えっと……空手みたいに、げんこつで突き合ったり、蹴り合ったり……?」
「そうだろうね。確かにそういうこともするけど、日本拳法には寝技とか関節
技とかも、少しあるんだ」
「寝技は聞いたことある……柔道とかで。関節技は知らない」
「文字通り−−って言ってもだめか。肘とか手首とかの関節部分を逆方向に、
その……曲げようとする技」
「ふ、ふーん……」
(何だかよく分からないけど、痛そう……)
 公子は自分の想像だけで、痛みを感じそうだった。
「と言ったって、中学生まではあまり使うなってことになってるんだ。怪我し
ちゃいそうだろ」
「そう、その方がいいわ」
 必死になってしまう。怪我してほしくない。そんな気持ちが働く。
「だから、技のほとんどは型だけ。突きとかにしても、実際に当てていいのは
防具の上だけだし」
(防具の上だったら、殴った手の方が痛いんじゃないの?)
 などと思い巡らせた公子は、話題をかえようと思った。
「えっと、そうだ。一成君は置いてきて大丈夫だったの?」
「お守りは終わり! 今頃は家族と買い物に出かけたはずだよ」
 両手を軽く上げる秋山。
「ちょっとだけ、秋山君に似てたね」
「ええっ? どこが」
 冗談じゃないという態度の秋山は、わざわざ立ち止まった。
「どこって……口元と、あと、鼻筋の上の方なんかが。お母さんの性質を受け
継いだら、似ててもおかしくないでしょ」
「それはそうだけど……。納得いかないなあ、小学二年生と似ているのは」
「二年生だったのね。じゃあ、八歳か」
「八つと十四じゃ、六年も違うのに……」
 まだこだわっているらしい秋山は、ぶつぶつ言った。
 そんなことをしている内に、目的の場所に到達。
「どっちに入ろう?」
 二軒−−野沢悠香の家と頼井健也の家との間で、秋山はつぶやいた。
「頼井君の家に行くんじゃないの?」
「いや、どうせ、そっちに集まるかなと思って。だけど、そうすると、野沢さ
んが怒るかもという気がするし」
「それなら多分、大丈夫。宿題を教えてもらえるとなったら、ユカだって」
「じゃあ、僕は頼井をそっちに引っ張っていくよ。公子ちゃんは他の二人、特
に野沢さんにはよく話しておいてよ」
「分かったわ」
 約束して、左右に分かれる。
「ごめんください」
「何を堅苦しい挨拶してんの」
 出迎えは、もちろん悠香。靴を見ると、まだ要は来ていないらしい。
「ご両親は……」
「今日もお仕事だよ。気にしないで、さあ、上がって」
「お邪魔します。ねえ、聞いて」
 上がり込みながら、公子は秋山と頼井が来ることを悠香に告げた。
「……」
 しばらく、悠香は沈黙を守っていた。
「……ユカ? 怒ってるの、勝手に話を決めちゃったから?」
「いや、怒ってるんじゃないけど……。秋山君だけでいいのに。頼井のばかな
んか、入れなくていいのよ」
「ユカちゃんてば……」
 心の中で冷や汗をかきながら、苦笑いする公子。
 そこへ早速、男子二人の声。
「ユカ!」
 大声を出しているのは頼井。
「あのばかがー」
 立ち上がり、玄関まで行く悠香。さすがに心配になってきたので、公子も遅
れてついていく。
 土間には、すでに頼井と秋山が姿を見せていた。
「それが他人の家に来るときの挨拶か」
「るさいっ。俺が秋山『君』に頼んだのを、横取りしやがって」
「私じゃないもんねー」
「じゃあ、誰なんだ?」
 公子は目を伏せた。
「あのな、頼井」
 困ったような声で、秋山が説明する。
「何だよ」
「最初に、公子ちゃん達が集まって宿題するというのを聞いて、決めたのは俺
自身の意志なんだ。許せ」
 はっとして、顔を上げる公子。
(私が頼んだのも同然なのに……)
「それなら……しょうがないか。秋山『先生』の気持ちがそうであれば、ワタ
クシとしても、従わないわけにはいかないからなあ。では、仲良くやりますか」
 からからと笑いながら、頼井は悠香の方を向いた。
 悠香は頼井を、ふんっという具合に素っ気なく招き入れた。
 あとに続いた秋山に、そっと声をかける公子。
「ごめんなさい」
「別に。だいたい本当のことだし」
 気にしていないとばかり、手を振る秋山だった。逆に彼から聞いてきた。
「寺西さんはまだみたいだね」
 ちょっとどきりとする公子。
(秋山君……カナのことが気になるの?)
「あ、まだみたい。寝坊でもして遅れたのかな。で、でも、秋山君が来るって
伝えたら、きっとあの子、飛んで来るわ」
 言わなくてもいいことまで口走ってしまう。しかし、当の秋山は違う風に受
け取ったらしい。
「どうぜ僕は、宿題を教えるだけが取り柄ですからね」
 と、すねる真似をしてみせる。
「やだもう、冗談ばっかり」
 公子が軽くぶつ格好をしたところで、奥の部屋から声が届く。
「何やってんのー? 秋山君がいなきゃ、意味ないじゃん」
 悠香のこの言葉に、秋山と公子は顔を見合わせた。
「ほらね」
 唇の端を曲げた秋山の表情に、公子はくすくす笑えた。
 それから四人で−−基、三人が一人から教えてもらう(ときにはノートをそ
のまま写す)形で宿題を片付けていく。
 二時近くになって、やっと要が現れた。
「ごめーん。遅れちゃった」
 明るい声に、悠香が座ったまま叫ぶ。
「上がって!」
「うん。……キミちゃんの他に、誰がいるの? 靴が多いけど……」
 そう言いながら部屋まで来た要は、靴の主の片方を知った時点で、黄色い声を
上げた。
「きゃー、秋山君! ど、どうしてここに?」
 立ったまま、彼を指さしている。
 公子は手短に事情を話して聞かせた。
「今日、来る前にたまたま会って、宿題できたって言うから、頼んで来てもら
ったの」
「そうなの。わー、うれしい! 秋山君、ありがとうね」
 秋山のそばにぺたりと腰を下ろす要。白地に花をプリントした服が、ふわっ
となった。
「なるべく、自分で考えた方がいい−−と、口では言っておくよ」
 秋山は自分の座る位置をずらし、要のための場所を作った。

 公子はノートをぱたりと閉じ、やや大きめの声で言った。
「終わりっ」
「さすが、早いわね」
 と、悠香が感心したように言う。
「秋山君、ありがとう、色々と教えてくれて」
「いや、それほどでも」
 退屈そうにしていた秋山は、大きく伸びをした。退屈してくるのも道理で、
今や誰もが写す作業に没頭していた。
「いいなあ、キミちゃん」
 要はうらやましそうにしている。公子が宿題を終えたことに対してなのか、
それとも秋山と二人で話していることに対してなのかは、定かでない。
「いても邪魔かしら」
「そんなことないって。時間がいいなら、もっといてよ。その方が楽しいし」
 他人の家で好きなことを言う頼井。
 けれど、公子にとっても、秋山がいるのなら、ここにいたい気持ちが強い。
「六時前か……まあ、大丈夫だけど。ユカ、電話、貸して。家に電話したいの」
「いいよ。電話のある場所は分かるわよね」
「ええ」
 立って、電話のところまで出向き、母親に用件を伝えた。ひょっとしたら、
もう少し遅くなるかもしれない、と。
「どうだったの」
 戻ってみると、秋山が聞いてきた。
「許しは出たわ。ただ、帰ってくるとき、一人きりになりなさんなってうるさ
くて」
「あ、それなら」
 と、宿題から目を上げて、頼井が口出ししてくる。
「僕が送ろう」
「あんたが終わるのを待っていたら、何時になるか分からんわい」
 と、舌を出した悠香。

――つづく




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