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★タイトル (AZA ) 99/ 2/13 23:24 (199)
参加作品>かわらない想い 5 寺嶋公香
★内容
「何がおかしいのよ、公子ったら」
お金を預かりながら、小首を傾げた悠香。
「ううん、何でもない。言ったら、怒るだろうし」
「気になるわね」
「俺には察しがついたぞ」
いばるように言った頼井。
「言っていいかな、公子ちゃん?」
「え、あ、あの」
「さっきの状況で、俺やこいつの」
と、悠香を指さす頼井。
「二人が怒るようなことなら、これしかないぜ。ずばり、『二人って喧嘩して
ても、結局は仲がいいのね』、だよね」
女言葉を駆使した頼井が言い終わると同時に、悠香からげんこつが飛んだ。
「あほ!」
「いてっ。俺を殴るな。公子ちゃんが思ったことだ。当たっているだろ、公子
ちゃん?」
「え……そ、その……当たって……いるわ」
言いにくかったけど、正直に言うしかない雰囲気だった。
「あのねえ、公子ちゃーん?」
「はいはい、何でしょう、悠香さま」
詰め寄って来かねない悠香を制しながら、冷や汗を感じる公子。表情はただ
ただ、苦笑するばかり。
「冗談でも、思っていいことと悪いことがある! こいつとはただの幼なじみ。
それで仲がよく見えるかもしれないけれど、それ以上は何にもなーい!」
「そんな強く否定しなくても」
よよと泣き崩れる真似をする頼井。懲りない性格らしい。
「……こんなばか、相手にしとれん。女の子の相手なら、いくらでもいるでし
ょうが」
「それもそうだな」
立ち直ると、またお菓子に手を伸ばす頼井だった。
「学校でもパンとか食ってたけど、よく食べるよなあ」
感心したように見ている石塚。
「それだけ食べて、どうして、そんなすらっとした身体でいられるんだ」
「部活のせいだぜ、石塚」
「嘘を言うな。拳法だけやったって、そこまではならないと思うぞ」
「……仕方がない。秘密を明かそう」
「またばかが始まったよ」
ぼそっと言ったのは悠香。
「何を隠そう、日頃の努力を怠らないこと、これだね、やっぱ。何しろ、俺、
女子に人気あるだろ。だから、この格好を維持しないといけないからなあ。日
夜ハードトレーニングを」
もはや誰も聞いていなかった。
「多分、体質ね」
笑いながら決めつけた公子。
「そういう体質なら、私もなってみたいな。いくら食べても太らない」
「あ、俺、多少はぽっちゃりしてても大丈夫だから」
「え?」
「健也ぁあ〜っ!」
閉じていた目を見開き、悠香が怒鳴る。
「あんたね!」
「はひ?」
「あんたが誰と付き合うと知ったこっちゃないけどね! 私の前で、しかも私
の友達を引っかけるなっての!」
「……厳しいお言葉」
石塚と顔を見合わせ、苦笑いする頼井。そこへ公子が質問をぶつける。
「頼井君……」
「はい?」
「私……太ってるかなあ?」
「え? いや、そんなことは」
「でも、さっき」
「あ、あれは言葉のあやでして……」
「気にするんだなぁ、ああいう言葉って」
そっぽを向く公子。実はからかってやっているのだ。見えないところで舌を
ちらと出す。
「ごめん。謝るから。全然、太ってません。公子ちゃんはかわいいです。ね、
許してくれる?」
公子が横目で悠香を見れば、その辺でいいよという合図。
公子は振り返った。
「いいわ、許してあげる。その代わり、約束して」
まじめな顔つきになって、公子は頼井を見つめた。
「何でしょう。今なら何でも言うこと聞きます、はい」
「頼井君のお母さん、今は一人なんでしょ? 外から見ただけじゃ分からない
こともあるだろうから、勝手な言い種かもしれないけど……頼井君、今よりも
う少し、お母さんのことも考えてあげて」
「……分かったよ」
頼井の顔が、面食らった表情から、優しい笑みに変わった。
これぐらいいいでしょと、悠香の方を見ると、彼女も少しだけ感心した様子
だった。
「それにしても……優しいなあ、公子ちゃんは。僕と付き合ってみない、やっ
ぱりさ?」
頼井の余計な一言で、手をわななかせる悠香。
「こら! 言ったそばから! それに何よ。あなたのお母さんのことを言った
のは、私も同じよ。それなのに、何で私のときは」
「おまえは言い方がきついから、だーめなの」
まだ言い返そうと口を開きかけた悠香だったが、そこに買い出しに出ていた
二人が帰ってきた。口を一度つぐんだ悠香は、二人を迎えてにっこりと笑った。
「どうもありがとう、ねっ!」
散々騒いで、全員、気が晴れたことだろう。
女子三人だけでなく全員で作った夕飯−−と言ってもレトルト食品ばかりだ
が−−を摂って、お開きになった。食事が終わってお開きとは中途半端である
が、これが一般の中学生の限度なのかもしれない。
「あー、楽しかった」
「あとは片づけね」
そう言っていると、そそくさと帰り支度をする男子一名を発見。
「頼井君」
「あ、公子ちゃん」
「お母さんを大事にとは言いましたけど、今は片づけ」
「やだな、もちろん、冗談。気づいてくれなきゃ、困るとこだったんだよ。あ
りがとね」
と、公子の手を握る頼井だった。そこへまた、悠香が……。
そんな風にわいわいやりながら、片づけも終わり、本当にお開き−−お別れ
の時間が来た。ちょうど、悠香の両親が帰ってくる頃合い。
「ありがとう」
「じゃあ、また月曜日ね」
「うわー、答案が返ってくるー」
「それは言わないの。何のために騒いだんだか」
「そうそう、忘れるために楽しく騒いだんだから、少なくとも今日一日ぐらい
は言いっこなし」
「自信がある人はいいよな」
めいめいが言って、悠香の家を出た。
「じゃ、俺はここで」
早々と言ったのは、もちろん頼井。何しろ、家はすぐ隣なのだから。
「またねー!」
「お母さんを大切に!」
「……はいはい」
暗かったけれど、苦笑しているのがありありと想像できる返事をしながら、
彼は悠香の隣の家に入っていった。
「挨拶ぐらいするべきだったかなあ、頼井君のお母さんへ」
「それを言い出したら、きりがなくなるよ」
公子の言葉を、先頭を行く秋山はあっさりと否定した。
「そうするなら例えば、野沢さんのご両親が帰ってくるのを待って、挨拶する
のが先じゃない?」
「うーん」
「何、余計な気遣いしてんのよ、キミちゃん。他の話しよ」
要はずうっと幸せそうである。
「夏休みに入ったら、またどこか行こうか」
秋山が皆を振り返っての提案。
「それ、いいな。新聞部の都合、確認しておくから、混ぜてもらおうっと」
「石塚、副部長だっけ? どうにでもできるんじゃないのか?」
「それが部長の権限強くてさ」
「意見できないのか」
「それが……女性上位なんだよな」
二人の女子を気にするように、石塚は言った。
「ということは新聞部の部長さん、女子?」
公子が聞くと、石塚は大きくうなずいた。
「それだけじゃなくて、全体の部員数も、女子の方が多いんだよ。こういう状
況でなかったら、帰宅部の朝倉さん達を勧誘するんだけど」
その言葉に、公子は何となく思い当たることがあった。
(昼間、やけに部活のことを話題にすると思ったら、そういうことかあ)
「あっと、みんなそっちの道?」
三叉路にぶつかって、石塚が向きを換えた。
「自分はこっちなもんで、この辺で。どもども、今日は楽しかった」
「またね」
「新聞部、がんばってね」
「はは。おーい、秋山! ちゃんと送り届けるんだぞ!」
「はっ、分かってるよ! じゃあな」
三人になった。他の二人はどうだか分からないが、公子は居心地の悪さを感
じてしまう。
(ひゃあ、まずいよお。カナは二人きりになりたいんだろうな。……って、私
もそうだけど。秋山君とほとんど同じ方角だから、このまま行かないと変だし)
公子が黙って考えている間も、要は積極的に秋山へ話しかけている。
「あ−−珍しい、星がよく見えてる」
「え?」
秋山の言葉に公子も顔を上げた。まだ西の空に赤みは残っていたものの、夜
空にじんわり浮かび出てくる星々は、普段よりもよく見える。そんな気がする。
「きれい」
「ほんとに」
はーっと息をこぼしながら、女子二人は立ち止まり、天をしばらく眺める。
その少し先で、秋山も立ち止まっている。今の彼が見ているのは空ではなく、
女子二人……? そうだとしたら、二人のどちらをより熱心に見つめているの
だろう。
「空気が澄んだ状態なんだね」
促すように言って、また歩き始めた秋山。公子達もようやく歩を進め出す。
「これで全部見えているのかなあ?」
要が言った。
「うーん、そんなことないみたいだよ。確認できるのは有名なアンタレスなん
かの明るい星だし、それ以外は土星とかの惑星だね」
「詳しいの、星について?」
公子がびっくりして聞いた。
(小学生の頃から知っているのに、秋山君が星に詳しいなんて、初耳)
「詳しいと言えるのかな? 興味はあるんだけど、別に望遠鏡を買ってどうこ
うってほどじゃないからね」
「アンタレスって?」
割って入るように、要が聞いてきた。
「さそり座の一等星だよ。さそりの中心部にある、赤い星。見えない?」
「どれ?」
要の目線に合わせて、手を上げる秋山。秋山は、大まかな位置から始め、さ
そり座の形状、星の並びと順に説明していく。
「あ、ほんとだ。すっごく赤い」
目当ての星をやっと見つけた要の顔がほころぶ。
そんな二人の様子を眺めていると、公子はまた複雑な気持ちになってくる。
(……これでいい。今は、これで)
吹っ切ってから、公子は二人を促した。
「片づいていないのは、数学と理科。英語? 少しだけ残ってる。自信ないと
こは埋めてないのよ。国語関係はばっちり、のつもりよ。うん、じゃあ、明日
の昼過ぎ、行くから。カナにも伝えておいてね。じゃ、またね」
そうやって電話を切ったのが、昨日の夜のこと。残っている夏休みの宿題を
終えてしまうため、悠香と相談したわけである。
明けて本日、天気はよかったが、暑くなりそうなのもまた事実。
「母さん。私、今日、お昼食べてから出かけるね。宿題しに、悠香のところに。
ひょっとしたら遅くなるかもしれないけど」
「遅くなるときは電話しなさい」
昼食の準備で、台所内を忙しく動き回っている母は、公子の方を振り向かず
に応じた。
「分かってる」
――つづく