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★タイトル (AZA ) 99/ 2/13 23:23 (200)
参加作品>かわらない想い 4 寺嶋公香
★内容
「あんたが、よ。自信持ちなさいよ。私みたいに理想が高すぎるのもどうかな
って思うときもあるけど、公子も人並みに」
「分かった分かった」
面倒になって、強引に話を切り上げる。
(分かってるわよ、ユカ。だけど、分かったからって、そう簡単にできるもの
でもないのよ。だいいち、カナちゃんのことがあるし)
そんな風に考えていると、要が戻って来た。片手を口に当て、やけに楽しそ
うにしている。
「聞いて聞いて。焼却炉までゴミ捨てに行ったら」
「秋山君と会ったんでしょ」
道具を片付けながら、悠香はあっさり言い切った。
「どうして分かるの?」
「分かるわよ」
要からは見えない位置で、舌を出す悠香。
その様が、公子からはよく見えた。おかしいような、ちょっと寂しいような、
微妙な感覚。
(学校っていう小さな枠の中だけど、私も秋山君とクラスが違ってて、偶然に
会えたら、きっとうれしいだろうな)
「さて、戻ろうか」
三人はそれぞれ自分のクラスに戻っていった。
教室に戻ると公子は、すぐに秋山の姿を探していた。その途中ではっとして、
(私ったら、前より意識しちゃってる。話せるようになったけど、その分、想
いが強くなってるみたい……)
と実感して、顔が熱くなる。
(いけない。表情に出ないようにしないと)
「−−と」
出入りの戸口で立ちつくしていたら、邪魔になったらしい。公子はその場を
飛び退いた。
「あ−−秋山君」
「公子ちゃん、どうしたの? 大掃除のとき、いなかったみたいだけど」
教室内に入りながら、そう尋ねられた。
「ああ、あれは、他の組の子と代わってもらって、カナや−−えっと、寺西さ
んや野沢さんといっしょに、掃除してたの」
「そうだったの。ちょっと心配してたんだ」
(え?)
こんな何気ない一言にも、どきっとしてしまう。
「さぼってたら、先生に言ってやろうかと思ってたんだ。あはは」
おかしそうに言う秋山。
「え、まさか」
「言ってない言ってない。そんなあわてた顔しなくても。じゃあ、あれだ。寺
西さんが捨てに来たごみから推測して、校庭の方の掃除」
「そう」
要が、焼却炉の前で秋山と会ったと言ってたのは本当だった。
(カナが焼却炉にごみを捨てるの、手伝ってあげたのかな? それならあれだ
けうれしがっていても、ちっとも不思議じゃない……)
「もうすぐ期末試験だけど、進んでる?」
「え、あ、テストね。とりあえず、得意科目から押さえてる」
「変わってるなあ。普通、苦手なのからしない?」
「だって、得意な科目で確実に稼ぎたいから」
「そういうものなのかな。自分はいっつも、苦手なのからやって、得意なのは
ぎりぎりにちょこっと見返すだけだった」
「それであの順位なら、うらやましい」
定期試験の度に張り出される得点上位者一覧に、毎回、秋山はなかなかいい
位置で載っている。
「確か、公子ちゃん、二十位前後にいつもいるよね……。こういうこと言うと、
何だか嫌味かもしれないけど……今度は苦手なのから手を着けてみたら? ひ
ょっとしたら、もっとよくなるかも」
「分からないわ。下がるかも」
「試してみたかったら、どうぞ。責任持てないけど」
秋山の言いように、くすっと笑う公子。
先生が入ってきた。急いで席に戻る。
先生からの連絡事項のメインは、試験の日程の発表だった。
一学期期末試験の最終日。
最後の試験。
終わりを告げるチャイムの音−−。
「終わったーっと!」
試験が終われば、三人の家のいずれかに集まって、打ち上げめいたことをや
るのを通例としている。いつもなら誰の家にするか迷うのだが、今回は一も二
もなく悠香の家に決定。何故なら……。
「秋山君達、来てるかな?」
悠香の家に到着するなり、要。
「まさか。ほとんど同じ時間に終わったはずよ。私達と会ってないってことは、
まだよ」
公子はそう言いながらも、要の秋山に対する想いを覗き見た感じで、ちょっ
と複雑。
「はい。とりあえず、お茶」
と、悠香がお盆でティーセット一式を運んできた。
「ねえ、ユカ。本当に頼んでくれた?」
「言ってあるわよ。隣の奴に、下げたくもない頭を下げて……というのは嘘だ
けど、ちゃんと秋山君や石塚君も呼んで、騒ごうって」
「ユカのご両親は共働きって聞いてたけど、頼井君の方は?」
公子は、少し気になっていた点を聞いてみた。
「あっちは父親が単身赴任だとかで、母親と二人暮らしのはずだよ」
「じゃあ、今夜はそのお母さん、一人になっちゃうのかな……」
「何を心配してんのよ、公子。そんなに遅くまでやらないって。ご飯食べたら、
すぐ帰った帰った」
「そっか」
公子がほっとしていると、いきなり、要が大声を上げた。往来を見おろす窓
に、ずっと張り付いていたのだ。
「やった。来た、来た。来たよっ」
「さてと」
やれやれと大儀そうに玄関に向かう悠香。
やがて、ざわめきが聞こえてきた。
「ども、お邪魔します」
最初に顔を見せたのは秋山。続いて石塚で、三人目の頼井と出迎えた悠香が、
なかなか来ない。大方、またくだらないことでやり合っているのだ。
「テスト、どうだった?」
「全然だめだったよー」
秋山の問いかけに甘えるように返事したのは、もちろん要。
「カナの場合は、他に気を取られてたからじゃない?」
公子は秋山のことを指摘したつもりだったが、要には意味が通じなかったら
しい。彼女、きょとんとしている。
「公子ちゃんは?」
「あ、そうだわ。少し効果が出たかもしれない。秋山君に教えてもらったやり
方で」
「えー? 何の話?」
要が耳ざとく反応する。
「勉強の方法、少しだけ教えてもらったの」
「ずるい! 私も教えてほしかった」
「そんなこと言っても、具体的な話じゃなくて」
説明を試みかけた公子だったが、要の目を見て、やめた。
(カナは秋山君といっしょに勉強したかったんだ。本気なんだ……ね)
「次の機会は、そうしようか。みんなで勉強会みたいなの」
意識しているのかどうなのか、この場に適切な提案をした秋山。
「ねえ、秋山君や石塚君の方は、出来はどうだった?」
「だいたい、うまくいった手応え」
秋山君ならそうでしょうと思う公子。
「自分は今日の最後のテストで、ミスったかもしれないな」
「これが終われば女子と遊べるって思って、焦ったな」
石塚の言葉にも、いいフォロー。笑いが起こる。
「おーお、お楽しそうで」
ようやく悠香が戻って来た。
「あら、頼井君は?」
「あいつのことなんか気にしなくていいよ、公子」
「けど」
「あいつったら、ったく、しょうがないんだから。あいつね、隣だってのに、
家に帰らずそのままこっちに来るもんだから、言ってやったの。お母さんに顔
ぐらい見せて来なさいって。一旦、追い返してやった。当然でしょ」
「それはそうだね」
納得いった。
「さあ」
みんなの方を振り返った悠香は、元気よく言った。
「大した物は出ませんが、テストの憂さを晴らしましょう!」
わーっという歓声と拍手が起こる。
「何か買って来ようか。出されっ放しだと、落ち着かないしな」
腰を上げかける秋山。
「ああー、いいのいいの。細かいことは気にしない」
行かれては寂しくなるとばかりに、要が止める。
「私はその方が助かるんだけど」
と、お菓子を皿やバスケットに盛っている悠香。
「じゃ、じゃあさ」
言いかけて、公子はしまったかな、とも思った。でも、止められない。
「お金出し合うから、秋山君とカナに買ってきてもらおうかな? どう?」
公子の提案は受け入れられた。秋山は最初から買いに出る気だったし、要は
その秋山といっしょにいればそれだけでいい状態だから、当然。
「絶対にいる物、これでいいんだなあ?」
メモを振りかざす秋山。その斜め後ろ、要はさすがにうつむき加減にしてい
るけど、口元にうれしさが溢れている。
「気を付けてね」
玄関先で二人を送り出してから、公子はため息をついた。
(あーあ、やっぱり言えないよ、今さら。私も秋山君が好きだなんて、裏切る
ことになりそうで。小学生のとき、秋山君が私に告白したのだって、カナは知
らないし。それより、カナの応援してあげないと。結構、親しくなったみたい
だし、カナはかわいいから、秋山君が気に入っておかしくない……)
戻ると、暇を持てあましている様子の石塚が、早速、公子に話しかけてきた。
「部活はしていないって言ってたけど、委員はしてるよね、当然」
「あ、ええ。図書委員」
「知ってる。見たことあるから、当番をしているとこ」
にこにこしている石塚。
「どうして図書委員?」
「一年のとき楽だったから続けてなったんだけど、貸し出し当番させられるな
んて、知らなかったわ。文芸部の部員が減ったからだって」
「それは不運だったなあ。ま、新聞部って、割と図書室を利用するから、その
ときはよろしく頼むよ」
「うん」
そこへ悠香が加わる。
「あー、やっと一段落。夕飯のときは手伝ってもらうからね、公子」
「ううっ……仕方ないな。いつものことだし」
「あの、また話を戻すけど」
女子二人を相手に、やや気後れ気味の石塚。
「部活のことだけど、三人そろってどっかに入ろうとか、何かやろうって話、
なかったわけ?」
「一年のとき、散々迷ってねえ」
スナック菓子を一つ、口に放り込みながら、悠香が始めた。
「三人で相談して決めようってことにしたのよ。ね、公子?」
「うん、そうだったわ。あれ、おかしかった」
思い出し笑いをしてしまう公子。
「何がおかしいんだろ?」
「だって、気が付いてみたら、放課後、毎日のように三人で集まってさ、お喋
りするの。これが部活みたいになっちゃって」
「それは……凄いというか何というか」
あきれた風に腕組みする石塚。男子には理解できないのかもしれない。
玄関で音がした。
「主役は最後に登場するっ」
声と共に、頼井がやたらと張り切って姿を見せた。
部屋にいた三人は、あっけに取られてしまった。
「あら? どした? 三人しかいないようだし」
「……ばーか」
ゆっくり間を取ってから、これ以上ないほど効果的に、悠香のつぶやきが入
った。
「秋山君とカナは買い出し。靴、数えてたら分かっただろうに」
「何だ」
恥をかいたはずなのに、まったく気にしていないように腰を下ろすと、頼井
はお菓子に手を出し始めた。
「こらっ。あんたも出資金」
「あ、そうか」
財布を取り出す頼井。見ていて、公子は何だかおかしくなってきた。
――つづく