AWC 闇に光に告白を 9     永山 智也


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★タイトル (AZA     )  95/ 1/28   8:25  (195)
闇に光に告白を 9     永山 智也
★内容

 報告がなされてから、すぐに以下のような処置が執られた。
 まず、廊下にあった土の痕跡の確認とマリアスが城内及び敷地内のどこにも
いないことの確認。
 次に昨夜、門の見張りにあたっていた衛士から、状況を聴取。少なくとも門
の近くでは何の異変もなかった。ただし、昨夜は少々風が強く、物音が聞こえ
にくい状態であったとのことである。
 ついで、城の全ての出入口、窓、その他外部と通じるありとあらゆる「穴」
が徹底的に調べられた。何者かが侵入したのだとすれば、どこかが開かれてい
るはずだとの考えからである。そして、城の一階、北側の窓の鍵が開いていた
ことが分かった。窓枠には大量の土が付着しており、ここが侵入及び逃走の経
路であるのはほぼ確実である。
 さらにその窓が面する庭一帯の捜索。綿密に調べられたものの、マリアスや
侵入者の足跡は確認できなかった。これは、地面がからからに乾いてしまって
いたためだ。また、特に目につくような物が落ちているというこもなかった。
 引き続いて、城壁が調べられた。城を囲う壁は常人の背の倍はあり、さらに
壁の上には金属製の太く鋭いとげが一定の間隔で植え付けられている。
 かように道具なしでは簡単に乗り越えられそうにない壁ではあるが、絶対に
不可能とは言い切れない。壁のほぼ全面には、蔓草が這っている。かなり丈夫
な蔓草で、下手な縄よりもしなりがある。これを利してよじ登ることは、でき
ないことではない。
 そのような観点から壁を調べてみたところ、一部の蔓草が引きちぎられたよ
うに壁から離れていることが認められた。侵入者はここを伝ったと思われる。
これで侵入者の往復した道は、ほぼ確定できた。
 が、ここで新たに問題となったのが、その賊がマリアスをどのようにして連
れ出したか、である。
 緊急の会議が、レオンティールとシーレイ王子同席の場で開かれていた。
「衛士共は何をやっておったのだ!」
 レオンティールは、娘を城の中から連れ去られるという最大の屈辱を受けた
ためか、怒りに声を震わせる。
「おまえらは何を見ていた? 誰も侵入者に気が付かなかったのか? おまえ
らはとんだ間抜けだ! よいか、それ相応の処罰を覚悟せよ!」
「お言葉ですが、父王」
 王の隣にいたシーレイが、穏やかな声を発した。
「何だ、シーレイ」
「今はこの者達の処罰を決める場ではありません。それにこの者達を罰してし
まっては、数少ない賊に関する手がかりが、霧散してしまいましょう。ここは
彼らから意見と証言を募ることです。その結果を見て、処罰のことを考えても
決して遅くはないと私は思うのですが」
「……それもそうであるな」
 レオンティールのその言葉に、緊張していた衛士達の表情が、ふっと解けた。
が、それもすぐに引き締められる。ここでよい結果を出せないと、結局は同じ
処罰を受ける羽目になってしまう。
 意見交換が始まる。議論百出、いくらか進んだところで、侵入者と姫が通っ
た経路が問題となった。
「いかように部屋から姫を連れ出したとしても」
 白い鼻髭が見事な、年のいった一人の衛士が意見を述べる。
「城のあの壁を乗り越えることは、不可能ですぞ。いや、賊が一人で乗り越え
ることは可能であろう。しかし、姫をどうやって壁の向こうに運び出せるとい
うのだ」
「眠らされていたんではないですか、マリアス姫は」
 と、中堅どころの別の衛士。
「眠らされておったとしても、あの壁を越すことはできんはず。大がかりな機
械で姫のお身体を吊り上げでもしない限りは」
「こう考えてはどうでしょう」
 年少の衛士が手を上げながら発言の機会を求めた。
「遺憾ながら、姫は賊に刃物か何かで脅されたのでは……。その状態のまま、
外へ連れ出され、壁も乗り越えるよう命じられたとすれば、筋が通ります」
「……なるほど」
 感心する先の老衛士。彼はいくらか考慮をした上で、こう言った。
「そうなると、賊は最低でも二人いたと考えられますな。壁を乗り越える際、
まず一人が先に行き、ついで我が姫。それを見張っていたもう一人が最後に壁
を越えた」
「賊は複数、これは決まったと見てよかろう」
 シーレイが言った。
「次はより細かな経路の検討だ。妹の部屋の鍵は破壊されてはいなかった。こ
れがどういうことを意味するか?」
 意見を求めるように、シーレイは全員を見渡した。
「……考えられることは三つあると思われます」
 おずおずとした態度で、衛士の一人が答える。
「申してみよ」
「はい。姫の部屋は三階の高さにありますので、窓は考慮しなくてもかまいま
すまい。そこで部屋の扉の鍵に着目します。これをいかにして賊は突破したか
と考えますと……。賊は鍵をあらかじめ持っていたか、あるいは何らかの策を
もって、姫に中から鍵を開けさせた、最後の一つは姫が部屋からお出になった
ところを賊がさらったという三つでございます」
「……仲々のものだ。これより他に意見はあるか?」
 議長役を務めるシーレイは、再び室内を見渡す。しばらく待っても何の意見
も出そうにない。シーレイは次へ話を進める。
「それでは先の三つについて、検討を重ねるとする。最初の鍵をあらかじめ持
っていたとは、かなり問題を含んだ発言だな。これは我我の側に賊を手引きし
た者がいるということかな?」
 シーレイはレオンティールと顔を見合わせ、何と言えぬ表情をする。
 慌てたように声を上げたのは、そこにいる衛士全員だ。
「とんでもございません!」
「そのように疑われるとは、お言葉ながら心外でございます!」
 そんな怒声が飛び交う。
 シーレイはにやりと笑い、両手を大きく広げた。
「待て、静まれ!」
 途端にしんとなる場。
「無論、私はおまえ達を信じている。父王もそれは同じことでありましょう」
 ここでレオンティールは、こくりとうなずいた。シーレイは続ける。
「だから、今のはあくまで可能性がある、というだけのことだ。他の全ての可
能性が完全に否定されない限り、私はおまえ達を信じよう。
 さて、では、他にどんなことが考えられよう。あらかじめ鍵を持っていた−
−これは見方を変えれば、前もって合い鍵を作れたというということにならな
いかな」
 おおっ、という声があちこちから上がる。シーレイは得意そうにうなずいて
から、さらに続ける。
「合い鍵を作るには、鍵穴の型を採ることが必要だ。これもまた、城の中に入
ることが許されている者にしかできぬ。しかし、私はおまえ達を疑わない」
「で、では、何者が。もしや、この度の騒ぎの前に、さらに一度、場内への侵
入を許していたということでございましょうか」
 若い衛士が、身震いするように言った。
 シーレイは薄く笑って、首を横に振る。
「ふん、そういうことも有り得るな。だが、我が精鋭揃いの衛士隊が、二度ま
でも外部からの侵入を見過ごすとは思えぬ。それに、そのときは賊は土を残さ
ず、今回は残したというのはおかしい。
 私が考えているのは、一ヶ月以上前のことになる」
 言葉を区切ると、レオンティールを振り返ったシーレイ。
「何だ?」
「父王、私はあの一行−−ランペターを始めとする五人の者共が怪しかったと
考えております」
「何だと」
「妄言をお許しください。私が想像するに、あやつらはこの目的のために、父
王に取り入ったのではないかと危惧します。あやつら、特にランペターならば、
妹マリアスの部屋に何度か出入りしていた。楽に鍵穴の型を採ることはできた
でしょう」
「ううむ……」
「あやつらが姿を消したことと考え合わせ、ぴたりと符合いたします」
 シーレイの口調に、レオンティールは気圧された。口調よりも、その内容に
か。レオンティールはランペターらを信用しきっていたので、少し負い目があ
る。
「しかしだ、シーレイよ。あやつらの目的がマリアスをさらうことだったとす
れば、矛盾せぬかな。ランペターはマリアスの病を治せると言って、ここに入
ってきた。そして事実、マリアスの病を治した」
「ええ、その通りです」
「考えてもみよ。マリアスをさらった後、あやつらは何を要求してくる? 金
か権力といったところだろう。だが、そのいずれにしてもここまで手間をかけ
る必要はない。あの時点で、マリアスの病を治す変わりに金、あるいは権力を
よこせと、この私に迫ればよかったのだからな」
「そこまでは考えが及んでおりませんでした。が、賊はマリアスそのものを欲
していたのかもしれません。生きて五体満足なライ国王女マリアスが必要だっ
た……」
「ううむ」
 シーレイの意見に、レオンティールは再びうなった。
 シーレイは父親の意志を促すように、さらに言った。
「現時点で賊の目的をあれこれ推測しても始まりません。合い鍵を作れた唯一
の部外者は、あのランペターらなのです。この理由だけで充分でございましょ
う」
「分かった。続けよ」
 レオンティールの言葉をとりつけて、シーレイは満足げに論を続ける。
「鍵に関する残り二つの意見に戻る。内からマリアスに鍵を開けさせたとなれ
ば、これは声色がうまい者が賊の中にいるとも考えられる。これも手がかりの
一つとして数えたい。三つ目の、マリアスがたまたま部屋の外に出たところを
さらったというのは、偶然の度合いが強すぎる。我が城に人知れず侵入できる
ほどの賊がそのような行き当たりばったりの計画をやるとは思えない。こちら
の方は却下だ。
 以上の観点を持って、マリアスをさらった者共の捜索を行う。特にランペタ
ーらの一行を捜し出すのを最重点に置くのだ。分かったな!」
 シーレイが声を張り上げた刹那、一人の男が言葉を差し挟んだ。
「お待ちください」
「何だ?」
 当然、全員の同意を得たものと考えていたシーレイは、不機嫌な表情を隠そ
うとせず、そちらに目をやる。
 その末席には、ディオシス将軍が座っていた。マリアスと親しかったという
こともあって、将軍の代表としてこの会議に出席していたのであるが、今まで
ただの一言も発言はなかった。
「シーレイ王子並びに国王様。こちらから先手を打つことはいかがなものかと
存じ上げます」
「何故だ。将軍ともあろう者が口にする意見とは思えん。戦いにおいて基本は
先手必勝ではないかな」
 王子としての尊厳か、シーレイは、自分よりも年上のディオシスに対し、見
くびるような言葉を吐いた。
 対して、ディオシスは気にした様子もなく、淡々と口火を切る。
「さような場合ももちろん、ございます。しかしながら、今回の憂うべき事態
は若干、事情が異なると思うのです。マリアス姫の命は、向こうが握っており
ます。こちらが先に打って出ても、相手方が姫の身の安全を盾に要求をしてく
れば、それがいかなるものであっても飲まざるを得なくなるのではないでしょ
うか。少なくとも、攻勢の中断は避けられません」
「では、どうすればよいと考える、ディオシス将軍は?」
 試すかのような口ぶりのシーレイ。
「私には今、適当な策はございません。大まかな点では先ほどの決定に従うつ
もりでございます。ただ、姫の安全を第一に考えるべきだと申し上げているだ
けのこと」
「つまり……」
 と、レオンティールが口を開いた。
「将軍はこう言いたい訳か? 先手に打って出るにしても、隠密裏に行動を開
始すべきだと」
「その通りでございます、国王様。さらに、その実行開始の期日に関しては可
能な限り引き延ばし、相手の出方を待つべきだと存じ上げます」
「ふむ」
 顎に手をやるレオンティール。しばし、沈思黙考が続く。
「父王、ご決断を」
 しびれを切らしたシーレイが、無理に抑えたような声を出した。
「よかろう」
 決断したレオンティール。そこにいる者皆が、息を飲む。
「全ての意見を取り上げたい。相手方の出方を見るのは本日を含めて二日、こ
れが限度だ。そして相手の出方がどうあれ、明後日には外部の者には知られぬ
よう、密やかに行動を開始せよ」
 そして誰がどのような項目を調べに当たるのか、細かな指示が行われた。



−−続く




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