AWC 化石の鳴き声 3   永山智也


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#3392/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 9/ 1   0:13  (200)
化石の鳴き声 3   永山智也
★内容
「それでね、おじいちゃん。川上君が最初、アンモナイトの化石を見つけたの。
それに恐竜の歯型みたいなのが残っていて、きっと、恐竜の化石があそこには
あると思うわ」
 純子の話を、最初は笑って聞いていたおじいちゃんでしたが、段々と真剣な
表情になってきたようです。
「本当かね?」
「嘘じゃないもん」
 純子がふくれてみせると、あわてたようにおじいちゃんは声をおろおろさせ
ました。
「いやいや、疑ってるんじゃないんだ。許しておくれ、純ちゃん」
「別に怒ってないよ」
 純子の言葉に、おじいちゃんはほっとした表情。
「ありがとう。それで、その化石、今はどうしているんだい?」
「川上君が持っているわ。見つけた人が持っているのが、当然でしょう?」
「うん、まあ、そうだね。大人の人−−先生とかには見せなかったのかな?」
「見せてないみたい。秘密だから」
「そうか」
「それで、私、その化石をおじいちゃんに見てもらおうと思って」
 純子は、いよいよ言いたいことを口に出しました。
「ほほう?」
「おじいちゃんだったら、よく地面を掘っているんだし、化石とか恐竜とかに
ついて、私に教えてくれたから、詳しいんじゃないかなって、そう思ったの」
「それは、光栄だなあ」
 目を細めるおじいちゃんです。
「まあ、おじいちゃんはいせきとか古ふんが主で、そちらは専門家じゃないん
だけど……独学でやっていたからね」
「『どくがく』って?」
 意味が分からない難しい言葉に、純子は質問をはさみました。
「毒薬の勉強をすること?」
「あはは、それは違うよ。先生には教えてもらわずに、自分の力で勉強するこ
と。これを独学と言うんだ」
「ふうん。大変そう……」
 自分だけで勉強するというのが、純子には想像もつきません。
「確かに、大変な点もあるけれど、好きなことだった、楽しくやれるんだ。お
じいちゃんもね、考古学−−これは、いせきとかを調べる学問だよ−−をやる
一方で、化石の研究なんかにも未練があって、独学で勉強したんだ。だから、
そのアンモナイトの化石を見たって、正式な判断はとても無理だろうけど、何
か分かるかもしれないね」
 どうやら、おじいちゃんも乗り気になっているようです。
「だったら、今日の二時に、一緒に出かけましょ。秘密の場所にみんなで集ま
って、掘っているの。そのとき、川上君が化石を持ってくるはずだから」
「面白そうだ。ぜひ、見たいな。ただし」
 おじいちゃんが引き受けてくれて喜んでいた純子は、緊張しました。
「……ちゃんとした道具を持っていこう。きっと、純ちゃん達は、小さいスコ
ップかなんかで手当たり次第に掘っているんだろう?」
「うん。なかなか進まなくて」
「貴重な化石が本当にありそうなら、それをこわしてもいけないからね。最低
限、ハケとか虫めがねとかを用意したい」
「それだったら、家にある」
 純子は立ち上がって、すぐにでも持って来ようとしました。でも、おじいち
ゃんに止められました。
「秘密なんだろう? だったら、お母さんにも気付かれないように、何気なく
道具を集めようね」
 なるほど。純子は納得しました。
「ところで、純ちゃん」
 おじいちゃんは話題をかえたようです。
「本来ならば、大人の人に知らせて、ちゃんとした発掘をしてもらうのがいい
んだ。さっきも言ったけれど、化石をこわさないためにもね。それから、掘っ
ている場所が、もし、誰かの持っている土地だったら、その人から許可をもら
わないといけないんだ。分かるよね? 純ちゃんだって、お庭を勝手に掘り返
されたらいやだろう?」
「いやよ」
 純子は大きくうなずきました。
「山の土地も同じことなんだ。塀とか柵がなくてもね。そういった意味で、大
人みんなに知らせたいんだけど……。だめなのかな?」
「……私に言われたって……困る」
 おじいちゃんに見つめられ、下を向いた純子。
「私一人で決められないし」
「他の男の子達は、今のところ、当然、反対するだろうね」
「そう思うわ」
「だったら、純ちゃんがみんなを説得してくれないかな」
「説得……?」
「そう。無理矢理に、純ちゃん達の秘密を明らかにするつもりはないんだよ。
みんなでよく話し合って、自分達の考えで。ね?」
「……分かった。うん、やってみる」
 純子は力を込めて返事しました。
 おじいちゃんの表情に、笑顔が戻ります。
「そんなに力を入れなくてもいいんだよ。まあ、とにもかくにも、そのアンモ
ナイトを見せてもらってからにしよう。恐竜の歯型じゃなかったら、少し、状
況が変わるかもしれないしね」
 おじいちゃんの言葉に対して、純子は、そんなことないもん、と思いました。
(あれは絶対、恐竜の歯のあとよ、おじいちゃん。私、信じてる)

 純子はその日の午後、おじいちゃんを秘密の場所に案内しました。まだまだ
元気いっぱいですから、少しぐらいの荷物をかついでいても、おじいちゃんは
平気で坂を、どんどんと行きます。
「よろしくお願いしまーっす!」
 男の子達からの歓迎の言葉。中森君が、他の男子に言っておいてくれたので
す。
 おじいちゃんは、驚いたような顔をして、
「ああ、こちらこそ、よろしく。おお、みんな、元気そうな顔をしておる」
 と言いました。
 純子はおじちゃんのことをみんなに紹介し、男の子達は順番に、自己紹介を
しました。
 おじいちゃんは、顔と名前を覚えるためでしょう、何度か口の中でもごもご
と繰り返し言っています。
 それから、おもむろに、おじいちゃんは川上君の方を向きました。
「さて、さっそくだけど、その化石を見せてもらおうかな」
「はい。これです」
 川上君は、ビニール袋を前に差し出しました。今日は、ポケットじゃなく、
そのビニールに入れてきたようです。
「手に取っていいかね?」
 おじいちゃんの言葉に、川上君はだまってうなずきました。
 おじいちゃんがビニール袋に手を入れ、中の物を取り出します。中の物は、
新聞紙にくるまれていました。クッションの役目をさせるつもりなのでしょう、
何重にも新聞紙は重ねてあります。
「ずいぶん、ていねいにつつんでいるねえ。おっ、ようやく出てきた」
 おじいちゃんが声を上げました。そして、しんちょうに、現れたアンモナイ
トの化石を取り上げました。
「……」
 だまっています。
 おじいちゃんが何か言うのを期待して、純子を始めとしたみんなも、やっぱ
りだまっています。
「これは……」
 と、おじいちゃんが、何かを言いかけました。みんな、身を乗り出すように
します。
 けれど、おじいちゃんは、そのまま何も言いません。いい加減、待ちくたび
れてしまいました。
「どうなの、おじいちゃん?」
 しびれを切らした純子は、少し早口になっています。
 おじいちゃんは、やっとみんながいるのを思い出したような顔をしています。
「ああ、すまんすまん。見とれてしまっていた。すばらしい化石だよ、これは」
「そんなにすごいの?」
 純子も男の子達も、いっせいに声を上げました。その五組の目は、どれも輝
いてさえいます。
「そうだとも。純ちゃん達が考えていた通り、このアンモナイトに着いている
穴は、恐竜の歯型に、まず間違いない」
 おじいちゃんが言い終わると同時に、わっと歓声が起こりました。みんな、
ここが秘密の場所だということを忘れたかのような騒ぎっぷりです。
「すごい! 川やんの言った通りだ」
 木下君にそう言われて、当の川上君は、またいつかみたいに、照れた様子を
見せるのでした。
 それを横目で見ながら、中森君が片手をあげるような感じで、おじいちゃん
に聞きました。
「恐竜って、どんな種類なんでしょう?」
「そこまでは、私には分からんよ」
 と、笑うおじいちゃん。そしてさらに続けて、口を開きます。
「さて、みんな、聞いておくれ。当然、恐竜の化石を探したいんだろうね?」
「もちろん!」
 声をそろえて、元気よく、返事。でも、これからおじいちゃんのする話を知
っている純子は、だまっていました。
 おじいちゃんは、困ったような表情をしています。やがて、おだやかな笑み
をたたえながら、始めました。
「化石に興味を持つのはいい。とてもいいことだよ。でも、君たちだけでやら
ないでくれないか」
「どうして?」
 すぐに、そんな声が飛びます。
 純子はその間、男の子達に白い目で見られるんじゃないかという気がしてき
て、うつむいてしまいました。
 おじいちゃんは、前に純子にしたのと同じ説明を、皆に聞かせます。その言
い方が上手なのでしょう。最初はぶぅぶぅと文句を言っていた男の子達も、い
つの間にか、素直に聞き入っているのです。
「分かりました。自分たちだけじゃ無理だし、大人の人に手伝ってもらいます」
 川上君が言いました。
 大人にも手伝ってもらう、というところがおかしかったのでしょうか。おじ
いちゃんは苦笑しながら、それでも満足そうに、大きくうなずきました。
「みんな、いい子だ。私が責任を持って、専門家の人に連絡させてもらうよ。
その前に、このアンモナイトがどこにあったのかを、聞かせてもらえるかな」
 おじちゃんのお願いに対し、川上君が指さして答えようとしたそのときです。
 坂の上の方の茂みが、がさがさと音を立てました。みんなが見上げる間もな
く、大声がふってきたのです。
「こら! 何をしている!」
 男の人でした。よく年齢の分からない外見で、おしゃれな感じの眼鏡をして
いるせいか、偉そうな印象です。その男の人は、ざざざっと、土煙を立てなが
ら、坂を下りてきました。
「あんたが、責任者かね?」
 男の人は、純子のおじいちゃんへと詰め寄っていきます。
「そうです」
 おじいちゃんは言い切りました。
 純子達は、ただただ見守るだけしかできません。
「私は石原と申します。あなたは……?」
「誰の許可を得たんだね? この土地に入ってはだめだ」
 男の人は、おじいちゃんの質問には答えず、怒鳴り散らし続けています。
「ほう、では、あなたがこの土地の所有者でしたか?」
 おじいちゃんの方は、落ち着いたもの。できるだけ、おだやかに話を収めよ
うと努力します。
「そうだ。太田仁一郎と言えば、分かるだろう」
 男の人は、胸をそらしました。何だか嫌な態度です。
「いや、あい、すみませんですな。私はこの土地の者じゃないので、存じませ
ん」
「……ふん」
 太田は鼻を鳴らすと、仕方がないなという具合に腕組みをしました。それか
ら、じろりと、純子達の方をにらんできます。
 少し恐かったのですが、純子も中森君達も、目をそらしません。
(いきなり怒鳴るなんて、ひどい。いくら、自分の土地だからって……)
 純子は、そんな反感を抱いていました。
 太田は、おじいちゃんの方へと顔を戻しました。
「自分で言うのも何だがね。この町の開発を一手に引き受けているのだよ、我
が太田開発は。山林なども、ほとんどがうちの物なんだ」
「それはそれは……」
「ところで、あんた、何をしていたんだ?」
 じろじろとおじいちゃんの全身を眺め、さらには純子達の様子も探るように
見てくる太田。
「発掘ですよ」
 おじいちゃんの返答に、太田は首をひねります。
「発掘? 何かね、お宝でも埋まっているのか?」
「まあ、宝と言えば宝ですが……」
 おじいちゃんは、純子達の方を見やってきました。

−−つづく




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