AWC 化石の鳴き声 1   永山智也


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#3390/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 9/ 1   0: 7  (200)
化石の鳴き声 1   永山智也
★内容
 まっくらな夜の闇。
 自然が、いっぱい残るこのあたりには、闇の持つ恐さも、まだまだ残ってい
るのかもしれません。
「何をするんだ!」
 闇の中に突然、大人の男の声がしました。
 次の瞬間、かたい物同士のぶつかり合う音が。と同時に、さっき叫んだ人の
影はくずれて、その場にうずくまってしまいます。
「何をするんだ、だと?」
 もう一人の大人が、ひとりごとのように言っています。手には大きなスコッ
プがにぎられているのが分かりました。
「分かり切っているだろう。俺にとって、おまえは邪魔なんだよ」
 もちろん、倒れた男の人は、何も言い返しません。したくてもできないので
す。
 しばらくじっと立っていた大人の方は、やがて次の行動を始めました。

           *           *

 学校からの帰り道、純子はいつもの方向を見ました。
(今日もやってる)
 そう思いながら、純子は一歩、坂へと足をふみ出します。
 坂は最初、下って、すぐに上り坂になります。そこを越えたところに、男の
子達が何人か集まって、騒いでいるのです。
 お父さんの仕事の都合で、夏休みに入るちょっと前に、純子はここへ引っ越
してきました。友達があまりできない内に、休みになってしまったので、退屈
してしまうことが多くなります。
 今日、学校へ行ったのは、登校日だったからです。みんな、うれしそうには
しゃいでいますが、純子はほんの二、三人ほどの話し相手しかいません。それ
でも楽しいことは楽しいのですが、みんなのはしゃぎぶりと比べると、何だか
さみしくなってしまいます。
 登校日はお昼前に終わったのですが、純子は友達と遊んでいました。帰って
しまったら、また長い間、会えないからです。
 友達が帰らないといけない時間になったので、仕方なく、純子も帰るのです。
そしてその途中で、純子はいつもの騒ぎ声を耳にし、つい、気になってしまい
ました。
 普通だったら、男の子の中、それも話をしたことない男子ばかりの輪の中へ、
一人で入っていくなんて、考えもしないでしょう。だけど、このときの純子は、
そのまま家に帰るのを嫌がる気持ちが強く、寄り道する気になったのです。
 すこし息をはあはあさせて、やっと坂を上りきったその先−−。男の子達は
何をしているのでしょう。
 小さな岩にかくれるようにして、純子はそっとのぞいてみました。すると、
同じクラスの男子が四人ほど集まって、土いじりをしている光景が、目に入っ
てきたのです。
(なーんだ。どろ遊びじゃない)
 と、がっかりした純子でしたが、少しおかしいことに気付きました。
 男子四人がいじっている土は、別にどろっぽくありません。砂場の砂という
感じでもなく、ただの土なのです。何かを作って遊ぶのは、無理みたいに思え
ました。
(ミミズとか、虫の幼虫とかをとっているのかな)
 そう考え、目をじっとこらす純子。でも、そういった様子も見られませんで
した。男の子達は木の枝やら小さなスコップやらで、しきりに土を掘り返して
ます。そしてときどき手を止めて、掘り出した石ころをじっと観察するのです。
(何を掘っているのかしら?)
 気になってたまりません。純子はもっとよく見ようと、小岩の影から上半身
を出しました。
 そのとき、動かした足が石に当たって、いくつかがころころと転がり出して
しまったのです。
 あっ、と思いましたが、純子には、もう止めることはできません。ゆるやか
な坂を転がった石の一つが、男子の一人の足下に当たって止まりました。
 何だ? そんな風に、男の子は足元を見ています。石が転がってきたのだと
分かると、次に、どこから転がってきたのかを調べるように、目をきょろきょ
ろさせました。
 純子はすぐに頭を引っ込めようとしました。けれども……。
「誰? そこにいるんだろ?」
 どうやら、間に合わなかったようです。
 一人が騒ぎ出したせいで、他の三人も騒ぎ始めました。
 純子は少し考えてから、何も悪いことしてたんじゃないんだし、と思うこと
にしました。このままかくれていて、男子に見つけられるよりも、自分から出
て行った方がいい。そう決めたのです。
「……ごめんなさい。邪魔しちゃった」
 岩影から顔を出すと、歩き回っていた四人の男子は、ぴたりと止まりました。
「何だ、転校生か」
 四人の内の一人、身体の小さな、気の強そうなのが言いました。
「そんな言い方、すんなよ。えーっと、石原さんだよね?」
 今度の男の子は、やさしい口調です。最初に石ころに気付いた、ちょっと格
好のいい子。確か、中森明弘君だ−−純子はその名前を覚えていました。
「う、うん!」
 とりあえず、勢いだけで、元気よく返事。
「何をしてるの?」
「え? えっと」
 聞かれても、答えられません。ただ、覗いていただけなんですから。
 中森君が、何だかおかしそうな顔をして言いました。
「とにかく、こっちに来なよ。話しにくいや」
 純子は、スカートがまくれ上がらないように注意しながら、そろそろと最後
の坂を下りました。
 が、油断大敵と言います。あと少しというところで、突き出た岩の先に、つ
まずいてしまったのです。
 危なく転びそうになったとき、右腕の上の方を、ぎゅっと強くつかまれまし
た。顔を上げると、中森君がいつの間にかそばまで来てくれていて、助けてく
れたんだと分かりました。
「あ、ありがとう」
「ドジだなあ」
 そんな言葉を口にしたのは、もちろん、中森君ではありません。彼の後ろに
いた、三人目の男子です。
「そんなこと言うなよ。転校してきたばっかりで、山道を歩き慣れていないん
だよね」
 純子をちゃんと立たせてくれてから、中森君は言いました。純子を見るとき、
彼は笑顔を絶やしません。
「あんなところで、何を見ていたんだ?」
 さっき純子がかくれていた岩を指差しながら、四人目の男子が聞いてきます。
この男子の名前も、純子は覚えていました。川上君です。下の名前は忘れてい
たけれど。
「あ、あの、何をしているのかなと思って」
 どぎまぎして答える純子。四人の男の子に囲まれる形になったのだから、無
理もありません。前の学校では、純子は活発な子で通っていたのですが、こち
らにはまだまだ、なじめていないのです。
「どうしよう?」
 中森君が他の三人を見ました。
「秘密の場所だぞ、ここ」
 一人が言いました。
(あれだけ騒ぎ声を出していたのに、秘密だなんて……)
 純子はおかしくなってしまいます。
「別にいいんじゃない、教えても」
「秘密にするって、約束したろ」
「そりゃあさあ、他の男には教えないって決めてたけど、女子に教えないなん
て、一言も約束していないよ」
 にっこりと笑ったのは、中森君。
「あのときは、まさか、女子がこんなところに来るとは思ってなかったんだ」
 そういう具合に反対するのもいましたが、結局、中森君の意見が通りました。
「あのね、石原さん。これから言うこと、他の人には一応、ないしょにしとい
てほしいんだけど」
 頭に片手をやりながら、中森君。
「いいわよ、約束する。今んとこ、おしゃべりする相手も少ないし」
 純子のこの答に、男子全員が苦笑いするみたいな顔になりました。
「そうかもしれない。それじゃ、言うけど、ここ……ほねが出るんだ」
「ほ、ほね?」
 中森君の言い方がどことなくおどかす調子だったので、純子は思わず、自分
の腕を抱きしめ、身ぶるいしてしまいます。
「そんな言い方じゃ、だめだ」
 声の方を見れば、川上君が、笑いをこらえるようにしています。
「石原さん、恐がることなんか、これっぽちもない。明弘が言ったほねってい
うのは、化石のことなんだ」
「化石……」
「そう。化石って、分かるだろ?」
「え、ええ」
 うなずく純子。その目は、新しい興味を見つけて、かがやいているようです。
「化石が、ここにあるの? すごい!」
 手を合わせて、大声で叫んでしまった。
 とたんに、男子みんながしーっ。
「大声、出すなって。聞こえたらこまる」
 男子の一人が言いました。
「ご、ごめんなさい。で、でも、私、中森君達が騒いでいる声を聞いて、こっ
ちに来たんだけれど……」
 これには、男子全員、顔を見合わせてしまいました。
「おい、木下。人のこと言えないじゃないか。おまえの声がでかいんだな、き
っと」
 中森君が、さっき純子をたしなめた男の子−−どうやら木下という名前みた
いです−−に対し、からかうように言いました。
「お、俺だけじゃないったら。川やんも、鳥井も、それに明弘、おまえだって」
「まあ、それはお互いの責任だよ」
 なだめるように、川上君。彼のあだ名は、川やんらしい。
 それから不意に、川上君は純子の方を振り返りました。
「他に誰もいなかった?」
「うん……多分」
 純子の答に、みんな安心した様子です。純子も何だかほっとしました。仲間
に入れてもらえたからかもしれません。
「ね、どんな化石が見つかるの?」
 純子は、彼らが掘り返していた場所を見ながら、聞いてみた。
 やり残した仕事を思い出したみたいに、みんなも掘っていた場所を見つめま
す。その中で、川上君が答えました。
「目標は恐竜の化石だけど」
「恐竜が見つかるの?」
「だから、それは目標で」
 慌てたように否定する川上君です。
「だったら、何が見つかっているの? 見せてもらいたいなあ」
 純子が頼むと、川上君は中森君達に目で合図を送るようなそぶりを見せまし
た。木下君ともう一人の鳥井君は、仕方ないという顔です。中森君は、ただ笑
ってうなずいている。
「現在、見つかっているのは……」
 川上君が、半ズボンの後ろポケットの中をごそごそとやり始めました。さほ
ど待たずに、その手は、純子の前に差し出されてきました。
「これだけなんだ」
 彼の右手が開かれると、そこには、トランプぐらいの大きさの、平べったい
感じの石がありました。その表面の大部分には、巻き貝みたいな模様が入って
います。石全体の色はクリーム色に近く、巻き貝の模様の方は、こげ茶色と言
えるでしょうか。
「これ……アンモナイトね?」
 純子が答えてみせると、川上君も中森君も、みんなびっくりした表情をして
います。
「知ってるの?」
 中森君が、身を乗り出すようにしてきました。
 純子は、ほめられたような気がして、うれしさで顔がほころびました。
「うん。ブームって言われる前から、恐竜とか化石とか、興味あったの」
「へえ」
 感心したような声が上がります。
 純子をあまり歓迎していなかったらしい、木下君と鳥井君の二人も同様です。
「誰が見つけたの、この化石?」
「川やんさ」
 中森君に手で示されると、川上君は少し、照れたような表情を見せました。
「どんな風にして? 教えて!」
「聞かれても、特別なことはなくて……。いきなり、こんなところを意味もな
しに掘り返すわけない。七月の最初の頃の日曜日だったと思うけど、何となく、
探険のつもりで歩いていたんだ。そしたら、ふっと目が行って……。よく見て
みたら、これがあったというだけなんだ」
「それでもすごいわ。地面に落ちていた石の中から、これを見つけるなんて」
 感激して、手を叩く格好をする純子。
 川上君は、あいかわらず、照れた様子で話を続けます。
「それで、このことをみんなに話したら、他にもあるかもしれない、掘ってみ
ようってなって、夏休みになってから、ほとんど毎日、ここに来ているんだ」

−−つづく




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