AWC 占いなんて 2   名古山珠代


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#3356/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 8/16   0:17  (200)
占いなんて 2   名古山珠代
★内容

「声、上げたらやだよ」
 と前置きして始めたのに、話し終わらない内に、二人は大げさに反応した。
「すっごーい!」
「立て続けにねえ」
 保子、理梨香の順。
「しっ。みんなに聞こえるっ」
 私は体育館の中を見回した。バレーボールの跳ねる音が反響していて、どう
にか安心。外でラグビーをやってる男子はもちろんのこと、他の女子にも聞こ
えるはずがない。
「いきなりもてたご感想は?」
「ふざけないでよ、とくちゃん。本気で悩んでんだから」
 頬を膨らませてやる。
「ごめんごめん。だけど、うらやましい話よね」
「ほんと。両天秤が悩みだなんて」
「違うわよ。両天秤にかける気なんかない。それ以前よ。佐々木君も幸村も、
二人とも、そういう対象で見たことなかったから、どうしたらいいか分かんな
いのよ」
 両手に握り拳を作り、力説しちゃう。どうも、面白半分にしか聞いてくれて
ないんだから。
「ねえ、ショウ。あんた、本命はいるの?」
「な、何よ、いきなり」
「関係あるから聞いてるんでしょ。いるの? いないの?」
「いないわよ」
 断言する。事実、いない。
「本当でしょうね?」
 私の顔を覗き込んでくる理梨香。相談されたのにかこつけて、聞き出そうと
しているんじゃないか。そう思えてくるわ。
「身近な人の中に、いるかどうかって話でしょ? だったらいないってば」
「そうか、残念。いるんだったら、佐々木君と幸村をふって、本命一直線で行
けってアドバイスしたのに」
 大したアドバイスだわ、全く。
「いないとなればねえ。よく考えて、好きな方と引っ付いちゃえばいいんでな
いの」
「……相談しといて何ですけどね。それって、当たり前すぎるような」
「他に何があるって? 両方ともにいい顔しようと思っているんじゃないでし
ょうね」
「う」
 実はそうなのだ。
 二人のどちらかを選ぶのは難しいし、疲れる。返事、先送りにしたい。
「図星か。気を持たせておいて、あとでふる方がよほど酷いわよ」
「男子二人は、お互いのことを知ってるのかなあ?」
 保子が聞いてきた。
「知ってるわよ、同じクラスなんだから」
「違うったら。佐々木君は幸村君がショウに告白したこととぉ、幸村君は佐々
木君がショウに告白したこと、それぞれ知っているのかってこと」
「それは……知らないはず」
 一瞬、頭の中で考えた。うん、知らないはず。
 保子と互いに見合わせた理梨香が、したり顔を作った。
「いい子でいたいなら、双方に打ち明けておくべきね。あなたの他にもう一人、
言い寄ってきてる人がいるのよって」
「そうかな。変に意識されたら、何だか悪い」
「『私のために喧嘩をしないで』ってところね」
 また冷やかされた。友達としてはいいんだけどね、二人とも。相談相手には
ちょっぴり、役不足か。
「そこー、何やってるー!」
 ミス・マッスル−−体育教師−−の間延びした声で、授業に引き戻された。

 長い体育が終わって、ホームルーム。
 身体動かしていると、意外と忘れていられたけれど、着替えて席に収まって
みて、また思い出した。
「−−以上で連絡、終わりだ」
 担任のY先生−−名前が輪井なの−−が、ばんと教壇を叩いた。
「掃除が終わったら、日直は日誌、忘れずに持って来いよ」
 佐々木君がうなずいているのが、視界の隅っこでとらえられた。
 気が重い。掃除が終わって当番のみんなが帰ったら、二人きりになる。
「帰り、待っててやろうか」
 幸村ぁ。悩んでいるときに、拍車をかけてくれる。
「ごめん、今日はだめ」
「何で」
「察してよ」
 かわい子ぶって、ウィンクなんかしてみた。
「ふん。なーるほど。察しましょ。じっくり考えて、いい答、出してくれよな」
 幸村は私へ囁きかけるように言うと、鼻歌混じりに教室を出て行った。
 ひとまず、ほっとする。幸村と佐々木君、二人共にいられると、かかる負担
が大きすぎるんだから。
「何を話していたの?」
 気になったのかどうか、佐々木君が聞いてきた。瞬間的に言い訳をまとめ上
げる。
「大したことじゃないわ。明日も宿題、頼んだぜって。ずうずうしんだから、
あいつ」
「はは、あいつらしい」
 疑いもせず、笑っている佐々木君。
 悪いなぁ。佐々木君にも幸村にも悪いことしちゃってる。
 いつの間にか、掃除が終わっていた。当番の子達はさっさと帰ってしまい、
教室には私と佐々木君、二人きりになる。
 日誌は書き終わっていた。掃除の出来映えをチェックして、カーテン閉めて、
鍵をかける。
「島川さんは歩き?」
 職員室へ行く途中で、佐々木君が聞いてくる。登下校の交通手段のことを言
ってるのだ。
「自転車よ」
「じゃ、割と遠くから来ているんだ? 僕は徒歩五分という近距離でね」
「うらやましい。遅刻、絶対にしない」
「かもね。島川さん、音楽はどんなのが好み?」
「テレビドラマの主題歌とかエンディングとかだったら、ほとんど何でも」
「ちょうどいいや。自分もそうなんだ。あの、**の主題歌は持ってる?」
 佐々木君は、始まったばかりの新番組の名を挙げた。
「ううん。でも、感じいい曲だから、レンタル屋に並ぶのを待って、ダビング
するつもり」
「よかったら、貸してあげようか? CD、買ったんだ」
「持ってるの? じゃあ、お願いしよよっと。明日、持って来てくれる?」
「それよりさ、今日、これから取りに来られないかな」
 職員室に到着。
「あ、置いてくる」
 日誌と鍵を持って、職員室へと消える彼。
 後ろ姿、目で追いかけながら、考える。
 うーん。誘っている……んだよね、きっと。返事を待つと言いながら、何て
気の早い。
「お待たせっ」
 家にお邪魔するなんて、まだ決めてないのに。
 佐々木君って割と自信家なのかもしれない。いや、そうに違いない。
 などと思いながら、結構うれしい。
「あの……家の人、いるんじゃないの?」
 今度は通用口へ向かう。
「いるけど、それが?」
 佐々木君、きょとんとしている。
「そのぅ、いきなり女子が来たら、色々と……」
 語尾は適当にごまかした。
「ああ、そういうこと。うちの方はかまわないけど、島川さんが気にするんだ
ったら、玄関でCD、手渡しするだけにしようか」
「そ、それなら」
 一も二もなく飛び付いた。
 これで今日のところは乗り切れる。そう安心して、私は下駄箱の中を覗いて
……。
「−−わっ。まさか」
 思わず声を上げてしまう。
「どうしたの?」
 佐々木君が気にしてる。少し離れているから、見えなかったと思うけど……。
「ううん、何でもない」
 私は背中にその『手紙』を隠しつつ、笑顔を作った。

 借りたCDを聴くどころじゃなくなっちゃたじゃないの。
 家に帰るなり、自分の部屋に一直線、鞄の隅に落し込んでおいた手紙を取り
出した。宛名は島川祥子、間違いなく私に対して書かれた物。差出人の名はな
い。震える手でハサミを操り、慎重に慎重を重ね、開封。
 出て来たのは、和紙っぽい便せん。手書きのインク文字が踊っている。上手
な部類に入る字だと思う。分量は多くない。
<こんな手紙を突然出して、ごめん。僕の気持ちを知ってもらいたくて、書き
ました。
 僕は島川さんが好きです。
 一年のとき、同じクラスになって初めて島川さんを見かけて以来、ずっと気
になっていました。
 今週一杯、毎日放課後、図書室で待っています。島川さんの都合のいいとき、
返事を聞かせてください。
                            二組 江上隆一>
 他人のこと言えるかどうか分からないけど、つたない文章だと感じた。ラブ
レターなのよ。嘘でもいいから、歯の浮くような文章の一つがあっても、おか
しくないのに。
 が、それがかえって、真摯な印象を放っているような気がしてくる。
 きちんと今のクラスを書いてある辺り、私が覚えているかどうか、自信がな
かったのかしら?
「江上隆一君、か」
 名前を口にしてみる。印象は強くない。けれど、覚えていたのだから、ちょ
っと自分にびっくり。
 男子にしては細い体つきだけど、スポーツは一通りこなしていた。物理が異
常によくできる、四角っぽい眼鏡をかけた子だ。男子ばかりならそれなりに話
すけど、女子相手にはほとんど喋らなかったような記憶がある。だから手紙を
書いたんだ、多分。
 我に返ると、どきどきしている。
 保子の冷やかしじゃないけど、急にもて始めたなあって。
 いや、そうじゃない。
 私が覚えていたのも道理。江上君、ルックスいいから、学年始めの頃はかな
り人気あった。取っつきにくい印象のせいで、きっかけがなくて、女子のみん
な、あきらめたようなところあったけど。
 外見は、江上君が私の理想に一番近いかもしれない。
「……」
 もう一度、江上君からの手紙を読み直し、笑いそうになる。
 彼がこの手紙を書いた様子を考えると、いろんな風に想像できて、おかしく
なってくる。女子と話した経験が少ないから、きっと、これだけの文章に何時
間もかかったんじゃない?
 手紙を封筒に戻そうとして、肘が固い物に触れた。
 CDのケース。佐々木君から借りた物。
 悩まざるを得ない状況を思い知らされる。
「やっぱり当たってたのかな、占い」
 ふう、とため息が出た。
 彼氏がいたらなあと、人並みに思わないでもないけど、まさか三人同時にな
んて。選ばねばならないとしたら、贅沢な悩みに違いない。
 本命がいたらな、とも思う。
 私の本命……今はいない。
 中学一年の頃、強く意識する子−−小泉樹輝也君−−がいたけれど、二年に
なると同時に彼、転校しちゃったもんね。今思えば、あのとき告白しとけばよ
かったかな、なんて。
 昔の話を蒸し返しても仕方ないか。佐々木君、幸村、江上君の三人へ、返事
をどうしようか考えなければいけない。
「時間がほしい」
 切にそう願いたい気分。時間をかけて、みんなと付き合ってみないと決めら
れないってば、やっぱりさ。
 言わなきゃ。三人に言って、順番に付き合ってもらう。別に女王様気分を味
わいたいってんじゃない。これが一番公平だと思うから。
 このやり方が気に入らないなら、その子には最初から外れてもらおう……っ
て、三人ともにそっぽ向かれたら、どーしよー。
 いやいや、そんなことあるまい。自分からコメディにしてどうする。同時に
三人から気持ちを打ち明けられたのでさえ、コメディっぽいのに。
 ……何だか、どきどきの度数が下がってきたような気がする。これって、三
人もいるからかしら? 一対一なら、もっと緊張し続けていると思うんだけど
……。初めてのことだから、よく分からない。
 いいや。明日から、じっくり考えて、決めればいいことよ。

−−続く




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