AWC 十三と黄金 4   陸野空也


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#3334/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 7/31  15:12  (174)
十三と黄金 4   陸野空也
★内容
 夜が来た。
 他の人はともかく、私は夜、活動的になる質だ。
 ところが、今夜は違っていたみたい。みんな、元気よく起きている。
「出かける?」
 千馬が頓狂な声を上げている。
 聞き手は四人と一匹。竜崎と蝶野の二人は、昼前に下まで送って、そのまま
別れた。
「こんな夜遅く、どこに? まさか緋野山に行くんじゃないでしょうね」
「緋野山だよ」
 鱶島が髪を整えながら言った。あっさりした口ぶり。
「やめてよ! 万が一、ジュウザが出たらどうするのよ」
「出ないって。よっぽど運が悪い奴じゃなきゃ、大丈夫だ」
 鰐淵が口を開く。
「車でちょこっと覗きに行くだけさ。なあ、鱶島」
「ああ」
「理由は? 朝、たっぷりと見て回ったでしょ?」
 髪を振り乱し、立ち上がる千馬。珍しい。こんな彼女を見るのは初めてだ。
「見たんだよ」
 サングラスをもてあそびながら、鱶島は秘密めかすように言った。
「何を」
 もったいぶる相手に対し、苛立ちを隠さない千馬。
 鱶島は横目で千馬を見やりながら、やっと答えた。
「あの二人、何かを探していたんだ」
「……竜崎さんと蝶野さんのことね」
「そうだよ。竜崎の方が、いやに熱心に洞窟の中を調べているなと思って、注
意していたんだ。その内、表情が変化したのが分かった。にやりって感じにね。
よほどの物を見つけたんだと思うな、あれは」
「……その時点で運び出さなかったのかしら」
「俺達の目があるからだろ。だから、秘密の品なのさ」
「秘密?」
 この言葉には、千馬だけでなく、遊亀も派手に反応した。
「何かしら」
「分からないが、俺達に二十万も出してるんだぜ。相当の価値があるんじゃな
いか。そう、黄金みたいな」
「黄金?」
「そうだよ、猫田さん。エルドラド−−黄金郷。あいつらにとって、あの洞窟
は黄金郷に違いない」
「横取りするつもり?」
 千馬は長い髪をなで上げ、呆れたように言った。馬鹿馬鹿しくて聞いてられ
ないとばかり、腰を下ろす。
「チャンスを逃す手はないよなあ」
「私もそう思うわ」
 遊亀が追随する。
「だから、行こうよ」
「だからってねえ……。それじゃ、まるっきり、泥棒じゃない」
「あいつらだって、まともな職業じゃないさ。暴力団くずれってところじゃな
いかな」
 鰐淵の口調は断言に近かった。
「なおさら危ないじゃないのよっ。ジュウザだけじゃなく、暴力団まで絡んで
る話に進んで関わるなんて、分かっていながら地雷を踏むようなもの」
「女らしくない例え方だな」
「うるさいわね! とにかく、私はよすわ。行きたい人だけでやってちょうだ
い」
「分け前なくてもいいんだな?」
「冴子だけだよ、行かないって言ってるの」
 遊亀が揺さぶりをかける。悪いことするんだったら、みんな一蓮托生にしよ
うという腹づもりかもしれない。
「……あなた達三人は分かるとして、たまおまで?」
 千馬は見開いた目を、こちらに向けてきた。
「私も気になるんだもの……」
「あ、そ。いいわ。いってらっしゃい。でも、私は絶対に行かない」
「仕方ない」
 立ち上がった鱶島。
「留守番を頼むとしよう。−−もしも」
「もしも、何よ?」
 他のみんなも次々と立ち上がるのを、不安げに見守る千馬。
 鱶島は言った。
「もし、ここにジュウザが現れたら、頑張って逃げてくれよ」
「−−はっ。警告、どうも」
 椅子の背もたれに身を預ける千馬。
「ジュウザがこっちの山に現れるはずないじゃない。
 でも、警告のお礼に、私も警告してあげるわ。その黄金とやらが、たとえ一
億の値打ちがあったとしても、自分達ではさばきようがない品かもしれないと
いうことをお忘れなく。ね」
 彼女の言葉に、鱶島らは初めて戸惑いの色を浮かべた。
 だけど、状況は、もはや引き下がれない時点まで来ていた。
 私達は部屋をあとにした。
 準備を整え、外に出てみると、皮膚を刺激する感触を覚えた。小降りではあ
ったが、雨が落ち始めていた。
 私は湿気が好きじゃない。車に乗り込む寸前まで、よほど引き返そうかと思
った。
「ほら、たまお。早くう」
 遊亀の声。
「あ、うん……」
「どうかしたの?」
「何だか……。ミィクがそわそわするのが気になって。こんなことって、滅多
にないんだけど」
「とか言って、自分、怖じ気づいたんじゃないのお」
「そ、そんなこと」
「いいんだよお。私にしたら、分け前が増えるから」
「おーい、何してる?」
 鰐淵が窓から顔を覗かせて叫んだ。
「ほら」
「分かったわ」
 結局、私は車に乗り込んだ。
 時刻は午後九時を五分ほど回ったところ。雨足は徐々に強くなりそうだった。

 竜崎と蝶野は、共に懐中電灯を手にしていた。夕方、麓の町で買い込んだ物
だ。空いているもう片方の手には、雨傘。
「こんなに暗くなるまで待たなくたって、よかったものを」
「あのガキ共がうろついている可能性があったからな」
 蝶野の愚痴は、竜崎に軽くいなされた。
「出くわしたら、不審がられる。なるたけ、面倒は避けねばならん」
「そういうもんですかね」
 竜崎は無言のままだった。昼間でも往生した道のり故、夜行くには神経を使
わねばならない。少しでも歩く距離を短くしようと、山小屋の前の駐車場には
目もくれず、ぎりぎり行ける地点まで登山道へ車で乗り入れたのだが、それで
もまだかなり歩かねばならない。
「鬱陶しい雨だな」
「スニーカーに替えといて、いくらかましですがね」
 足の怪我もだいぶ楽になった蝶野は、竜崎のあとを着いて行く。
「見えたぞ」
 低い声で竜崎が言った。そして何故か、その場で立ち止まる。
 急いで横に並ぶ蝶野。
「一応、灯りを消せ」
「ど、どうしたんで?」
「……あいつらだ」
 苦々しげなうめき声。
 蝶野は洞穴へと目を凝らした。が、その前に、耳の方へ、雨音に混じって話
し声が届く。しかとは聞き取れないが、あの学生共の声らしかった。
「見られていたって訳か。俺としたことが」
「さあて。どうします?」
 電灯を持った手で髭をこする蝶野。
「脅せば一発でしょう」
「話して分からなかったときは、それもやむを得まい」
 灯りを落としたまま、竜崎は一歩を踏み出した。蝶野も続く。
 激しくなる雨のせいか、あるいは探し物に夢中なのか、学生達が蝶野らに気
付く様子はない。
 洞穴の入口まで到達すると、おもむろに蝶野は叫んだ。ほんの挨拶代わりだ。
「ちょっといいかな!」
 途端にしんとなる、穴の中。全員の目が蝶野と竜崎の方を向いた。
「あ」
 惚けたような声を発したのは、鱶島だった。
「何かお探しですか」
 雨に濡れない位置まで入り込み、竜崎は煙草を口にくわえた。
「い、いえ、別に、探すだなんて」
 舌がうまく回らないのか、鱶島はへどもどしている。
「じゃあ、君達は何をしているんでしょう。まさか、こんな夜に、ジュウザの
名跡巡りでもあるまい。ですよねえ?」
「すいません」
 鰐淵が早々に頭を下げてきた。
 蝶野は、鱶島から彼へと視線を移した。
「おい、鰐淵」
 鱶島の方は、焦りの色をなしている。
 鰐淵には、すでにあきらめたようなところが見受けられた。
「ごまかせねえって。さっさと手を引くべきだな。−−申し訳ないです、竜崎
さん、蝶野さん。俺達、昼間、竜崎さん達がこの洞窟で何か探しているみたい
だったから、ちょっと興味がわいて……見に来たんです」
「純粋なる好奇心、という訳だ」
 竜崎は煙草に火を着け、一つ、ふかした。
「そうです。それだけです」
 鰐淵が調子を合わせてきた。
 世渡り上手かもしれんな、こいつ。蝶野は聞きながら、そう思った。
「じゃあ、何も見ていないと」
「もちろん。なあ、みんな?」
 他の仲間を振り返る鰐淵。
 鱶島、遊亀、猫田の三人は、一瞬だけ、どうしようかという表情をして互い
に見合った。が、結論は早かった。
「何も見つけてませんです。本当に」
 鱶島が答えた。
「よろしい。では、手を引いてもらおうかな。私としても、手荒なことせずに
済むのは喜ばしい」
 竜崎の言葉に、学生達の間にはほっとした空気が流れた。
「ああ、その前に。もう一人のお友達はどうしたね? ここにいないようだが
……」
 竜崎は抜け目なく尋ねた。それで蝶野は初めて、千馬冴子の姿がないことに
気付いた。
「あ、あの、彼女なら、来たくないって、最初からいません」
「ふむ、お利口さんだ。君達も彼女に倣うべきだったね」
 煙草を落とすと、踏み消した竜崎。そして学生達に出て行くよう、顎で示す。
 そのときだった。


−−続く




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