AWC お祈りアクセスマジック 5   亜藤すずな


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#3303/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 6/16   0:52  (185)
お祈りアクセスマジック 5   亜藤すずな
★内容

 きっと、全国の人ほとんどが、苛立っていた。
 発生から今日で六日が経つのに、まだ救出作業ははかどっていない。
 火曜日の夕方、父さんが言っていたみたいに、爆破作業が行われた。トンネ
ルに突き立つ岩盤の部分部分に爆薬を仕掛け、滑り落とすようにして岩を取り
除こうという計画だった。家族への説明、続いて了承を得て、誰もが期待して
見守る中、爆破は行われた。その結果、岩は少し傾いただけで、滑り落ちては
くれなかった。家族の方の中には、泣き崩れる人もたくさんいた。
 それから二十四時間後。水曜日の夕方に、同じように爆破が行われたが、こ
れも岩盤の上部が折れて転がり落ちただけで、下半分はかえってトンネルにめ
り込んだようにも見えた。この失敗には、怒り出す人まで出た。当たり前だと
思う。
 木曜日の昼間、三度目の爆破。やっと、巨大な岩の下半分も取り除くことに
成功。遅すぎたけど、でも、歓声が起こっていた。これでようやく、助けられ
るんだっていう、期待感の表れ。
 ところが、それ以降も、救出は遅々として進まないでいる。トンネル内部を
埋め尽くす岩が、予想以上に邪魔になっているという。木曜の昼から金曜日の
日没まで、懸命の掘削作業が行われた。そう、懸命の作業。それにも関わらず、
救出できない。
 それどころか、テレビに流されたのは、絶望的な映像だった。
 ぺしゃんこに潰されたバスの車体。元の高さの三分の一から四分の一までに
押し潰されているという。呼びかけても、応える声はないらしい。
「お願い」
 昼までの授業が終わって、あたしは成美と司をつかまえた。
「今日と明日、どっちかの家に泊めてもらうってことにして!」
「アリバイ作り?」
 成美が聞いてきた。ちょっと怪訝な顔をしている。
「そう、それ」
「何で? 飛鳥、どこかに行くの?」
 司も怪しんでいる様子。
「そ、そうなの。行き先は聞かないで。迷惑はかけないから」
「あたしはかまわないけどね」
 成美が言ってくれた。
「頼むからには、本当のところ、言ってほしいのよね」
「う、うん……」
 筋が通っているだけに、困る。こういうときの成美は、扱いにくくて苦手な
のよね。
「司ちゃん」
 司に助けを求めた。
「どっちにしたって、あたし、だめ。だって、家族そろって出かけるんだもん」
 それじゃあ、どうしようもない。
「だから、あたしが引き受けるって。それとも、あたしにも言えないようなこ
となわけ?」
「成美……」
 あたしは首を振った。言ってしまえたら、どんなに簡単で楽か。
「……行き先だけでいい?」
「……いいわ」
 成美は多少、迷ったようだが、承知してくれたみたい。
 あたしは何度か小さく息を吸って、話そうとした。そこへ。
「待った」
 文字通り、待ったをかけたのは、江山君だった。
 何よ、と言い返す間もなく、彼は強引に割って入って来る。
「その話、僕が引き受ける」
「え?」
 あたしだけじゃなく、みんながびっくりしている。
「江山君、男子の家に泊まるなんて言い訳、通用するはずが−−」
 成美が言っているにも関わらず、江山君はあたしの手を取ると、強く引っ張
り、教室から出た。
 しばらく無言で、引っ張られる。あまりのことにあ然としていたけど、よう
やく我に返った。
「痛いじゃないっ、放してよ」
「放したら逃げるだろう? そうはさせない」
「何のつもり?」
「さっきの話を聞いてたら、ぴんと来た。あの現場に行く気だろう?」
 見抜かれている。あたしは内心、舌打ちした。成美達に頼む場所、考えれば
よかったと後悔する。
 結局、学校の中庭に行き着いた。
「ここならいいか」
 まだあたしの手を放さずに江山君。
「何の話があるって言うのよ!」
「声、小さくして。聞こえるかもしれない」
「じゃ、手、放してっ」
「逃げないと約束して。約束破ったら、僕は軽蔑するからな」
 じっと見据えられた。目をそらしてしまう。
「頼むから、話だけでもさせてほしい」
「……分かったわよ。約束する。逃げない」
 それでも警戒するように、じんわりと手の力が緩められるのが分かった。熱
くなっていた肌に、空気が当たって、ひやっとする。見ると、握られていた右
手首が赤くなっていた。
「痛かった」
「ごめん。乱暴なことして、悪かった。謝る」
 あたしが手首をさすりながらやや大げさに言うと、江山君は深く頭を下げて
きた。
「い、いいわ。許してあげるから、話を早くして。あたし、急いでるんだから」
「言わなくても分かってると思うけど……。岩盤崩落の現場に行くつもりなん
だよね?」
 また、視線が合った。
「−−そうよ」
「何故? あれだけ言ったじゃないか。問題点も多いし」
「そんなこと言ってるときじゃないわ。トンネルの中で、一週間近く、苦しみ
続けている人がいるかもしれないのよ」
「僕は職員室に行って、たまたま昼のニュース、聞いたんだ。乗用車の車体全
部が引っぱり出され、中から若い男の人が、遺体で発見されたって」
「え……」
「圧死だと言ってた。身体が『くの字』に折れ曲がって、呼吸も困難だったろ
うって。頭部も損傷が激しく−−」
「やめて!」
 強く強く、何度も頭を振った。髪が乱れて、目や口に入ってくる。
「そ、その人は運悪く、亡くなっただけよ。そうに決まってるっ」
「冷静に考えて。若くて体力のある大人の男の人が、死んでいたんだ。他に」
「うるさいっ!」
 思わず叫んでいた。
 同時に、ぼろぼろと、涙が流れ出していく。
「理屈じゃないのよ。あなたの言うこと、よく分かる。嫌でも分かってる。け
れどね! 何かしないと、あたし、絶対に後悔する。だから」
「……」
 江山君は黙っている。その表情は、よく見えない。
 両手で目をぬぐいながら、あたしは続けた。
「あたしのできること、完全に出し切りたいの。こうしてる間にも、あのトン
ネルの中で、生きてる人が死んでいってるかもしれないんだよ。そりゃあね、
難民とか飢餓とか戦争とか、世界中で同じようなことが起こっている。その全
員を助けるのは無理かもしれないわ。でも、全部を助けられないからって、一
部を助けるのまで放棄しない、絶対に!」
「分かった」
 唐突に、江山君は言った。きょとんとしてしまう。
「負けた、降参」
 両手を肩の高さに上げている彼に、あたしは声をかけた。
「止めないの?」
「もう止めない。理屈に合わない魔法を使うのに、理屈をこねても始まらない
ね。あっと、でも、一つだけ。−−充分に気を付けて」
「……ありがとう」
 また涙が出て来ちゃった。

 しっかり、崩落事故現場をイメージしてみる。
 と言っても、トンネルの中には入れない。車体の一部が覗いているバスの中
への移動も、まず、不可能。やっぱり、対策本部−−テントからプレハブ小屋
に建て替えられていた−−にもぐり込んで、訴えるしかないと考えた。
「相手にされない確率、大だなあ」
 江山君は不安らしい。あたしだって不安だ。
「君が松井飛鳥っていう女子中学生だということは隠せても、魔法だけは使わ
ないといけないだろ。その魔法を信じさせるのに、また手間取りそう」
「悩んでる時間、ないのよ。あたし、もう行く」
 時刻は午後四時。一旦、家に帰って着替えたり、あれこれ考えたりしてる内
に、あっという間に時間が過ぎてしまってる。
「心配だから、僕も行く」
「え?」
 思わぬ申し出に、あたしは声を上げた。
「どうやって?」
「いっしょに移動する。できるはずだよ」
 にやりと笑う江山君。それって、もしかして……。
「君は自分自身だけを移動しているつもりだろうけど、実際は服なんかもいっ
しょに移動している。だから、僕を荷物と見なせば多分、可能だ」
「そうかもしれないけど……」
「アリバイ作りは、横川さんが引き受けてくれたんだろ」
 成美の家に電話をかけ、何度も頼み込んだ。話せるときが来たら理由を話す
からということで押し切ったら、不承不承だったけど、成美、引き受けてくれ
た。
「行こう。時間、ない」
「え、ええ」
 あたしは江山君の左手を右手で握りしめた。強く、しっかりと。
「放さないでよ」
「もちろん。さっきと違って、放すもんか」
 くすっと笑えた。
「じゃあ、始めるわ」
 あたしは左手で杖をかまえ、脳裏にイメージを映し出した。できれば思い浮
かべたくない、あの事故現場。そこからちょうど百メートル横にある、事故対
策本部のプレハブ小屋。この一週間、何度飛んで行こうと考えたことか。だか
らこそ、鮮明なビジョンを浮かべられる。
「ラスレバー・エブリフェア」
 ほんのちょっぴり、不安はあったんだけど、やってみると、いつもと変わり
なかった。浮遊感のあと、光があたしと江山君を包み、次に開けた景色は、D
県の事故現場。プレハブ小屋の脇。
 さすがに、最初から小屋の中には移動できなかった。だって、人の上に落っ
こちたら、印象悪すぎでしょ。
「立入禁止になってる」
 黄色と黒のロープの内側に立ちながら、江山君はそんなこと言ってる。
「当たり前よ。普通の人が入れるわけない」
「やっぱり、いきなり、直談判する気かい?」
「他にある? いきなり事故の現場に行くより、ましだと思ってるんだけど」
「そうだね。しょうがないか。できれば、責任者の人、一人だけと会いたいん
だけどな」
 あたし達二人して、そっと窓を覗き込む。人影は見当たらない。
「難しそう。責任者って、対策本部長とか?」
「うん……。よく分からないけど、救出の現場責任者に当たった方が、話が早
いかもしれない」
「だから、対策本部長じゃないの?」
「いや、多分、別の人がいるよ。どこをどう掘っていくかとかを指示する人が」
「それじゃあ、そっちに行きましょう。ぐずぐずしてられない」
 そう言ったとき、声が聞こえてしまったのか、小屋から男の人が顔を出した。
見付かってしまった。
「こ……何をしてるんだ?」
 あたし達みたいな子供がいるとは思っていなかったみたいで、その人はぽか
んと口を開けてから、ゆっくりと聞いてきた。

−−続く




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