AWC お祈りアクセスマジック 4   亜藤すずな


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#3302/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 6/16   0:50  (200)
お祈りアクセスマジック 4   亜藤すずな
★内容
「それが何よ」
 あたし、話し方がきつくなってる。
「助けるわ。みんな、助ける」
「確かに、助けられるかもしれないよ。でも、君に負担がかかる危険性もある」
「何、それ? あたしが助からなくなるって?」
「魔法と言っても、何かの形で体力なり精神力なりを使っているはずだと思う。
今までは続けて治療するにしても、一回か二回だったろ?」
「うん、うん」
「連続で使えばどうなるか。未知の領域ってやつ」
「もしかして、連続すれば、あたしの体力が持たないとか……」
「想像だけどね」
 口調を改めた江山君。あたしの方は、落ち込んできちゃった。
「それに、はっきりしている点だけで考えても、かなり無理があるんじゃない
かな。まず、君の魔法を他人に明かしていいのかどうか」
「そ、それぐらい」
 言い切ろうとして、できなかった。不安が顔を覗かせる。
「まだあるよ。もう一つの数の問題が」
「またあ?」
「君が助けられるのは、全体の何パーセントだろう? ある救急病院で一人を
助けている間に、他の何十箇所で苦しんでいる人がいる」
「……」
 言葉、ない。
「こんな言い方するのはずるいと思うけど、自分の力に期待を持ちすぎない方
がいいよ」
「−−冷静」
「え?」
 あたしのつぶやきに、江山君がこちらを向いた。
「冷静よね、江山君。やっぱり、あたしの方が浅はか」
「君の気持ちは−−尊敬できる。だけど、軽はずみはよそう。魔法のことを明
かすかどうかも含めて」
「……分かったわ」
 授業開始まで五分に迫っていた。

 実験をあれこれと行った結果、移動魔法は他の二つに比べて、かなり制限の
ある力だと分かってきた。
 一日に二度しか使えないことに加え、移動させる物体は、あまり重たくては
だめみたい。せいぜい、あたしの体重の三倍まで。また、その物体を実際にこ
の目で見ることができないと、移動させられない。ペンケースの中の鉛筆一本
も、ふたを開けずに取り出すことは無理なのだ。目に見えないほど小さい物体
も移動不可能じゃないかと、江山君は推測している。
 移動先については、映像の形でしっかりイメージすれば、どこでも大丈夫ら
しい。さすがに外国まではやってないけど、国内ならどこへだって行ける。ど
うやって確認したかって? テレビの中継番組で、目印を書いた紙を中継先に
送り込むの。例えば北海道の時計台が映し出されたら、そのてっぺんに紙が引
っかかるようにって。すぐに確認できるでしょ。自分自身を遠くに移動させる
のは、まだやってない−−だって一日に二回だから、失敗したら帰れなくなる
かもしれないもんね−−けど、うまく行くはず。
「レベルが上がったら、制限も軽くなると思うんだけど」
「そうね」
 聞き流していた。日曜の朝、司達には内緒で、江山君の家を訪ねていた。
 つけっ放しのテレビが、交通事故のニュースを伝えている。昨夜遅くから明
け方にかけて起こった死亡事故三件だ。
「深刻に受け止めるなよ」
「でも、もし、あたしがいて、治療魔法を」
「自分の責任だなんて、考えるな」
 江山君の言い方には、頼み事をする響きがあった。
「事故に遭った人の誰が死ぬか、あらかじめ知ることができれば、助けられる
かもしれないよ。実際は分かりっこない」
「そういう予知の魔法、ほしい……」
「そんなものがあったら−−」
 江山君の話してる途中で、テレビから緊急のニュース。
<事故の知らせが只今入りました。先ほど、午前九時五十五分頃、D県のL山
沿いを走る国道*号線のQトンネル内にて、落石事故が発生しました。トンネ
ル内には、少なくとも数台の車両が取り残されている模様です。詳しいことは
分かっておりません。繰り返します−−>
 画面が消えた。江山君がリモコンを使ったのだ。
「警察と消防の仕事だよ」
「わ、分かってるわよ。でも、変じゃない?」
「何が」
「トンネルの中で落石なんて。山をくり抜いたまま、岩石をむき出しにしてる
わけないわよね」
「まあ、ちょっとおかしいかもしれない」
 それ以上、この話題に関わりたくないという風に、口をつぐむ江山君。
 あたしは、もう上の空。気になる。何か、大変な事故なんじゃないかって、
胸騒ぎしてたまらない。
「帰る」
 勝手に宣言して、家に戻った。

 お昼を過ぎる頃には、詳しい状況が報道されていた。
 テレビから流れてきた現場の映像は、最初の一報を聞いたときの想像を遥か
に超えてる。
 落石はトンネルの中ではなく、外で起こっていた。トンネルは岩壁のすそに
お供えされるように作られている。そのトンネルの屋根にせり出すようにして、
岩壁には大きな岩が張り付いていたらしい。「らしい」と言うのは、今中継さ
れている映像には、岩がなかったから。石器時代の石斧の先みたいな形の巨大
な岩が、トンネルに突き刺さっていた。
 トンネルの二つの出入り口からは、中は窺いしれない。救急車や消防車が何
台か停まっているが、手の着けようがなく、立ち往生という感じ。青や白やオ
レンジの制服を着たヘルメット姿の人達が、あっち行きこっち行きしている。
<観光バス一台、普通乗用車二台の三台が行方不明となっていますっ。トンネ
ル内に閉じ込められている模様ですが、ここからは視認できません。中は全く
見えません。バスの乗員乗客は二十五名、各乗用車は一名の方と四名の家族連
れがそれぞれ乗っているということです>
 そこかしこ、文章がおかしい。現場のレポーターの男性も、興奮しちゃって
る。それだけ、信じがたい光景を目の当たりにしていた。報道の人も救出隊の
人も、そしてテレビの前にいるあたし達も。
「何やってるのかしらねえ」
 お茶碗にご飯をよそいながら、母さんがいらいらしたように言った。
「危なくて入れないんだろうな」
 お茶碗を受け取りながら、父さん。
「落石がまた起こるかもしれん。あるいは、トンネルの中が岩で埋まってしま
っているか」
「横から穴、掘れないの? そうしたら中に入れる……」
 風邪も回復した歩は、かなり興奮しているみたい。
「あのでかい岩をどけるか固定するかしないと、救出の進めようがないさ」
 兄さんはテレビから視線を外していた。座っている位置もあるけど、桂真兄
さんは、画面に食い入るようにして見るタイプじゃない。
「どこから救出しようとしても、あの岩が食い込んでくるよ、多分」
「じゃあ、ヘリコプターでつり上げる?」
「無理だろ。何トンで利かないんじゃないか、あれ。大きさを比較する物がな
いけど、何百トンクラスはありそうだよ」
「じゃあ」
 歩は言いかけたきり、次の言葉が出て来なかった。
「爆破させるんじゃないかね」
 お父さんが言い出したので、あたしはびっくりしてしまった。
「爆破って、中に人、いるのよ?」
「今の技術なら、火薬を調整すれば、小規模にできるはずだよ。小さな爆発で
岩を細かくしておいて、それからヘリかクレーンで取り除く」
「岩を丸ごと、反対側に転がすという手もあるよ」
 父さんと兄さんとで、救出方法の議論になってしまった。
 お昼のニュースは時間を延長していた。新たな中継が入る。
<ごい−−失礼しました。中に閉じ込められていると見られる方々の、ご家族
の方が現場に到着しました>
「今の聞いた?」
 母さんは顔をしかめてる。
「ご遺族、って言いかけたわよ、あの人。ひどいわ」
「抗議の電話、殺到してるだろうね」
 兄さんは相変わらず、画面を見ようとしない。
 その画面は、閉じ込められているかもしれない人達のご家族を映している。
バスの乗員乗客に関係する人達は、まだ到着しておらず、今来たのは、乗用車
の二家族という。ワイドショーじゃないんだから、その人達にインタビューす
るようなことはない。
 家族の人達は表情を強張らせたまま、突き出されるマイクをわずらわしそう
に、対策本部と立て看板のかかるテントに向かった。
 と、急に画面が切り替わって、「閉じ込められたと見られる方々」として、
三十名の名前等が順次、示されていく。一部の人については、写真が入手でき
ていないんだろう、名前と年齢、住所だけである。
「かわいい子なのにねえ……」
 母さんがぽつりと言った。乗用車の四人家族は、両親に子供二人で、その内
の一人は、三歳だという。もう一人の子も小学二年生。
「ごちそうさん」
 桂真兄さんは、さっさと食事をすませ、部屋に入ってしまった。
「まあ、あの人、婚約したばかりだって」
 お母さんはいちいち、テレビの情報を繰り返す。今のは、もう一台の乗用車
の男の人のこと。コンピュータ機器のメーカーに勤めて三年目だと言っていた。
「さっき、関係者の人達の中に髪の長い女性がいたけど、あの人が婚約者かも
しれんな……」
 父さんは無責任な想像をしていた。
 アナウンサーは、観光バスの乗客の人達の名前を読み上げていた。そのとこ
ろどころで、簡単な紹介がなされる。あたしと同じ、中学生の女の子もいた。
「ごちそうさま」
 聞いていられなくなった。

 月曜日、学校に行くと、一番の話題は落石事故のことだった。ニュースや新
聞では、岩盤崩落事故なんていう難しい名前が付けられていた。
 あたし、成美、司の三人も、自然に事故のことを話題にしてる。
「一晩、経っちゃったけど、大丈夫なのかなあ」
 司は机に両肘をつき、心配げな表情をしている。
「司が言ってるのは、食事のことでしょ?」
 成美が司を軽く指さした。うなずく司。
「人間てのは、一日二日食べなくたって、平気なんだって」
「そうなの?」
「普通、一週間は持つとか言うわよ。食べられないことより問題なのは、あの
大きな岩」
「あれ、中で車を押し潰しているのかしら……」
 身震いする司。大げさでなく、想像するだけで恐ろしい。
「夜のニュースで、トンネルの中の映像、出たでしょ?」
 あたしが言うと、二人ともうなずいた。
「鉄パイプみたいなのが折れ曲がって、大きな岩がいくつもあって、トンネル
の穴をほとんど埋めてた」
「あれ、相当、障害になってるんだよね。救助隊の人達が呼びかけても、反応
がないのは、あの岩のせいで声が届かないからだって」
 司が言うのへ、成美が首を振った。
「どうかしら。残念だけど、あたしは生きてない可能性の方が高いと思ってる」
「なるちゃん、ひどい」
「だって、常識で考えたら、そうなるわ。あの大きな岩、人の何十倍もある。
あんな物が上から突然落ちてきて、逃げる暇があるとは思えない」
「車に当たってないかもしれない」
 あたしはそう願っていた。願っているんだ。
「望みを絶つようで気が引けるけど」
 江山君が話しかけてきた。よっぽど、あたしが暴走しないか、心配している
のね。ふん。
「何?」
「仮に車に岩は当たってなくて、動きが取れないだけだとしても、問題がある。
食べ物や飲み物以上に、酸素が足りなくなるかもしれない、あの様子じゃ」
「酸素……」
「鉱山なんかの落盤事故では、有毒ガスの発生と共に酸素の欠亡が大問題だっ
て、本で読んだことがあるんだ。きっと、同じ状況だと思う。車のエンジンが
かけっ放しだとしたら、排気ガスだって充満してくるだろうし。下手をすれば、
火が出るかもしれない」
 論理的で、現実的で、冷静。それでも認めたくない。
「あれだけ大きな岩がトンネルを壊したのよ。大きな穴が開いてるってことじ
ゃない? だったら、ちゃんと酸素、入ってるわよっ」
「……そうだね」
 江山君はあっさり引き下がった。
「飛鳥ったら、江山君と喧嘩でもしたの? ずいぶんな剣幕だったけど」
 成美が不思議そうに言ってくれた。
「何でもないわよ」

−−続く




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