AWC お祈りアクセスマジック 3   亜藤すずな


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#3301/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 6/16   0:47  (200)
お祈りアクセスマジック 3   亜藤すずな
★内容
「え? 何度か繰り返してみた?」
「うん。だけど、だめ。他の魔法は使えるんだけど……」
「制限、あるんだ」
 とりあえず、部屋に戻る。
「何が制限の条件なのか、ゲームを進めれば分かるかもしれない」
 江山君の意見に従い、あたしは『Reversal』をスタートさせた。
 すぐ、移動魔法を試す。
「あ、できない!」
 下の枠に、<レベル1では、この魔法は一日に二度しか使えません>という
表示が出ていた。
「案外、親切な説明が出て助かった。状況があれこれ考えられるから、たくさ
ん試行錯誤しなきゃいけないと覚悟してたんだよ。移動距離の合計に関係して
いるのかとか」
 安心した様子の江山君。
「一日に二度っていうことは、明日には使えるようになってるのね?」
「さあ、どうだろ。二十四時間という意味かもしれない。ゲーム、一日進めて
みたら、分かるんじゃない?」
 そっか。あたしはアスカを休ませ、ゲーム上での一晩をやり過ごした。
「さて、一日たって、どうなってるか」
 移動魔法を使ってみる。
「できた!」
「よし。これで日付が変われば使えると分かった。念のため、明日になったら、
試してみたらいいよ」
「そうする。−−ああっ、時間!」
 忘れてた。今日はもう、移動魔法を使えないんだ。のんびりしてられない。
「気を付けて」
 心配してくれる江山君をあとにして、家路を急いだ。

 帰ったら、弟の歩がふせっていた。
「どうしたの?」
 看病に当たっているのは桂真兄さん。お母さんは、夕食の準備にかかってい
るらしい。
「風邪だな」
 体温計を振りながら、兄さん。歩はすやすやと眠っている。さほど深刻では
ないと判断できた。でも、風邪って。
「季節外れだわ。あたしのがうつったのかな……」
「違うだろ」
 テストでもあるのか、高一の英語の教科書を開きながら、兄さんは断定的に
言った。
「潜伏期間から考えて、別物だな。安心しな。飛鳥、おまえこそ注意しろよ。
またやられる可能性、なきにしもあらず」
「そっちこそ、油断してたら」
「俺は健康が一番の取り柄なの。かかってたまるか。さ、離れてろ」
「うん、ありがとね。ご飯できたら呼ぶから」
 弟を任せて、あたしは台所に向かった。みんなが寝たあとで、弟に治療魔法
をしてあげようと考えながら。
 台所に行くと、母さんから軽いお小言。
「遅かったのね。また友達のところ?」
「うん」
「暗くならない内になさいよ。向こうの親御さんにも、ご迷惑でしょうし」
「はーい。それより、何を手伝えばいい?」
「えーっと、サラダに使うから、きゅうり、斜めに切って。気を付けなさいよ」
 きゅうりをまな板の上に固定し、包丁をかまえた。
 たんたんたん。調子よく切っていたら、落とし穴。
「−−っ」
「ほらあ、切ったんでしょ」
 あたしは左手の人差し指をくわえながら、言葉がない。
「大丈夫? 絆創膏、出そうか?」
「平気よ」
 と、口から出してみた指先には、またじわーっと血がにじんでる。
「やっぱり、貼ろうかな」
「そうしなさい。血の付いたきゅうりなんて嫌ですからね」
 何てこと言うのよ。
 薬箱を取ろうとしたとき、何かが胸のポケットに入ってて、当たることに気
付いた。
 ポケットを覗いてみると、あの杖だった。さっき使って、入れっ放しだった
んだ。
「自分に使えたらいいのにな。ラスレバー・ハーモニーって」
 杖を手に、そうつぶやいたところ……。
「あれ?」
 金色の粉が出たと思ったら、指の怪我、治っちゃった。
 ど、どうして? 前、風邪のときは使えなかったのに。
「何してるの?」
 考えがまとまる前に、母さんに急かされた。今はいいや。台所に戻ろうっと。
「絆創膏、どうしたの?」
 母さんに怪訝な顔をされてしまったので、「止まったみたい」とごまかして
おいた。

 おかしいなあ……。
 朝、何度も口に出してつぶやきそうになりながら、あたしは登校した。
 教室に入ると、すぐに江山君を探した。見付かった。幸い、一人で暇そうに
している。
「江山君、相談があるんだけど」
「時間、大丈夫なの?」
 着席したまま、あたしを見上げる江山君。一時間目が始まるまで、二十分弱。
「聞くだけ、聞いて。『Reversal』のことなの」
「それなら」
 立ち上がると、江山君は教室の外に向かう。あたしもついて行った。
 人通りのない中庭を相談の場に定める。
 あたしはまず、自分の指の怪我が治療魔法で治ったことを告げた。
「へえ? それって」
「待って。まだ続きがあるの。そのあと……えっと、弟が風邪をひいてしまっ
てて、あたし、弟に治療魔法をやってみた。それなのに、全然、効いていない
のよ。朝になっても熱、下がってなかった。こんなことってある?」
「……」
 考え込む江山君、難しい顔してる。こっちまではらはらする。
 やがて推論を述べ始めた。
「風邪には効かないのかな……。ねえ、飛鳥さん。これまでに病気を治したこ
と、ある?」
「ううん、ないわ。怪我だけ。それも、ちょっと血が出たぐらいの」
「そうか。うん、ラスレバー・ハーモニーは多分、怪我とか骨折とかには効く
んだよ。物理的な損傷とでも言えばいいのかな。そういった負傷なら、自分自
身でも他人でも、治すことができる」
「風邪とかの病気は無理だってこと?」
「だと思うよ。ウィルスによる病気だけじゃなく、精神病なんかも治療できな
いだろうね」
「そっか……」
 何となく、がっかり。
「どうしたの? いいじゃないか、自分に効くと分かったんだから」
「そうじゃないの。ちょっとだけ、夢みてたんだ」
 気恥ずかしいので、江山君には背を向け、空を見上げた。
「夢って?」
「あたしの力で病気を治すこと。治療方法が分かっている病気だけじゃなくて、
エイズとかエボラ出血熱だったかな。偶然に授かったこの魔法で、そういう難
病で苦しんでる人、助けられたらって思ってた。移動魔法が使えるようになっ
たから、一層強く。でも、そっか……都合よくいかないものね」
「……」
 あきれているのかしら、江山君、言葉がない。
「江山君?」
「あ、いや」
 振り返ると、彼は戸惑った表情を見せていた。
「そんなことまで考えていたのか。凄いよ。自分は、ただ魔法だ何だって、舞
い上がってただけだ。ちくしょう、恥ずかしいな」
 江山君は鼻をくすんとさせた。
 何だかいたたまれなくなってくるよ。
「や、やだなあ。そんな風に言わないで、江山君たら。あなたがいなかったら、
あたし、何にもできない。特別な力をもらったって、手に負えないだけなんだ
から」
「そうかな……」
「そう、そうよ。これからも力を貸してね」
 あたしがお願いすると、江山君はようやく笑った。
「及ばずながら」
 江山君がそう言ったとき、予鈴のチャイムが鳴った。

 今日の放課後はみんな部活動があるので、江山君の家にお邪魔できない。
 だから、昼休みぐらいしか、時間がなかった。
「飛鳥、この頃、江山君と仲がいい」
 司がむくれてる。司と成美とあたしとで引っ付いて、給食してるとこ。
「あ、あのね、今朝のことは……昨日、ゲームしてて引っかかったところがあ
って、それを聞いてたの」
「……」
 じとーっとした視線で見ないで、司ったらぁ。
「こらこら、司」
 成美が助け船を出してくれた。
「そこまで主張するのは、あんたが江山君に告白できるようになってからにし
なさいな」
「だってえ」
「江山君は、あんたの『物』じゃないって」
 おとなしくなる司。
 し、しかし。食べ終わってから、江山君と話をするつもりだったんだけど、
やりにくくなった……。
「おーい」
 江山君の声に、三人とも振り返った。前の出入り口にいる彼、廊下から教室
に入ってきたところかな。
「松井飛鳥さん。先生が呼んでた」
「え? あたし?」
 日番でもないのに何だろうと思いつつ、急いで席を立つ。
「食器、あたしらが片付けとくから」
 成美のお言葉に甘え、そのまま廊下に出た。
 職員室に向かう途中、ふと気が付いて、後ろを歩いていた江山君に尋ねる。
「先生って、担任の仁志先生?」
「嘘だよ」
 江山君は後ろを振り向きながら、こともなげにしてる。
「嘘って……」
「朝の話の続き、あるんじゃないかと思えたから。違ってたらごめん」
「そ、そんなことない。ちょうどよかった」
 それからあたし達は、図書室に向かった。昼休みの図書室は騒然としている
から、かえって内緒話に向いている。
「移動魔法はやってみた?」
 窓際の席に並んで腰掛けた。
「まだなの。やっぱり、夜じゃないと無理だと思えて」
 開け放された窓から、風がそよそよ、さやさやと流れてくる。何本かの髪の
毛が頬をかすめて、くすぐったい。
「言われてみたら、そうだね。また明日、結果を聞かせて」
「もちろん。それで、治療魔法のことだけど」
 ずっと考えていたことを、頭の中でまとめる。
「絶対に役立てたい。そうしないと、逆に悪いことしてる気がするのよ」
「そこまで思い込むのは別にして、役立てるのには賛成するよ」
「それで、病気は治せないと分かったのは残念だけど、怪我だけに限っても、
すぐに治療できたら、どれだけ有効か分からないぐらいじゃない?」
「たとえば?」
「ええっとね、考えたんだけど、たとえばね、救急病院に運び込まれてくる患
者さん。交通事故に遭った人が多いって、テレビでやってたわ。交通事故なら、
江山君の言う物理的な損傷がほとんどでしょう? だからあたし、救急病院で
待機して」
「来る人来る人に、治療魔法を施すってのかい?」
 こくこくっと、あたしは二度、うなずいた。当然、賛成してくれるものと思
ってた。
「やめといた方がいいよ」
「ど、どうして? 今朝は」
「言ったよ。でも、難病と交通事故をいっしょにするのは、ちょっとね」
「区別するの? どちらも苦しんでいるのに変わりないっ」
「そういうことじゃなくて」
 江山君は首を振った。
「数の問題だよ」
「か、ず?」
「難病で苦しんでいる人は、それは多いと思う。だが、交通事故で怪我をする
人は、その何倍もいるのは間違いない」

−−続く




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