#3300/5495 長編
★タイトル (AZA ) 96/ 6/16 0:45 (198)
お祈りアクセスマジック 2 亜藤すずな
★内容
その願いが通じたわけじゃないだろうけど、やっと三つ目の魔法を見つけた。
その日はたまたま、江山君と二人だけだったから、見つけた瞬間、江山君をパ
ソコンの前に呼んだ。
「ラスレバー・エブリフェア?」
画面を覗き込みながら、江山君。
「どこにでも、ってことか。どんな魔法なんだろ?」
「機織りの元魔女って人に教えてもらったんだけど、移動魔法だって」
「移動魔法? つまり……物を動かす?」
「多分ね。どこにでも物を動かせる。とにかくさ、ゲームの中でやってみるね」
あたしは操作して、移動魔法を選択した。
「移動させる対象は、どうやって決めるんだろう」
「やってみれば分かるって」
江山君の心配をよそに、あたしは操作を続ける。
画面下のメッセージ枠に、<サークルをターゲットにあわせてください>と
出た。見ると、画面内のアスカに重なるようにして、白い円が浮かんでいる。
天使の輪みたい。適当に、手近の立木を選んだ。
すると今度は、<地図はありません。サークルを移動先にあわせてください>
という指示。
「地図?」
「どこかで手に入れられるんだろうなあ。地図があれば、どこにでも行けるの
かもしれない。でも、今は持ってないから」
「それじゃあ、これって、この画面の枠内にしか移動できないってこと?」
「そうみたいだね。さあ、やってみてよ」
言われるがまま、あたしは画面のなるべく隅に、サークルを置いた。そして
実行。
<アスカはレベル1の移動魔法を使った>と表示され、会話文として<アス
カ「ラスレバー・エブリフェア!」>と出た。
画面上、確かに元あった位置から木が一本消え、あたしが指定した隅っこに
は、新しく木が生えていた。
「……何だかなあ」
困惑した様子の江山君。あたしだって、拍子抜けだ。
「これが何の役に立つんだろう?」
「そうよね。持ち運べないような重い物を動かせる。それぐらいじゃない?」
「うーん……」
うなっていた江山君が、突然、言った。
「よし、アスカ自身にかけてみよう。さっきのサークルをアスカに重ねたまま
でいいはず」
「分かった、やってみる」
あたしは先ほどと同じことを繰り返した。サークルのターゲットをアスカ自
身にしたことを除いて。
「拒否されないってことは、自分自身を移動させられるんだ」
江山君は確信してる。
そして実際−−移動できた。
「これは凄いかも」
興奮した口調の江山君。でも、あたしは分からない。
「そう? 地図があるんならともかく、映し出されている画面の中だけだと、
歩いてでも移動できるわ」
「ゲームの話じゃないよ」
微笑む江山君。
「あ、そっか。実際に使えたら……凄い」
「試してみる?」
「やってみたいけど、ちょっと恐い」
それが素直な気持ち。これまでの二つの魔法は、いくら不思議と言ったっ
て、自分が誰か他人に対して行うもの。移動魔法は、自分にもかけられるんだ。
「近いところでやってみよう。この家の中でいいだろう。部屋の外に出て、ド
アを閉めたまま、中に入って来れるかどうか」
あたしは黙ってうなずき、ドアを開けた。
背後から聞こえた音で、江山君がカーテンを引くのが分かった。
「あっ。サークルはどうなるの?」
「さあ……。呪文を唱えたら分かるんじゃないかな」
「それはそうかもしれないけど」
不安になるじゃない。
「悩むより、実行あるのみ。さあ。母さんに気付かれたら面倒だよ」
せき立てられるようにして、あたしは部屋の外に出た。そしてゆっくり、扉
を閉めた。かちゃりという音がした。
あたしはいつも持ち歩いている、木の杖を取り出した。
杖と言っても、ミニチュア版。大きさは、カレーを食べるときのスプーンぐ
らいかな。絵本の中の魔女が持っている杖に似て、丸っこい握りがあって、そ
の下、徐々に細まっている。これ、『Reversal』の力で魔法使いにな
ったとき、いっしょに現れた「アイテム」の一つ。これを手にしていないと、
あたしの魔法、効果を発揮しない。
あたしは深呼吸しながら、杖をかまえた。次に、移動したい場所−−江山君
の部屋の中をイメージしておく。それから、周囲に気取られないよう、それで
もできるだけはっきりと呪文を唱えた。
「ラスレバー・エブリフェア」
サークルも何もなかった。全身が軽くなったと言うか、何かに引っ張られる
ような感覚があったと思ったら、次の一瞬、まばゆい光が現れて、あたしを包
む。まぶしいと重う間もなく、さらに次の瞬間−−。
「痛っ!」
どさっと音がして、あたしは落っこちていた。
「うー」
したたか打ちつけたすねをさすりながら、周囲を見る。
と、下が不安定なのに気付いた。
「あの、飛鳥さん」
江山君の声も下から。
「あ!」
あたしはその場を飛び退いた。だって、江山君に乗っかっていたんだもん!
顔、真っ赤になってるのが見なくても分かる。江山君だって。
「ご、ごめんなさいっ!」
飛び退いた先、正座して、深ーく、頭を下げる。それだけ申し訳ない気持ち
もあったけど、それ以上に、顔が赤いのが元に戻るまで時間がほしい。
「いや、別に謝らなくてもいいけど。初めてのことだし。無事、成功ってこと
で、おめでとう」
江山君は身体を起こすと、座ったまま、右手を差し出してきた。
「え? 成功って……」
改めて周囲を見渡す。間違いなく、江山君の部屋。
あたしは髪が乱れるのもかまわず、後ろを振り返った。ドアは閉まったまま。
「ほんとに? あたし、ドアを通り抜けて」
「どこを通り抜けたか知らないけど、間違いなく、突然、部屋の中に現れたよ。
−−飛鳥さん?」
名前を呼ぶ江山君。あたしがぼーっとしてるから心配させてしまったみたい。
「信じられない」
それから「わお!」だか「きゃお!」だか、自分でも文字で表現できない歓
声を上げて、あたしは江山君の手を両手で握り返していた。
「少なくとも一つ、とても便利な、うらやましい使い道があるなあ」
珍しく、面白おかしい口調の江山君。
「どんな?」
「遅刻の心配がなくなった」
「あは、そうね!」
思い切り笑えた。
「ま、そういう日常的な使い方は別にして、この魔法の、もっと正確なところ
を知りたい。最長移動距離はどのぐらいか、どんな障害があっても移動できる
のか、無制限に使えるのかどうか」
距離は重要だわ。学校ぐらいまでなら行けるかな。
「で、真っ先に確認しておきたいんだけど、どういう風にこの部屋を目的地と
して選んだんだい?」
「思い浮かべただけよ。サークルなんて関係なし」
「もう少し詳しく。どんな映像を頭に描いたの?」
「えっと、江山君の部屋のイメージを……」
詳しくと言われたって、そうとしか表し様がないじゃない。
「そのイメージの中に、僕はいたのかな」
「は? もちろん、そうよ。部屋の真ん中に、江山君がいて」
「なるほどね。そのせいだな、きっと」
分かった風にうなずいている。こっちはさっぱり。
「何か分かった? 教えて」
「君が僕の上に現れた理由が分かった。場所のイメージは正確だったんだと思
うよ。けど、僕を真ん中に置いたせいで、移動先の狙いが、この部屋の僕に定
められたんじゃないかな」
苦笑してる江山君。
あたしは意味が飲み込めて、また恥ずかしくなってきた。ぺたりと座り込ん
だまま、下を向く。
「本当に、ごめんなさいっ。あたし、そこまで考えてなかった。人物を入れた
らいけないのね」
「いけないことはないよ、多分。それを中心に持ってくると、さっきみたいな
ことになるんだと思う。もう一回、やってみたらはっきりするさ」
「そうね」
立ち上がって部屋を出て行こうとすると、手を引っ張られた。
「待った。今度は中から外に出てみてよ」
「え? それって、この部屋からドアの外」
「もう少し、距離を取りたいな。僕の家から出られないか?」
「外に? やってみなくちゃ分からない。それより、よその人に見られるかも」
閉じていたカーテンをつまみ上げ、窓から外を見やると、夕暮れ時だと分か
った。夕暮れと言ったって、充分に人の顔の見分けがつく明るさよ。
江山君は少し考えてから、口を開いた。
「表に車があるだろう? あれ、うちの車だから、あの中に飛んでみて」
やはりカーテンを動かし、江山君が指さした先には、白の乗用車があった。
「車の中……うまく行くかな……」
「実験実験。僕、飛鳥さんの靴を持って、待ってるから」
江山君はさっさと行ってしまった。夢中になってる。
あたしだってわくわくしてる反面、恐いんだよ? この気持ち、ちょっとは
分かってほしいな……。
カーテンのすき間から覗いていると、江山君の姿が目に入った。両手を振っ
てる。
「しょうがないか」
声に出して、とりあえず、吹っ切る。
車のイメージを脳裏にしっかり焼き付け、そこから江山君の姿を追い払う。
さっきみたいなハプニングは避けなきゃね。
「ラスレバー・エブリフェア」
どきどきをこらえて、一気に唱えた。イメージするのは後部座席。
また光りに包まれ、それが消えてみると、車の中にいた。制服にしわがいっ
た程度で、今度はやわらかな着地?に成功。
横の窓に寄り、顔を覗かせると、江山君と目が合う。ほっ。目標通り、移動
できたみたい。あたしはロックボタンを引っ張り上げ、ドアを開けた。
「成功だね」
そろえた靴を足下に置いてくれながら、江山君が言った。うれしそう。あた
しまでうれしくなってくるのは、成功したせいだけじゃないと思う。
「距離はまだまだ行けそうだわ。何となく、そんな気がする」
「うん。それと、障害が二つ三つあっても、平気だと分かった。窓ガラス二枚
分は越えたはずだ。……時間、ある?」
「え? うん、大丈夫。いざとなったら移動魔法で」
笑いながら言たのに、江山君は真剣な顔つきで応じてきた。
「無制限に使えるかどうか、分からないんだよ。確かめない内から、他の魔法
と同じに考えちゃだめだ」
「そ、そうね。じゃあ、また部屋に戻ってみる。江山君、戻ってて」
あたしは折角履いた靴を脱いだ。そうして靴を手に、また車の中に入る。
「分かった」
江山君はうなずき、家の中へ。
あたしは今日、三度目となる呪文を唱えた。
「ラスレバー・エブリフェア」
……あれ? 身体が軽くなる感覚も引っ張られる感覚もなければ、まぶしい
光も見えてこない。
「おかしいな。まさか本当に」
あたしは不安を打ち消してから、もう一度、ラスレバー・エブリフェアと唱
えた。
けれど、何も起こらなかった。
どうなってるの? 二回で限度なの? それとも、ひょっとして、他の魔法
まで使えなくなってるなんて……。
あたしは恐る恐る、小さな声で唱えてみた。
「……ラスレバー・ハーモニー」
金色の粉があたしの手から出る。よかった。こちらは失われていない。
あたしは車から飛び出すと、靴もちゃんと履かないまま、江山君の部屋へ急
いだ。
「っと」
玄関先で、江山君とぶつかりそうになる。
「−−どうしたの? 遅いから、様子を見に行こうとしてたんだ」
「で、できなくなっちゃったみたい。移動魔法……」
−−続く