AWC 奇異探偵社1−3   寺嶋公香


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#3274/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 5/16  10:13  (120)
奇異探偵社1−3   寺嶋公香
★内容

 御厨家から引き上げ、礼南は大室と共に本社−−古びたビルの小さな一室だ
−−に戻った。
「どうするんですか?」
 着替え終わるなり、礼南はきつい調子で大室に詰め寄った。
「解決できなかったら、どうするです?」
「適当にお祓いですませるわけにいかんよな、今回は」
 さすがに参っているらしい。大室は頭を抱えていた。
「当たり前です! これまでも未解決のままの依頼はいくつかありましたけど、
今度だけは、解決できないじゃあ、格好つかないじゃないの」
「どうしてだ?」
「だって、御厨が一部始終を見ることになるんだもん。解決できませんなんて
言ったら、あいつから何を言われても言い返せなくなっちゃう」
「そんなこと考えてたのか。心配無用だ」
「え?」
 大室の太鼓判に、礼南は訝しい感じを抱きつつ、期待で目を輝かせる。
「心配いらないってことは、目途が立っているんですね」
「いや。あれだな。解決できなかった場合、御厨君が犯人にされるだろうから、
レナと言い合いする機会もなくなるだろうってことさ」
「あのー、冗談を言ってるときじゃないんですけどっ」
 がっくりきて、礼南は力が抜けてしまった。ソファに身体を預ける。
「もちろん、本気で言ってるんじゃあない。安心してくれ」
 すましている大室を、じとっと見つめる。
(その顔で冗談言われても、分かりにくいんだから。自覚してよ、もう)
 一くさり、胸の内で悪口を並べ立ててから、礼南は気分を新たにした。
「直感ですけど、大室さんのサブリミナル説は、いい線行ってると思います。
他に、考えようがないってのもありますけど」
「ああ。あの密室が他の方法で、外から作られたとしたら、それこそ奇妙奇天
烈、摩訶不思議になるからな。お祓いしなきゃならん」
 まだ冗談を続けているんじゃないかと、怪しむ礼南。
「ポイントは砂時計だな。七回連続同じ選曲なんてのは、どうにでも解釈でき
るからな。極端な話、やりたかったからやったでもいい。それに比べれば、砂
時計は現時点では、用途がさっぱり想像できていない。逆に言えば、推測でき
れば道が開けるかもしれん」
「じゃ、考えましょうよ。紅茶、カップラーメン、サウナの他に、どんな用途
があるか」
「俺は本来、探偵員じゃなくて、まとめ役なんだがな」
「人不足なんでしょう? 働いてください」
「しょうがないな。砂時計なあ。時間を計る他に、何もないぞ。仮に他の使い
方−−例えば何かの重しにしたとしても、わざわざ砂時計を持って来る理由が
ない」
「時間を計るのに使ったのは、確実だということですか」
 真面目にやれば頭の回転はいいのよね、と感心しつつ、礼南。
「多分な。何に使ったかが難問」
 それからしばらく考えてみたが、二人の頭脳は思考の迷路にはまったらしく、
新しい発想はまったく浮かんでこない。
「昼だ」
 どこか遠くの工場でサイレンが鳴っていた。
「今日、飯はどうする気だ?」
「こっちで食べるって、親に言ってきたから」
「おまえが買ってくるか? 文句言わないんなら、俺一人で行くが」
「**のフィッシュサンドとアップルパイ、それとミルクセーキ」
「分かった。注文の多い奴だ。それに太りそうな感じがする」
「いいじゃないですか。間食しない代わりに、きちんと食べる主義なんだから」
「はいはい。じゃ、行ってくる」
「あ、テレビ、観てもいい?」
 出かけようとした大室に、テレビのリモコンを振ってみせる礼南。
「ああ。かまわないが、二十分まではニュースで情報収集だ」
「はーい」
 大室を送り出してからスイッチを入れ、渋々ながら国営放送にチャンネルを
合わせた。十二時十五分まで全国ニュースだ。
 政治、裁判、大きな交通事故と続き、これはないかなと思った頃合いに、ひ
ょいとそれは報じられた。
 礼南はその内容をしっかり記憶してから、チャンネルを切り替えた。
 十二時半を少し過ぎて、大室が戻って来た。
「これでいいのか?」
 ビニール袋を掲げる大室。それを受け取りながら、礼南は早口で伝えた。
「それより、聞いてください。ニュースで流れました。新しい展開があったみ
たいなの」
「−−聞こうか」
 椅子に落ち着くと、顎で先を促す大室。
「簡単だったけど、アナウンサーは一言、こう言いました。『カラオケ店での
変死事件の被害者の体内から、睡眠導入剤が検出されました』って」
「睡眠導入剤、か。睡眠薬じゃないんだな?」
「もちろんです。聞き慣れない言葉だって思って、忘れないよう、頭の中で繰
り返し、唱えていたんだから」
「そうか。ふん……見えてきたな」
「事件の真相が?」
「ああ。アルコール、砂時計、睡眠導入剤の三つをつなげると、ある答が導き
出される。睡眠導入剤を酒類といっしょに飲んで、ある一定時間、眠気を我慢
していたら、ヤクをやったのと似た感覚になれるそうだ」
「ヤク……って、麻薬とか……?」
 日常的でない単語が飛び出したので、目を白黒させてしまう礼南。食事も手
が着かない。
「俺はやったことないんだが、幻覚が見えるとか、躁状態、つまりハイになる
とかの症状が現れるらしい。ま、楽しい気分には浸れるそうだ」
「幻覚を見るような精神状態だったから、コードで首を絞め合ったってこと?」
「と、思うね。あとはあれだ。七回連続で同じ曲ってのに意味づけしておしま
い、だな」
 見通しが立って気楽になったのだろう、大室は買ってきた弁当をいそいそと
開け始めた。見れば中身は、焼き肉弁当らしい。
「私、おかしなこと考えたんだけど……」
「おかしな考えってのは、いつものことじゃないか」
「大室さん!」
「分かってるから、言ってみな」
 ご飯をかき込む大室。サングラスをかけたままなのが、どこか変だ。
 礼南はふくれっ面をして、ミルクセーキを一口飲んだ。しかし、こうして焦
らしても大室には通じないことに気づくと、すぐに喋り始めた。
「大室さんの考えでは、幻覚を見た上での事故ってことになるんですよね?」
「ん、まあ、そうだな」
「生き残った女の人が犯人だとは考えられませんか……? 薬遊びが過ぎて偶
発的に起こった事故に見せかけてるけど、実は計画的犯行だったって」
「……鋭いかもしれん」
 大室にしては珍しく、ストレートな誉め言葉だった。

<カラオケ死のゲーム −−睡眠導入剤で幻覚も−−
 七日に起こったカラオケ店変死事件は、幻覚が引き金となり、度の過ぎたゲ
ームを行ったことで惨事につながったという見方が強くなっている。
 被害者の中で唯一、命を取り留めた女性A子さん(二六・仮名)が十五日、
警察の事情聴取に応じて語ったところによると、A子さんは会社の同僚三人と
カラオケ店『イット・ノー』の一室に、睡眠導入剤を持ち込んだ。睡眠導入剤
はアルコール類と共に摂取すると幻覚作用を引き起こすが、A子さん達もその
目的での使用を認めている。躁状態になったA子さん達は、一人ずつ同じ曲を
唱って点数を競い、負けた者は罰としてマイクのコードで首を絞められるとい
うゲームを始めたらしい。A子さんが普段の状態に戻ったときには他の三人は
死んでおり、その様子を見て、一時的な精神の混乱が起こったと見られる。A
子さんは現在も病院で療養中。
 警察では証言の内容をよく検討し、事件の取り扱いを決める方針。>

−−続く




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