AWC ホワイト・バレンタイン 8   寺嶋公香


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#3228/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 3/15   3:11  (192)
ホワイト・バレンタイン 8   寺嶋公香
★内容
 本当に? 私の耳、おかしくなったんじゃないよね?
 叫び出してしまいそう! 口、押さえとかないと。
 顔、熱くなってきた。
「何だ。やっぱりそうなんじゃないか」
「本当は一年のときからさ」
 吹っ切れた口調の古松君。
 で、でも、一年のときからって……。うれしくて胸がどきどきしてくる。
 けれど、疑問も浮かぶ。神谷さんの告白を受けたのは何故?
「だったら、神谷さんの告白、何で受けたん?」
 顔も知らない所沢君は、うまい具合に聞きたいことを聞いてくれる。
「−−もう、そのことは言いたくないんだ。それよりも問題なのは」
 問題って何? −−私はもう、身じろぎ一つできないでいた。
「三井さんは俺のこと、どう思ってるんだろうって、それが不安で」
 不安……って、私、バレンタインデーに、気持ちだけは伝えたつもりだった
のに。
「何で? バレンタインにもらったんだろ、チョコ」
「ああ」
「義理じゃなかったんだろう」
「ああ……本気っぽかった」
「だったら」
「無理さ。神谷のことがある。それに三井さん、きっと俺のこと、軽蔑してい
ると思うんだ。神谷のことをへらへら、三井さんの前で話しちまった」
 そんなこと、気にしてない。そんなことだけで、あなたを嫌いになんかなら
ない。なれるはずない。まして、今、あなたの気持ちを知ったこの瞬間からは。
「それだけか?」
「……もう一つ、気がかりがあるんだよな」
 まだあるのー? 自分自身で、古松君を嫌いになることはないと確信がある
だけに、不可思議な気分。
「神谷の告白、受けてしまったことと関係あるんだけど−−あ」
 急に口調が改まった。どうやら、神谷さんが体育館内に戻って来たみたい。
「あとでな」
「仕方ない」
 そんな短い会話でおしゃべりを打ち切った古松君と所沢君は、壁際を離れた
らしかった。
「な、何よぅ」
 思わず、声に出していた。古松君のもう一つの気がかりって何? 頭から離
れなくなる!

 男の子の気持ち、分からない。
 そう痛感して、悩んだ末に決めた。沢田君の力、借りよう。古松君の私に対
する気持ちも、沢田君には知ってもらわないといけないと思ったし。
「珍しいね。三井さんから僕に相談とは」
 図書準備室には、私と沢田君だけだった。この間のことがあってから、私は
意識しちゃって、あまり話せないでいた。沢田君の方はこれまで通り、極普通
に接してくれているんだけど。
「相談する相手、舞子じゃだめなわけ?」
「男子じゃないと無理かなって」
「ははあ」
 片手を頬に当てる沢田君。思考を巡らせ、何事かを推し量っているポーズ。
「古松のこと?」
「当たり。す、鋭いなぁ。かなわない」
「別に鋭くも何ともないよ」
「とにかく聞いて」
 私は、体育館横で立ち聞きしたことを、覚えている範囲でできる限り正確に、
それでも行きつ戻りつしながら話した。
「おめでとう」
 聞き終わるや否や、沢田君はちょっと寂しげな表情と共に、そんな言葉をく
れた。
「両想いだったんじゃないか。最初から感じていた通りだ」
「その、ごめんね、沢田君。こんな話、聞かせて」
「かまわないよ。こうなったら、一刻も早く、うまく行ってもらわないとね」
「それで相談なんだけど、男子としては、どういうことが考えられるかなって」
「何が」
 分からないと首を振る沢田君。私の言い方、足りなかったみたい。
「古松君が気がかりにしているもう一つのことってやつ。こういう場合、男子
ってどんな考え方をするのか、さっぱり分からなくて。沢田君、古松君と長い
付き合いでしょう? だから」
「納得。でも、かなり難しいな。分かってると思うけど、人によって違うんだ
から。いくら親友だとしても」
 右手の人差し指で、自身の額をこんこんと叩いた沢田君。
「気がかりになるようなことなあ……。三井さんが立ち聞きした分で、出尽く
しているような気さえする。古松は三井さんのこと好きで、しかも、相手が自
分を好ましく思っているのも知っている。それなのに気持ちを打ち明けられな
い理由か。もちろん、神谷の件はあるけど、それはすでに言った。他に障害と
なるもの……」
 閉じていた目を何度か瞬かせ、その都度、首を横に振る。そしてまた目をつ
むり、思考に入る。沢田君は、それを何度か繰り返した。
 やがて、沢田君はめがねの位置を直しつつ、始めた。
「『もう一つの気がかり』は、『神谷とつきあうことになった』原因らしいね。
古松が、三井さんにはすでに彼氏がいると想像したんじゃないかな」
「わ、私に、か、かれ、彼氏?」
 自分で自分を指さしてしまう。
「そうだよ。彼氏がいる女子に、告白する勇気はないってわけ。古松は、神谷
の告白を受けてから三井さんのことが気になり始めたんじゃない。逆だ。あい
つ、バレンタインのとき、三井さんが誰か男子に告白するものだと思い込んで
たんだな」
「彼なんていないのに……」
「実際はそうでも、古松の奴が間違って思い込むような何かがあったのかもし
れない」
 指摘を受けて、考えてみる。
 思い当たる節……ない。私は頭を振った。
 どうしたらいいんだろ。分かんない。肩の辺りが寒くなる。
「他にちょっと考えられないんだけどな。他に−−」
 沢田君の言葉が途切れた。見ると、ぎょっとした表情してる。
「ど、どうしたの?」
「……どうしたのって、それはこっちの台詞だよ。泣いてるじゃない」
「嘘」
 目の下に手を当てると、濡れる感触。
「や、やだ。私ったら」
 急いでハンカチを取り出し、涙をぬぐう。
「あー、驚いた。いきなり泣くんだもんなあ。この間の場合なら、まだ分かる
けど」
 どうしたらいいのか分からなくなって、知らず、涙があふれちゃったみたい。
「相談乗ってもらってる上に、余計な心配かけて、ごめん」
 沢田君に対して、小さく頭を下げたそのとき、私の後ろで、部屋の戸が開け
られた。
「沢田、いる? ここって聞いたけど」
 あ。この声。
「ふ、古松」
 まともに出入り口の方を向いていた沢田君は、あ然としてる。
「わ、悪いっ。邪魔したっ」
 私が振り返ったのとほとんど同時に、古松君は声を上げ、戸を閉めた。
「……古松君……」
 何だったんだろうと、小首を傾げてしまう。
「ねえ、沢田君。古松君、何の用だったの?」
「……三井さん」
 片手で顔を覆いながら、沢田君はしんどそうに口を開いた。
「はい?」
「俺、分かったような気がする……」
 めがねを外し、手近の椅子に腰を下ろした沢田君。いつもの「俺」に戻って
いる。
「何のこと?」
「あいつのさっきの顔を見て、ぴんと来た……。古松の奴、俺のことを三井さ
んの相手だと勘違いしている。恐らく、間違いない」
「え、そんな」
 冗談でしょ。どこをどうつなげば、そういう思い違いが起きるの?
「たいてい、いっしょにいるせいだろうね」
「いっしょと言っても、舞子もいるわ。三人そろってて、どうして」
「舞子は尾崎先生命、だろ? だから単純に、残る二人−−君と俺を結びつけ
て考えたんじゃないか」
「で、でも。それだけで、私の相手を沢田君だと思うなんて。そんなのって」
「いや、ありえるよ。ほら、バレンタインデーの何日か前に、俺、三井さんや
舞子といっしょに、義理だの本命だのと話していただろ。あのとき、古松は廊
下を通りかかったか何かで、聞いていたんだじゃないかな。俺が『三井さんも
チョコ、くれる?』なんてことを言って、三井さんも否定しなかったから、そ
れを真に受けたとすれば」
 そうだとしたら、タイミング、悪すぎるっ。そのとき、古松君も話の輪に加
わってくれたら、誤解なんか生まれなかったはずなのに。
「今さっきの状況を見られたのは……ますます誤解される」
「誤解なんて」
「三井さん、まだ、泣いた跡がはっきり分かるよ。二人きりでこんな小さな部
屋にいる上、女の子の方が泣いていたとあれば、変な風に受け取られる可能性、
大いにある」
 眉間の辺りをもみながら、大きく息をつく沢田君は、本当に弱っている様子。
「こんな思い込みから、神谷の告白、何となく受けちまったんだ、あのばか。
一日待てば、三井さんからの贈り物が届いていたってのに」
 私も徐々に、誤解の理由と程度が分かってきた。
「だ、だったら、とにかく、すぐ古松君に、わけを話さなくちゃ」
「そうだ、そうだ」
 沢田君はめがねをかけ直し、珍しくも落ち着きなく立ち上がった。

 私と沢田君は、中庭で、精神的な疲労に襲われていた。
「まずかったな。すぐに追いかけるべきだった」
 ため息混じりに、肩を落とす沢田君。
 図書準備室を出て、校内を探して回ったけれど、古松君を見つかられなかっ
た。靴があるので、まだ下校してはいない。でも、バスケットボール部の活動
はやっていなかったし、四組の教室にもいなかった。
「まあ、説明すればいいことだろうけど……早い方がいいよ」
「そ、そうかしら。やっぱり」
「そりゃそうだよ。それに恐らく、鈍い古松のことだ、俺か三井さんのどちら
か一人が言ったって、簡単には納得しないかもなあ。二人で言ってやらなきゃ
いけないかも。あぁ、何て世話の焼ける!」
 沢田君が頭をかきむしった。
「いたいた。耕助!」
 急に聞こえた声は、舞子のもの。
「何だ?」
 沢田君が大声で聞き返したけれど、舞子は駆け寄ってきた。
「生徒会がお呼び。部活動の費用のことらしいよ」
「そうか、サンキュ。……おまえ、生徒会じゃないだろ。誰からの言づて?」
 ふと気になったように、沢田君は質問を重ねた。
「古松君よ。あれ? 古松君も生徒会じゃないんだ。伝言の伝言ね」
 事情を知らない舞子は、あっけらかんとしている。
 ということは、さっき、古松君は沢田君にこのことを伝えようとしていたわ
けね。ああん、間が悪い。
「古松君、どこに?」
「えっと、廊下ですれ違ったときに、頼まれただけだから。何か急いでいたみ
たいだから、帰ったんじゃない?」
「靴、あったんだけど……」
「そうなの? おかしいわね」
 舞子は早い口調で答える。舞子自身、急いでいるみたいで、聞いてみれば、
案の定、用事があるとのこと。
「それじゃあね」
「ありがとう」
 舞子が行ってから、沢田君は少し考える素振りを見せた。
「三井さん、悪いけど」
「あ、いいよ。どうぞ、生徒会の方に行って」
「ごめんな。古松に会えたら、誤解を解いて、ついでに言ってしまいなよ。両
想い同士はくっつく。それが自然だぜ」
「分かってるんだけどね」
 弱く微笑み返すしかなかった。

−−続く




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