#3219/5495 長編
★タイトル (AZA ) 96/ 3/15 2:46 (198)
秘密のアクセスマジック 5 亜藤すずな
★内容
「どう……言ったらいいのかしら……。実際におかしなことが周りで起こって
るけど、ゲームの中とあたし達がいるこの世界がつながるなんて」
自分が巻き込まれているのだけれども、信じにくい。それが正直な気持ち。
「色々な断片を集めて考えたら、これしかないと思ったんだけど」
少し不満そうな江山君。けれど、すぐに吹っ切ったよう。
「まあいいや。今は、起こってることの裏を探るよりも、どう対応するかが大
事だもんね」
それはそうだわ。今朝の男がこのまま引っ込めばいいけど、また現れる可能
性の方がずっと高い気がする。
「−−あの、聞きたいことができたんだけれど……。今朝、あたしを襲った男とサング
ラスの男は、仲間?」
「……分からない」
しばし考えていた江山君だったが、やがて頭を振った。
「仲間かもしれないし、フロッピーを狙ってる男に追われていたのかもしれな
い。この前、飛鳥さんと出会い頭にぶつかったのは追っ手から逃げようとして
いたからと考えたら……」
「そっか……状況はぴったりくるわ」
あたしを襲った男とサングラスの男がもし敵同士なら、サングラスの男はあ
たし達の味方になってくれる? これも分からない。サングラスの男もフロッ
ピーを取り戻したくて、あたし達の前に現れるかもしれないものね。不安な方
にばかり、考えを進めてしまう。
「とにかく、魔女の服のどれでもいいから、少なくとも一つ、身につけておく
といいよ。杖に撃退する効果があるんだから、他も同じだと思う」
「そうなるのかな? でも、やっぱり不安だから、杖がいい」
「それは自由だよ」
杖をぎゅっと握ったあたしを見て、苦笑している江山君。
「そうだ。あれからあのゲーム、やってみたんだけど」
「ええっ? 何ともない?」
急に打ち明けられて、びっくり。あたしが魔女の格好になったみたいに、ひ
ょっとしたらなるかもしれないのに。
「おかしなとこはなかった。主人公の設定をしてるときもフロッピーに異常は
起きなかったし、そのあとも普通にゲームがスタート。主人公の目的は−−国
を治める王様の一人娘が病に倒れ、原因は摩天峰という山に住む呪術師ジャド
ーの呪いのせいらしい。ジャドーを倒すため、プレーヤーは主人公を動かすっ
ていうありがちなものだったよ。で、しばらくやってみたけれど、何も起こら
ないから途中まででセーブした」
「おかしいなあ。そうだわ、体重の入力、飛ばした?」
「飛ばそうとしたけど、次の欄に移れなかったんだ。何度やってもね。どうし
てか分からないけど、飛鳥さんがやったときが特別だったとしか思えないよ」
「性別を女にして、魔法使いを選んでみた?」
「やってみたよ。でも、同じ」
「……あたし、もう一回やってみようかな」
疑問を解くため、そんな提案をしてみた。
「あたしがやったら、あの変なことが起こるのかもしれないから」
江山君はしばらくして、思い切ったように答えた。
「そうかもしれない。やってみよう」
江山君の家には、念のために杖を含めた魔女の服一式を持っていった。
ところで着いてから感じたんだけど、よく無事に来られたもんだと思う。今朝のよう
に、いつまた襲われるか分かんないんだもの。
「友達に会わなくてよかった」
江山君は、関係ないことまで気にしていた。
「だって、何を言われるか分からない」
う。そう言えば……司に見られていたらどう思われたか、考えるだけで恐い。
江山君はあの子の気持ち、知らないんだろうけど。
「それに、もう一つ。飛鳥さんは今日、病気で休んだことになってるんだよ」
「あ。すっかり忘れてたわ」
寝込んだことは覚えていても、休んだことは本当に失念していた。寝込んだ
理由が強烈すぎたせいかしら。
「休んどいて僕の家に来たと知られたら、変に思われる。さ、それよりゲーム」
「分かったわ」
うながされて、椅子に落ち着く。肩に江山君の手が触れた。
パソコンはすでに動き始めている。
「あ、もう一つ、おかしなことがあったんだ。飛鳥さんが設定途中だった主人
公のデータ、全部入れ終わった状態で保存されてたんだ」
「それ、片仮名のアスカのことよね? じゃ、じゃあ、身長とか体重とかも」
「そうなんだ。前、保存したとき指定したように、設定した本人しか使えない
ようにするため、設定したキャラクターには、暗証番号を付けられるようにな
ってるから、実際には動かしてないよ」
画面には、キャラクター一覧が表示されている。最初にアスカ、続いて、江
山君が色々試したものなんだろう、七人が登録されていた。
そして江山君の言う通り、確かに、アスカの設定は完了している。
−−あ!
「どうしたの?」
あたしが驚いたの、声には出さなかったけど、手で口を押さえたから、分か
っちゃったのね。
「見ちゃだめ!」
画面の一角−−アスカの表示−−を両手で、ううん、身体を使って隠す。隠
さなきゃ。だって。
「もしかして……」
江山君が、ゆっくり、独り言みたいに聞いてくる。
「その表示にあるデータ、飛鳥さんの……」
「知らないっ!」
彼に背を向けたまま、必死で首を振る。
「分かったよ」
気配で、江山君がこちらに背を向けたらしいと判断できた。
「気になるんなら、設定を消すなり変えるなり、好きにするといいよ。やり方
は分かる?」
「わ、分からんない。教えて。こっちは向かないで」
「マウスって学校で習ったよね? マウスを持って−−」
それから数分間が経過。あと、問題なのは……。
「終わった?」
「う、うん。ちゃんと変更できたみたい」
「もう、そっち向いてもいいよね」
「あ、ごめんなさい」
江山君が向き直ったところで、あたしはずっと気になっていた点を尋ねた。
「江山君っ、まさか、覚えていないでしょうね、あたしの……」
「え? あっ、そうか。ん、まあ、覚えてるってほどじゃあ」
「どっち? 覚えてるのか覚えていないのか?」
つい、声に力が入る。必死だもん。ぜーったい、知られたくない!
「だ、だって、表示を見たとき、身長や体重なんかは入力しなかったっていう
飛鳥さんの話と合わないなって、じいっと見たから……少しは記憶に」
「忘れてっ。お願いだから、忘れて!」
「はいはい。でも、そんな気にするほどじゃなかったと思ったけど」
「いいから!」
そんなこと言うのは、忘れようとしていない証拠よ!
「目的はゲーム。あたしがやって、どうなるかを確かめるんだから」
強引に話を戻し、あたしは画面に集中するポーズを取った。
「その前に、どうして飛鳥さんのデータが入っていたか、だよ」
それもそうか。恥ずかしい気持ちで一杯になって、その不可解さまで気が回
らなかった。
「……ここまで奇妙なことが連続してるんだから、簡単に考えていいのよ、き
っと。あたし、この前フロッピーに触れたでしょ。電流みたいなショックを受
けたけど、あのとき、ゲームソフトがあたしのデータを読み取った。これよ」
「知らない人に聞かれたら、変人扱いだな」
とか言いながら、納得したようにうなずいている江山君。
「でも、今さらだけど、不思議だな。信じられないことが続けて起こるのも不
思議だけど、それ以上に君にしか作用してないのがね。何だか、ソフトの中に
いる魔法使いの少女が、君を求めてるみたいだ」
「それを確かめるんでしょ。アスカを選べばいいのね。えっと、番号は」
あたしの生年月日を八桁の暗証番号に使っている。
「いや、それよりも設定からやってみたら」
「もう一度、魔女の服を着ろと言うの?」
吹き出す江山君。
「あはははっ、それ、いい! 魔女だけじゃなくて、戦士や妖精も見たいな!」
「もう、冗談じゃないわ」
ふくれてやる。
「やるたびに服をなくすことになるのよ、こっちは」
「それも問題だ」
まだ笑っている。
「じゃあ、とりあえず、魔女のアスカを選ぼう」
「選んだ」
知らず、むくれた口調になっている自分に気づく。気を取り直して、せめて
明るくやらなきゃ。何しろ、今後の運命がかかっているかもしれないんだから。
「……制服を着てないな」
画面に小さく現れたアスカを見て、彼はそんなことを言った。
つまり、こういう意味なのだ。あたしが制服を魔女の服にかえられたのだか
ら、ゲームの中のアスカは魔女の服から制服になっていてもおかしくない−−。
冗談なのか本気なのか分かんないよ。
「アイテム、見て」
「あ、そうね。『制服』ってあったら嫌」
アイテム−−アスカが持っている物一覧を見てみる。そこに制服はなかった。
とりあえず、ほっとした。
「使える魔法は?」
ついでのように、江山君。あたしはすぐに魔法一覧を探す。キャラクターの
能力の一つとして、魔法は分類されているようね。
「えっと、今のところ、攻撃魔法と治療魔法の二つだけ。レベルは1。一番、
単純な攻撃や治療しかできないみたいよ」
「使ってみよう」
「使ってみようって、相手、いないじゃない」
「いいからさ」
いいからって……。意図がのみ込めないまま、あたしは破壊魔法を選んだ。
すると、<アスカはレベル1の攻撃魔法を使った>と、画面下のメッセージ枠
に表示される。ついで、<アスカ「ラスレバー・リパルシャン!」>と出た。
「これ、アスカが唱える呪文みたいね」
「うん……」
どことなく、気のない返事の江山君。画面のアスカは、手にした杖から赤い
光のシャワーを出している。
「江山君?」
「ああっと、そうだね、治療魔法の方がいいな。やってみて」
「? はーい」
まだ分からない。何のために、相手を決めずに魔法を使うの? こんなこと
してて、前みたいなハプニングが起こるとも思えないし(起こったら起こった
で、嫌な気もする……)。
治療の呪文は「ラスレバー・ハーモニー」だった。今度は、アスカの手のひ
らから現れた金の粉みたいな物が、ぼたん雪みたいに下向きに降り注ぐ。
「……やってみようかな」
江山君は思い切ったかのような言い方をした。何を思い切ったんだろう?
「飛鳥さん、治療の呪文、覚えた?」
「え? ええ。ラスレバー・ハーモニー、でしょ」
「……」
静かな江山君。その視線は、あたしの手に届いていた。
「やだ。まさか江山君、あたしが魔法を使えるようになってるんじゃないかと
考えたの?」
「そうだよ。服が入れ替わったぐらいだから、魔法が身に付いていても」
「そんなことないよー。実際、ほら、手からは何も出てない」
あたしは両手を広げ、彼にようく見せた。
「本気じゃないからかもしれない」
「いくら何だって、本気になれないわよ」
「確かめたいんだ。……飛鳥さん、見てて」
言うなり、江山君は机の端っこにあった鉛筆立てから何かを取った。きちき
ちきちと音がした。カッターナイフ……。
「え、江山君!」
「君の力、頼りにするから」
江山君はわずかに笑うと、また真顔に戻って、ナイフの刃を左手の人差し指、
その第二関節あたりに押し当てた。そして、あっと思う間もなしに、さーっと
刃がひかれて……。
「江山君!」
血。赤くにじんでいく。
「これぐらい平気だよ。それよりも試して、早く」
「で、でも」
「むだにさせないでよ。これで終わったら、僕が馬鹿みたいじゃないか」
あたしは気持ちを固めた。こうなったら、魔法なんて身に付いてないことを
早く示さないと。いつまでも江山君にこんな真似させられないわ。
「……じゃ、じゃあ、いくわよ? 呪文ね。……ラスレバー・ハーモニー!」
叫んだ。恥ずかしい気持ちもあったけど、本気で言ったのは間違いないわ。
−−続く