AWC 秘密のアクセスマジック 4   亜藤すずな


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#3218/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 3/15   2:43  (200)
秘密のアクセスマジック 4   亜藤すずな
★内容
「びっくりしたよ、ほんとに」
 成美はあたしの顔を見るなり、ほっとしたように言った。
「心配かけてごめんね。でも、ほら」
 あたしは元気だと示そうと身体を起こした。
「大丈夫だからさ。ちょっと気分が悪くなって、熱が出ただけ」
「その様子ならいいけど……。昨日は元気だったのに、いきなりでしょ。みん
な心配してたよ」
「そうそう。江山君も気にしてたみたい」
 司が、どこかうれしそうに言った。この子は、江山君のこととなると、何で
もいいから楽しがるのよね。
「そうかぁ、江山君も」
「ねえ、結局、昨日はどうなったの? 元気なら聞かせてちょうだい」
 興味津々の司。と言うよりも、わずかながら羨望の眼差しが混じっているの
かな。
「ええっと」
 どこまで言っていいのか、迷う。昨日までは、聞かれたら全部しゃべっちゃ
ってもいいかなと考えていたけど、今朝の出来事を思うと、余計なトラブルに
巻き込むことになりそうで、気が進まなくなる。
「あれ、ただのゲームソフトだったわ」
 それだけ明かす。
「Reversalっていうのはゲームの名前で、ロールプレイング物みたい
だった」
「どういう内容?」
 司のそんな質問を、成美がさえぎった。
「それより大事なことがあるでしょうが。持ち主は分かったの?」
「それが……分からなかったの」
「なーんだ。それじゃあ、何にも分かってないんだ、まだ」
「そういうこと」
「で、あのフロッピーは?」
「江山君に預けたままよ」
 言って、あたしは司の顔を見つめてやった。
「これにかこつけて、江山君の家に押しかけられるでしょ?」
 内心、思い付いたばかりの理由にしては上出来だと、自画自賛した。
 案の定、司の目尻が下がる。
「そっか、飛鳥。感謝するわっ!」
「それほどでも」
 感謝されたって、あたし自身、江山君に好意を持ちつつあるので、気が引け
るのよね。
「いつか都合のいい日見つけて、行ってみようね! きゃー」
 見舞いに来て、騒いでくれたら世話ないなあ。
「さて、例の物を渡しとくか」
 成美は、彼女のかばんをごそごそ探っている。やがて出てきたのは何枚かの
プリント。裏向きだわ。
「何、これ?」
「見れば分かる。まあ、あたしや司にとっては、あんまりありがたくない物だ
けど」
「全然、ありがたくなーい! いらないっ!」
 一人シュプレヒコール(という表現も変ね)をする司。
 あたしはプリントを表向きにした。
「あ−−テスト」
 そっか。授業中に返された分ね。
「ありがとう、わざわざ届けてくれて」
「最初から様子見に来るつもりだったから。それよか点数、見えちゃったんだ
よね。相変わらす、頭いいんだから、この。うらやましっ」
「今日は放免だったけど、あたしなんか、二つ目の補講を受ける羽目になっち
ゃった」
 とか言いながら、まるでこたえていないかのように、明るい司。
「でもいいの。今度の補講の日、江山君は理科部をやってて、帰る時間がちょ
うど同じになるんだもの」
 なるほど、そういうわけね。司と張り合うのは、かなり大変そう。
 そんなことを考えたら、急に江山君に会いたくなってきた。今朝のことを伝
えて、色々と相談したい。
「さ、そろそろ帰ろうかな」
 あたしの気持ちが通じたみたいに、成美が腰を上げた。
「もう?」
「だって、お昼がまだなのよね。あんたはいいかもしんないけど」
 わざとすねたような言い方をする成美。
「そっか。悪かった。本当にありがとう」
「明日は出てこられるんでしょ?」
「多分ね。あ、サングラス男が学校に来たとか、そういうことなかった?」
「聞いてない。気になるんなら、例の公園の角、ちょっと覗いてあげようか」
 成美はこう言ってくれたけど、さすがに遠慮しておく。万が一、危険な目に
巻き込まれたら困るし。
「ううん、そこまで頼めない、早く家でお昼を食べられるように」
「分かった。それじゃあね」
「ばいばい」
 二人が帰ると、にぎやかだったのが、また静かになった。
 すぐに江山君のことを思い浮かべる。とにかく、今朝の恐ろしい経験を伝え
ないといけない。電話して、ここに来てもらおうかしら? それだけ緊急なこ
とだと思う。
 そうして、ベッドから抜け出し、カーディガンを羽織って、電話のあるとこ
まで行こうとしたら、また母さんの声。
「お見舞いよ。今度は男の子」
 何だかうれしそう。でも、男の子って? まさか。
 その予感は当たった。母さんが案内してきた男の子とは、江山君だった。
「あー、その、ごめん」
 母さんがいなくなると、江山君はそう切り出した。
「え? どうして江山君があやまるの?」
「だって、いきなり来ちゃって。そっちの了解も取らずにさ。だから悪いなっ
て思って」
 あごの辺りをしきりにいじっている。視線はあさっての方を向いちゃってた。
「そんなことない。あたし、さっき、江山君に電話しようかと思ってたところ。
だから、全然気にしない。うれしいくらいなんだから」
 すると江山君、大げさな身振りで胸をなで下ろした。
「よかった。それで大丈夫だった? 昨日の今日だったから、あのフロッピー
−−Reversalの悪い影響が出たのかとも考えたんだけど」
「それなのよ、話したかったのは」
「じゃあ」
「休んだ直接の原因じゃないけど、間接的に……。今朝、学校に行く途中、知
らない男から声をかけられて」
「待って。その男って、昨日言ってたサングラスの男じゃないんだね?」
「ええ、違う人。大きな体格で、ていねいだけど嫌みな話し方する奴だったわ。
恐かったからよく覚えていないけれど、顔はギリシャ彫刻みたいに彫りが深か
った」
「日本人?」
「えーっと……多分ね。外国人だとすれば、うますぎるわ、あの日本語。
 それでね、この男もReversalについて知ってるらしいと分かって、
すぐに逃げようとしたんだけど、かばんつかまれて倒されて……。叫ぼうとし
たんだけど、声が出ないのよ。信じてくれないかもしれないけど」
「信じる。昨日のあれ−−魔女を信じたら、もうたいていのことは信じられる
よ。さ、続きを聞かせて」
 すぐ信じてくれた彼の態度に、なぜか涙が出そうになる。一人でかかえ込ん
でいた恐怖を分かち合ってもらえた。ちょうどそんな感じ。
「相手が言ったわ。真空の薄い膜を作って音をさえぎったとか何とかって。あ
たし、それでも逃げ出そうとしたんだけど、今度は呼吸ができなくさせられて
……殺されるかと思った。本当に」
 あ。涙が出てきちゃった。いけない。泣いたら、余計に心配かけちゃうじゃ
ない。見られないように、顔をそむけて、ぬぐわなきゃ。
「恐かったんだよね」
 顔に持って行こうとしたあたしの手を、江山君がそっと握りしめてきた。彼
の体温が伝わってくる。
「泣いていいじゃない。泣いて恐い記憶を少しでも忘れられるんなら、気持ち
を押さえ込むより、ずっといい」
「……うん。ありがと……」
 あたしは泣いた。

 やっと涙が止まった。気持ちを切りかえるため、冗談めかして言う。
「ごめんなさい。あーあ、今のあたし、ひどい顔してるでしょう? お願いだ
から、笑わないでね」
「そんなことないよ。うちの母親の寝起きよりは、ずっと見られる」
 軽く笑い声を立てる江山君。あたしもつられて笑った。それからしばらくし
て、話を再開する。
「息はできるようになったけど、相手はフロッピーディスクを渡せって言って
きた。渡さないとまた息ができなくなるようにしてやるみたいなこと言われて、
あたし、フロッピーは持っていないと答えたの。そしたら、相手の男はあたし
のかばんの中を調べ始めて……。もちろん、フロッピーなんか入ってないわ。
江山君が持ってるんだもの。見つからないときはどうなるんだろうって、また
恐くなったんだけど……。そこからまた不思議だったの。補助かばんの方を調
べてる最中に、何かがほんの一瞬、光ったのよ。それと同時にあの男、苦しみ
出したかと思ったら、『すでに呼び出していたのか』なんてことを言って、フ
ロッピーを探すのをやめちゃったわ。それから逃げるように立ち去っていった
……」
「……」
 さすがに受け入れにくい話だったかしら。江山君、黙り込んでしまった。
「そ、それにね」
 あたしは付け加えるべき点を思い出した。
「男の右手、やけどしたみたいになっていて、その上、何となく溶けたみたい
になってたのが見えたのよ。ね、これって何だと思う?」
「わけが分からない、途方もないことに巻き込まれた……とでも考えないと理
解できないよ」
 半ばあきれた感じで、苦笑している江山君。
「でも、信じる。全部を信じないと、糸口もつかめないだろうしさ。
 話の中で、僕が気になったのは、男が苦しみ出した理由。何かが光ったって
言ったけど、光るような物はかばんの中に」
「なかったわ」
「じゃあ……そいつがある物に触れて、その瞬間に光ったと考えればいいのか
な……。ある物に触れたからこそ、右手はやけどしたようになった、とか。か
ばんの中には何が入ってたんだろ?」
「それは、昨日借りた服と杖と、それから古文の辞書。これだけよ」
「服を? どうしてまた」
 不思議そうな顔をする江山君に、あたしは説明してあげた。
「洗濯してお返ししようと思って。一度でも着たら、分かってしまうものだか
ら。それで学校の帰りしなにでも、コインランドリーを使おうかと思って」
「はあ。そんなことまで気にするもんなんだね」
 妙に感心した風な彼。
「杖とは? 昨日のミニチュア版の杖のことかい」
「そうよ。学校に持って行けそうなの、それぐらいだったから」
「可能性があるなら、その杖かな」
「え? 何のこと?」
 あたしが首をかしげると、江山君はもう忘れたの、とでも言いたげな顔つき
をした。
「男の手を溶かした物の正体だよ。言ってみたら、杖はReversalのフ
ロッピーから生まれた物だよね」
「ええ」
「その男もまたReversalに関係してるらしい。となると、二つを結び
つけるのは自然だと思うんだ。杖が飛鳥さんを守った」
「……杖が……」
 あたしはベッドから降りて、補助かばんに入れっぱなしの杖を取り出してみ
た。当然なのかどうか、あたしがさわっても光りはしない。手も何ともない。
「これ」
 と、江山君に手渡す。
「ふーん。別に昨日と変わったところはなし、と」
 杖を片手に、思案げな江山君。
「逃げる前に何て言ってたんだっけ、そいつ?」
「え? あ、あれよ。『すでに呼び出していたか』っていう意味の言葉」
「呼び出す、か。いかにもReversalに関係していそうだ。あのRev
ersalが特殊なフロッピーディスク−−あるいは特殊なソフトであるのは
間違いない。飛鳥さん、君を襲った男がフロッピーをほしがってるのは、Re
versalの中身を破壊したいからだと思う」
「破壊したいって?」
「あのゲームに登場するキャラクターのいずれか一つか、もしかしたら複数か
もしれないな。とにかく、あのゲームのキャラクターは君を襲った男にとって、
天敵なんだよ、多分。現実とゲームの中がどうつながるのかまでは分からない。
でも、男にとって最善の方法は、ゲームが開始されない内に、フロッピーを壊
してしまうこと、これは当たっていると思うんだ。昨日、僕らはゲームをスタ
ートさせた。そして魔法使いのアスカを生み出し、偶然かもしれないけれど、
彼女を実体化させた。Reversalから出てきた魔女の杖だからこそ、男
にダメージを与えることができた。こんな風に想像できない?」

−−続く




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