AWC 秘密のアクセスマジック 3   亜藤すずな


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#3217/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 3/15   2:40  (199)
秘密のアクセスマジック 3   亜藤すずな
★内容
「驚いてはいるけど……驚かしたかったの?」
 質問を返されてしまった。あたしは首を強く横に振って、否定する。
「ううん。そんなんじゃない」
「制服じゃないよね、それ……」
 目をこする江山君。
「最初、見間違いかと思ったけど、やっぱり制服じゃない……ね」
「そこの帽子や杖もよ」
「本当だ……。何でこんなことに?」
「あたしにも分からないんだけど……」
 とにかく、起きたことをそのまま伝える。
「言われた通り、Reversalの最初の設定をしていたの。性別は女、十
三歳、名前は片仮名でアスカってして、職業は魔法使いを選んだところでフロ
ッピーがおかしくなって……さわってみたら、電気が流れたようなショックが
来たのよ。長いこと意識がなかった気がしたんだけど、実際は一分ぐらいだっ
たみたい。そして起きてみたら、こうなって……」
「……このフロッピーディスクのせいなのかな?」
 差し込まれたままのフロッピーを見つめる江山君。警戒しているのかしら、
まだ触れようとはしない。
 説明を聞いたあとの、江山君の最初の言葉に、あたしもようやく、この結論
を受け入れられそう。つまり−−。
「Reversalのメインキャラクターそのままの格好になったわけだ。信
じられないけど。……まさか、僕をからかうために、フロッピーのことから何
から、準備してたなんて」
「絶対にないわ! 何のためにそんな」
「怒らないで、あやまるから。それだけ信じがたいってことだよ。ん、まあ、
制服は確かになくなってる。これが現実なんだ」
「あ−−」
 あたしは基本的な問題を思い起こした。
「制服、どうしよう……」

 抜き足差し足。自分の家なのに、どうしてこんなことしなくちゃならないの
って思うけれど、今は仕方がない。幸い、母さんは夕食の準備と歩の様子を看
るのとに気が行っていて、あたしには気づかなかったよう。父さんはまだ帰っ
ていないみたいだし、兄貴は見つけられてもどうにでもなる。
「疲れたーっ」
 自分の部屋に収まって、ベッドの上に横になると、大きく伸びをした。
 それから思い出して、身体を起こす。服は借り物なんだったわ。
 −−あれから服をどうしようと考えた末、江山君がこっそり、彼のお母さん
の服を持ち出してきてくれたの。サイズも融通の利く範囲で、着られた。
 すぐに着替えて、明日にでも返そう。でも、洗濯しとかないと気づかれて、
江山君、変に疑われちゃうかも。何のために母親の服を持ち出したんだって。
これはよくない。あたしのためにしてくれたのに、また迷惑をかけては気が引
ける。
 しかし……家で洗濯したら、あたしが怪しまれるわね、恐らく。干せば間違
いなく見つかる。学校で乾かす……無茶か。コインランドリーかな、ここは。
 制服の方はもう一着あるし、もうすぐ春休みに入るから何とかなるはず。
 服の問題はそれでいいとして……。より大きなトラブルをかかえたままなの
よね。ほとんど何も解決されていない。
 江山君には、フロッピーディスクを拾ったいきさつもきちんと話した。その
結果、フロッピーを落としたのはサングラスの男だという意見で一致している。
問題のReversalは、相談して、江山君に保管してもらうことにした。
あたしが入力しかけていたアスカをそのままデータとして保存してから、ゲー
ムを終了。そしていざ、差し込んだままのフロッピーを抜くとなって、さすが
に勇気を必要としたらしくて、無事に抜き出したときは、江山君も苦笑いして
いた。
 魔女の服は帽子や杖ともども、あたしが持っていることになった。もう一着
の制服と、その布の質を比べてみるというのもあったけど、何かの拍子で元に
戻ったときに江山君の手元にあったらややこしくなるもんね。
 着替え終わったところで、あたしは忘れない内に、制服と魔女の服を並べて、
その材質を比べてみた。
 手ざわりは全く違っていた。だいたい、魔女の服は場所ごとに感触が異なっ
ている。マントは厚手のややごわごわした感じだし、帽子は糊が利いたカッタ
ーシャツの襟のよう。杖に至っては、どう考えても木としか思えない触感だわ。
魔女の服そのものは、制服の感じに近かったけれどね。
 服が化けちゃった他には、今のところ何も変わっていない。でも、身体に異
常が出たらすぐに伝えてほしいと、江山君から言われている。
「おどかすつもりはないけど、その可能性は考えておかないとね」
 そう言ってくれた江山君の表情の優しかったこと。特別な理由はないのに、
なぜかしら安心できた。
 ごめんね、司。あたしも江山君のこと、好きになりそう……。
 そんなことを想っていると、突然、気になってきた。この不思議な体験、他
の人に話していいものかどうか、って。ここまでは気が回らなくて、江山君と
も決めていない。
 話しても信じてもらえそうにないから、家に帰るのにさえ一苦労したんだけ
ど……。成美や司になら、話していいかなって思う。信じてくれるかどうかは
別だけど。
 それから最後に行き着く疑問は、何のために、どうやってあんなフロッピー
ディスク−−ゲームソフトが作られたのかってこと。主人公のキャラクターを、
使っている人間に映せるなんて、普通の技術じゃできないはずよ。それこそ魔
法か何かじゃないと、絶対に無理。
 元々これを持っていた(はずの)あの若いサングラス男にしたって、何者な
んだろ? こんな不思議なゲームソフトを落としたんだから、大騒ぎしている
と思う。ひょっとしたら、取り返しに……。ううん、考えたくない。恐い。
 すべては明日。江山君に会ってからにしようと思い直し、気分を切り替える。
 そのとき、絶妙のタイミングで、母さんが呼んでくれた。
「飛鳥、帰ってるんでしょう? もうすぐご飯だけど、ちょっと手伝って!」
 いつもは嫌なお手伝いも、今ばかりは助かる。日常に触れて、一時でも不可
解なことを忘れていたい。

 今朝は久しぶりに、三人そろって家を出た。三人とは、兄貴の桂真、弟の歩、
そしてあたし。歩はすっかり元気になっている。
 三人そろってと言ったけれど、学校はそれぞれ完全に別方向にあるので、す
ぐに一人ずつになる。その方がせいせいすることもあるし、さびしくなるとき
もある。今朝はさびしくなる方。昨日、奇妙な目に遭ったからかな。
「かばん、ぱんぱんにふくれてるな」
 桂真が言った。あたしの左手をふさぐ補助かばんを指さしている。
「あ、これね」
 あいまいな返事でごまかす。
 補助かばんの中には、昨日、江山君から貸してもらった服が入っている。こ
うやって持ち出して、こっそりコインランドリーで洗濯するしかない。
 その他、魔女の服一式の中からミニチュアの杖もかばんに入れてきた。学校
で調べれば、その材質が分かるかもしれないという淡い期待をいだいてのこと。
魔女の服の他の物は、どれも切り取らなきゃ持ってこれそうになかったから、
杖だけにしたの。
 話している内に、三叉路に到着。ここであたし達は一人ずつに分かれる。最
初に心配していた通り、不安感が少なからず内に広がる。
 それでも気を張って歩いていると、後ろから声をかけられた。
 びくっとしてしまう。だって、あのサングラス男かと考えたから。
 だけど、振り返ってみて、ちょっと一安心。まるで知らない男の人が立って
いた。今のあたしにとっては、全然見知らぬ男の人の方がサングラス男よりま
しだ。
「はい、何でしょうか?」
 大柄な相手の人を見上げるように、尋ねた。逆光でよく分からないけど、彫
りの深いなかなかのハンサムに見えた。
「お嬢さんは一昨日」
 瞬間、変だなと感じた。道でも聞かれるのかと思っていたのに、お嬢さんと
か一昨日だなんて?
「お嬢さんは一昨日、この先の公園の近くで、一人の男性とぶつかりましたか」
 危険! この人、おかしい。直感もあるけど、明らかにReversalの
ことを知っている。変だ。
 あたしは一目散にかけ出した。
「待ちなさい。逃げなくていいでしょう」
 悠然とした口調が、背中越しに届く。でも、そんな言葉に耳を傾ける気は一
切なし。
 急に、強い力で後ろに引っ張られる。補助かばんの方をつかまれた? バラ
ンスが崩れて、派手に転倒してしまった。朝っぱらから、無茶苦茶する! 他
人に見られるかもしれないのに、何て強引!
「助けて」
 叫んだつもりだった。けれど、声が……全然大きくないじゃない! 頭の中
だけで反響している感じ。どうして?
「声を張り上げても無駄です」
 相手の声は聞こえてきた。ていねいだけど、ごう慢な響き。
 手のひらを下にしたその右手は、あたしの方を向いている。何かをこちらに送
っているように見えた。
「お嬢さんの周りに薄い真空の膜を作りました。学校で習いませんでしたか? 真空は
音をさえぎると。無論、あなたの耳の部分は私の側とつながっています」
 真空の膜? 何を言っているの、この人? でも、声が外に通じていないの
は事実みたいだ……。
「今のところ、呼吸はできる状態です。あなたの返答次第で、どうなるか分か
りませんが」
 相手の言葉を信じないといけないみたいだ。あたしは立ち上がった。間髪入
れず、かけ出す。
「おやめなさい。膜は離れません。必要とあれば、お嬢さんの意識を奪うこと
もできる。その証拠に」
 視界の隅で、相手の男は新たな手振りを行うのがとらえられた。
 途端に息苦しくなる。見えないビニールか何かが、鼻と口を覆った感触が…
…。とても走れない。ひざを折って、地面に四つん這いにならざる得ない。
「さあ、もう分かったでしょう」
 その言葉と同時に、息が再びできるようになった。
 涙がぼろぼろあふれてくる。心底、恐かった−−恐い。
「まだこちらの意図を説明し切らぬ内に、そちらが逃げ出そうとするからです
よ。恨まないでください。私の望みは一つ。あなたが一昨日、拾ったであろう
フロッピーディスクを渡しなさい」
「……そんな物……持ってない」
 強がりなんかじゃない。本当に今は持っていないのだから。あれを持ってい
るのは江山君だ。
「ふむ」
 少しの間、男は考える様子を見せた。
 また呼吸できなくさせられるのかと思い、寒気が走る。
「知らない、とは言わなかった。持っていない……? どういう意味だろう。
今は持っていないのか、それとも単なる嘘なのか」
 男は薄く笑った。
「荷物の中身を調べますよ。もし嘘だったら……覚悟しておいてください」
「……」
 もう、まったく言葉が出ない。からからにのどが渇いている。
 あたしの目の前で、男はかばんの中身を調べ始めた。
「こちらにはありませんね」
 学生かばんを調べ終わって、男はつまらなさそうに言った。すぐに、補助か
ばんの方に取りかかる。
 どちらにもフロッピーがないと分かったら、あいつは次にどうするつもりだ
ろう? あたしの家を調べる気かしら? それとも先に身体検査とか……。
「こちらも服ばかり……ん? これは……」
 次の一瞬、はじけるような音と共に、光が走った。ごく短い間だったけど、
カメラのフラッシュの何倍もありそうな、強烈な閃光! それなのに、あたし
の両眼は光を浴びてからも、普通に見えている。
 その光と時を同じくして、男がうめき始めた。
「お、お、お……」
 先ほどの憎らしいまでの冷徹さは、どこかに消えてしまっている。男は目よ
りも、なぜか右手を押さえている。
 あたしは自分の周りで、何かが破裂したような感覚を得た。真空の膜とかが、
なくなった? そうだとしても、目の前で起こっていることに、声も出せない。
「ふ、不覚……。すでに……すでに! 呼び出していたとは」
 よろめきながらも立ち上がった男は、意味不明のつぶやきを続けている。
 そしてあたしは見た。男の右手がただれ、一部が溶け出したかのようになっ
ているのを。
「だめだ……」
 男はあきらめたように最後のうめき声を上げると、あたしから、この場から
遠ざかっていった。
 助かった−−そう実感すると、涙がまたこぼれてきちゃった。

 気分が悪くなったから今日は学校を休むと言ったら、母さんは最初、怪訝そ
うな表情をした。でも、あたし、本当に熱を出していたから、すんなり受け入
れてくれた。さすがに弟のときみたいに、大騒ぎはしなかったけどね。
 お昼ご飯も食べ終わって、横になっていると、お友達が来たわよと、母さん
が知らせてくれた。あたしは上がってもらうように言った。
 来てくれたのは予想通り、成美と司。そう言えば、授業は午前中で終わるん
だっけ。

−−続く




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