AWC 秘密のアクセスマジック 2   亜藤すずな


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#3216/5495 長編
★タイトル (AZA     )  96/ 3/15   2:36  (200)
秘密のアクセスマジック 2   亜藤すずな
★内容
 何で、こうなるのかなあ。
 あたしは一人で、江山君の家を訪ねていた。そう、一人。
「横川さんや三波さん、残念だなあ」
 湯気を立てているカップをお盆で運んできた江山君。
「三波さんは数学の補講って分かってるけど」
 そうなのだ。昼からの授業で、返ってきた数学の点数がよくなかった司は、
補講組に入れられてしまった。江山君の家に行けなくなったあの子の悔しがり
ようったら大変で、気の毒で仕方がないぐらいだった。でも、自分の責任なん
だから、あたしが教室を出るとき、恨めしそうに見ないでほしい。
「司−−三波さん、残念がっていたわ。それからえっと、成美−−横川さんが
来られなくなったのは、東野君に誘われて」
「東野って、一組の?」
 知っているみたいね。ちなみにあたし達は四組。
「そう。横川さんと東野君、小さいときから知り合いで、家も隣同士なんだっ
て。だから」
「腐れ縁みたいなもの?」
 言って、おかしそうに笑う江山君。
「そうみたい。何だか、お互いにお互いの弱みを握ってる感じで」
「ふうん。小学校のとき、あいつと一緒のクラスだったけど、知らなかったな。
明日、からかってやろうかな。−−あ、紅茶、飲むよね?」
「おかまいなく。それよりも」
「そうだね。フロッピー、フロッピーと」
 江山君は立ち上がると、机に向かった。問題のフロッピーディスク・Rev
ersalは、すでに彼に手渡してある。
 よく分からないけど、うぃんうぃん、きりきりと音がして、机の上にあるパ
ソコンの画面が明るくなった。続けて何かの操作が行われ、画面は一新。「ド
ライブを指定してください」なんて言葉が出ている。これは学校でも見たこと
があるけれど、ドライブ(車で行く方よ)の行き先を聞かれているみたいで、
いつもおかしく思っちゃう。
「よし、機種は合ってる。ウィルスもまず心配ない」
「そんなことまで分かるの」
 江山君の肩越しに画面を覗く。そのとき、男子にしてはきれいな髪をしてい
ると印象に残った。
「うん。まあ、ウィルスの方は新種は検出できないけど、多分……。ふーん…
…これ、何かのプログラムだよ。けど、説明のファイルが見当たらないな……」
「説明がなかったら、動かせないの?」
「いや、大丈夫と思う。そのまま起動させれば」
 と、江山君は一旦、パソコンを終了させ、またスイッチを入れた。
「ん、読んでる読んでる。ほら、赤いランプがちかちか、点滅してるだろ」
 その言葉通り、小さな窓に明かりが、せわしなく点いたり消えたりしている。
 次の瞬間、画面いっぱいに鮮やかな絵が広がった。
「ははあ……本格的」
 感心したようにつぶやいた江山君。
 画面を見れば、確かに感心したくなる。最初に現れたパステル調の風景画は、
段々と変化して、リアルな絵−−もしかすると写真−−になっていった。
「音は?」
「あ、そうか。いつもは消してるから」
 あたしが催促すると、江山君はパソコンの下の方のつまみをいじった。音が
聞こえてきた。こちらは意外に単調。
「このパソコンに付けてる音源ボード、たいしたことないから。実際の音はど
うか分からないよ」
「機械によって変わるのね」
「そういうこと。あっと、タイトルが出た。でも、制作者名がないな……」
 画面の絵、半分よりやや上の位置に、細い切り込みが横に入った。それが上
下に広がり、細長い長方形を作った。その長方形の枠は、杖や剣、弓矢といっ
た物でかたどられている。長方形の中に、何かが浮かび出てきた。最初はぼん
やりしていたのが、徐々にはっきりしてきて、最後には読めるようになる。青
地に灰色(銀色?)の文字で、Reversalとあった。筆記体の流れ方が
何となく、きざ。
 「リターンキーを押してください」と画面表示。江山君が操作すると、画面
が変わった。
「ロールプレイングゲームっぽいね……。あれ? 当然、物語の世界背景が出
てくると思ったのに」
 戸惑ったみたいな江山君。
「……いきなり始まるのかしら」
 画面を見て、あたしはそう判断した。
 画面には履歴書みたいなものが映されていて、<主人公の設定>とある。ど
うやら、主人公の性別とか年齢、職業等を自分で決めてからゲームスタートに
なるようね。
「どうしよう? やってみる?」
「あたしはいい。遊ぶのが目的じゃないから。江山君、やってみて」
「じゃ、性別は男で」
 江山君が入力を始めようとしたとき、部屋の向こうから声がかかった。
「淳也。淳也! 電話よ!」
 江山君のお母さんの声。さっき、あたしが挨拶すると、ずいぶんうれしそう
な顔をしていたけれど、どう思われたのか気になる……。
「はーい! そんな大声出さなくても」
 江山君は椅子から立ち上がった。
「ごめん、ちょっと」
「うん。別にあわてなくてもいい。あたし、待ってるから」
「ついでだから、飛鳥さん、始めてみてよ。嫌になったら、すぐにやめられる
んだし」
「え……」
 こちらが返事する間もなく、江山君は部屋を出てしまっていた。
「……」
 じっと画面を見る。入力により選択された主人公の絵柄がはめ込まれるので
あろう正方形の欄が、ぽっかりと空いていた。
「放ったらかしも悪いかな。ゲームならだいたい分かるし」
 口に出して言ってみた。
 入力ぐらいなら、と思って、あたしはキーボードに手を置いた。マウスの方
は使い方がよく分からない。
「性別は……ごめんね、やっぱり女」
 女の方を選択したが、まだ主人公の絵は出てこない。
 次は年齢。今のあたしと一緒、十三歳にしておく。
 それから名前。こうなったら、遊んじゃおっと。「アスカ」と入力してみた。
 職業は選択制になっていた。戦士、僧侶、占い師、皇族、探検家、発明家、
軍師、吟遊詩人、魔物、妖精等々。色々そろっているけど、さすがに中学生と
か学生なんてのはない。これは現実を離れるしかない。いくらか迷ってから、
魔法使いを選んだ。
 次はと見れば、身長/体重とあった。何よ、これ。本当のことを書くのは、
気が引ける。
 江山君、まだかなと振り返ったけれど、話し込んでいる様子。
 この欄は飛ばそう。そう考えて、何も入力しないままリターンキーを押す。
 それがいけなかったのかしら? 不意に、パソコンが変な音を立て始めちゃ
った。正確に言うと、フロッピーを差し込んでいるところが、がっがっと音を
出していた。そのドライブの窓が、ちかちか点滅している。
 びっくりしたあたしは、リターンキーを再度押してみた。けれども、音はそ
のまま。焦って、次に矢印キー四種を順に押す。点滅は止まらない。困った。
他のキーは恐くて押せない。
 でも、こういうとき、フロッピーを引っぱり出したり、電源を切ったりしち
ゃいけないって、よく聞く。リセットボタンならいいって、聞いたような気も
するけど、江山君のパソコンだもの、そんな勝手はできない。
 あーん、早く戻って! そう念じたけど、江山君は戻ってこない。
「止まってよー」
 自分でも情けない声を出しながら、あたしはフロッピーに左手を伸ばした。
指先が触れる……。
 ばしっ!
 指がフロッピーに触れた瞬間、感電したみたいなショックが、身体の中を通
り抜けた−−。

 どのぐらい気を失っていたのかしら。
 目を開いて、すぐに思ったのはそれだった。
 あたしは腕時計をしない主義なので、室内に時計を探す。あった。机の角に、
目覚まし時計。
「?」
 首を振った。目をこすった。深呼吸した。でも、時計の示す時刻は変わらな
い。あたしの記憶が間違っていなければ、ほとんど時間がたっていないことに
なる。すごく長い間、意識を失っていた気がしたけれど……。
 パソコンの方を見た。あのショックと関係あるのかどうか分からないけれど、
妙な音は止まっていた。画面は主人公設定のまま。
「おっかしいな」
 つぶやきながら、左手を頭にやった。
「?」
 再びの違和感。今、変な物が視界に飛び込んできたわ。
 あたしはあたしの左手をじっと見た。
 左手に異常はなかった。でも、その手首より上、袖口が……。
「な、何よ、これって……」
 立ち上がり、着ている服の全体を確かめる。
「そんな……」
 頭がおかしくなりそう。だって、あたし、学校からの帰りでしょ。制服のま
ま、江山君の家に来たのよ。
 それなのに−−魔女の服を着ている。
 あの、黒くてゆったりとした、イメージ通りの魔女の服。肩の辺りが重いと
思ったら、マントが引っ付いている。ふと床を見ると、ご丁寧に背の高い帽子
があった。そう、さし絵なんかの魔女がよくかぶっているあの黒い、つば広の
帽子。さらに見渡すと、小さいながらも、いかにも魔女が持っていそうな杖の
ミニチュア版−−フォーク程度の大きさ−−までが転がっていた。
 恐る恐る、胸元から中を覗いてみる。
 −−ああ。下着だけだわ。制服がどこにもない。
「どうなってるの……」
 途方に暮れて、勝手にそんな言葉がこぼれてしまう。
 そのとき、足音が近づくのが分かった。江山君が戻ってくる!
 あたしは部屋の中を見回して、入り口の右手、本棚の陰に隠れた。と言って
も、ドアのところに立っている人からは見えないだけで、探せばすぐに見つか
る隠れ方。
「ごめん、ちょっと時間かかったかな……。あれ?」
 江山君の声が聞こえた。
「飛鳥さん? どこ行ったの、飛鳥さん!」
 探されては困る。あたしは江山君の足を止めようと、叫んだ。
「入ってこないで!」
「え……」
 ここからは見えないけど、どうにか立ち止まってくれたみたい。
「ど、どうしたの?」
 江山君の戸惑いが、手に取るように分かる。だけど、あたしの方がもっと戸
惑っているのよ!
「何か悪いことしたかな……」
「そ、そうじゃない……と思うけれど」
 急に不安になった。一応、確かめたい。
「そのまま聞いてね。あのね、江山君。電話に出てから、今まで部屋に戻って
ないわよね」
「そうだけど」
「本当に?」
「うん。何が何だか分からないよ。どこにいるの?」
「ま、待って。まだだめ! そ、そのぅ……変なこと聞くけれど、あたしの…
…服……どこかに落ちていないかしら……」
「服? 服って制服かい?」
「そ、そう」
「分かんないなあ。今、着てるだろ?」
「それが……」
 心なしか、江山君の口調が荒っぽくなった気がする。怒らせて当然のこと、
あたししてるんだもんね。どうしようもない。姿を見せないと、話が進まない。
「あの、ドア、閉めて」
「どうして?」
「いいから」
 ぱたんと音がした。
「−−閉めたよ」
「あ、ありがとう。それから、何を見ても大声を出さないで」
「何を見ても……?」
 あたしの言い方、おかしかったかな。ひょっとして江山君、変な風に想像し
ているんじゃないかしら。まさか、大丈夫とは思うけど……ちょっと心配。
「そう。何を見ても」
 踏ん切りをつけて、あたしは一歩、前に出た。
「大声出さないでっ」
 自分の声が大きくなってしまわないよう、あたしはうつむいたまま、鋭く言
ったつもり。
 しばらく待っても、何も反応がない。びくびくしながら顔を上げると、あっ
けに取られたような江山君が見えた。
「……驚かないの?」

−−続く




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