#3048/5495 長編
★タイトル (AZA ) 95/ 4/29 8:28 (137)
Boy needs Girl 9 名古山珠代
★内容
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
今月のF&M文庫−−1995.10
決定! 第二回F&M賞
229編の応募をいただいた第二回F&M(ファンタジー&ミステリー)賞
は、以下の六作品を最終候補作として選出しました。
「 占 術 師 」 神林大葉 (かんばやし おおは)
「 水 晶 の 柩 」 篠木陸 (ささき りく)
「 風にのせたメモリー 」 手塚美久 (てづか みく)
「 白 の 六 騎 士 」 堂本浩一 (どうもと こういち)
「僕はこの星で殺された」 新崎彩香 (にいさき あやか)
「 夢 幻 物 語 」 藤井恵津子(ふじい えつこ)
九月十五日、亜藤すずな、甲賀明日夫、桜井美優、杠葉純涼、蒲生克吉の各
氏による選考会が開かれました。その結果、以下の四作品を選出しました。
大賞
「 占 術 師 」 神林大葉(かんばやし おおは)
「僕はこの星で殺された」 新崎彩香(にいざき あやか)
佳作
「 水 晶 の 柩 」 篠木陸 (ささき りく)
「 白 の 六 騎 士 」 堂本浩一(どうもと こういち)
選考の詳しい模様については、十月十五日発売の月刊「アウスレーゼ」十一
月号に掲載します。また、受賞作四編については、当文庫から順次、刊行して
いく予定ですので、お楽しみに。
引き続き、第三回も募集しています。締め切りは1996年の六月三十日。
楽しいお話、恐いお話、哀しいお話等など、自信作を待ってまーす!
F&M文庫 10月の強力ラインナップ
(以下略)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
おおー、すごい。ユキは、その文庫の挟み込みを見るなり、思った。思うだ
けでなく、口に出していたかもしれない。それだけ感心し、嬉しかった。まる
で自分のことのように、頬が緩んでしまう。
「何をにやにやしているんだ」
横に立っていた堂本が言った。さっきからしきりに、きょろきょろと周りを
見ている。
「嬉しいもんね」
文庫本を棚に戻しながら、無邪気に答えるユキ。
「自分のことみたいに喜んでいるな」
「だって、おごってくれるんでしょ?」
「あ、それか」
舌打ちまじりに堂本。全面的に書き直した「白の六騎士」を投稿する際に、
入賞したら、アイディア料代わりにおごると約束したのだ。そのときは、入賞
なんて考えていなかったので、気楽に応じたのだが。
「忘れてたの? ひどいなー。ね、佳作でも何かもらえるんでしょ?」
「大賞は百万。佳作は五十万」
「おおー」
「単位は、ペソかルーブル」
「……その冗談、面白くないよ」
ユキが指摘すると、がっくり肩を落とす堂本。
「だめだなあ。笑いのセンスが自分にはないのかもしれない。木川田に言われ
てから、暇さえあれば考えているんだが、どうもよくない」
「んー、私が言ったのは、そういうギャグじゃなくてだね、ユーモアの方。分
かる? humorよ」
「発音、変だぞ」
やり返しておいてから、堂本は付け加える。
「で、実際にもらえるのは、半分の二十五万なんだ。電話連絡をもらったとき、
教えられた」
「何で? 二作だから?」
「そうらしい。と言っても、大賞の方は何本出ようが、それぞれに百万だって。
佳作は五十万を頭割り。そういう規則」
「怪しいなー。二回目でしょ、この賞? 都合のいい規則を作ってるんじゃな
いの?」
「賞金の話はやめ。心が貧しくなる」
「じじくさい言い方。……堂本クンは、賞金目当てじゃないんだから、それも
しょうがないけど。そうそう、これでデビューできる訳? 本にはなるみたい
だけど」
「一冊は確実に出る。だから、デビューは間違いない。でも、そのあと、注文
があるかどうかは分からないなあ。去年の第一回の人を調べてみたんだ。大賞
一人、佳作一人で、大賞の人は続けて書いているようだけど、佳作の人はデビ
ュー作だけで、それっきり」
「むむ、微妙なとこ。−−あ、印税とかも入るんでしょ?」
「そっちの話は、やめって言ったろ」
「たかってるんじゃないったら。仮にさ、すっごく売れて、作家で食べていけ
るようになったら、大学はどうすんの?」
「うーん」
そこまでは考えていなかったようで、堂本は黙り込んでしまった。棚には、
数え切れないほどの本が並んでいる。目の前だけでなく、書店全体に。
「売れっこないさ」
毎日出版される書物のあまりの多さを考えたのか、悲観的に堂本は言った。
「売れたらの話だっての」
肘で相手の背をつつくユキ。
「大学に行きながら書くさ」
やや投げやりに、堂本は答える。
「それはとーぜん。受験勉強、うまくいくのかってことと、親が賛成してるの
かってのを聞きたい」
「詮索好きだな、相変わらず」
かなわないという風に首を振る堂本。
「受験は心配していない。いざとなったら、一芸入試狙いかな。小説で賞を取
っているとなったら、合格させてくれるとこもあるだろ」
「そっか、その手があったか。羨ましい……」
「親はなあ、母さんの方はあんな感じだから、別にどうってことないはずなん
だ。親父の方が分からない。趣味でやっている分には、口出ししてこなかった
んだが……。作家を昔風の、やくざな商売だと思っているだろうな」
その様子を見て、ユキは口を挟んだ。
「ひょっとして、今度、佳作になったのも、言ってないとか?」
「当たり。母さんにだけ言って、口止めしてもらっている。もっとも、母さん
は口が軽いから、直に伝わるだろうけどね」
「ふうん。まあ、大学に行けば、その間はごまかしが利くって」
「ごまかしね。当たらずとも遠からず」
と、苦笑する堂本。
「とにかく、選評を知りたいんだ、今は」
「センピョー? あー、選考委員のお言葉ね」
「そう。それを読んだら、もう少し、方向がはっきりするかも」
「そのためには、あと二週間、待たなきゃ……。あ、授賞式は?」
思い付いて、振り返るユキ。場所がちょうど、書店の出入口だったせいもあ
って、後ろを歩いていた堂本とぶつかりそうになる。
「何て?」
「だから、授賞式。そういうのはないの? そこで話が聞けるんじゃないかと
思って」
「あるにはあるけど、十二月だったかな?」
「そんなに先なんだ」
「それに、非公開」
「え? それって、他のマスコミが来るなんてことはない訳? 残念」
「去年もそうだったんだ。売り出すための戦略らしいね。作者のプロフィール
は一切明かさず、顔写真も知らせない。それによって読者の興味をかき立てよ
うって寸法。三年ぐらいして、まだ作家を続けていられたら、公開するとか」
「じゃあ、当分の間、この賞でデビューした人のプロフィールを知ることがで
きるのは、出版社と動機デビューの人だけなんだ」
「いや、僕だって、他の人には会わせてもらえないらしい。授賞式も、一人ず
つ、別々にやると聞かされているんだ」
「うっわー、徹底してる!」
道すがら、半ば呆れたように叫ぶユキ。
「でもって、寂しい授賞式になりそうだね」
「それはどうだか知らないが、ぽっと出の素人作家を、お偉方で囲んでしまお
うなんて、意地の悪い発想には違いない」
真っ平御免とばかり、手で顔を扇ぐ堂本であった。
−−続く