AWC Boy needs Girl 8   名古山珠代


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#3047/5495 長編
★タイトル (AZA     )  95/ 4/29   8:26  (199)
Boy needs Girl 8   名古山珠代
★内容
 メモ用紙に書き込む堂本。まだ、決心できたようではなさそうだったが。
「それから……ツァーク派とヒネガ族の同盟が、どうにか成立して」
「待って。ポルティスは放ったらかし?」
「これから言うことが、つながっているよ。ポルティスは今のとこ、忠実なる
将を装っている。ツァークは、兵力としても、友人としても、ポルティスを仲
間にしたい。キルティについては、言うまでもないよね。……で、同盟成立後、
本格的に戦争状態に突入する。戦闘場面では、ポルティス以外の白の六騎士と
かケント・ワルドーとかを出すことになるかな」
「六騎士の何人かは死ぬのかな」
「いや、戦闘では誰も死なない。もちろん、ケントもコウティも」
「えー? だったら、ヒネガ・ツァーク連合が負けっ放し?」
「『いい者』が負けると、だめかい?」
 と、笑う堂本。ユキは、迷った風に口を尖らせてから、
「そうでもないけど、最後にはヒネガ族が勝ってくれなきゃ、ねえ」
 と答えた。
「一応、そうするつもりだけどね。最後まで、ツァーク達とヒネガ族が円満で
行くかどうかは、?マークにしておこう」
「ああ、そういう引っ張り方もあるのね」
「まあ、自分でも決めかねている部分があるんだけど。それより話の続きだ。
簡単に話すとか言って、すごく長くなっているな」
 苦笑する堂本。喉の渇きを覚えたか、冷えた紅茶を呷った。
「長引く戦争。そんな最中、ある戦闘でのアストブの勝利は、アストブをかな
り有利に導くものと言えた。それを祝したパーティが開かれ、白の六騎士全員
が揃う。久しぶりの華やかな席で、誰もが酔っていた。その翌朝」
 効果を出すためか、言葉を区切った堂本。ユキは固唾を呑んで、次の言葉を
待つ。
「……白の中庭で、六つの遺体が発見された。六遺体とも、白の六騎士のシン
ボルである白い鎧を身に着けていた」
「ま、まさか、白の六騎士みんなが死んじゃったの?」
 突っかかり気味のユキに、堂本は黙ってうなずいてみせた。
「そんなあ……。題名に『白の六騎士』ってあるのに。主人公がいなくなる。
……ツァークが主人公になるのかしら」
「遺体はそれぞれ、一部が切り取られていた」
 ユキの言葉を無視して、堂本は続ける。彼は別のメモを取り出した。
「弓が得意なエメーゼは腕と胸部、女たらしのオルトンは腰、持久戦のドゲン
ドルフは腹部、脚力のあるフーパは膝から下の両足、知略に長けたポルティス
は頭、馬上の戦いを好むユストリングは大腿部がなかった。つまり、各自の最
も優れた肉体部分を切り取っている訳」
「何で、持久戦が腹部になるの?」
 思わぬ質問だったらしく、堂本は明らかに戸惑っていた。
「それは……持久戦と言えば、食事のことが一番の問題だろ。何日経とうが、
何も食べずに頑張れるという意味で」
「こじつけっぽいなあ。まあ、いいけど。よーするに、身体を六つの部分に分
けたかったんだ」
「それは置くとして……そこに占術師が登場」
「センジュツシ?」
「占い師のことだよ」
「占い師なら、占い師と言えばいいのに」
 不満を示すユキ。他に分かりやすい言葉があるのに、難しい単語を使う奴は、
嫌いな彼女だ。
「占い師だと、安っぽい感じがする。ファンタジーでは占術師とか呪術師と言
わないと、しっくり来ない」
「分かった。次」
 字で読めば、意味も分かるだろうと思い直し、ユキは続きを促した。
「その占術師の名は、ルナイ・ウボツサ。女の占い師」
 またおかしな名前が出てきたぞ。そんな風に思いつつも、ユキは黙って聞く。
「彼女は戦況について、近い未来のことを当ててみせ、たちまちコウティ・ワ
ルドーに取り入る。コウティはルナイの言うことなら、ほぼ無条件に受け入れ
るようにさえなった。で、あるとき、ルナイが予言する。『白の六騎士の死は、
反対勢力の悪計。その失われし肉体を集め、総ての能力を有す<黒の騎士>を
生み出さんがために。<黒の騎士>がアストブの進撃を阻むであろう』と」
「ほ? それって、バラバラ死体を引っ付けて、人間を造るってこと……」
「そうだよ」
 にやっと笑う堂本。ユキは強く頭を振った。
「だめよ。ぜーんぜん、だめ! どーして唐突に、魔術が出てくるのよ。今ま
で、いくらファンタジーと言っても、中世ヨーロッパ辺りの雰囲気だったのに」
「中世の頃は、魔術が実際にあったかもしれないじゃないか」
「あったかもしれないって……これまでのお話はどうなんのよ」
 次第に熱っぽい口調になるユキ。と言っても、言葉遣いは普段とあまり変わ
りないが。
「戦争するのだって、魔術が少しも出てきてないじゃないの。それとも、言わ
なかっただけ?」
「いや、魔術は全然、使っていない。そもそも、この物語の世界に、魔術師な
んていないんだ」
「あー? 分かんないなあ。さっき、魔術でバラバラ死体を蘇らせるって、言
ったじゃないの」
「魔術なんて、一言も言ってないよ、僕は」
「そうかしら。でも、魔術なしに、死んだ人を蘇らせるなんて。残っているの
はドラキュラかキョンシーぐらいじゃないの?」
「手品がある」
「手品って、鳩を出してどうすんの?」
「そういう意味じゃなくて、どう言ったらいいのかな」
「どう聞いたらいいのかな」
 ユキがふざけると、堂本は疲れたように両手を床に突いた。
「ごめんごめん。気にせず、続けてくれたまえ」
「……手品的な手法と言えばいいかな。種明かししてしまうのはもったいない
から、ヒントだけ教えよう。黒の騎士が魔術で復活したんじゃないとしたら、
当然、人間になるよね。で、黒の騎士の顔は誰の顔?」
「え? 確か……ポルティスってことになるのよね」
「その通り。もう少し、ヒントだ。ポルティスは生きているということ」
「う、何となく、見えてきたよーな……」
 ユキは両肘を突いて考えを巡らせる。その思考に待ったをかける堂本。
「そこから先は、考えないでくれよ。読んでからのお楽しみということに」
「はいはい」
 堂本の懇願する様子がおかしかったせいもあって、ユキはあっさり、うなず
いてみせた。
「要は、ポルティスが生きていた、と」
「そうなんだ。彼がツァークやヒネガ族の味方する状況を、自然に作り出すた
め、黒の騎士なんていう『怪物』を創り出すんだ」
「ということは、占い師のルナイも……」
「ヒネガ族らの味方。ポルティスを自然な形でアストブから抜け出させるため
の作戦だよ」
「そこまで面倒な方法を使うからには、何か理由がいるんじゃない? 他の白
騎士達を殺すのは、戦争するんだから、まあ、しょうがないとしても」
「考えているよ」
 抜かりはないとばかり、強くうなずく堂本。
「ポルティスがあからさまに反旗を翻せないのは、さっき言った理由の他にも、
ちゃんと考えている。両親がいるからだよ。自分一人なら、勝手に動けるかも
しれないけど、両親は残さざるを得ない。ポルティスは両親に国の手が延びる
ことのないよう、一度、死んだように見せかける必要があった」
「OK、納得納得。んで、黒の騎士としてポルティスが活躍、戦争に勝利して、
国を治める。めでたし、めでたし」
 自分一人、拍手するユキ。
「そう簡単には……。確かに、黒の騎士に対するアストブ側の『恐れ』は相当
に強いから、黒の騎士の存在だけで、腰が引けてしまってもおかしくないけど
ね。たった一人の兵士で全ての戦況が決するなんて、あり得ない。でも、最終
的にはツァーク・ヒネガ連合の勝利で終わる」
「途中で、黒の騎士の正体、アストブ側にばれるとか」
「それも考えているんだけど、うまく処理できるかどうか、自信ない。ばれた
ら当然、ポルティスの両親が危険にさらされる場面も出さなきゃならなくるし。
そうなったらなったで、助けに行かなきゃ不自然。なかなか、戦争が終わりそ
うにないな、これでは」
「……今さら言うのも何だけど」
 少し言いにくい意見なのだが、ユキはおずおずと口を開いた。
「戦争を起こさないような設定に変えられないかな?」
「戦争を起こさない、だって?」
 声が大きくなる堂本。急に大幅な変更を持ちかけられ、狼狽している感じだ。
「じゃあ、ツァークもヒネガ族も大人しいままかい? コウティやケントと、
ツァークとやレイカとのいざこざもなし? それだと、話が進まない」
「いいから聞きなさいって。ポルティスは恋人のキルティのことを思い、ヒネ
ガ族の集められている土地−−ノルデルンをよくしたいと考えてる。また、キ
ルティと一緒に暮らしたいとも願ってるのよ。それには、白の六騎士を抜けな
くちゃならない。でも、名誉ある地位のため、周囲が許さないんだな、これが。
そこで、ポルティスは考えた。堂本クンご自慢の、自分が死んだように見せか
ける、さっきのやり方をね。計画はまんまと成功、ポルティスはキルティと一
緒に、いつまでも幸せに暮らしましたとさ」
「……何と言うか……」
 聞き終わった堂本は、しばらくしてから、うなるような第一声を上げた。
「戦争が起こらないのはいいとして、自分のためだけに、他の白騎士五人を殺
すのか、ポルティスは?」
「あ」
「そういう主人公だと、読者の共感は得られないだろうね。それに、戦争がな
いからには、黒の騎士は出て来ないんだよね? それだと、困るんだ。だまし
にくくなる」
「うーん」
 何も返す言葉が浮かばない。ユキは、ただ、うなるだけになる。
 そんな様子を見て、かわいそうに思ったのでもないだろうが、堂本が助け船
めいたことを口にした。
「でも、まあ、ツァークやレイカ、コウティを切り捨ててみるのも、一つの考
え方だね。物語全体としては、すっきりするかもしれない」
「……ポルティス以外の白騎士は、実はすごく悪い人達で、キルティを、その
……辱めていたっていうのは、どうかな?」
 いきなりのユキの言葉に、堂本はまたも戸惑いを隠せない。
「何だって?」
「うーんとね。あとの五人は、ポルティスを仲間外れにしたがってるの。彼が
ヒネガ族の女と付き合っている、ただそれだけの理由で。ポルティスとしたら、
キルティやヒネガ族の弁護をするでしょ。それを五人は、わざとひねくれて受
け取ってみせるのよ。『そんなにヒネガの女がいいのなら、一度、抱いてみよ
う』ってなもんよ。うー、こんな台詞、嘘でも言いたくないな」
 自分の肩辺りを両手で抱きしめるユキ。
「木川田らしいと言うべきか、らしくないと言うべきか……とにかく、面白い。
少々、テレビドラマの影響の気があるようだけど、これならポルティスが他の
五人を殺す理由も生まれるな」
「黒の騎士だって、出せるんだぞ。ワルドーがこれまで制圧してきた部族の怨
念と呪いによって白の六騎士は殺されたと、アストブ内に噂を立てる人物がい
てさ。最初はコウティ・ワルドーも笑ってすましてたけど、黒の騎士が現れる
に至って、本当かもしれないと悩み出す訳よ。頃合を見計らって、黒の騎士の
からくりを知っているツァークやレイカが、父王にこう言い含めるの。『他の
部族、他の民の魂も弔いましょう。そうすれば、きっと、あの黒の騎士とかい
う化け物も姿を見せなくなるはずです』ってな具合に。本当に王様がその言葉
に乗るかどうかで、話が広がる可能性もあるかな」
「うん、悪くない。それどころか、すごくいい感じだよ。戦争を起こしてしま
うより、よっぽどいい」
 言葉とは裏腹に、堂本は、やや沈み気味の表情。それに気付いたユキは、上
目遣いをする。
「あれ、どしたの? いいって言ったくせに」
「……最初の部分、書き直さなきゃならないかもしれない。そう思うと、悲し
くて悲しくて」
 もう吹っ切れているのだろう。堂本は、おどけて答えて見せた。
「そっか、それがあったんだ」
 口で喋るだけで、小説が完成した気分になっていたユキは、口を半開きにし
て呆然とした体。かと思ったら、くくくっと笑い始めた。
「まあ、書くのは堂本クンなんだ。私が気にすることじゃない。頑張って」
「『君、書く人。僕、読む人』ってとこだな」
「何よ、それ?」
 首を傾げるユキ。
「知らない? 昔のコマーシャルで、似たようなのがあったんだ。流行語にも
なったはずだけど」
 堂本も首を傾げている。
「聞いたことない」
「おかしいなあ。有名なコマーシャルだよ」
「堂本クンって、古いことを知っているんだ。そっちに感心するわ」
「それだけ聞いてると、歴史か何かに詳しいみたいだな」
 堂本は原稿を読み返し始めた。
「さあて、どこを直さなきゃならないかなっと。とりあえず、戦争に入ってい
ないのだから、大部分はいけると思うけど……。最初の方の、キルティの描き
方だな、最難関は」

−−続く




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