AWC Boy needs Girl 7   名古山珠代


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#3046/5495 長編
★タイトル (AZA     )  95/ 4/29   8:23  (200)
Boy needs Girl 7   名古山珠代
★内容

 自室に戻ったツァークは、思い起こしたことがあって、すぐに部屋を出た。
妹の部屋に向かうためである。
「レイカ。いるんだろう?」
 部屋の前に立ち、軽く扉を叩いてから、ツァークは呼びかけた。
「いなくなろうにも、外出は制限されてますから。お兄さん達のようにお忍び
もままなりません」
 自嘲気味の響きを持った声でが、中からした。
「忍んでいるのは、ケントだけさ」
 ツァークは訂正をしてから、扉を開けた。
 うすい桃色を基調とし、きれいに整えられている室内。その中で一際目立つ
のは、深紅の服を纏った部屋の主。
「極彩色は、父上の命か」
「そのようね。こそこそ動かれては困るからでしょう」
「……さっき、おまえとライアとの話が出た。と言っても、内容は聞かずに出
てきたんだが」
「そう」
「まあ、政治の道具にされなかっただけでも、幸福と思うべきかもしれない。
本当に思う人と一緒になれるのであれば」
「けれども。直にあの人達は、様相を政略結婚としてしまいます。きっとライ
アも、名前も聞いたことのないような、しかし大きな貴族の一人にされて、私
の目の前に姿を現すことでしょう」
 諦めにもにたしらべが、彼女の口を突いて出た。そしてそれは続く。
「このままライアと一緒になれても、窮屈な生活に終始するでしょう! 私は、
私達はもっと自由になりたい……。王族の名なんて、広大な浜の砂粒のごとく、
消し飛んでなくなればいいのに。……また同じ愚痴になってしまったわ」
 微かに笑うレイカ。
「おまえの幽閉扱いを見ていると、それも仕方なく思えるよ。もし、もっと私
に力があれば、王族の呪縛なんぞ、取り払う法を立ててやるのだが」
「それは−−。少なくとも−−」
 レイカは皆までは言わなかった。言えなかった。
 ツァークも分かっているのだ。
 父王が亡くならぬ限り、叶わぬことです−−。

 シュートでもかなり大きな港町に、王族じきじきの命を伝える使者が来たの
は二日後であった。
「確かに伝えたぞ」
 使者は言うと、すぐまた引き返して行った。
「やったな、ライア! これでおまえの将来、間違いなしだぜ」
 使者の言葉を伝え聞いた青年は、そんな仲間の言葉を聞き流しつつ、しばし
その場に立ち尽くした。
「うまくやれよ!」
「あ。……ああ」
 ようやく青年−−ライア・トゥルーリは笑った。
 海での生活が多いためか、手はごつごつしており、日に焼けた精悍な顔つき。
真っ黒な髪は今はざらざらしているが、手を入れればすぐに流れるようになる。
 すぐにでも出発しないと行けない。突然のことに戸惑いはあったが、行かな
くては何にもならないのだ。レイカとはここ半年は、直接会うこともままなら
ず、手紙によるやり取りも、王族相手では検閲もあって、気後れしがちだった。
 それが今度の招待だ。そう、正しく使者は招待状を携えてきたのである。一
両日中に発てとの命で、ライアのシュートでの業は自動的に停止され、オスト
での用が済むまでそれは続けられる。
 制服を着替え、ライアはすぐに家に向かった。無論、両親に知らせるためだ。

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 ユキは原稿から目を上げた。
 結局、未完成のままの作品を読んでいる。と言うのも、堂本の方が進められ
なくなったと言い出したからだ。書き上げた分を読んでもらって、これからど
う進めるべきか、検討してみたい。堂本はユキに、そんなお願いをしてきた。
しょうがないなーと言って、ユキが引き受けたのは記すまでもない。
「あの、まず、関係ないところから言うけど」
「うん」
「名前さあ、何か変じゃない? アストブって、何だか『明日、飛ぶ』みたい
で、イメージが……。コウティは『皇帝』に似せているのは、まあいいとして
もよ。ゴルドーは『ゴールド』を思い浮かべちゃうし」
「ゴルドーっていう名前、本当にあるんだよ。オランダとかに」
「あ、そうなの? それはそれとして、白の六騎士さんの名前のややこしさ、
何とかならない? えーっと」
 原稿をめくるユキ。目指すページを見つけると、その六つの名を読み上げた。
「ポルティス・アスト・ネーヴァ、オルトン・アスト・ペトリントン、ドゲン
ドルフ・アスト・ヨルフ、フーパ・アスト・ディクラション、ユストリング・
アスト・ヘイティッド、エメーゼ・アスト・ボリッシュ−−覚えられるかい!」
 最後は何故か、関西弁の口調。
「で、でも。アストブの名誉ある騎士だからということで、ミドルネームにア
ストを付けたんだけど」
「ふーん。あれ? 王様とかにはないけど、そのミドルネームが」
 原稿をぱらぱらとさせながら、ユキは気付いた点を口にした。
「王族や皇族は、それぞれ、ワルドー、ゴルドーという名前を持っている。そ
れだけで尊称なんだ」
「ははあ。……それはいいとして、どうして、こうも国籍不明な名前を付ける
のよ。せめてさあ、マイケルとかジョージとか、親しみのある横文字にしてく
れりゃいいのに」
「それだと、逆にイメージが固定されてしまうと考えたから、なるべく耳にす
る機会の少ない名前にしたんだ」
「いくら理屈をこねようとも!」
 ユキは、右手人差し指を立てた。
「名前の付け方のセンス、ずれてるんじゃない?」
「う……」
「ほれ、あのイラストの、ツリーバーからして、おかしい」
 立てた人差し指を、壁にある妖精に向けるユキ。妖精に意志があれば、何ら
かの反応を示したろうが、実際にもじもじしたのは、堂本の方である。
「聞き慣れない名前にするんなら、ややこしいフルネームなんてやめて、ポル
ティスとかヨルフとか、短くしよう」
「そうかな」
「でなきゃ、六人の違いが、ぱっと伝わるようにしてくれないと。ほとんど六
人まとめて紹介されたようなもんじゃない。何か特徴でもないと、とても、覚
えきれない」
「特徴のつもりで、髭、赤髪、緑の瞳なんかを書いているんだが」
「あんなんじゃだめ。何てのか、見た目よりさ、中身とか性格の違いの方を、
その、浮き彫り? 性格を浮き彫りにしてくれたら、きっと印象に残る」
「性格の方も、書いたつもりだけどなあ」
 首を捻る堂本。納得できない様子だ。
「言葉だけで説明してるからよ。実際に、女たらしの……誰だっけ、そうそう、
オルトンが女と遊んでいる場面を描写してこそ、自然と覚えられると思う」
「なるほど。的を射ている感じだ」
 堂本は、ようやくうなずいた。そして、かたわらに置いていたメモ用紙に、
ユキの言った旨を書き付ける。
「これまでの欠点を指摘してくれるのもありがたいんだけど、これからどう書
くかについても」
「ああ、そうだったわ。予定ではどうなるの、この物語?」
「簡単に言ったら……。ヒネガの一部がアストブに反乱して」
「お決まりね」
「うるさいな。そういうのしか思い付かないんだから、しょうがない。……ポ
ルティスは戦争を回避するために奔走するんだけど、うまくいかない。それど
ころか、キルティと恋仲であるのを怪しまれ、スパイ扱いされそうになる。ポ
ルティスは悩んだ挙げ句、身の潔白を示すため、キルティを殺す」
「えー! 殺しちゃうの?」
 悲鳴を上げるユキ。
「そんなんじゃあ、読者の共感は得られないよ、この主人公」
「慌てないで、聞いてくれよ。殺したと見せかけるだけ。アストブ側の人物に
その様子を目撃させればいい」
「なーんだ」
「でも、表向きはアストブに改めて忠誠を誓った形になるんだから、もはや戦
争反対と叫んでもいられない。結局、開戦してしまう」
「そうこなくっちゃ」
 嬉しそうな表情を作ったユキ。これで面白くなるぞ、そんな顔だ。
 胴元は開いた口がふさがらない様子。
「あのねえ……。ま、いい。ポルティスは白の六騎士の一人なんだから、言わ
ば大将格。最前線に赴かないでは済まされない。だましだまし、戦っていくこ
とになる。一方、アストブ内にも、火種があって」
「あ、ツァークとレイカのことね」
 ユキが先回りする。堂本は別に嫌そうな顔一つせず、認めた。
「そう。ツァークは父・コウティのやり方に疑問を持って、段々と従わなくな
る。その上、王族の血筋を厭う発言までする。他の面では冷静沈着な国王も、
息子の反抗には激怒。継承権を剥奪の上、城内の地下牢に幽閉する」
「いきなり……そこまでするか?」
「だから、省略して話してるんだよ」
「勘当すれば、話は丸く収まる」
 ユキの単純な結論を、堂本がすぐに否定した。
「体面がある。それに、戦争しようかという時期に、国民に人気のあるツァー
クを王族から追い出したら、士気が乱れる。ツァークの下に人が集まり、アス
トブに対して兵を興すような事態にでもなったら、大混乱になるじゃないか」
「ふむ。分かった」
 先に行ってというように、ユキは左手をひらひらさせた。
「アストブ国はケントが後継者となって、ヒネガとの戦争に邁進。レイカは、
もちろん戦争反対。できればツァークにこの国を治めてほしいと願っている。
彼女は婚約者となったライアに、相談を持ちかける。困ったのはライア。彼自
身は純粋にレイカを好きなんだけど、彼の親や親類達は、そうは考えていない。
出世コースに乗ったと思っている。だから、ライアも悩む訳。レイカの考えを
アストブの偉いさんに伝えれば、さらなる出世は間違いなし」
「だけど、言いつけないのよね?」
「そのつもり。ライアは地下水路を利して、ツァークを脱出させる計画を実行
に移し、成功。脱出後、ある程度の時間が経ってから、ツァークはアストブの
新国王を宣言する。国民の指示はほぼ二分されて、混乱が現実のものになった。
と言っても、戦力を見れば、コウティの方が圧倒的に有利。ツァークがいくら
非戦を説いても、父親は当然、聞き入れない。力で叩き潰そうとする。ツァー
クは戦争に身を投じることを決意」
「あらら。レイカちゃん、かわいそ」
 今度は非戦論者になるユキであった。
「そのことで、レイカはツァークに詰問する。と言っても、彼女は自由に出歩
けない身だから、手紙を出すんだけど。ツァークはレイカを説得する。レイカ
がやっとのことで決意を固めかけたとき……手紙がアストブの者に見つかって
しまった」
「げっ」
「関与した婚約者のライアは処刑され、レイカは完全な幽閉状態に置かれる」
「レイカの方は、殺されないのね?」
「うーん、実際はどうだったんだろう? 王族が身内を殺すなんてのは、割と
あったはずなんだ。だけど、大っぴらに処刑という形では殺さない。事故とか
暗殺とかに見せかける」
「だったら……。ううん、私としたら、レイカに死んでほしくないんだけど」
 首を振りながら、ユキは言った。
「レイカは実の娘だから、コウティも殺せないと思う。実の息子だったら、ま
だ分からないけど」
「ツァークとは戦って、レイカは生かす……。何となく、分かる気がするわ」
「さてと、元に戻って……。ツァークはレイカの身の上に起こったことを知る。
が、妹の生命は大丈夫と分かって、ほっと一安心。戦力増強を狙ったツァーク
は、ヒネガとの同盟を選択した」
「へえ! だけどさ、ヒネガ族は簡単には受け入れないよ。信用もしない」
 また先回りするユキ。
「図星だよ。ここで何か、信頼関係を築けるエピソードを入れたいんだけど」
 初めて、堂本はアイディアを求めるような言葉を口にした。
「ありがちなところだと、戦火にやられそうになったヒネガ族の子供を、身を
呈してツァークが助ける、なんてのがあるけど」
 自分でもいささか白けながら、ユキは言ってみた。返ってきたのは……。
「そういう安易なのは、ちょっと……。できれば、ポルティスに絡めたいんだ。
ツァークがポルティスの味方と示せれば、ヒネガ一族にも信用の余地ができる」
「そう言えば、そのポルティスは? 反乱しないの?」
「ポルティスの方は、大将格と言っても、一兵士なんだからね。反乱を起こし
たって、部下の兵みんながついて来てくれるとは限らない。だから、簡単には
行動に出られない」
「なーる。で、ポルティスとツァークの話に戻るけど、やっぱり、最初の方で、
二人が知り合いってことを書いとくしかないんじゃない? 二人して、理想の
国家を話し合っているとか」
「王子と一介の将が話をするっていうのが、ちょっと引っかかる」
 堂本は疑問を呈した。それを、ユキは気楽に流す。
「いいっていいって。親友にでもしとけば」
「……その線で行くしかないか」

−−続く




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