AWC Boy needs Girl 6   名古山珠代


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#3045/5495 長編
★タイトル (AZA     )  95/ 4/29   8:20  (196)
Boy needs Girl 6   名古山珠代
★内容

「弟は相変わらずで」
 シックルは娘ら二人に言い聞かせるようにする。
「他の者は、ほぼ、あんたのことを信用しているがね。ポルティス」
「仕方ないでしょう。所詮、私はアストブの兵に過ぎない」
 苦笑するポルティス。キルティックの方は、心配そうに顔を上げている。
「せめて、ヒネガの人をオストに出せたらねえ」
 叶わぬことと知りながら、タニアがつぶやく。
「もういいでしょ、こんな話は。ポルトは私に会いに来たんだから」
 キルティックは少しばかり目をつり上げ、両親とポルティスの三人をにらん
だ。「分かったよ。部屋に行きなさい」
 親の声全部を聞き取らぬ間に、キルティックはポルティスを引っ張って、階
段を上がった。
「もう大人なのに、うるさいんだから。私達の邪魔して」
 扉を後ろ手で閉めながら言うキルティック。
「大人だから、考えなきゃいけないのかもしれない」
「それは分かっているけど……。あなたが来たときくらい、やめたいのよ」
「そうだね、やめよう」
「ね、この首飾り、シュートの?」
「あ? ああ、そうだよ」
「高かったんでしょう? お金、いいの?」
「平気平気。親に仕送りしなくていい身分だからね」
 六騎士の血縁者は、六騎士に忠誠を誓わせるため、王族の下での生活を強い
られる。しかし、その生活は充分に保障されていた。皇族の出でない六騎士は、
用心のためにこんな目に遭わされる。
「だめ、そんなことを口にしちゃ。また話が戻ってしまうわよ」
「そうだったなあ。じゃあ、神話でもしようか、君の好きな」
「わぁ! でも、この前来たとき、ネタ切れだって言ってなかったかしら?」
 ちょっと意地悪っぽく、キルティックは聞いた。
 それを見たポルティスは、声を出さずに笑ってから、胸を張って答えた。
「心配召されるな、お姫様。ちゃんと仕入れてきたからさ」

「ポルトは彼女に会いに行ってるって?」
 アストブ白の六騎士の一人、ドゲンドルフ・アスト・ヨルフが大声で言った。
きっちりと切り整えらえた髪に見事な髭が、この男の性格を反映している。い
かなる困難も、じっと耐える。彼に持久戦を挑んで勝てる者はいない。それが
定説であった。
「そうさ。またヒネガの女にね」
 オルトン・アスト・ペトリントンは、赤い酒を口に運んで湿してから、ゆっ
くりと受け答えをした。そして、酒よりも赤い長髪をかきあげる。
「エメーゼもフーパもそうだったな。全く、軟弱な奴らだ」
 他の二人の名を上げ、悪口を言うドゲンドルフ。そして続ける。
「我ら六騎士は、威厳を持っていないといかん。かと言って、いつもお馬に乗
っているユストみたいなのも困るがな」
「ふふ。君は立派だよ、ドルフ」
 オルトンは自分の代金をテーブルに置くと、席を立った。
 愛称で呼ばれたドゲンドルフは、一瞬、くすぐったそうな表情をしてから、
「おい、どうした?」
 と聞いた。
「なあに。ちょっと、約束があってね。では、失礼」
「あ。おい、ちょっと待てよ。まだ来たばかりだぜ」
「女を待たせるのは趣味じゃないんでね」
 事も無げにそう答えたオルトンを、呆然としながら見送ったドゲンドルフ。
しばらくしてから、一言、彼は叫んだ。
「……おまえもか!」

 短い休日を終えて、ポルティスはオストに戻ってきた。仲間に、また嫌みを
言われることになるのだろう。そう思いながら。
 旅支度を解いていると、フーパ・アスト・ディクラションが勝手に入ってき
た。
「どうだったのかな?」
 予想通り、最初に来たのはそんな言葉だった。
「いつもと変わりないさ」
 短く答えるが、フーパの方はまだ突っかかって来る。彼は身体が柔らかく、
足も速かった故、騎士という名に似合わず、白兵戦向きに格闘技をたたき込ま
れた男だ。殊に、その脚力は素晴らしく、相当に重量のある鎧を身に着けてい
ても、すばしっこく動き回れる。身体の柔らかさは、性格まで粘着質にしてし
まったようだが。
「ヒネガの女を抱く気が知れないねえ。あんな所まで旅して行くのも、分から
んなあ。俺なんて、オストの街で間に合わせるんだが」
「いい加減にしてくれないか」
「さすが、六騎士中、最も知略に長けていると言われるだけあるねえ! 冷静
なことだ。その冷静な頭で考えて、ヒネガとの関係を断っといた方がいいと、
どうして分かんないのかな?」
 目をぎょろつかせて、フーパはポルティスの顔をのぞき込む。
「うるさいじゃないか!」
 そう叫んだのは、ポルティスではない。声がした廊下の方を見ると、ユスト
リング・アスト・ヘイティッド、通称ユストがいた。
「おお、これはユスト。お馬乗りのお帰りかね」
「外れだ、フーパ。私の部屋がどこか知っているだろう? そう、ここの隣だ。
こううるさくされては、勉強にならんのだ」
「へいへい。退散つかまつりましょ。じゃあな、ユスト君にポルト君!」
 せいぜい毒づくと、フーパはドア付近に立つユストリングをよけながら、ポ
ルティスの部屋を出て行った。
「ありがとう、ユスト」
「何を言ってるんだ、ポルティス。私は君を助けたんじゃない。そうだ、この
際、言っておくが、フーパの奴が言ってたことは余計だが、事実だ。君も早く、
ヒネガとの関係にけりをつけておくのが賢明だと思うがね」
「……」
「では、静かにしてくれたまえ。お目通しまでは、まだ時間があるんだからな」
 そう言って出て行ったユストリングの姿を目で確認すると、ポルティスはた
め息をついた。
「どいつもこいつも同じだ……」
 これから後、三人に同じ様なことを言われるかと思うと、気が重くなるポル
ティスだった。

 ユストリングの言っていたお目通しとは、休日を終えた直後、王室に挨拶に
行くことである。これは六騎士に限らない。が、それは総て、型にはまったも
のであり、何等、意味を持たなかった。強いて言えば、国王への忠誠心を思い
起こさせるためか。
「あーあ、退屈だったな、相変わらず」
 こう言って、エメーゼ・アスト・ボリッシュは、大きく伸びをした。弓の名
手たる彼は、その緑の眼で狙いを定める。
 彼の言葉通り、退屈そのものの挨拶をすませた六騎士は、かたまって王室を
抜け出た。幼い頃に戦士として選ばれ、同じ環境で育てられたためか、体格は
ほとんど同じと言ってよい六人。しかし、性格はバラバラのようであった。
「そんなことを言うものではない。これによって騎士としての威厳を奮い起こ
すのだから」
 ユストリングがたしなめるように言う。ドゲンドルフも同調した。
「全くだ。ポルトやフーパやエメーゼみたいに、休みの間中、女のもとにいる
ような奴にこそ、必要じゃないか」
「オルトンはどうなんだ? 俺達の中で一番の女たらしは、こいつだと思うが
ねえ」
 フーパが自分のことを話題から外さんとして、赤髪のオルトンを指さした。
「僕は特定の娘とはつき合わないからね。ほんの息抜き程度にしか考えていな
いさ。気持ちの切り替えは、完璧につけている」
「それなら、俺達だって、切り替えはちゃんとやっているよな」
 フーパはエメーゼに同意を求めた。
「そうだとも。しかし……それを割り引いても、ポルトの感性にはついて行け
ないと思うな」
 最終的に標的となるのは、たいていポルティスであった。
 彼はいい加減、苦々しく思いながらも、反論はやめておく。しても同じだか
らだ。出世ばかり考えている人には理解できないものなのか、と感じつつ……。

「またポルティスが、ヒネガの苦情を持って帰ったそうだな」
 国王−−コウティ・ワルドーの野太い声が、王室に響きわたった。
 国務大臣のヌル・ゴルドーは、その声に少し驚きつつ、話を続けた。
「はい。先ほど、係の者から書を預かって参りましたが、お読みに−−」
「いらぬ。読まなくても、内容は分かっておる。税がどうの、肥料がどうの。
他の区もそうなのだから、どうにもなるまいのに」
「ノルトは土が悪いそうですし、ヒネガは先の戦争で功のあった部族なのでし
ょう? 特例を認めてはどうですか?」
 提案をしたのは、ツァーク・ワルドー。第一王子である。生まれた折から身
体が弱く、将来が不安視されたが、兵法を中心として才を磨き、現在では民の
信頼も厚い。
「それはもちろん、考えておる。しかし、先代からの命があって、ヒネガを取
り上げることはできんのだ。何度か言ったことがあろう?」
「それは承知しています。もはや今の世、アストブを揺るがすような戦が起こ
るとも思えません。何とか……」
「兄上もしつこいな。ここまで我らが国が強大になったのは、ヒネガ族を押さ
えつけていたおかげ。今、あの者どもを解き放てば、戦いとなるのは必至。こ
こは先代の命を守るのが肝心なのでありませぬか?」
 ケント・ワルドー、第二王子が言った。こちらの方は誕生の時の国王らの願
いが通じたか、身体の丈夫さが最大の武器であった。その強さは、白の六騎士
に肩を並べる。
「ケントの方がよく分かっておるわ! ツァークもしっかりしておらんと、お
株を奪われることになろうぞ! わははっ!」
 自慢の長い口髭をなで下ろしつつ、国王は豪快に笑った。
 ツァークは不満そうな表情をしてみせたが、それ以上は何も言わずにいた。
 ケントの方は、ニヤリと口元を歪め、この場の状況を楽しんでいる。
「さあ、この話はこれまでだ。それより、レイカの相手の問題だ」
「レイカ王女のお相手につきましては、ディーンが調べておりましたので、そ
ちらにお聞き願います」
 王族親子のやり取りを傍観していたヌルは、急に話を持ってこられ、幾分慌
てながら答え、部屋の袖に退いた。
 代わって、ヤヌカ・ディーンが入って来る。彼は王室付きの諜報員のような
もので、王室の醜聞の処理を主な仕事とする。故に、背が低く、あまり目立た
ない格好をしている。彼のような身分の者は、下の名で呼ばれるのが通例であ
る。
「報告を聞こう」
「あ、妹の相手にどの様な人物がなろうと興味はないので、私は失礼させても
らいます」
 ツァークはそう言い置いて、奥の自室に向かった。
「兄上は相変わらず堅いな」
 と呟いたケントを黙らせ、国王はヤヌカ・ディーンを促した。
「王女のお相手として噂される、ライア・トゥルーリについての調査結果、報
告いたします。
 シュート生まれの二十一才。水軍兵で、優秀な成績を記録しています。家族
は両親とも健在で、他に兄弟はなし。血筋としては、シュートのあるゴルドー
の遠縁に当たります。
 水軍仲間での評判は上々で、国への忠誠心もかなりのものと判断されます。
故郷での交友関係にも、なんら問題点はございません。
 女性関係は、年端も行かぬ頃につき合っていた者がいるくらいで、全くきれ
いなものです。
 以上が、調査結果をまとめたものです」
 抑揚のない声で、ディーンは言った。
「これならいいのではないですか?」
 何も言わない国王に代わり、ケントが口を開く。
 すると、ようやくコウティ王も口を開いた。
「……できれば、正統のゴルドーにやりたかったんだが。まあ、水軍の式典で
娘が見初めおったんだ。よかろう。近い内に、その男……何と言った?」
「ライア・トゥルーリでございます」
「ライア・トゥルーリを正式に来させよ。ライア・アスト・トゥルーリと呼ぶ
にふさわしいかどうか、最後の判定を下してやろう」
 うす笑いを浮かべ、国王は命じた。ヌルは深々と頭を下げ、承知の意を示し
た。
「そういえば、ヌル。お主の娘とケントの仲はどうなっておろうな?」
「さて。私のような年寄りには、若い者のことは分かりませんので……」
 苦笑しつつ、顔を上げて、国王に答えるヌル。彼の娘ロミィ・ゴルドーは、
ケントと婚約を結んでいる。政略結婚の色合いが強いという風評は、ディーン
らの手によって、最小限に抑えられている。つい数カ月前のことだ。
「本人がいる前で、そのようなお話とは、父上達も意地が悪い。我とロミィは
健全にお付き合いさせてもらっていますよ」
 ケントはわざと嘆くように言い、肩をすくめて見せた。

−−続く




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