AWC Boy needs Girl 5   名古山珠代


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#3044/5495 長編
★タイトル (AZA     )  95/ 4/29   8:17  (188)
Boy needs Girl 5   名古山珠代
★内容

「ワープロ、使ったことないの?」
 道すがら、堂本が聞いてきたので、ユキはむっとした。暗がりの中なので相
手には見えないが、相当の膨れっ面である。
「やっぱり、機械音痴だと思って」
「参るな、もう」
 ほとほと困り果てた様子で、こぼす堂本。
「ポケベルとか電子手帳とかは?」
「持ってないよ、あんな面倒な物」
「ふーん。クラスでも、女子のほとんどは持っているようだが」
「ポケベルなんか、勝手だよ。どこにいようと呼び出してきて。首に鎖をつな
がれてるみたいで、嫌い」
「木川田らしい理由というか……」
「電子手帳は、入力するのが面倒。あと、ごちゃごちゃボタンあって、覚えら
れるかってんだ。もう一つ、気に入らないのは、あれさあ、カンニングに使お
うと思ったら使えるよね。見つかっても電池を抜けば、証拠は残らない」
「あー、電池を抜いても、しばらくはデータ、記憶されてるもんだよ。ああい
う機械は」
「え、そうなの? 電池、抜いたら、ぷっつんじゃないの?」
 ユキはぽかんと口を開け、目も見開いた。
 堂本も口を大きく開ける。無論、別の意味で。
「はははっ。機械音痴でよかったな」
「別に、カンニングしたいんじゃないったら」
「分かってるって。君が基本的にできるのは、宿題を教えていて、分かるもの」
「そ、そうかな?」
 少し照れるユキ。
「ヒントを出したら、ほとんど解いていたからな。それより、ワープロぐらい
は使えるようにしといた方が、便利だよ」
「家にない」
「そういうことじゃなくて……。大学に行ってる兄貴がいるんだけど、レポー
トは全部、ワープロでやっている。コピーを取っておく必要はないし、間違え
ても、簡単に修正できていいってさ」
「大学に行くことになったら、考える。んなことより、お兄さんがいたの、聞
いてなかったな」
 先を行っていたユキは立ち止まると、堂本へ向き直った。
「見たことないし……」
「当たり前だよ。家を出て、下宿暮らししてるから」
 堂本も足を止め、さも当然という風に答える。
「なーる。ワープロ、そっちにもあるんだ」
「正確にはパソコンだけど」
「どう違うの?」
「根本から違うんだけど……。今、ワープロがよくなってきてるから、一言で
は説明できないな。またいつかね」
「簡単でいいから、この際、教えてよ」
「うーん……。これが全てじゃないけど、大さっぱに言えば、ワープロは文章
を作って印刷するだけ。パソコンは文章の他にも、ゲームとか、表計算とかも
できる」
「ファミコンの仲間?」
「コンピュータという意味では」
「ワープロとファミコンと電卓を足したら、パソコンなの?」
「……はははっ! いい、それ! うん、間違いじゃあない。規模が違うけど、
基本は一緒だよ」
 ここでも笑われたので、ユキは、まだ機械音痴のことを言われてるような気
がしてきた。でも、もう、どうでもよかった。不思議と、腹立たしくもならな
かった。
 やっと、ユキの家が見える位置に来た。

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   白の六騎士
              堂本 浩一
 男は走っていた。
 何かを追い求めるかのように、黒い瞳をいっぱいに見開き、まっすぐ前を見
つめている。その瞳とは対照的な白の服が、太陽の下、まぶしい。
 男の表情に、笑みが宿った。その視線の先には、一人、女性が立っている。
その表情は見えない。
 男は歩速をやや緩め、息を整えてから叫んだ。
「キルティ!」
 呼ばれた女性は、長い髪を揺らして、振り返った。
「いつのまに? 全然、気付かなかった」
「音を立てずに走る癖がついてるからね。いや、今日はそんなことを話しに来
たんじゃない。君に会いに来たんだから、キルティック」
 男は相手を抱きしめ、軽く唇を重ねた。
「これ、おみやげ」
 懐からきれいな貝の首飾りを出すと、キルティックという名の女性は嬉しそ
うに微笑んだ。
「ありがとう! 貝のなんて、珍しいわ」
 そうして首にかけてもらう。
「また背が高くなってる。つりあいが取れなくなるわ、このままじゃ」
「育ち盛りだからね」
 冗談めかして、男は答えた。それに笑って応じる女性。その笑いが、ふっと
止まった。
「……いつまでいられるの、ポルト?」
「二日後には戻らないと。それまでは軍のことを忘れるからさ」
 男は、すまなさげに答える。再び笑う女性。少し、寂しそうであった。
 二人は歩き出した。
 ここは二人−−キルティックとポルティス−−の約束の地。オストとノルト
の境にある泉の側。

 世はアストブ王国、コウティ・ワルドー国王の天下が五十年以上続いていた。
アストブが他部族との戦いを勝ち抜き、大陸を統一してからは、安寧を極めて
いた。
 王族ワルドーは、国王と女王カルマの間にツァークとケントの二王子、それ
にレイカ王女をもうけ、その世をさらに永遠のものとすべく、盤石の体制を固
めつつある。正当な王族以外は皇族ゴルドーの名で統一されているのだ。もは
や皇族達は、いかにうまく王族に取り入るかを、一番に考えるようになってい
る。
 アストブは大きく四つの区に分けられる。
 日の昇る方角をオステルンとし、これを中心とした区をオストと呼ぶ。オス
トは王族が支配しており、最も栄えている。都は広大で肥沃な台地にあり、戦
争に際しても守りやすい。
 日の沈む方角をヴェステルンとし、これを中心として区をヴェストと呼ぶ。
鉱物を多く産出し、武器に加工してオストに運ばれる。
 ヴェステルンからオステルンを臨み、その右の方角をシューデルン、左の方
角をノルデルンと呼ぶ。各々の区は、シュート及びノルトと称す。
 シュートは海に面した地が多く、その種の産物に富む。未開の平原があり、
王族はここの開発に力を入れつつある。
 ノルトは山地がほとんどで、気候厳しく、森林が多い。アストブに追われた
小部族のほとんどはこの森林に逃げ込み、生き延びている。
 これら各区は、オストを除き、皇族の有力者が支配している。また、その守
りは四方武団と呼ばれる軍によってなされる。
 特にオストの守りは、アストブ白の六騎士という名で尊せられる、特別に鍛
えられた兵士らによってもなされる。白の鎧を着た六人の戦士からなるため、
こう呼ばれる。白い鎧は、希少価値の高い鉱石を高度な技術で加工した物で、
六騎士の他に着ることができる者は少ない。
 ポルティス・アスト・ネーヴァは、その名に「アスト」の尊称をいただいて
いるように、アストブ白の六騎士の一人。六騎士は戦闘を離れても、白を身に
つけねばならない。無論、鎧ではなく絹の服だが、それによって普段も気を引
き締めよという意味が含まれている。
 めったにない休みを利して、こうして恋人に会う。これは六騎士に限らず、
兵役についている者全員の楽しみだ。

「さっき、仕事の話はしないと言ったが……」
 ポルティスは、キルティックの家までの道のり、周囲を見回しながら口を開
いた。
「この村を見ると、思わずにはいられないな」
「やめて。あなたがヒネガのことを思ってくれているのは分かるけど……」
「……うん、分かったよ」
 ヒネガは昔からアストブに協力してきた部族だった。貢献度から言えば、ゴ
ルドーの中でも最高の位置を占めてもよいはずだった。しかし、いざ大陸が統
一されてみると、その力に恐れをなしたのか、アストブの国王はヒネガ族を皇
族扱いせず、北の蛮地に押し込めてしまったのである。
 キルティックはヒネガ一族の正統な血を受け継ぐ一人。彼女の父は、今のヒ
ネガの長だ。それは彼女の名前、キルティック・ジー・チヤからも窺い知れる。
「ジー」とは、ヒネガの尊称なのだ。
 この名のために、ポルティスはキルティックとのつき合いを仲間からとがめ
られ、また、キルティックも、アストブの兵士とつき合うことを、両親からよ
くは思われていない。
「親父さん達は?」
「だいぶ話して聞かせたから、分かってもらえたと思うの。でも、他のヒネガ
の人がどう思うか、それが心配みたいね」
「そうだろうな。まあ、あまり目立つようなことはしたくないし」
 その頃になって、キルティックの家が見えた。古くて由緒ありそうなたたず
まいだが、かなり荒れてきている。
「帰ったね、キルティ」
 少しなまりのある口調が飛んできた。
「お母さん、ただいま」
「お邪魔します……」
 キルティックに続いて、ポルティスも挨拶をする。
「ようこそ、来られましたね。疲れたでしょう?」
「いえ、それほどでも。それより、シックルさんは?」
「みんなと一緒に、耕しに出ていますが、もう少ししたら、帰って来ます。行
き違いになっても面倒ですから、待っていてね」
 母親のタニアの言葉に、若い二人はくすっと笑った。前に来たとき、行き違
いになったのだ。
「じゃ、待たせてもらいます。あ、忘れてましたが、これ、肥料」
「まあ、すみません。どうも」
 タニアは満面に笑みを浮かべ、白い布袋を大事そうに受け取った。
 ノルトでは土地がやせているから、肥料は必需品に数えられる。だが、効果
のある加工肥料はオストでしか造れず、値が張る上にその持ち出しも制限され
ていた。
「大丈夫? ばれない?」
「ああ。係の奴が甘いからな」
 間もなく、シックルらが帰ってきた。
「来ているようだな」

「この土地で、今の税は高すぎる」
「せめて、肥料の制限をといてもらわないと、やっていけない」
「材木の切り出しも、今の調子でやり続けると、山崩れの原因となる」
「だいたい、戦功のあるヒネガをこんな僻地に押し込めるのが、気に食わない」
 夜、ヒネガの者は一族の長の家に集まった。不平不満をポルティスに聞いて
もらい、オストへ伝えてもらうためだ。
「……結局は、いつもと同じですね」
 書付けながら、ポルティスは漏らした。
「だが、そうなるのは、あんたがちゃんとオストに伝えてくれんからじゃない
かね?」
 一人が大きな声で言った。ハックル・ジー・チヤ、シックルの弟だ。ポルテ
ィスは、ぐっと詰まる。
「まあまあ、無理を言うもんじゃない。ポルティスは役人じゃないんだから」
 シックルが仲裁に入る。役人にこんなことは言えないな、と思いながら。
「ではポルティス、頼んだぞ」
「はい」
 ポルティスは、前回とはだいぶあたりが柔らかいなと感じつつ、返事をした。
やはり、シックルの力が大きいのだろう。
 これで夜の非公式な会議は終わり、解散となった。が、一人、ハックルは、
帰り際にポルティスに呼びかけた。
「まだ信用した訳じゃないんだぜ」

−−続く




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