AWC Boy needs Girl 3   名古山珠代


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#3042/5495 長編
★タイトル (AZA     )  95/ 4/29   8:12  (200)
Boy needs Girl 3   名古山珠代
★内容
「ほほう。これ、私が昨日言った、あのモデルをモデルにしてるんでしょ」
「モデルをモデルにって、変な言い方をするなよ」
「ごまかすな。ほれ、どう見ても一緒」
 堂本の気付かぬ内に、例の雑誌を見つけ出していたユキは、原稿とモデルの
写真とを、並べてみせた。
「これだけ似ているんだ。言い逃れはできんぞ、キミ」
「何で、言い逃れしなきゃいけないんだ」
「じゃあ、認めるんだね?」
「まあ」
「ふむ、やっぱり、こういうのが好みなのか、堂本クンは」
 原稿を両手で掲げ、まじまじと見つめてやるユキ。
「何か、絵の方が写真よりきれいに見えてきた」
「そりゃあ、当たり前。いくらか理想化している部分もあるからな」
 素気なく、堂本。
「誉めてるつもりなのに、嬉しがらないの?」
「最終的には、話が面白くなくちゃあ、しょうがないからな。挿し絵がうまく
たって、それだけじゃあ、あまり嬉しくない」
「だったら、読んでいい?」
 イラスト原稿を元に戻しながら、ユキは聞いた。
「読んでもいいけど、その」
 と、堂本は、ユキが仕舞いかけていた裸の絵を指差す。
「そのイラストに関係している小説は、ここにはないから。それ、他人の分の
挿し絵なんだ」
「なーんだ」
「僕が書いた、関係ないのなら、いくらでもある。読むか?」
「そうだね。あの、机の上にある紙の束は? あれ、小説でしょ」
「見つけてたのか。ん、まあ、あれも小説だけど、まだ書きかけだよ。新人賞
に出すつもりで書いている」
「ははあ。将来、小説家になりたいの?」
「できれば。それで、書きかけでも読むか?」
「……んにゃ、いい。小説ができあがったとき、まとめて読みたい」
 ユキが遠慮したのは、途中まで読んでも、すっきりしない気がしたから。そ
れに、かなりの分量で、短時間に理解するのが面倒臭そうだったから。
「そうか。その方が、僕としてもありがたい。いっつも、感想、親にしか聞け
ないでいたから」
「親に聞いてんの? 何か……」
「何かおかしい?」
「うん」
 遠慮のないユキ。続けて言った。
「て言うか、ほのぼのとしたものが……。今、思ったのは、どっちかってーと、
旦那の仕事を奥さんが見て、励ましてやるって感じ」
「何だ、それ? 訳が分からないなあ」
「んと、何かの本で読んだ。漫画家のエピソードみたいなのだったと思うけど。
ぴったりでしょ。それはとにかく、今度、応募するつもりなのは、私が見てあ
げるから、安心したまえ」
 ユキの言葉を、堂本は苦笑まじりに受けた。
「せいぜい、期待しないでおくよ」

 狭い部屋の中、流れるメロディ。お馴染みのCMソング。
 タイミングを取って、出だしを合わせると、ユキは口を開いた。
「カローラ ツーに乗ぉって〜 そのままドライブぅ〜」
「そのままかい!」
 突っ込みが入る。
「始まったと思ったら、すぐに歌が終わるシリーズでしたあ」
「ギャグはいいから、続き、歌いなって。もったいない」
 てことで、ほとんど全員による合唱みたいにして、残りを歌った。
「次、誰?」
 ユキはマイクを軽く振った。
「はいはい、私」
 イントロが流れ始めた途端、初美が手を挙げた。アニメの主題歌。
「止まーらないぃ 未来をぉ 目ぇ指してぇー」
 声が裏返りそうな元々の歌い方を、初恵は器用に真似している。
 これも最後には、手拍子しての大合唱。やれやれ疲れたということで、少し
休憩。
「trfのこれってさあ」
 ジュース片手に、ユキは選曲メニューを指差した。
「ミーツじゃなくて、ニーズだったら、笑えるよね」
 もちろん、堂本が買ったあの雑誌の名前のことが、頭にあったのだ。
「……少年は少女を必要とする……」
 一人が直訳。一瞬の間を置いて、爆笑。
「何よー。ぶち壊し」
「『だよねー』の関西弁だったら、『そやなー』じゃなくて、『でんなー』と
違う? 『そうだよね』なんだから、『そうでんな』って」
 話題は、いきなり別の曲に移る。
「ミスチルって、短縮しないでほしい。チルチルミチル思い出しちゃって、好
きじゃない」
「えー? 思い出す方が、変っ」
「古い話けどさあ、米米の『君がいるだけで』の楽譜、書店で買おうとしたら、
笑ったよう。背表紙が、『君がいるだけげ』になっていたの」
「げげ……」
「結局、そこでは買わなかったんだけど、あれ、買えば希少価値が出たかなあ」
「米米クラブってさあ、元々はカムカムクラブだったんだって」
「えー、何で?」
「文字で書くと、Come Come Clubだったらしいの。これを、メン
バーの一人が読み間違えたんだって。そのままコメコメって」
「ほんとぅ? 信じらんないけどなー」
「カールスモーキーって名前、タバコの煙のように軽い性格だから付けたんだ
って」
「あはは、そっちの方は、信じられる」
「あのさあ、ストツーって2だからいいけど、そのあとは変じゃない? スト
スリー、ストフォー、ストファイブ……」
「だから、スト3を作らないんじゃないの?」
「あ、そのスト2の歌で、替え歌やってやろうと思ってるんだけど……『いと
しこいし』って、分かる? 漫才コンビだけど」
「分からん」
「私は分かるけど、一般的じゃない」
「だめかー。じゃあ、『いといしげさと』で行くか」
「『愛しさと』が、糸井重里? 『切なさ』は?」
「もち、『てつや』サン。武田か小室かは、判断に任す。『心強さ』は、トッ
コロサンぐらいしか思い付かないんだよね。所ジョージ」
「ボギャブラに出したら、確実にポイっ」
「替え歌じゃなくて、名前のあて字なら、いくらでもあんだけど。この前、カ
セットレーベル作るために、ワープロやってたらさ、チャゲが茶色い毛の『茶
毛』になって、一人で笑ってた」
「あるある、そんなの。単純なのでは、GAOが顔になっちゃってさ」
「ひえぇ。アーティスト『顔』はコワい」
「大黒が大グロって。グロテスクのグロね」
「ドリカムのカムが、噛みつくになったりね」
「中国とか行ったら、マジで、鳥が噛む夢−−『鳥噛夢』−−でドリカムと読
ますんじゃないかな」
「まさかあ。だいたい、ドリームズ、カム、トゥルーって正式名称でやるんじ
ゃないの」
「でも、考えたら、面白いかも。GAOは、我雄々しいで『我雄』」
「うまい、座布団一枚!」
「trfは『茶有絵譜』」
 レシートの裏に走り書き。
「ティーときたら、何でも『茶』ですな」
「他にないもん」
「バス停の停がある。低い、丁寧、定め、皇帝……いくらでもあるじゃない」
「可口可楽遊びはそれぐらいにして、そろそろ歌わないと」
 「口にする可し、楽しむ可し」ということで、コカコーラを、可口可楽と表
記するのは、比較的有名な話。中国のような漢字の国において、外来語を漢字
で表す例として、よく引き合いに出される。音もカコカラクと、コカコーラに
似ていなくもない。故に、傑作とされる。
「じゃあ、私、一番。いきなりですが、あちらの歌を」
 ユキ、素早くボタン入力。流れてきたのは、少しばかり懐かしい「プリティ
ウーマン」。
「もうギャグはだめよ」
「分かってるって。『フリチンとーちゃん』何て言わないから」
「言ってるって!」
 ……じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ……。
 イントロが盛り上がってきていた。

 ユキが話し終えると、堂本は首を大きく捻った。
「で?」
「で、とは?」
 ユキも首を傾げる。
「木川田。君と君の女友達の、ある日の遊びっぷりは拝聴した」
「面白くなかった?」
「面白いと言えば面白いけど、馬鹿々々しいと言えば馬鹿々々しい」
「ひどいわ」
 胸の前で、手を組んでみせるユキ。もちろん、わざと。
「折角、小説のネタになるかと思って、必死に記憶を蘇らせたのに」
「ネタねえ……。嘉門達夫からいただいている部分が、多いなあ」
「知ってるの、嘉門達夫?」
「それぐらい、知ってる。それより、アイディアの借用はまずいんじゃないか」
「大丈夫、大丈夫。あれ自身、人の歌で稼いでるようなもんじゃない。今さら、
文句は言わせない」
「無茶苦茶だ」
「いいって。とにかくさ、今まで堂本クンが書いてきた小説の中で、完成して
いるのを読ませてもらったけど、笑い・ギャグがゼロじゃん。もう少し、何と
かなんない? と思って、身近な話題を提供してあげてる訳。どう? Boy
meets Girl ならぬ Boy needs Girl なんか、ぴったり
じゃないの。それから、カローラの替え歌、オリジナルよ」
「替え歌か、それって? だいたい、どうやってファンタジー系統の話に、カ
ラオケのネタを入れるんだよ?」
「剣と魔法の世界に、カラオケがあっちゃ、悪い?」
「悪い。もしあったとしても、僕らのいる現実世界での、カローラの歌を歌う
ものか」
「レイアースの歌ならいいんかな」
「一緒だよ。本物の歌を使うと、おかしなことになる」
「レイアース、見たことあるの?」
 そっちの方が気になってきたユキ。相手の堂本は、目をそらし加減になる。
「参考程度には」
「また参考。ふーむ、もしかして、セーラームーンも?」
「……木川田だから言うけど、ある。でも、シリーズが始まる度に、二回ほど
見て、すぐやめてるな。描きたいファンタジーからは、ずれてるから」
「ははあ、何となく分かる」
「笑わないなら、自分の理想、話すけど」
「そんな約束、できませーん。でも、聞きたい」
 やれやれといった具合に、堂本は肩をすくめた。
「かなわん。……宮崎駿の世界を、剣と魔法の世界と融合させたい。これが僕
の書きたい、理想の物語」
「はあ……」
 口をぽかんとさせるユキ。
「……要するに、純粋なファンタジーで、宮崎駿的な物語……。難しそうだな。
『魔女の宅急便』じゃ、だめなんでしょ?」
「魔女が出ればいいってもんじゃない。一番近いのは、『ナウシカ』かな、や
っぱり」
「言葉だけ聞いてると、完全にオタクだあっー」
 頭を抱える格好をするユキ。それから、堂本の方をちらと見て……。
「外見は、こんなに賢そうで、顔もまあまあなのに……」
「どうでもいいだろ、そんなこと」
「『ナウシカ』ねえ……。理想の女性像まで、ナウシカじゃないでしょうね?」
「究極の理想像なら、そうなるかもな」
「ひええ」
「もちろん、現実的でないのは分かってる。現代社会において、ナウシカにず
っと側にいられたら、気疲れしそうだし」
「……でもねえ、女だって、思うことあるのよ」
「何を?」
 不思議そうな堂本。ユキは含み笑いをしながら、答えた。
「自分が、ナウシカみたいだったらいいのになって」
「……似合わない。それに、無理だ」
 断言。
「うるさいっ。大きなお世話! 顔とか胸とかの話じゃないのよ。そりゃ、顔
や胸もうらやましいけどさ……。一番、うらやましいのは心。自分自身がとっ
ても嫌に思えることってあるでしょ? そんなとき、ナウシカみたいな心の持
ち主だったらなあって」

−−続く




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