#3000/5495 長編
★タイトル (AZA ) 95/ 3/19 9:58 (152)
分身 3 永山
★内容
「オーディ……オーディ君。君は部屋をいつ出た?」
「何のことです? ははん、ずっと張り込んでいたのですか、ご苦労なことだ」
わざとらしく腕を組むオーディ。
「それはどうでもいい! いつ出たんだ、この部屋を?」
「いつと言われても……夕方ぐらいだったかな。はっきり覚えてなんかいませ
んね」
「嘘をつくな。ずっと見ていたが、姿を見かけなかったぞ」
唇を奮わせるケリガン警部補。怒りもあろうが、それよりもオーディが部屋
を抜け出たという事実が信じられないらしい。
「ちょっとよそ見でもしていたんじゃないですか。たまたまそのときに、僕が
出たんでしょう」
「馬鹿な!」
憤慨する警部補を無視して、オーディはフランクを気にし出した。
「こちらは? まだ見たことがない顔だけど、新手の刑事さん?」
「違う。僕は単なる友人だ」
怒りで肩を揺らしている警部補を横に、フランクは適当に言った。
「ふうん。見えないなあ。ただ者じゃないって感じだ」
オーディはすると、フランクの肩に手をかけてきた。
そのとき、一瞬ではあったが、フランクは変化を感じ取った。
(魔玉の者だ……)
フランクは確信する。魔玉の者同士が直接、触れ合ったときしか、この感覚
は得られない。
「一般人が刑事と並んで、何をやっているのか、興味あるね」
オーディの方は何も気付いていないのか、ゆっくりとした口調で聞いてくる。
「僕の名はフランク・シュタイナー。警察の協力者の一種さ」
「何だ、刑事と変わらぬ訳だ」
がっかりした風なオーディ。
「おい、こっちの質問に答えろ!」
警部補が怒鳴ったが、オーディは軽く受け流す。
「ちゃんと答えたでしょう。さっきので全てだ。僕は普通に出歩いてるだけな
のに、そちらが見落とししたのを僕の責任にされちゃあ、かなわない」
「く……」
唇を噛みしめるケリガン警部補。
その様子を見て勝ち誇ったように、オーディが言った。
「用がないのなら、帰ってもらえませんか。他の人にも迷惑だし」
翌日、フランクはアベルとコナン警部を前に、オーディと顔を合わせたとき
の報告をした。
「−−という訳で、彼は魔玉の者です、間違いなく」
「だいたいのことは分かった。それにしても、君の目の前でいなくなるとはな
あ。昨夜も犠牲者が出ているのかな、警部?」
アベルはコナンに尋ねた。
「いや、そんな報告は入っていない」
「多分」
フランクは、考えを披露する。
「オーディは、試したんだと思います。刑事の張り込みに感づいたのか、それ
とも僕の存在を察したのかは分かりませんが、とにかく自分は監視されている
と知った。その網からうまく脱出できるかどうか、そして監視している者共−
−僕達のことですが−−がどんな反応をするかを見たかったんじゃないでしょ
うか」
「何らかの方法で監視の目をくぐり抜け、何もせずに戻って来たということか。
けっ、なめた真似をしてくれる」
忌々しそうに、コナン警部は吐き捨てた。
「くそ、尻尾を踏ん捕まえて、引きずり出してやりたいところだ」
「いきり立っても、相手は魔玉の者。特殊能力を使うのだから、通常の捜査で
は証拠を得られそうにない……」
天井を見上げるアベル。
「どうすりゃいいんだ、アベル。あんたにお手上げだったら、どうしようもな
い」
「無茶な方法ならいくつかあるよ、警部。フランクがオーディに戦いを挑むと
か」
「本当に無茶だ」
フランクは肩をすくめた。
「相手が普通の人間のふりをし通したら、どうなるんです? 僕は単なる喧嘩
好きの大男として、監獄行き。そうでしょう、コナン警部?」
「そうなるな。そうなった場合、何とか裏から手を回せないこともないが……。
やはり、無理のある方法だな」
「一つ、考えがある」
アベルは右の人差し指を立て、軽く目をつむった。
「どんな?」
「オーディの能力が分身を作ることであるのは、間違いないと思うのだ。どう
いう訳か、一旦、分身を作ると、そいつを消すには本体がそいつに触れるなり
何なりしなきゃならないらしい。いつでも消せるのなら、殺しをやった直後に
消してしまえばいいんだが、それをしていないことから推測されるんだ」
「しかし、分身の能力だけじゃあ、昨日、部屋を抜け出したことを説明できな
い。どう考えても、姿を消さなくては」
フランクは、実際に体験したままの感想を言った。
「果たしてそうだろうか?」
アベルは目を開けた。
「分身を作るだけで、監視の目から逃れられたのだとすれば、どうかな。フラ
ンク、君はさっき、下宿の裏は袋小路になっていると言ったね」
「言いましたよ。でも、そこまで僕やケリガン警部補の目を避けて行けたとし
ても、あの塀は乗り越えられないはず」
「二人だったら、どうなんだ?」
「そりゃあ、二人ならできるって、あの警部補は言ってましたけど……あ!」
「分かったかい?」
アベルの言葉に、フランクは大きくうなずいた。
コナン警部が、説明を求める視線をよこしてくる。
「二人で納得していないで、ちゃんと話してくれよ」
「アベルが言いたいのは、こういうことでしょう。オーディは下宿を抜け出て、
袋小路の地点に立つ。そこで分身を作り出した。『二人』は協力して、高い塀
を乗り越えた……」
「あ……なるほどな」
一通り感心してから、警部は疑問を口にした。
「でも、アベル。謎は解けたが、これが何になると言うのだ? オーディの奴
を捕まえられるのかね」
「二人で塀を乗り越えたのなら、その痕跡があるはず。どんなに注意深くして
いても、靴の型が残っているかもしれない。とにかく、その塀を徹底的に調べ
るべきじゃないかな。きっと、何かが出てくる」
自信に溢れた口調のアベルだった。
「そうか、そういうことか。早速、事件に当たってる連中に知らせないといか
ん。失礼するよ」
コナン警部は、机に置いた帽子を鷲掴みにして、アベルの家から退出した。
「任せておいて、大丈夫なんでしょうか」
不安を面に出したフランクに、アベルはあっさり答える。
「いきなり、オーディが本性を現し、皆殺しの行為に出ることもないだろう。
オーディの能力が分身だけならば、可能性は低い。それよりも目下のところ、
自分が一番に知りたいのは、オーディがカインと関係しているのかどうか、だ」
「オーディは『普通の人間としての歴史』を持っています。彼が生きている人
間として、いつからか魔玉を得たのは確実です。そこにカインが介在している
かどうかは、分かりません」
「オーディは化学を学んでいるんだっけか……微妙だな。化学の知識だけで、
魔玉を自身の体内に埋め込めるかどうか。カインのやり方とは別のアプローチ
で、特殊能力を身に着けるのに成功する場合も、ないとは言い切れないし」
難しい顔になるアベル。
「彼の身辺を洗ったら、カインの名が出てくるかも」
フランクの提案に、アベルは首を横に振った。
「以前、カインはこんな意味のことを言っていた。『君臨者になる』と。これ
には、魔玉を使って仲間を造るという響きはない。自分の手で魔玉の者として
の力を与えてやる。そしてその者を従順なる下僕として、扱うつもりなんじゃ
ないか。あいつが自信を持って言い切っているだけに、何か根拠があるのだと
思う。例えば、カイン自身が造り出した魔玉の者は、カインの命令に絶対服従
なのではないか……」
「だとしたら、オーディの意識に、カインは姿を現してはいない……」
「つまり、調べても分からんだろうということさ。……いや、私は手元にある
研究に集中したくて、悲観的な推測をしているだけかもしれんがね。フランク、
君がやりたいのであればやってくれればいい」
「オーディの過去を洗いたい気持ちもある反面、僕としては、どちらかと言え
ば、これからオーディがどんな行動に出るかが、気になっているんです。塀を
乗り越えたことが明らかになれば、それだけで警察はオーディを追及するでし
ょう。無論、一部を除いて事情を知らない警察は共犯者を探し求める。いくら
コナン警部が言ったところで、ほとんど誰も信用しないでしょうからね」
「違いない」
フランクの言葉に苦笑するアベル。彼は続きを促した。
「追及されても、オーディは知らぬ存ぜぬを通すことでしょう。いくら警察が
言っても、完全なアリバイを持つオーディは落ちないはず。問題はその後です
よ。警察は見張りをつけることを続行するに違いありません。それを疎ましく
思ったオーディが、刑事を一人ずつ殺害していくことだって、あり得るんじゃ
ないですか? もちろん、能力を利したアリバイを構築しておいて」
「では……君は、警察に協力するのがよさそうだ。警察官に護衛をつけるなん
て前代未聞も甚だしいが、何とかコナン警部に尽力してもらおう。オーディが
動けば、すぐに応戦できるように」
「そうします。警部を追っかける格好になりますね」
早速にも出て行こうとしたフランクは、アベルに呼び止められた。
「ちょっと」
「何です?」
「警察が調べ上げた範囲で、オーディの過去を聞いておくのもいいかもしれな
い。充分ではないだろうけど」
「分かりました」
フランクは大きくうなずいた。
−−続く