#2825/5495 長編
★タイトル (AZA ) 94/10/28 8:12 (148)
女王様に物申す 2 永山 智也
★内容
「そのときはたいして気にも留めなかった。一応、部員の皆さんに持っていな
いかどうか、尋ねたんですが、古い号だけに持っている人はいませんでした。
でも、先輩が教えてくれました。『うちの部の本は全部、図書室の方に置い
てもらっているから、そっちの方をみたらいいよ』と。僕はすぐに、図書室に
向かいました。
だけど、また問題の十三号を手にすることはできませんでした。不思議なこ
とに、図書室に置いてあった本の中から、十三号だけが消えていたんです」
わざと芝居がかった言い方をした勝夫。内心、どうだと思いつつ、彼は井口
三枝を見つめた。
だが、相変わらず、大きな変化は見あたらない。
勝夫は気を取り直して、続けた。
「……僕は、図書室の先生に聞いてみました。『十三号が見つからないんです
けど、誰かがかり出しているんですか?』。司書の先生の答は、僕に疑念を抱
かせるに充分なものでしたよ。『なくなっていることには気付いていたのだけ
れど、つい、そのままにしてしまっていた』ということでした。あまり期待せ
ずに、『いつ、なくなったのか、分かるでしょうか?』と重ねて聞くと、意外
にも『去年の文化祭のあと、なくなっていることに気が付いたのよ』と、はっ
きり答えてもらえました。文化祭のあとは毎年、本棚の整理をやっているんだ
そうです。
ところで、先生は−−司書の先生じゃなくて、井口三枝さんのことです。先
生は、去年の文化祭に来られていますよね。文芸部の招きで」
しばらくの沈黙があって、相手は答をよこしてきた。
「そうよ。講演会をやってくれるよう、頼まれたの」
「その講演会、どこでやりました?」
「視聴覚教室よ」
答えてから、三枝は慌てたように付け加えた。
「君、司書の先生に聞いて、もう知っているんじゃないの?」
「さあ、どうでしょうか」
気取ってそう応じたものの、板についていないことは勝夫自身、よく分かっ
た。段々、恥ずかしくなってしまい、普通の話し方に戻すことにした。
「視聴覚教室って、図書室の横にある教室ですよね」
「そうね」
「先生用の控え室として、図書室の一角を使ったということですが、本当です
か?」
「そうよ」
次第に声が高くなる三枝。
「何が言いたいのよ」
「もう少し、待ってください。えっと、先生は当然のことながら、OBとして
文芸部部室を訪ねましたよね?」
「そうだったわ。もっとも、知らない子ばかりになっていて、年齢を感じさせ
られちゃったけど」
井口は苦笑しながら言った。
「分かりました。それでですね、文芸部部室にあったはずの十三号は、いつな
くなったのか分からないということでした。古い物だから本棚の奥に立ててお
いて、滅多に見ることもなかったそうですから。
話は変わりますが、姉さんは死んでしまう前に、こう言っていました。『自
分だけいい目を見ようったって、そうはいかないんだから』ってね。あとで調
べてみると、ちょうど井口三枝のデビューが決定した頃でしたよ、先生!」
「……」
「……」
痛いくらいの沈黙が訪れる。
が、それが長く続くことはなかった。滑稽にも、ちり紙交換の車の声によっ
て、絶たれたのだ。
「ムード、ぶち壊しね」
井口は立ち上がり、わずかに開けていた窓をぴしゃりと閉めた。
「さあ、続けてもらいましょうか」
「これらのことから、僕は次のようなことを考えてみました。ここからが肝心
です。最後まで、黙って聞いてください。
井口三枝は僕の姉・蒲生信江のある作品からアイディアを盗み、それを基に
書いた作品で新人賞入選を果たした。姉さんのある作品とは、消えた十三号に
掲載されていたんだと思います。
デビューが決まった方はよかったでしょうけど、姉さんはかんかんになった。
姉さんは……あまり、悪く想像したくないんですけど、仕方がありません。姉
さんは、あなたのやったことを、賞を設けていた出版社に話そうとした。その
前にあなたに察知され、自殺に見せかけて殺されたのではないか。
幸い、警察も蒲生信江の死は自殺だと結論を出した。でも、まだ安心するこ
とはできない。基となった作品が、SDSの十三号に掲載されているからです。
まず、あなたは、とにもかくにも、蒲生信江の家族−−つまり僕らに十三号
を見られたくなかった。だから、姉さんの葬式のためにうちに来たとき、話し
込んでいる隙を見て、姉さんの部屋を探し、十三号を持っていった……。
さらにあなたは、K**高校の方にも十三号が置いてあることを思い出した。
折りよく、文化祭で講演会をしてくれるようとの依頼が後輩から持ち込まれた。
これ幸いと、あなたは引き受け、文芸部の部室に立ち寄ったとき、そして図書
室で控えていたとき、それぞれ、十三号を見つけ出して、持ち去ったんじゃな
いでしょうか」
蒲生は最後の言葉を言い切った。その瞬間、自分が大量の汗をかいて、喋っ
ていたことが分かった。
「……おしまい?」
井口が聞いてきた。
「とりあえずは、おしまいです。続きがあるかどうかは、そちらの出方次第だ
と、言わせてもらいます」
「ふふん。仲々、面白く聞かせてもらったわ。あなた、話し方は結構、上手だ
ったし。ちょっと、オーバーなところがあったけど、まずは及第点ね」
「そんなことは聞いていません、えっと、井口さん」
緊張がぶり返してきたのか、勝夫は詰まりながらも、相手に詰め寄ろうとす
る。
「すると何かしら」
井口は、まるで彼女の作品に登場する悪女のように、気取った台詞を口にし
た。その様子はあまりにも芝居がかっているように、勝夫には思える。
「あなたは、私が小説リードの新人賞に応募し、賞をもらった『エトセトラに
隠された死』が、盗作であると主張しに、わざわざここへ来たの?」
「……はい」
他に答えようがないので、勝夫は素直に言った。
それに、彼は少し、気抜けしてしまった。何故、気が抜けたかと言えば、盗
作という表現を用いるのは、避けようと努めていたからだ。いくら何でも、そ
んなことを言えば叩き出されるだろうと考えたからであるが、それは杞憂だっ
たようだ。
勝夫の懸念に関わらず、相手の作家は簡単に盗作という単語を口にした。だ
から、気抜けしてしまったのだ。
「どういう根拠があって、あなたはそんな主張を?」
井口が聞いてきた。
「それは今、話したでしょう。それが根拠です」
「さっきのあれが、根拠ですって? 問題にならないわね」
口に片手を当て、笑いをこらえるようなポーズをする井口。
その姿に、勝夫は頭に血が昇った。
「何がおかしいんだ!」
「あら、怒らないで。でもねえ……。だって、あなたの言うことは、辻褄だけ
は一応、合っているみたいだけど、どこもかしこも推測ばかり。何の具体的な
証拠もない訳よ。お分かり?」
小馬鹿にしたような調子で、井口は勝夫に言ってきた。
「証拠なるあるさ」
「へえ、どんなの?」
「姉さんが言っていたことが証拠だ。『自分だけいい目を見ようったって』っ
ていう言葉だよ」
「それが証拠ねえ。それ、私のことを指しているとは限らないんじゃないの?」
「他に誰がいるんだ?」
「そりゃあ、そうかもしれないけど……。いいわ、仮にあなたのお姉さん、蒲
生信江が私のことを陰でそう言っていたんだとする。そのことが、どうして、
私が信江の作品のアイディアを盗んだっていう妄想につながるのかしら?」
「妄想なんかじゃないさ!」
思わず、叫んでしまった勝夫。
井口は顔をしかめた。
「あのね、今はそんなことを議論しているんじゃないの。こちらの質問に答え
てくれないかな?」
「姉さんは、文芸部の部室の中で、ドアの鍵のかかった状態で死んでいるのを
発見されたと聞いてる。当時、鍵を自由に使えたのは、あなたのような同じ部
の同級生だけでしょうが?」
「それはそうだけど、そのことが即、信江を自殺に見せかけて殺したことには
ならないでしょう。部室の中に信江の遺書があったの、知っているでしょう?
あとであなたも見せられたはずよ。筆跡だって信江のものに間違いないって…
…」
「あんな物、どうにでもできるでしょう。推理作家の頭でなら」
「遺書のトリックという訳かしら。どうやって?」
面白そうに、井口は勝夫を見つめてきた。
「よくある手だそうだけど……。姉さんが昔に書いた原稿を探して、その中か
ら遺書に使えそうな部分を切り取ったら、簡単に偽の遺書なんて造れるさ」
「ははあ、結構、ミステリーのことを知ってるんだ」
井口のその口振りは、勝夫をかっかさせるだけであった。
「でも、それじゃあねえ。そうすれば自殺に見せかけられるってだけで、誰が
犯人なのかには、まるで迫っていないわね」
「……あなたが行く先々で、十三号が消えている。これは絶対に怪しい」
支離滅裂な主張になりつつあるなと自覚しながら、勝夫は抗弁した。もはや、
突っ走るしかない。
「もう、しょうがない坊やね。何にもならないことを並べ立てて。いいわ、決
定的証拠を、私の方から見せてあげる。何の犯罪もなかったってことをね」
井口は微笑むと、すっと立ち上がり、奥の部屋へと消えた。
−−続く