AWC 雪月花荘の殺人 10    永山


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#2672/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  93/ 1/10  10: 7  (200)
雪月花荘の殺人 10    永山
★内容
「だがな、聞いてくれ。ブランデーは砂原さんが座っているとこに、ずっと立
ててあったんだぞ。知っての通り、砂原さんは自分の酒を他人に上げるような
人じゃない。となるとだ、瓶に毒を入れるには砂原さんの目の前で瓶を取り、
蓋を開けて毒を流し込み、また蓋をして置かなきゃならん。とてもじゃないが、
気付かれずにできる芸当じゃない」
 露桐先輩が申し立てた。確かに、一理あるわ。
「手品的手法を使うとできるかな、剣持?」
「部長、僕を疑っているんですか?」
 彼にしては珍しく、びっくり目になるマジシャン・剣持。
「そうじゃない。可能かどうかを聞いてるんだ」
「そうですか? まあ、可能性はありますけど、さっきみたいに自分で自分の
カップに注いだ場合は、無理ですよ。少なくとも、僕にはそんな技術はありま
せんし、知りません」
「そうか。隣の者が投げ込むってのも、距離に無理があるしな……」
 広いテーブルにてんでばらばらに座ってるもんだから、砂原さんと両隣は二
メートル近く開いてる。
「砂原さんが最後に紅茶を注いだ訳じゃないから、直前の奴が毒を入れるって
のも不可能。あらかじめブランデーに入れといても、朝のことがある……。全
く、次から次へと」
 部長は頭を抱えるようにすると、深く椅子にかけ直した。
「毒の入手経路となると、私が一番怪しい訳ね」
 ミエが自分からそう切り出した。
「待てよ。そりゃ、薬学のおまえが一番楽かもしれんが、他のだって同じ大学
に通ってんだ。絶対に無理じゃあるまい」
 奥原さんが心配してか、すぐにフォローをする。あたしだって、ミエがそん
な怪しまれることするなんて思ってない。
「持ち物検査、するか?」
 東海部長が高校の生活指導の教師みたいに、かたい声で言った。
「……いや、やめましょう。疑り合うのも悲しいし、そんなに大量の毒を持っ
ているのなら、最初から殺したい人だけを毒殺してますよ、犯人は」
 本山が、見方によれば楽観的とも言える意見を出した。
「それでいいんなら、俺は強制しない。今日は無理でも、明日には帰れそうな
んだ。これ以降は、警察に任せたい」
 東海先輩は、疲れ切った様子で言った。それは、あたし達推理研の中に殺人
犯人がいることが確定してしまったからかもしれない。
 天候は再び、荒れ模様となりつつあった。

 砂原さんの遺体も食堂に運び込むと、圧倒的な疲労感があたし達に広がって
いた。もう、追及するのもつらい。誰か犯人がいるんだ、あたし達の中に。
「みんな、一箇所に集まって眠るってのは、どうだろう?」
 食事が終わった段階で、露桐先輩が提案した。そうね、犯人に行動を起こさ
せにくくする効果はあるかもしれない。
「反対だ」
 部長がすぐに反論した。ちょっと意外。
「どうしてだ、東海?」
「それで犯人が何もしなけりゃ万々歳ってもんだろうが、誰か一人が殺された
らどうするんだ? 集まって寝るってのは、一見、よさそうだが、別の角度か
ら見れば、犯人と隣合わせに眠ることにもなるんだぞ」
「事件が起きれば、すぐ近くの奴が犯人さ」
「そんなことが通用するかよ! 第一、もし、自分が殺されたら、どうなんだ?
犯人が分かったからよかったね、ですむのか?」
「それは……。分かった。俺が間違ってたよ」
「いや、謝ることはないが。ただ、本当に安全なのは、自室で鍵をかけている
ってことだって、言いたかったんだ」
「本当にそうか?」
 今度は奥原さんが口を開いた。
「何?」
「有間や泊出のときを考えろよ。犯人は、あれだけ用心深くなっていた二人に
窓を開けさせて殺してるんだぞ。とてもじゃないが、鍵をかけて篭っていても、
確実に安全だとは思えない」
「それはそうだが。だが、全員で眠るよりは、ましだ」
「それはそうかもしれないが」
 奥原先輩は、東海部長の口真似をするようにしてから、お茶を濁した。
「まあ、用心に越したことはない。最後の夜なんだから」
 そう言って、部長は場を解散にした。

「犯人当て、無駄になっちゃったんだね」
 入浴後、女子全員がなんとなく集まって、雑談することになった。部屋はマ
キのところ。
 あたしの言葉に、ミエが反応した。
「そう言えば、二日目にやるはずだったんだ。東海部長も骨折り損ね」
「余興かぁ。初日の夜、ゲームとかやったんだ。嘘みたい」
「ゲームと言えば、あれには泣かされたわ。砂原さん達が出したあるなし問題
で、三つ目だったかな? カードとかモデルにあるってやつ」
「あれは簡単だったわよぅ。『プラ』が頭につく言葉だって、すぐに分かっち
ゃった」
 あたしは思い出しながら、ちょっと自慢げに言った。
「他に何をしたんだっけ?」
 マキが言った。みんな、まるで何もかも忘れ去ろうとしてるみたいに、よく
喋る。
「月が出た出た、よ。有間さんて、あんなことばっかり考えてたのかな。たく
さん、問題があったもんね」
「そうかもね」
 ミエの言葉に相づちを打った。
 そのとき、何かが閃いた! ような気がしたんだけれど、まだ形にならない
……。その後、本来なら、最後の夜の眠りにつくはずだった。だけど、それを
許さない事態が起きたのよ。
「おい、露桐! 開けてくれよ」
 そろそろ寝ようかと思ってたところ、廊下で部長の大声がする。何事かとば
かり、あたしが顔を出すと、みんなも同じように出てきたみたい。
「どうしたんだ、東海?」
 一番近くの奥原先輩が、声をかけた。
「いや、さっき、あまりに強く否定し過ぎたからさ、あいつのこと。ちょっと
謝ろうかと思って、こうしてるんだが」
「返事がないのか?」
「ああ。五分ばかり、こうしてる」
「それはおかしいな。おい、露桐! 金蔵、キンゾー!」
 奥原副部長は、露桐先輩が下の名前で呼ばれるのを嫌ってることを承知で、
敢えてそれを口にしたみたい。
「おかしいな。応答なしだ」
「ひょっとしたら……」
 東海部長の顔色が変わったように見えた。
「まさか東海、殺されたなんて言うんじゃないだろうな? この通り、鍵がか
かってるんだ」
「鍵が安全だとは言えないって、おまえが言ったんだぞ、奥原。よし、破ろう。
ドアをぶち破るよりも、梯子を持って下から窓に立てかけた方がいいな。桜井、
来てくれ。奥原はここを頼む」
 身軽な桜井君を指名すると、部長は物置の部屋に向かった。梯子を見つけた
二人は、すぐに一階におり、玄関から出て行ったようね。
「おまえら、何もおかしな様子はなかったよな、さっきまで」
 確かめるように、奥原さんはあたし達に聞いてきた。
 その内、ガラスの割れる音がして、露桐先輩の部屋が騒がしくなる。
「どうだ?」
 奥原先輩のその声には答えがなく、中から鍵が開けられた。ドアの向こうに
は、桜井君が立っていた。そして彼は言った。
「駄目です。死んでいます」
 驚きながらも、あたし達は部屋になだれ込んだ。外から帰ったらしい部長も、
追い付いた。
「これは」
 奥原さんが、絶句している。
 室内には、散乱した煙草に灰皿。その一本は吸い差しで、火が着いているみ
たい。そんな中で、露桐先輩は死んでいた。
「『つき』がなかったな、露桐。最後の日でこうなるなんて」
 混乱した室内で、ふっと聞こえた東海部長の独り言が耳に残った。

 最初、露桐先輩がどうして死んだのか、全く不明だったけれど、毒の可能性
が高いということで調べてみると、煙草に含まれた青酸性の毒物によると判断
された。
「毒入り煙草なら、誰にでも用意でき、露桐の煙草に紛れさせることはできた
だろう。だが、たまたま露桐が禁煙を宣言したものだから、犯人の意図は成就
されないでいた。が、それも最後の日になってほっとしたのか、露桐は誓いを
破ってしまい、毒入りを吸った。こんなところだろうな」
 部長が客間に全員を集め、想像した状況を喋った。
「いいか。もう眠ってはいられない。これ以上の犠牲者は出さない! 何でも
いいから、思い付いたことを言ってくれ。犯人限定の手段でなくてもいい。犯
行方法に関するもんでもいい」
「最初の網川の事件だが、あの花はやっぱり、犯人が置いた物だろうな。網川
が花を手にしようとしても、届くはずがない。そうなると、やっぱり犯人が凶
器として氷柱花を使ったんだと思うな。これなら凶器を残す危険がない」
 奥原さんの意見。
「でも、犯行があったと思える時間帯には、氷は溶けていたと思える」
 部長が指摘する。どうも、部員の意見を潰すつもりで反論してくるみたいね。
「何かの方法で、溶けないようにしていたと考えられないかな。例えば、冷蔵
庫に入れるとか」
「誰にも知られないように氷柱花を取る。それはいいだろう、食堂の一番近い
場所にあった氷柱花を取るのは。だが、誰も知られずにそれを冷蔵庫に入れ、
犯行の段階になって、それを取りに行ったのか? 網川を電話で呼び出すには、
自分の部屋に戻らなければならないんだぞ。どんどん溶けてしまうんじゃない
か。網川を呼び出してから氷を取りに行ったんじゃ、怪しまれるしな」
「そうか」
「あの、外に吊しておけばどうでしょうか?」
 奥原さんに代わって、剣持が言った。
「どういうことだ?」
「軒先に照照坊主を吊すみたいにですね、取ってきた氷を自分の部屋の窓の外
にですね、ぶら下げるんです。外は北の寒さが吹き荒れてますから、簡単には
溶けません。それどころか、少し大きくなるかもしれないですよ」
「そうか! 吊せば、言わばつららみたなもんだから、先が尖るかもしれんな。
網川の傷は、刺し傷に近かったから、それとも合致する」
 奥原先輩は感心したように、剣持ち見ている。
「これで網川の事件の疑問は、ほぼ解消されたかな。呼び出し方法に余地は残
るが。他の事件について、何かないか?」
 部長が言った。
「孔雀さんの事件では、どうして部屋に入れたかと、どうやって中庭の中央に
置けたか、でしたよね」
 今度は本山。
「最初の方は、部屋に入ったんじゃないと思うんです。犯人の部屋に孔雀さん
が出向いたんじゃないでしょうか?」
「どうしてそう思うんだ? 寒がりの彼女が何も羽織ってなかったのに」
「それは犯人の偽装じゃないかなって。いえ、きっかけは、木原さんの証言に
あったんです。何か思い詰めた表情で、『あたし、すごく嫌な想像をしている
わ。でも、万が一、それが本当だったら……。確かめるのが恐いけど』って、
孔雀さんは言っていたんです、死ぬ前に。彼女、確かめるのが恐かったけど、
確かめたんじゃないでしょうか?」
「それはつまり、彼女がある人物を犯人だと思い描き、確認をしにそいつの部
屋に行った。そして、彼女の想像が当たっていた。そういうことか?」
「はい。驚いた犯人は、まだ計画の途中で挫折する訳にはいかなかった。です
から、孔雀さんを扼殺したんです。でも、そうなると犯人自身の部屋が現場に
なってしまいます。それを避けるために、犯人は奇抜な遺体移動の方法を案出
したんではないでしょうか」
「それが、中庭中央の謎につながるんだな?」
「はい。有間さんと泊出さんが死んだとき、ロープがあったでしょう、現場に。
あれから思い付いたんですが、孔雀さんのときも、犯人はロープを使ったんじ
ゃないかと。えっと、犯人は僕達の誰かなんですから、犯人の部屋は二階にあ
ると考えて下さい。ロープを道具部屋から見つけた犯人は、自室前の廊下側の
窓枠にでもロープを固く結びます。同時に、孔雀さんの遺体を廊下まで運び、
結んだロープを彼女の背中側に通した。次にロープの結んだ方とは反対の端を、
建物の向こう側めがけて投げます。当然、地面に着きます。その位置を確かめ
てから、犯人はその場所目指して走ります。もちろん、これも廊下に立って、
窓を開けてロープの端を拾います。遺体のもたせかけ方によっては、ここでロ
ープを強く引けば遺体はロープウェイのようにするすると降りて来たかもしれ
ません。例えそううまくいかなくても、一階の方もロープを固定し、また二階
にかけ上がってから遺体を押し出せば、滑って行くはずです。ところが、ロー
プにはたるみというものがあるから、どこかで遺体が止まるかもしれません。
事実、止まったんでしょう。困った犯人は、ロープをほどくなり切るなりした
んです。そうすれば遺体は中庭の中央付近に落下するんじゃないでしょうか」
「ふむ。かなり機械的だが、可能性はある」
「待って、部長。それなら、ロープの痕が雪に残るんじゃなくて?」
 あたしが反対意見を述べる。

−続く




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