AWC 雪月花荘の殺人 9     永山


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#2671/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  93/ 1/10   9:57  (200)
雪月花荘の殺人 9     永山
★内容
 朝。このひとときも、ここ数日は嫌な時間でしかない。そして今朝もまた…
…。もう、信じられなかった。また殺人が起きるなんて。しかも、今朝は一度
に二人もよ!
 ようやく晴れ間が見え始めた空の下、二人の身体は並ぶようにして倒れてい
た。今度は、砂原さんを除く全員が第一発見者。いつまで経っても起きないW
大の三人を、何か言われるなと思いつつも、あたし達で起こしに行った。
 最初の砂原さんは、二日酔いらしかったけど、ゆっくりと起きてくれた。あ
まりの頭の痛さのせいか、何も文句が飛び出さないのは幸いだったけど。
 続いて有間、泊出の部屋に行ったが、これがおかしいの。何の反応もない。
ドアには鍵がかかってるし、二つの部屋をいっぺんにおいそれと破る訳にもい
かないので、一度外に出て、窓から見てみようとなった。が、確認するまでも
なく、二人は死んでいた。時計を見ると、午前九時三十五分。
 部屋の窓は、どちらも開いており、有間は窓から前のめりに転げ落ちたよう
な格好で撲殺され、泊出は建物の壁に寄りかかるようにして絞殺されていた。
「これが凶器か」
 部長が「それ」を取ろうとして、手を止めた。桜井君に言って、写真を撮ら
せる。凶器と思われるそれは、長さが十メートル近くありそうなロープとブロ
ンズ像だった。
「犯人は、このロープで泊出さんを締め殺した後、有間さんをこちらのブロン
ズ像で殴り殺したんでしょうかね?」
 本山が、しげしげと凶器を見つめるようにしながら言った。
「あるいはその逆。有間が先だったかもしれんがな」
 東海部長は、吐き捨てるように言った。
「それにしても、不可解なのは、遺体の位置ですよ」
 剣持が言った。
「有間さんは、自分の部屋の窓から転げ落ちたみたいだから、この位置でも不
思議じゃないんですが、どうして泊出さんまで」
 そう。有間の身体は彼自身の部屋の窓の下にあったから、これでいい。でも、
泊出の方は、彼女の部屋の窓が開いているにも関わらず、遺体は有間に重なら
んばかりの場所にあったの。
 凶器との位置関係も言っておくと、ロープはその先端部を泊出の首に巻き付
けた形であり、ブロンズ像の方は、少し離れて、砂原さんの部屋の前まで転が
っていた。
「この血文字、手がかりになるんでしょうか?」
 と言ったのは、写真を撮っていた桜井君。
 血文字は有間によって書かれた物らしく、雪の地面を引っかくように、「T
UKI」と書いてあった。
「TUKI……。月のことか? しかし、そんな名前の奴はいないぞ」
「昨日は星の月も出ていなかったし……」
 部長に続いて、マキが小さく言った。
「東海! あんな場所に何か書いてあるぞ!」
 急に、奥原さんが声を上げた。指し示す方向は、有間の部屋の窓の上辺り。
その場の全員がそちらを見上げ、騒がしくなる。朱色の文字を読み取ろうとす
る。
「何だ? 分かりにくいな。『花』って書いてるのか?」
 露桐先輩が言った通り、その文字−−文字だとしたら−−は、漢字で花と書
いてあるように読めた(下図参照)。

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「これ、口紅で書いたみたい」
 あたしは感じたままを口にした。
「そうか。よし、捜してみよう」
 口紅は、意外と簡単に見つかった。泊出の身体の影に、隠れるように転がっ
ていたの。
「うん、間違いなさそうだ。先が潰れているし、色も同じみたいだ」
 キャップの取れたその口紅は、使い物にならないくらいに先が潰れていた。
泊出の物かしら。だったら、この文字も彼女が書いた?

「もう誰も信じんぞ、俺は!」
 客間に戻って来るなり、あたし達の姿を認めたらしい砂原さんがわめいた。
「おまえら、どんな手品を使ったんだよ? あれだけ用心深くなっていた二人
を一晩の内に殺すなんて、考えられん。そこのマジシャンが力を貸したんだろ
う?」
 そうして、剣持を指さす砂原さん。完全に自分を失ってるわ。ご指名の剣持
だって、困惑顔よ。
「まま、落ち着いて下さい、砂原さん。すまんが香田、砂原さんの部屋からブ
ランデーを持って来てくれ」
 しょうがないわね。あたしはきびすを返し、一号室に向かう。台に立てられ
ていたので、お酒はすぐに見つかった。
「どうぞ」
 瓶と、一緒に持って来たグラスとを、砂原さんに渡す。砂原さんは自分でブ
ランデーを注ぎ入れると、グラスに口をつけた。ようやく落ち着いたみたい。
「……はあっ、すまん」
「大丈夫ですか?」
「ああ。何とかな」
 そんな会話を交わしてから、部長は相手から食堂の鍵を受け取ると、遺体を
運び込むために、奥原先輩と表に出て行く。
 二人が帰って来てから、例によって事実の報告が行われた。
「外部犯の可能性はないんだったよな?」
「そうです、砂原さん」
「なのに、窓が開いて、二人が外に引きずり出されたようになっているのは、
どういうことだ?」
 色々と謎の要素はあるけど、砂原さんの言うこともその一つね。もし内部の
者が犯人なら、わざわざ外に回ってやって来ても、有間や泊出が窓を開ける訳
ないと思うのよね。怪しまれて仕方がないわ。
「足跡はどうだったんだ?」
「遺体でごたごたしていましたが、足跡はなかったみたいなんです」
「またか」
 砂原さんは、呆れ顔にまでなっていた。
「砂原さん、『花』とか『TUKI』について、何か心当たりはないですか?」
 部長は、その場にあった紙に、花・TUKIと記した。
「さっぱり分からん。死ぬ間際に残すんだから、何か犯人について示唆してる
んだろうが」
「そうですか。では、この口紅は?」
 指紋を付着させないようにと、ハンカチでくるんだ口紅が、テーブルの上に
置かれる。無論、さっき現場で拾った物よ。
「……化粧品のことはよく知らん」
「泊出さんが持っていたかどうか、ご存知ありませんか?」
「そう言われても、分からんなあ。泊出の部屋を見た方が早いと思うぞ」
「なるほど。それでは、何か物音を聞いたりとか……」
「残念ながら、酒をしこたま飲んじまったからな、昨日は。全然、覚えていな
いんだ」
 部長はため息をついた。そりゃ、つきたくもなるわよ。二人を一度に殺され
て、何の物音もしなかった訳がない。それなのに、一番近くの人は泥酔してい
たなんて、犯人は運がいいわ! もしかしたら、それを知っていて実行したの
かもしれないけど。
「あと、これが凶器みたいなんですか」
 持って来たブロンズ像にロープを砂原さんに見せる。
「この像は、前から廊下に飾ってあった奴だ。どこだっけな、確か、一階の階
段の脇にあった物だ。ロープの方は、多分、道具置き場になってる部屋があっ
たろ? あそこにあったと思う」
 東海部長の合図で、すぐに確かめに走る奥原・露桐の先輩方。じきに戻って
来ると、階段にはそれらしい台があったこと、物置には似たようなロープが丸
めて転がっていたことを知らせてくれた。
「鍵はしていなかったんですか、道具置き場。確か、二階の隅でしたよね」
「そうだ。鍵は、あそこはもう開けっ放しにして使っていたからな。鍵をかけ
るなんて、思いもしなかった。ほら、俺達が高校のときも、雪かきやら何やら
で、よく利用したじゃないか」
「そう言えば……」
 懐かしむような顔になる東海部長。
「……飯にしないか」
 不意に砂原さんが言った。その言葉には、何故か違和感があった。
「ここんとこ、ろくな物を食べてない。身体がもたないね。今日、帰れるんだ。
いや、帰るのが遅れたら、うちの親は心配性だから、明日にでもやって来てく
れるさ。それまでに元気を付けなきゃならん」
「あたし達が作るのでよければ」
 少しだけ嫌みを響かせ、あたしは言ってみた。
「ああ、いいよ。泊出はてんで料理が駄目だったからな」
 弱々しい答を返す、砂原さんだった。

 朝昼兼ねた食事は、十二時前に始まり、午後一時には終わりを迎えていた。
 しきりに「うまいうまい」を連発していた砂原さん。すっかり、年寄り染み
た感じになってる。ま、あたし達の中では一番の年上だけど。
 食後の紅茶を出すと、また砂原さんがブランデーを足そうとした。
「やめておいた方がいいんじゃないですか?」
 奥原さんの声が上がったが、砂原さんはにやっと笑うと、
「これぐらいなら、何ともないさ」
 と言って、カップに液体を垂らした。その上、何を思ったのかしら、おもむ
ろに窓際に行くと、腕を思い切り伸ばすようにして、雪をすくった砂原さんは、
それを紅茶に浮かべたのだ。
「オン・ザ・スノーなんて言葉、ないよな」
 ところが、それを口につけてしばらくしたら、砂原さんがうめき出したの!
「お、ごご……がっ!」
 そんな奇声を上げると、咽をかきむしりながら、砂原さんが椅子から転げ落
ちた。呆然として眺めていたあたし達だったが、一人が砂原さんに駆け寄ると、
全員が続く。
「どうしたんですか?」
「吐かせるんだ!」
「く、暴れられて、手が付けられん」
 怒声が飛び交う中、砂原さんはその数分後に息を引き取った。
「……死んだ」
 片手でこめかみの辺りを押さえる東海部長。訳が分からない様子だわ。
「この匂い、青酸カリかしら」
 すぐにテーブル上のカップに注目したミエは、注意深く匂いを嗅いでから、
そう言った。
「そうらしいな。これが噂のアーモンド臭か」
 部長も確認する。こちらはミエのように薬学部ではないので、自信なさげだ
けど。
「だけど、朝、砂原さんに飲ませて上げたときは、何ともなかったのよ。それ
がどうして」
 あたしは率直に疑問を口にした。
「食事を作ってる間に、誰かが毒を入れたんですか?」
 マキが受け継ぐ形で言った。女子はみんな料理をしていたから、男子の方に
目が向けられる。
「ブランデーに入っていたかどうか、分からないよ」
 ぽつりと言ったのは本山。
「どういう意味?」
「紅茶に入ってたかもしれないし、カップに塗ってあったのかもしれないし、
ポットのお湯にあったのかもしれないってことです」
 言われてみると、そうだわ。だいたい、こんなことで推理研内が男女対立し
ても始まらない。そこで、一つ々々を調べていくことになった。調べるのはミ
エと部長。
 まずはブランデー。キャップを取って、中身の匂いを嗅いでみるが、よく分
からないみたい。二人とも、首を振る。
「お酒の香りがあるから、分かりにくいのよ。確かめるには、何か小動物がい
るわ」
 と言われたって、ここには金魚一匹いないもの。どうしようもない。
 続いてカップ。だけど、これはみんなが思い思いにトレイに伏せてあったの
を取ったのだから、砂原さんを狙ったのだとしたら、不確定要素が強い。スプ
ーンや砂糖、ティバッグにしても同じことよ。
 急須やポットのお湯なんて論外。全員が同じお湯を使ったんだから、これに
毒が入っているはずがない。
「まさか、雪に毒なんて、おかしいしね」
 真子が言ったけど、それはそうだ。犯人にだって、砂原さんがあのとき雪を
紅茶に入れるとは察知できないでしょうし、わずかな可能性に期待して、積も
った雪に毒を染み込ませておくのも不自然すぎる。
「どうやら、ブランデーしかないみたいですけど」
 言いにくそうであったが、ミエが言い切った。

−続く




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