AWC 雪月花荘の殺人 6     永山


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#2668/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  93/ 1/10   9:40  (200)
雪月花荘の殺人 6     永山
★内容
「ああ。血で分かりにくいが、肌そのものは潰されていないみたいだ」
 そうなると、ますます氷柱花凶器説は遠のく訳ね。
「ということは、網川は夜中に起きてきたか、あるいは犯人に呼び出されるか
してここに来て、背後からいきなり何かで刺された。犯人は凶器を持って逃げ
た。そういう想像ができる」
「でも、東海部長。凶器はそこの窓からでも捨てたと考えるのが、妥当じゃな
いかしら? わざわざ持って帰るのは、不自然だわ」
 あたしは意見を述べた。
「ふむ。そうだな。おっと、また副部長に怒られるから、ここらでやめとこう。
そろそろ、客間に戻ろう」
 部長の一声で、簡単な捜査は終わった。

「……簡単だが、これが分かり得る情報の全てだ」
 東海部長が、主に推理研のみんなに話しかける調子で、説明を終えた。ダリ
アの器の位置は、すでに確かめ、ミエの記憶が正しかったと立証された。外は
相変わらずの吹雪。
「そこで、砂原さん達も含め、みんなに答えてもらいたいことがある」
 客間には、部屋に引っ込んでいた泊出も呼ばれて来ていた。サラダとトース
トと紅茶の食事が並んでいるが、誰もあまり手を着けようとしない。
「網川がいつ死んでしまったのかを明確にするために、全員の昨夜から今朝に
かけての行動を調べようと思う。無論、網川と顔を会わせたっていうような人
は、積極的に証言してほしい」
「体のいいアリバイ調べだな」
 有間が−−限界を越えたから、もう呼び捨てね−−言った。
「分かっているなら早い。早速、君から聞こうか」
「ふん、いいだろう。飯とゲームが終わってからでいいだろ? お寝んねして
いた部長さんには分かるまいが、俺は午前0時二十分頃まで麻雀をしていた。
ここまでなら、いくらでも証人がいる」
 有間はそれから、麻雀のメンバーを列挙した。
「そちらの手品師に役満を振り込んじまったから、やる気が失せてね。さっさ
と自室に引き上げたよ。それから取って返して風呂に行って、戻って。それが
0時四十分ぐらいだったな。誰にも会わなかったから、証人はいないがね」
「それで、すぐに寝たのかい?」
「いや。部屋で横になったことはなったが、眠れなかった。しょうがないんで、
酒をあおった。結局、寝入ったのは午前一時半ぐらいだろうな」
「物音を耳にしなかったか?」
「そりゃしたさ。何せ、下じゃ麻雀が続いていたんだ。小さいながらも騒ぎ声
がした」
「……砂原さん、麻雀はいつまで続いたんですか?」
「そうだな。午前二時半だったかな」
 砂原さんの言葉に、一緒にやっていた奥原・露桐の両先輩とマジシャンの剣
持が同意する。
「では、有間君。それから君は、朝、玉置に起こされるまでずっと眠っていた
のか?」
「そうとも。そちらの髪の長い美人に起こされたときは、何事かと思ったね」
 つまらないことを言う有間。ミエが怒っているのが見て取れた。
「結構。二番手は砂原さんにしましょうか。どうです?」
「俺か。俺は今言った通り、二時半までは麻雀。そりゃま、途中で用を足しに
立ったりはしたけどな。それからめんつ四人で風呂に入った。いい加減疲れて
いたから、あんまり喋らなかったな。で、部屋に戻ってすぐに寝た」
「麻雀中、あるいはそれ以外でもいいんですが、物音を聞いたってことは?」
「なかったなあ」
「そうですか。この際だから聞いておくと、麻雀の二局目では、用を足しに行
ったのが異常に長かったなんてことはなかっただろうか?」
 東海部長の質問に、該当する四人は顔を見合わせ、結論を出した。
「ない」
「これで少しはすっきりした。じゃあ次だ。麻雀組を片付けるか。剣持、おま
えは?」
「砂原さんが言ったことと、全く一緒と言っていいですね。寝る前にトイレに
行ったくらいですか、付け加えるとしたら」
 人を食った言い方をする。それが嫌みでないのは、マジシャンとしての見せ
方を研究しているからかもしれない。
 で、他の二人、奥原副部長に露桐先輩の話も、ほとんど同じであった。ただ、
奥原先輩はトイレに一度起きたと言ったけど、そのときも何も見なかったそう
よ。
「次は桜井だ」
「僕は同じく、午前0時二十分までは麻雀に寄せてもらっていて、それからは
二階に上がって、ゲームをしていた一団に加わりました」
「どこの部屋だ?」
「えっと、香代……牧村さんの部屋でした」
 言い直す桜井君。ちょっと、顔に赤みがさしたかな。
「東海さんが眠られてるのを知っていたから、なるべく離れた部屋でゲームし
ようってなったんです」
 横から注釈を入れたのは、マキ。
「それはいい。で?」
「ゲームには網川も加わってました。それが午前一時には終わったから、僕は
そんなにしなかったんです。それから網川と一緒に風呂に。それから上がって、
寝たのは午前一時半ぐらいだったと思います」
「網川が部屋に入ったのは、見たんだな?」
「はい。一緒に風呂から上がったし、隣だし」
「網川の部屋から何か聞こえてきたとか、そういうことは?」
 勢い込んで、部長が聞く。しかし、返ってきた答は、
「いえ。何も聞きませんでした。すみません」
「そうか。いや、謝ることはない。……次は、香田」
 あたしの番だ。意識しなくても、身構えちゃう。
「あたしは午前0時二十分に麻雀が終わってから、指先も汚れちゃったし、ゲ
ームに寄る元気もなかったから、ミエ……玉置と一緒にすぐにお風呂に行きま
した。それで、二階に上がったのは午前一時くらいだったかな、ミエ?」
「それくらいだったわ」
 間髪入れず、ミエが答えてくれる。
「そのとき丁度、ゲームが終わったみたいで、マキの部屋からみんなが出てき
て、ちょっと話をしてから、部屋に入り、眠りました。朝のことはミエが早か
ったので、彼女に任せます」
「なるほどな。ゲーム組の連中、今のに間違いないな?」
「はい」
 東海部長の質問に、マキが代表して応じた。
「そうか。次は玉置だ」
 当然のようにミエが次の番。彼女もあたしと同じような答をした。
「……それで、朝の午前六時四十分を少し過ぎていたかしら。そのぐらいに目
が覚め、着替えてから一階に降りました。お風呂場の洗面所で顔を洗っている
と、香田さんが降りて来ました。私が先に終わったので、朝食の準備をするた
めにお台所に向かう途中、食堂で網川君が倒れているのを見つけました……」
「二つ三つ、確かめたい点がある。まず、朝起きてから、下に降りるとき、食
堂の前を通らずに、砂原さん達の部屋の前を通って、洗面所に行ったのか?」
「いえ、そうしたら砂原さん達に迷惑がかかると思い、客間に玄関前を抜けて、
食堂前の廊下を通りました」
「そのときには、食堂での異変に気付かなかったんだな?」
「はい。ドアが閉まってましたし、開いていたとしても廊下からじゃ見えませ
んから」
 てきぱきと答えていくミエ。聞かれる前までに思い出し、まとめていた感じ
ね。
「では、どうして調理場って言うか台所に行くまでに、食堂での異変に気付い
たんだ?」
「氷柱花が溶けて、器が水で一杯になったはずですから、朝食の準備の邪魔に
なると思って、器を片付けておくためにドアを開けました」
「そういうことか。うん、分かった。香田、おまえはどうだったんだ? どち
らを通った?」
「あたしは……」
 記憶を巡らせる。ついさっきのことなのに、網川君の事件で、すっかりあや
ふやになっている。
「確か、部屋の前を通りました。迷惑はかけなかったと思いますけど……」
「分かった。これで麻雀組は終わりか。ゲーム組の最初は、牧村にしようか」
「はい。食事が終わってから、ゲームする話になりました。最初は私と木原さ
ん、孔雀さん、泊出さんの四人だけだったんですけど、女ばっかりでも面白く
ないからということで、網川君や本山君を誘いました。二人は何か、推理小説
について話をしようと思っていたみたいでした。そうよね、本山君?」
「そうです。網川先輩の部屋で話をしようかということになりかけてました」
 丁寧に答える本山。でも、その表情は相変わらず、何を考えているのか分か
らないわ。
「それで、六人で私の部屋に集まりました。理由はさっき話した通りです。ゲ
ームの種類も言いましょうか? 最初は大富豪。次がババ抜きで、最後がウノ
でした。その間、全員が入れ替わりでトイレに立ったんですけど、詳しい時間
は覚えていません」
「どうせ、数分間だろう? 問題ない」
「桜井君が加わったのは、ウノの途中からでした。そのとき、代わりに本山君
が抜けました。疲れたって言って。それからウノを一時までやって、眠たくな
ってきたから、そろそろやめようかということになって。それで、すぐにお風
呂に。女子四人、一緒に入りました。あ、その前に香田さんや玉置さんに会い
ましたけど、それもさっきの通りです。お風呂を上がって部屋に戻ったのは、
午前一時四十分近かったかと思いますけど」
 他の三人の女の子を見ると、そうそうって感じでうなずいてる。思った通り、
人数が多いほど、女の子というのはお風呂の時間が長くなるのよね。
「それからすぐに寝た?」
「はい。私はそうです」
 マキが言い切った。
「じゃあ、次は……」
 それから順に、真子、孔雀、泊出、本山と話を聞いていったのだけれども、
みんなだいたい同じ話。ただし、本山はミエが言っていたように、途中で抜け
たから、少し話が違った。
「……で、抜けた後は、たまたま東海部長が起きて来られたので、一緒に風呂
に行きました。上がったのが0時四十分ぐらいで、部長の部屋で少し部長と話
をした後、午前一時になったのを確認して、自分の部屋に戻り、ベッドに入り
ました」
「本山のさっき言ったことは、俺が保証する。で、最後は俺だが」
 東海先輩は、ちょっと間をおいて話し始めた。
「みんな知っている通り、途中までは自分の部屋で横になっていたとしか言い
ようがないな。まあ、その時点では網川は無事だったんだから、関係ないとし
てくれ。あまり眠れないまま、0時十五分頃に起き上がって、部屋でぼーっと
していたら、何か廊下が騒がしくなった。それを見ようと出てみたら、本山が
いたって訳だ。それからしばらくは本山の話し通りで、午前一時になった時点
で、本山は部屋に戻って行った。俺はそれからトイレに行って、すぐに寝てし
まった」
「これまでの話を総合すると……」
 奥原先輩が話し始めた。
「網川は少なくとも午前一時半までは無事だった、と」
「ただし、そいつはそちらの桜井君が本当のことを言っていたらの話だ。確実
なのは、ゲーム終了時点の午前一時まで」
 例によって、有間だ。
「何よ! 喧嘩、売る気?」
 珍しく、マキが大声を出した。それだけ、有間の話し方が鼻に付くってこと
よ、まったく。
「とんでもないなあ。単に客観性のある事実だけを取り出そうってことさ。推
理小説では当然じゃないの?」
「そういうことじゃなく−−」
「マキ、もういいよ」
 桜井君がマキを止める。ようやく落ち着いた様子になる。
「……どちらにしてもだ、今朝、七時に網川の遺体が発見されるまでの間、完
璧なアリバイを持つ人間はいない」
 部長が言い切った。
「つまり、何の進展にもなってないってことだろ」
 今度は砂原さん。いらいらが募ってしょうがないって感じね。
「他に重要なのは、凶器が見つかってないことだ。奇妙な言葉を使ってもいい
んなら、『鋭利な鈍器』とでも言うべき凶器らしい。そこで、いくつか選ぶ道
がある。例えば、全員の部屋を調べるとか」
 部長は相手にせず、話を続けたけど、すぐに反対の声が上がった。泊出だ。
「いやだわ。他人に自分の持ち物を見られるのって」
「そういう意見があると思っていた。だいたい、犯人が凶器をそのままにして
おくはずがない。血をぬぐっただけにしても、ルミノール反応をすりゃ分かる
んだが、今、自分達の目では分からないからね。あるいはどこかに捨ててもい
い。外は一面の雪だしな」
「じゃ、それも意味なしってか」
「いえ、砂原さん。もし、犯人が事件をここで終わらせるつもりならそうです
が、まだ続けるつもりであれば、凶器は発見しておく方がいいんです。犯行防
止にもなりますから。
 凶器の問題はさておき、最後は動機を考えなくてはなりません」
「やっとその話か。最初から動機に触れていれば、俺達三人の話を聞く必要な
んて、これっぽっちもなかったのに」
 有間が言った。三人とは当然、砂原さん、有間、泊出のこと。

−続く




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