AWC 雪月花荘の殺人 5     永山


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#2667/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  93/ 1/10   9:32  (200)
雪月花荘の殺人 5     永山
★内容
「……」
 黙り込む先輩。
「どうしたらいいと思いますか?」
「……玉置が起こしに回ってくれてるんだろ。だったら、全員が起きて状況を
認識するのが先か。電話は?」
「警察にですか? まだしてません」
「そうか。通報するのが当然だからな。えっと、外に通じるのは客間にある電
話だけだったっけ」
 と、露桐先輩が廊下に出ようとしたところで、やって来た砂原さんと有間さ
んとにぶつかった。
「そっちの部員が死んだそうじゃないか。どこだ?」
 砂原さんは、怒ったような声だった。隣の有間さんにしても、面倒に巻き込
まれそうなのが嫌だって顔。
「こっちです。それより、警察に電話しようと思ってたんですが」
「警察? まあ、しょうがないだろ。しかし、すごい積雪だぜ。来れるのか?」
「すぐには無理だろうけど。とにかく、電話しますよ」
 先輩が出て行くと、あたしとW大の二人ってことで、何となく気まずい。誰
でもいいから、早く来てと待っていたら、意外にも露桐先輩がもう戻って来た。
「どうしたんだ?」
「電話が通じません。調べたら、コードが切られて」
「何だって? そんなことが」
 話の途中で飛び出した砂原さん。男二人も続く。それにしても、コードが切
断されていたってことは、屋敷の中の誰かが犯人てことに?
 入れ替えに、次々と女性陣が降りて来た。慌てて髪を梳かしたのが分かる格
好ばかりに、寝巻きにカーディガンや何かを羽織っただけの身なり。
 続いて二階の男性陣もミエと一緒に姿を見せた。みんな驚きを隠せない表情
だけど、特に顕著なのは東海部長。やっぱり、責任ある立場だからかしら。
「聞いたんだが、電話コード、切断されていたんだってな」
「ええ、部長。あたしも実際には見てないんですが」
 受け答えしてると、電話調査組が戻ってきた。
「くそっ、コードだけでなく、機械そのものもいかれてやがる!」
 怒鳴り声を上げる砂原さんに、東海部長が話しかけた。
「じゃあ、警察への連絡は、車で直接行くしかないと」
「それだが、この雪じゃあ、動きが取れないかもしれない。ま、調べてみよう」
「お願いします。あ、その前に、玄関の鍵がかかっているか、調べて下さい」
「分かった」
 うなずくと、砂原さんは玄関方向へ走って行った。
「玄関は閉まってるぞ!」
 途中、大声が届いた。続いて、扉が開く音が響く。
「あまり先走っても仕方がないが、一階の戸締りも確認しておこう」
 部長が提案した。二人、あるいは三人一組になって、各部屋を見て回る。そ
の結果は、どこにも異常なし、だった。
 そうしていると、砂原さんがまたもいらいらした様子で帰って来た。膝まで
雪に沈んだみたいで、濡れた跡もあったわ。
「どうだったんですか?」
「ひどいことしやがる。タイヤは四つともパンクさせられてるし、油圧系統の
線も何本か切られてる。積雪がひどいんでやめたが、車体の裏っ側も何かされ
てるかもしれん」
「そんな……」
「それじゃあ、通報できないどころか、駅までも行けないってことですか?」
 有間さんが慌てたように叫んだ。
「歩きは……」
 奥原先輩が、なるべく落ち着こうとしているらしい、そんな声で言った。
「歩く? とんでもない。どこまで歩くつもりなんだ。近隣には別荘なんてな
いし、駅まで何時間かかるか分からん」
「そうまで言ってませんよ、砂原さん。道路まで出て、車を拾えないかってこ
とです」
「だが、この雪じゃな。車の多い通りまで行けるかどうか」
 砂原さんを筆頭に、あたし達全員は窓の外に目をやった。昨日の晴天が嘘の
ように、どんよりと曇った空の下は、灰色がかった雪が続いている。
「またいつふぶくか分からない。あまり無茶な行動はやめた方がいいみたいで
すね」
 部長も、砂原さんに賛成らしい。まあ、最終的には、全員がこれに一致した
んだけど。
「そうなると、網川の身体をどうするか、ですが」
「いつまでもあのままにしておく訳にもいかないだろう、東海?」
「ええ、砂原さん。でも、幸い、季節は冬ですから、後で警察に知らせたとき
を考えて、なるべく元のままにしておくのも考えているんです」
「しかし、いつになるか分からんぞ」
「ですから、今日の午後三時までは、あのままにしておくのは? それまでに
警察に知らせる見通しが立てば、網川はそのままにしておくということで」
「ふん。見通しが立たない場合は?」
「そのときは、現場の写真を撮って、網川は部屋にでも移しましょう」
「……そうしてくれ」
 短い間、考えていた砂原さんだったけれど、やがて決断した。
「写真は今すぐにでも撮った方が、いいんじゃないかな」
 急に口を開いたのは、本山。
「それもそうだな。よしっ、取ってこよう。カメラ、持ってるのは……」
「僕です」
 桜井君が挙手した。
「じゃ、持って来てくれ」
 部長の声で、桜井君が走る。心配そうに見ているマキ。
「誰も言わないから言うけどな」
 唐突に、有間さんがもったいぶった切り出し方をした。手つきがきざったら
しいのよ。
「この建物の一階の戸締りは、完璧だったんだぜ。これが何を指すかは、推理
研じゃなくてもようく分かるんだけどな」
「何が言いたいんだ、あんた」
 さすがにかちんときたのかしら、奥原副部長が乱暴な受け答えをする。
「外からは誰も侵入してないってことだ。もっと言ってやりゃあ、今、建物の
中にいる十四人の中に、あんたんとこの部員を殺した犯人がいるってことさ」
 ああ、やっぱり言ってしまった。あたしも気付いていたけど、パニックなり
ヒステリーなりを引き起こされないように、黙っていたのに。
「いや! 冗談で言ってんでしょう、有間さん?」
 案の定、泊出が悲鳴を上げた。
「違うさ、真面目だよ。もっとも、俺らには関係ないさ。ね、砂原さん? こ
れは推理研内での問題だろうから」
「それこそ冗談じゃないわ! あたし達が仲間をどうにかするなんて有り得な
いわ。怪しいとしたら、そっちの方よ!」
 もう限界だったの。冷静じゃないって分かっていたけど、ここまで言われた
らあたしは黙っていられない。
「やめろ、香田。有間君も。この閉鎖状態でもめてる場合じゃない。落ち着く
ことが肝心だろ」
 東海部長が止めてくれた。後でお目玉をもらうかもしれないな。
「カメラ、取って来ましたが」
「おぅ、桜井。フィルムは充分か? なら、撮ってくれ」
 部長はそう命じてから、あたし達の方に向き直った。
「全員がこうしていても、しょうがないだろうし、混乱を招くだけかもしれな
い。必要な人数だけ残して、客間の方に移るのがいいと思う」
「そうだな。誰を残すんだ?」
 砂原さんが聞き返した。
「あの……。あたし、気分が悪いわ」
 泊出が申し出た。初めてこんな場面に遭遇したら、それが当り前だわ。
「じゃあ、自分の部屋に戻って休むといい。なるべくはかたまっていてほしい
んだが。付添いは?」
 と、東海部長。
「いらない」
 そっけなく言うと、泊出はさっさと出て行った。
「それで、誰を残す?」
 砂原さんが言った。いらいらし通しの観があるわね。
「俺と奥原、露桐。それにカメラ役の桜井でいいか」
「反対。男ばかりで見たって、見落とすことがあると思うわ。誰か女性の観点
でみてないと」
 すぐに提案しちゃった。
「なるほどな。でもなあ、食欲あるかどうか分からんが、朝飯作ることも考え
なきゃな。じゃあ、香田と玉置、大丈夫か」
「いいです」
 二人で承諾。
「食事の方は、私達で軽い物を作ってみます」
 マキが、その場にいる女性を代表する形で言った。
「客間の方は砂原さん、頼みます」
「ああ」
 そうして、ぞろぞろ客間に移動して行く。食堂には六人が残った。タイミン
グを見計らったみたいに、桜井君が言った。
「部長。写真、大まかな点は終わりました」
「ああ。じゃ、みんなで気になる箇所を捜してみよう。何でもいい、気になっ
たことは言ってくれ」
 捜査が始まった。と言っても、網川君の遺体に触ることはできないので、自
ずと現場の状況を調べるのが中心となる。
 真っ先に目が行ったのは、遺体のすぐ側に落ちていた切り花。位置としては、
網川君の手からこぼれ落ちた感じに見えないこともない。
「ダリアだわ」
 横合から、ミエがつぶやく。
「花か。氷柱花だったものか?」
「多分ね」
 桜井君とやり取りした後、あたしは先輩達を見た。
「これは何を意味するんだろうな?」
「考えられるのは、ダイイングメッセージ」
「あるいは、氷柱花を鈍器のように使ったかな。氷なら凶器が残らない」
 先輩達の議論の輪に、あたし達も入る。
「でも、氷は夜中には溶けていたんじゃなかった?」
「それもそうか。だが、網川がいつ殺されたか、はっきりしていない」
「待った待った。今、結論を出さなくてもいいさ。現在必要なのは、ダリアが
側にあったってことだ」
 奥原副部長が断言した。そうに違いないわ。
「桜井、写真を」
 部長に言われ、桜井君はダリアを何枚か収めた。
「先に確認すべきことができた。このダリアが氷柱花の物だったら、元々の氷
柱花を立てていた皿状の器があったろう。そいつがあるか、調べるんだ」
 そうだわ。さっと見回す。水をたたえたプラスチックの白い器が、そこここ
にある。中にはどれも、溶けることのない切り花を浮かべて……。
「あったわ! あそこ!」
 あたしは思わず叫んでいた。指先は食堂の入口付近の、つまずかないような
場所に何も浮いていない器に向いているの。
「他のはみんな花があるんだな。誰か覚えてるか、この器は最初からここにあ
ったかどうか?」
「運び込んだのは俺達だけど、覚えてないな」
 頼りない男性陣。
「多分、最初からあったと思います。食事を運んでるとき、最初に目に入って
きたのがダリアの氷柱花でした」
 ミエが証言する。言われてみれば、そうだったかも。
「そうか。後で他の人にも聞いておくが、間違いないだろう」
「しかし、これで凶器説はなくなったんじゃないのか? 入口から網川んとこ
ろまで、だいぶあるぜ。小さくなった氷を持ったまま、これだけ歩けば滴が落
ちるし、相手にだって気付かれる」
 露桐先輩の意見。それをたしなめるように、奥原副部長が言う。
「だから、今は事実を見て取るだけでいいんだ、露桐。推測は後にしろよ」
「そうだったな。すまん」
「他に何かないか?」
 東海部長の声が飛ぶ。
 さっきから問題となってる凶器は、どこにも見あたらない。この雪月花荘の
中にないとしたら、犯人は窓からでも雪の中に投げ捨てたのかしら。
「何もないですね」
 桜井君が諦め加減に言った。
「そのようだ。こうなると、遺体そのものしかないんだが、見ても死んだ時間
が分かるもんでなし」
「死因をはっきりさせるぐらいは、できるかもしれないな。ちょっと見ていい
か?」
 奥原先輩の呼びかけに、部長がうなずく。
「……」
 触ってしまわないように、奥原さんは網川君の身体の後ろ側に回り、血に染
まった後頭部をのぞく。
「……どうやら、殴られたんじゃないみたいだ。てっきり、鈍器か何かで殴ら
れたんだと思っていたが」
「何? 本当か?」
 部長と露桐先輩も、傷跡を覗き込む。さすがに、あたしやミエにはできない。
「こいつは……刺されたように見える……な」
 唾を飲み込みながら、東海部長が言った。

−続く




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