AWC 雪月花荘の殺人 4     永山


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#2666/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  93/ 1/10   9:26  (200)
雪月花荘の殺人 4     永山
★内容
 さらっと言ってのけた剣持。空気がさあっと冷たくなった感じよ、こっちは。
「な、何だって? く、クラブの6?」
 砂原さんがどもっている。有間さんは、黙ったまま口を開けちゃっている。
泊出は、
「すごーい!」
 と歓声を。うんうん、こういう反応を待ってたのよ。でも、あたしにだって
さっぱり分からない。
「あれ? クラブの6だったんですか? いや、偶然とは恐ろしいもんです」
 わざと白々しい言い方をする演者。はったりが効いてて、よくできてるわ。
それは認めるけど、分かんないのが悔しいじゃない!
「タネはタネは?」
 忙しく喋って真子がねだるが、剣持は笑ってごまかすだけ。
「トランプ、見せてくれるか?」
 砂原さんが言った。
 さあ来た、どうするのかと思ったら、剣持はあっさりと応じるじゃない。ど
うやら、本当に特殊カードじゃないみたいね。
「……ただのトランプだなあ」
「そうでしょう。では、返してもらえますか」
 それからもいくつかマジックを続けた後、剣持はカードを元のように右ポケ
ットにしまい、終わろうとした。
「もうおしまい? もっとやってほしいわ」
 孔雀の声がかかる。あたしだって見たい。
「他の方のご希望は? もう驚かされるのはうんざりだと言う方がいましたら、
やめますが……」
 もちろん、そんな人はいない。
「では、最後に一つだけ、とっておきのをご覧にいれます」
 と言って、右ポケットからケース入りのカードを取り出す剣持。
「え? ケースからカード、出さないの?」
 出したきり、何もしないでいる剣持を見て、思わすあたしは言った。
「ええ、この状態から始めるマジックですから。一番懐疑的だったとの自負が
ある方、どうですか? 手伝ってくれませんか?」
 みんなの目が砂原さんに集まる。推理研の中にも疑り深い人はいるけど、砂
原さんみたいに、実際にトランプを調べたりはしない。そこまでやるのは、マ
ジックを楽しむことにおいて野暮だと考えてるからかしら。
「じゃ、砂原さん。心の中で、何か一つ、カードを思い浮かべて下さい。口に
は出さないで」
「また、例えばってんじゃないだろうなあ」
「そこまでは無理です。さあ、どうぞ」
「ああ、考えたぜ」
「いいですね」
 剣持はケースを手にし、中身を取り出した。数字やマークが見えている。そ
して、表向きのカードを徐々に広げながら、
「思ったカードを言って下さい」
 と、相手に言った。
「いいのか?」
「どうぞ」
「スペードのキング」
 その間も、観客の目は演者の手元に釘付け。やがて、表向きのカードの中に、
一枚だけ裏向きのが現れた。
「おや? 一枚だけ、裏返ってますね。どうぞ手に取って、見て下さい」
「……」
 ちらっと剣持を見てから、砂原さんはカードを引き抜いた。
「げ!」
 砂原さんが絶句した。最初は何か分からなかったが、問題のカードを見せら
れ、あたし達も絶句。
 そのカードはスペードのキングだったの!
「し、信じられん」
 へたへたと座り込む砂原さん。気分は誰もが同じだったわ、きっと。ただ一
人、剣持を除いては。
「これで終わらせてもらいます。どうも」
 再びカードをしまいながら、剣持はぺこりと頭を下げた。後はもう、拍手の
雨。余計な詮索をする人は、誰もいない……。
 こうしてお開きになったのは、午後十時を回った頃だった。氷柱花は意外と
持つもので、まだ崩れていない。外の様子を見ると、いつの間にか吹雪になっ
てる。斑模様の大きな動物が踊っているみたいで、音もかすかだけど、ゴゥゴ
ゥと聞こえる。気温が下がったのが、室内にも影響してるのかな。
 そんなことは気にも止めず、当然、この後も遊ぶんだけど、とりあえずは全
員で後片付け。
 さて、何をするかの段になって、男性陣はまた麻雀。
「二卓あるから、八人までいけるぜ」
 砂原さんがメンバーを集めてる。乗ったのは、有間さんに、奥原・露桐の両
先輩、桜井君にマジシャン・剣持。あら、マキとご一緒かと思った桜井君まで
入るのね。マキの方を見たら、初めから了承してたみたい。
「と、六人か。中途半端だな。東海! どうしたんだ、おまえ?」
「すんません。頭が痛いんで夜更しはちょっと。寝不足がまだ……」
 高校時代の先輩に呼ばれ、東海部長、すまなさそうに頭を下げてる。
「何、言ってんだ。そんなもん、起きてたら治らあ」
 無茶苦茶を言う。
「……しょうがないな。おいっ、そこの男二人はどうなんだ?」
 指名されたのは本山に網川君。どちらも縁がなさそうね。
「あの、僕はまるで知らないです、麻雀」
 網川君は予想通りの答。
「しゃあないなあ。しこんでやってもいいんだが。で、君は?」
 指さされた本山は、すぐに答える。
「打ち方は知ってます。点数計算はできませんが」
「上等、上等。でも、まだ足りないんだな」
 と、砂原さんの目がこちらを向いた。
「お嬢さん方は?」
 だって。そこまでして2グループでやりたいのかしらね。元の六人で順番に
すればいいのに。
「打てる人、いるの?」
 有間さんも聞いてくる。
「はい、私とリマが」
 あ、ミエったら余計なことを。確かに、あたしだってできるけど。
「へえ、そりゃいい。そういうことなら、女性二人を入れて、それぞれのめん
つに入ってくれればいいな」
 あらら、決められちゃった。しかも、本山はお役御免。
 あれよあれよと、グループ分けは、砂原汐久・露桐金蔵・桜井仁・玉置三枝
子と有間剣四郎・奥原丈巳・剣持絹夫・香田利磨(あたしね)になった。
「ルールは?」
 テーブルにつく前に、桜井君が聞いた。
 砂原さんが詳しく言ってくれたんだけれど、それをここに書くと、レートが
いくらなんて話に及びかねないので省略。
「さあ、始めるか」
 ちゃんと椅子に腰掛けてするテーブルでよかった。なんて思って他の三人を
見ていると、
「剣持君だっけ? 君とは一緒にやりたくないなあ。積み込みされちゃたまら
ない」
 などと、有間さんが言い出した。心理作戦のつもりにしても、言い方が気に
入らないわ。
「牌とカードは違いますよ」
 マジシャンは短く答えたのみ。至って冷静であるのダ。
 ちなみにあたしのやり方は、今まであんまり専門用語を使ってないことから
も明らか、そんなにやり込んでないし、うまくもない。でも、勘はいいみたい
で、捨て牌から当たり牌を正確に知る確率も高い。だいたい、そこが面白くて
麻雀なんてゲームに興味を持ったの。推理の要素が高いとこが気に入ってる。
 それなら囲碁や将棋はどうなんだと聞かれると、あんなのは駄目。今や暗記
が勝敗を分けるようなゲームとなってしまった将棋や囲碁は、推理小説から縁
遠いものとなりつつある……というのが、あたしのいつもの逃げ口上。
 話を戻して、あたしの打ち方は、大きいのを狙って駄目なら逃げるってのが
多い。これじゃあ、勝てる訳ないのは分かってんだけど。
 詳しい勝負の経過を書いてもしょうがないから、大まかに言うと、あたしが
最初の親で満貫を上がったはいいけど、それっきり。有間さんがつも上がりを
続け、点数が目減りしていく。他の人は、露桐さんが堅実に進めているけど、
ほとんどトントン。剣持はやはり勝手が違うのかしら、一度も上がれないでい
る。
 ところが、これで有間さんのトップ確定と思われた最終局、剣持が親の役満
をものにしちゃい、振り込んだ有間さんがハコになり、そのまま終了という嘘
のような展開。その瞬間、他の三人が騒いだもんだから、お隣から何事かって
覗かれたほど。
「……」
 呆然としている有間さん。あたしとしちゃ、いい気味ってとこだけどさ。
「てっきり、やけの大三元狙いで、中が二枚切られたとこで失敗。よくても小
三元かと思っていたら、西と北待ちの字一通とはなあ。さすがマジシャン」
 感心し切ってる奥原さんに対し、
「いや、偶然です。配牌のとき、表情に出ないようにって苦労しました」
 なんて笑う剣持。そう言えばさっきの回、やけに雄弁だったわ、このコ。興
奮を隠すためだったのね。だっけど、ほんとに積み込んでないのかしら? さ
すがに、あたしだって怪しんじゃうわよ。
 あたし達が終わった直後に、もう一つの方も終わって、そちらは何と、ミエ
がトップ。後から聞いたとこによると、ひっかけの嵐だったみたい。一番引っ
かかってしまった桜井君がビリで、砂原さんと露桐先輩がほとんど同じで、わ
ずかにプラスだったそうで。
 時計を見ると、「明日」になってから二十分くらい過ぎていた。これ以上や
ると、お肌に悪いに決まってる。
 幸い、やる気を失った有間さんが抜けることで、あたし達女二人も解放。勝
ち逃げの観、なきにしもあらずだけど許して。桜井君もマキが気になるのか、
マケが響いたか、引き上げるみたいね。後は四人でご自由に、何ラウンドでも
どうぞ。さっさとお風呂に入って、寝よ寝よ。

 朝。寝坊したかなと思ったけれど、時計を見たら午前七時。疲れがかえって
熟視を誘ったみたい。
 でも、早起きはいるもので、下に降りると、ミエが風呂場にある洗面所で顔
を洗っていた。
「おはよ」
「あ、おはよう。早いわね」
「ミエこそ。他には誰も起きてない?」
「みたいよ。下にはいなかった」
「しょうがないの。朝ご飯作りにせいを出さなきゃいけないか」
「私、先に台所に行ってるから、終わったら来て」
「メニューは?」
「紅茶にトースト、チーズにベーコンエッグ。わかめのサラダって予定だった
わ」
 出発前、一応考えられた献立を、ミエが口にした。
「じゃ」
 と言って歩いて行ったミエが、また戻って来るのに時間はかからなかった。
珍しく、バタバタと足音を騒がしく立ててる。
「っ、リマ、大変」
 息を飲み込むようにしてから、ミエが言った。
「どうしたの?」
 うがいの手を止め、あたしは応じる。
「食堂で、網川君が死んでいるの」
「……」
 何のことだか、まるで理解できない。聞き返す。
「え?」
「食堂で、網川君が死んでいるのよ」
 こんな冗談を言うミエじゃない、本当なんだ。あたしは急いで口をゆすぐと、
ミエについて、食堂に向かった。
 昨夜の内に食器は片付けといたから、さほど雑然としてはいない食堂。しか
し、強烈な違和感を放つものがあった。いつも切り揃えてた髪は乱れに乱れて
いた。丸っこい眼鏡はずり落ちている。小柄な網川君の身体は、机の脚にもた
れ掛かるように倒れていた。後頭部から血が流れている。だけど、机の角には
血の痕は見あたらない。
「事故じゃない。殺されたみたいね。聞くまでもないと思うけど、何かに触っ
たり動かしたりはしてないわね」
「ええ。もちろん、脈を見るために、手は触ったけど」
「どうしよう?」
「みんなに知らせないと。リマ、見張っててくれる? 私が起こしに行くから」
 話がまとまった。ミエがかけ出すのを見送ってから、あたしは入口に立ち、
食堂内に目を走らせた。
 真っ先に考えたのは、外部からの侵入。窓は破られてないどころか、きちん
と閉まっている。見える訳じゃないんだけど、鍵もかかっているみたい。玄関
や一階の他の部屋はどうなのかしら。
「網川が死んだって、本当か?」
 飛び込んで来たのは露桐先輩。
「あそこです」
 あたしは、手が震えるのを感じた。今頃になって現実感が湧いてきてるのか
もしれない。

−続く




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