AWC 雪月花荘の殺人 2     永山


    次の版 
#2664/3137 空中分解2
★タイトル (AZA     )  93/ 1/10   9:19  (200)
雪月花荘の殺人 2     永山
★内容
「やっとご到着ですか」
 別荘から出て来た有間さん−−本当は「さん」付けしたくないんだけど、学
年が上だからしょうがないじゃない−−が、高そうな腕時計をかざしながら言
った。ルックスまあまあ、スタイルもよくて話も面白いけど、どうも好きにな
れない。と、あたしがこんなことを面と向かって言っても、「こっちも、どう
も好きになれないな」と言うか、「嫌いは好きの裏返しってヤツだね」と言う
のは目に見えている。これがまた好きになれない原因な訳ね。
 とにかく、あたし達が荷物を持って雪の中をそろそろと歩いていると、
「部屋割はこちらでーす」
 なんていう、甲高い声が聞こえてきた。泊出魅理だ。こっちは同学年なので
呼び捨てね。短くした髪が、女のあたしから見ても似合っていてかわいらしい。
 部屋割は雪月花荘の玄関先に掲げてある見取図に、名前を書いた紙を張って
示してあった。

雪月花荘・平面見取図
2F         1F
  10 11 12       食  堂   
 ◎□□□□□□■  女□□□□□□□● 
9□・−−−−・□13 風□・−−−−・□玄
 □|    |□  呂□|    |□関
8□|    |□14  ★|    |□ 
 □|    |□  男□|    |□客
7□|    |□15 風□|    |□ 
 □・−−−−・□  呂□・−−−−・□間
 ■□□□□□□▼   ■□□□□□□▲ 
  6 5 4      3 2 1   

1砂原 2有間 3露桐 4泊出 5孔雀 6木原 7香田 8玉置
9牧村 10桜井 11網川 12本山 13剣持 14奥原 15東海

▲上への階段   ▼下への階段   ・−−−−・廊下
★ボイラー室   ■トイレ     ●調理場     ◎道具入れ

「とりあえず、女子は二階の西と南にかたまるようにやってみたけど、いいか
しら」
「いいんじゃないの」
 そう言いながら、図に目を走らせる。あたしは……7号室か。
「マキは桜井君の隣か。うまく配置してあるじゃない」
 ミエがからかうように言って笑った。マキこと牧村も慣れたもので、笑って
いる。子の程度の冷やかしじゃ、だめみたいね。
 その桜井君は、網川君や1年の男達と話をしながら階段を上がって行く。あ
たし達もそれを追っかける格好に。部長・副部長は、すぐには上がらず、砂原
さんと話し込んでいた。
「荷物置いたらすぐ、降りて来いよ」
 東海部長の声がした。自分の荷物はどうするつもりかしら。先輩の中で一階
に部屋を割り当てられたのは、露桐さんだけよ。
 緩やかな階段を昇り切り、それぞれの部屋に別れる。
 木製のドアを開けてみると、中はコテージ風の壁と床で仕立てられたきれい
な造り。暖房が効いているらしく、適度な暖かさになっていた。広さもまずま
ずで、西向きの窓から雪景色が望める。
 木製のベッドが壁際にあって、すぐ横には台に乗った電話があった。旧型の
プッシュホン。貼紙がしてあって、「内線専用。部屋番号を押した後、*を押
す」って書いてある。
 壁にはしゃれた額に入った小さな絵がかかっていて、大きな鏡も取り付けて
あった。さすがに洗面台まではないみたいだけど、いい部屋よね。
 電話台の横に荷物を置いて、あたしは部屋を出た。すると、他のみんなも同
じように廊下に出て来たとこ。中庭側にも窓があって、眺めてみると、向こう
側の部屋が見えた。ちょっとガラスの反射が邪魔だけど、一年の剣持が階段に
向かっているのが見えた。
「さ、あたし達も降りよ」
 下に戻ると、話も終わったのか、東海さんと奥原さんが荷物を持って上がろ
うとしていたところだった。
「あ、少し早いが、もう昼飯にするから。出来合いの物を買ってくれてるそう
だから、お湯だけ沸かそう。全員で行くこともないんだが、これからのことも
あるから、見といてくれ。台所、分かるだろ?」
 部長が言った。出発前の取り決めで、食事は女、風呂と掃除、それに必要と
あれば雪かきは男の仕事となっていた。
 女五人で調理場に行ってみると、すでに泊出が沸かす準備をしていた。使い
勝手のよさそうなキッチン。三つある内の手前のコンロの上に、大きなやかん
が乗っている。
「あ、もうやっちゃった?」
 マキが言うと、
「うん。カップ、出しといてくれる? そっちの棚の上から二段目にあるから」
 と、W大の彼女。見ると、確かに棚には白いカップが複数ある。
「みんな、同じのでいいのね?」
 ミエが聞いた。泊出は黙ってうなずく。やかんがいわゆる「鳴って知らせる」
タイプじゃないので、注意してないといけないみたい。
 と、彼女が突然、叫んだ。
「あー! ポット、洗ってなかったんだ。ごめん、誰か洗って」
 彼女が指さした方向には、ポットがあった。電気でお湯を沸かして保温する
タイプみたい。
「あたしがやるわ。でも」
 あたしは蓋を開け、中に残っていた水を捨てながら、泊出に聞き返す。
「どうして、このポットで沸かさないの?」
「時間かかるから。少しの量だと差はないみたいだけど、これだけの量だと、
やっぱり火にかけた方が早いみたいだから」
 てなこと言い合ってる内に、お湯が沸いたみたい。洗ったばかりのポットに、
お湯を注ぐ。
「そうそう。あたし達、紅茶を飲むつもりなんだけど、みんなもそれでいい?」
 一人々々返事していくと、結局全員が紅茶。三年の先輩三人にも聞きに走っ
たら、それで構わないということだった。
 ポットに急須、砂糖の入った小さな壷やティーバッグ、それに十五個のカッ
プとスプーンを持って、食堂に入る。広い。
 大きなテーブルがドンとまん中にあって、十五脚の椅子が周囲に並べられて
いる。それでもまだ空間が余っている。広いと言うより細長いと言った印象ね。
 テーブルの上には、パーティ用お持ち帰りの食べ物がずらりと並んでいた。
北海道だからかどうか知らないけど、チーズやハム・ソーセージ類が多いよう
な気がした。
「ちょっと冷たい物が多いが、暖房が効いてるからいいだろう? あったかい
物を食べたかったら、何かで出かけるついでに、うまいラーメン屋に案内して
やるからさ」
 砂原さんが椅子に座ったまま、自慢げに言った。片手には琥珀色の液体が入
った瓶。まっ昼間からお酒なんて。
「酒飲んでたら、ラーメン屋まで運転してもらえんじゃないですか」
 露桐先輩が言うと、
「ナビでいいだろう、俺は。おまえらが運転すればいい」
 と切り返す砂原さん。そうして続けた。
「じゃ、始めるか。適当に座って。カタイ挨拶は抜きにしてだ、えー、去年の
末には辛い事故もあったが、それを心に留めつつも吹き飛ばし、思いっ切り楽
しもうじゃないか」
 部長の方を見ると、一瞬、ぴくりとした感じだったけど、すぐに元の様子に
戻って、
「先輩のご厚意、感に堪えません。この度はN大推理小説研究会の全員をお招
き下さい、誠にありがとうございました」
 と、相手の演説口調をそのまま受け取り、おどけた。こんな洒落っ気が出せ
るなら、もう畑田さんのショックはないみたい。
「おーい。急須、回してくれ」
 全員が紅茶にありつけるまでに、結構時間がかかる。急須も十五人分ものお
湯は入らないもので、何度か入れ直す。
「やっと来たか」
 そう言った砂原さんは、紅茶を自分のカップに注ぐと、ミルクを断わって、
さっきの瓶を開けた。
「ブランデー入りですか」
 東海さんの声に、砂原さんがうなずく。
「おうよ。飯は提供するが、酒は自前な」
 とか言いながら、キャップを逆さにし、その縁ぎりぎりまで液体を満たす。
と思ったら、急いで中身を紅茶のカップに容れた。
「これでいつも同じ量だけ消費って訳だ」
 別荘持っている割には、何だかしみったれた言いぐさだこと。
 食べ終わると、とりあえずは自由時間ということで、みんな散らばる。
「外、出てみない?」
 ミエが聞いてきた。こっちが返事する前に、玄関に向かっている。とにかく、
外に出てみたいんだ。
 あたしも雪の上を歩いてみたかったから、後から追っかける。
 一歩踏み出すと、昼過ぎの陽を浴びて、白い雪は強く照り返してくる。
「わぁ」
 反射に一瞬目を背けてから、短い声が自然に出た。街ではまず見られない景
色。白い世界がずうっと続いている。遠くに見える建物さえなければ、白の地
平線が拝めたかもしれない。
「これじゃ、戻ってから、きれいって言葉は、むやみに使えなくなるなあ」
 ミエが白い息を漏らしていた。
「ずっと、こんな天気だといいよね」
「うん、少なくとも、起きてる間は。雪が降るのは夜でいいわ」
「どうして、リマ?」
「だって、『一面の雪に残った足跡の謎』ってのを考えなくてすむもの」
「もう、古式ゆかしいミステリの読みすぎね。だいたいね、積雪に残った、あ
るいは残らなかった足跡をトリックとして用いているミステリって、どうも首
をかしげたくなるのが多いのよね」
「あら、どして?」
 思わず、言葉が短くなる。
「犯人が足跡のトリックを考えるってことは、犯罪を行う時刻の天気を予め知
っていないとできない芸当でしょう? そこが不思議なのよね。そりゃあ、天
気予報をしっかり聞いていたにしても、あまりにも犯人に都合よすぎる天気に
なるのよ。そこが嫌い」
「それは謎の設定上、許容されるべき範囲だわ」
「そこが作り物めく要因だと思うけど、まあ、我慢するとして、もう一つある
のよ。自殺や事故死に見せかけるならともかく、明かに殺人なのに、雪に足跡
を付けないように努力する犯人がいるのよね。必然性がまるでないじゃない」
「足跡を付けたら、優秀な警察によって、誰の足跡か分かっちゃうじゃないの」
 痛いとこを突かれているのは充分承知の上、あたしは苦しい反論を試みる。
 それをミエは、待ってましたとばかりに微笑んで、答える。
「それなら面倒なトリックなんかやめちゃって、歩けばいいわ。足跡が形を残
さないように足を引きずるでもしながらね。そうしたら、誰の足跡かなんて、
分かるはずないんだから」
 ……反駁の余地もない。負けました。
「……それでも、昔ながらの本格に憧れちゃうんだけどなあ」
「それは私も同じ。でも、ウルサイ評論家を沈黙させるような作品でもって、
姿を現してもらいたいのよ」
 ミエのこの言葉からも分かるように、あたしとミエのミステリの好みは、根
本では重なっている。
「さ、態度をはっきりさせましょ」
 ミエが急に口調を改めた。
「何のこと?」
「このままミステリ論を続けるなら周りの景色も目に入らないから、外にいて
も無駄無駄。暖かい部屋にいる方がいいし、景色を楽しみたいんなら、ミステ
リ論は打ち切ろうってこと」
 そういうことか。じゃあ、
「もうちょっと、外にいよ」
 ということで、しばらく雪月花荘の周囲を歩いてみる。ほとんど何もないけ
れど、所々に立ち枯れの木があって、それに積もった雪がきらきらしている。
「あ」
 あたしとミエは、同時に声を上げた。そして、すぐにそれを飲み込む。
 隠れるつもりがあるのか、木陰に寄り添うようにして、桜井君とマキがいた。
マキがしゃがんで雪をいじっている。その横で、桜井君が立ったまま、マキと
青空を交互に眺めている。別に何をしてる風でもないのだが、あたし達は見つ
からないように遠ざかった。それでも二人が見える領域は越えない。
「何となく、期待しちゃうね」
 あたしは小声で言った。大学生になっても、こんなシーンは興味津々てとこ。
「ほとんど公認カップルだから、期待通りにはならないと思うけど……」
 ミエも囁き声。
「何を話してるか聞こえたらねぇ」
 そうしていると、すっとマキが立ち上がり、桜井君の頬にキスをした……様
に見えた。いよいよかと思ったら、それだけで終わってしまった。二人はあた
し達がいる場所と反対の方向へ歩き出す。これだけ?
「こんなもんでしょ」
 悟ったようなことを言うミエ。
 まあ、追っかけるほどのこともなかったので、あたし達は屋根の下に舞い戻
ることにした。

−続く




前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 永山の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE