#945/3137 空中分解2
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お題>若き日の約束 永山
★内容
1999年。この年は、例のノストラダムスの大予言もあって、空前の占い
ブームが起こっていた。人々はファッションのように、ありとあらゆる種類の
占いをやってもらうようになっている。
少年には、そんな気は毛頭なかった。が、ある時、道端で声をかけられたの
だ。
「そこのぼく、見てあげるよ。なーに、心配いらん、ただで見てやろう」
と。ただに釣られた訳でもなかったが、その占い師のあまりの貧相さに、子
供らしからぬ哀れみを感じてしまった少年は、占い師の前で立ち止まった。
「できれば君の生まれた瞬間の正確な時間、それにお父さんとお母さんがアレ
をやったときの正確な日にちを知りたいが、それは無理じゃろ。生年月日を教
えておくれ。ふむ、7月7日。名前は? いしのせいじ? この紙に書いてく
れ。ほほう、石野成二と書くのか、いい字面だ。それと血液型だ。知っている
だけ教えておくれ。何だ、ABO式しか知らんのか。しょうがない、何型?
Aか。それからそうじゃ、忘れとった、両親はどっちも日本人か? おお、そ
うか、それならいい。最後に手相を見せてもらおうかの」
少年が左手を差し出すと、占い師は小難しい顔をして、しばらく見つめ、そ
れから虫眼鏡を取り出して、またしばらく見つめていた。
「ぼく、大きくなったら何になりたいんだね?」
「お医者さん!」
率直なところを、少年は答えた。
「おお、そうか。それがよい。自分が信ずる道を進むのが、順調な人生のため
と出ておる。だがな、今からそうじゃの……、17年と349日、それに2時
間とんで36秒後にはおまえにとっての転換期が来るぞ」
「てんかんきって?」
「運勢のかわり目と言えばいいかの。その時にうまく道を選ばぬと、おまえの
人生に悪いことが起きるかもしれん」
「どうすればいいの?」
別に信じていた訳ではなかったが、占い師を喜ばせようと思い、少年は心配
そうな顔で聞いてやった。
「その時がきた瞬間、東に進み始めるとよい、と出ておる。この約束を守れば、
大丈夫じゃ」
「でも……。17年も先じゃ、忘れちゃってるよ」
「フフ、そんなこともあろうかと思って、わしがいい物を用意しておる。これ
じゃ」
占い師は、懐から銀色の物を取り出した。
「何だ、腕時計じゃないか」
「ただの腕時計じゃないぞ。30年以内ならどんな時間でも、セットした30
秒前からアラームを鳴らせるんじゃ。電池は50年もつから、心配無用。時計
としての精度も、これこの通り、保証書付きだ」
占い師は紙切れを示した。
「……おじさん、時計屋だったの」
「……ばれちゃ仕方あるまいな。その通り。この腕時計、買わないかね。たっ
たの1000円だよ」
「しょうがないな、もう。まあ、ひまつぶしをしてくれた代金として払っとく
よ」
少年は財布から1000円玉を取り出し、占い師ならぬ時計屋に渡した。
「ありがとう。でも、約束は守ってみるのがいいんじゃよ」
冗談なのか本気なのか、笑いながら時計屋が言った。
さて、ノストラダムスの大予言は曖昧な形でしか当たらず、人類が滅亡する
なんて事はなかった。
そうして、少年は時計屋の占い通り、医者になれた。自分の信ずる道を進ん
できた結果だ。そのおかげで、いい職場にもつけた。
「ん?」
腕時計が鳴っていた。すっかり忘れたていたが、西暦2016年の今日は、
占ってもらった日から丁度、17年と349日と2時間とんで36秒経ってい
るらしい。
少年は(今はもちろん少年ではなかったが、面倒なのでこれで通す)、占い
の言葉を思い出してみた。
「そうだ、東に進み始めろ、だっけ」
それから少年は、一瞬、考え込んでしまった。
そして呟くように言った。
「東に行けって? 時計屋のおじさんよ、どっちに行ったらいいんだい、まっ
たく。約束は守れそうにもないな」
少年は、宇宙ステーション内の医務室に勤めるようになっていた。
−終−