AWC 破怪博士     永山


    次の版 
#1816/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (JYC     )  89/ 9/10  20:30  (193)
破怪博士     永山
★内容
 その頃、その村では、「破怪博士」と名乗る人物の話題で持ちきりでした。
「はかいはかせ」と読むのですよ、念のため。本人が説明したところによると、
この「破怪」は「怪しなるを破るもの」なる意味で、つまり、正義の味方だと
いう訳ですね。初めはその外面から判断して、村人達は、悪巧みでもしでかす
のでないのかと、警戒しておりましたが、子供達に愛想よく近付き、勉強や運
動のみならず、自然の大切さを教え、悩みの相談相手にまでなってくれました
ので、次第にその警戒を解いていきました。ところが、ある日、村の有力者が
乗った車が、破怪博士の所から帰る途中だった一人の子供を跳ねて、死にいた
らしめました。有力者は、自分の名に傷がつくのを恐れ、事故を破怪博士のし
た事のようにみせました。子供達は、口を閉ざしてしまい、大人達は、再び態
度を変え、破怪博士を私刑にかけさえしました。何とか、命を取り留めた破怪
博士は、どこかに去って行きました。しかし、皆が寝静まったある夜、子供達
が急に起き出して、家から出て行き始めたのです。ほとんどの親は気付かない
うちにです。気付いてもあっけにとられるだけでした。そして村の集会所に集
まったかと思うと、破怪博士がそこにいて、命令を出したのです。
 「大人達を襲え・・・。」
静かな、不気味な声だったそうです。あ、これは、異変に気付き、生き残った
僅かな人達の証言で知りました。村人達は、寝込みを襲われ、ほとんど殺され
ました。物は略奪され、家は焼き払われ、田畑は荒し尽くされました。破怪博
士と40人程の子供達はどこへともなく、去って行きました。どうして、子供
がこのようになったのでしょう?破怪博士が洗脳したのでしょうか?そうだと
しても、どうやって?その後、破怪博士の一行は、地方の名もないような村々
に現れては、同様の事を繰り返しました。大人の方は子供が相手で、手を出し
辛かったため、何の抵抗もできないまま、死んでいきました。この事件は、全
国規模の新聞の片隅に載りましたが、いつの間にか忘れ去られ、その地方の伝
説として片付けられるようになったのです・・・。


 入学式は滞りなく、進んでいた。誰もがこのまま無事で終わると、いや、無
事とかどうとか、意識もせずにいたところ、最後に生徒手帳を配る段になって、
それを手にしたと思われる生徒(新入生?)の一人が叫んだ。
 「こんな校則、守れるものか!」
一時、会場はシンとなった。だが、再び騒がしくなり、誰もとがめるような者
もいなかった。だが、これは一つの事件であった。ここは、有数の進学校なの
だ。それも高校への。くどいようだが、もう一言言うと、ここはつまり、中学
校なのだ。

 「ネネ、キミ、キミ。君だろ?さっき、あんな事を言ったのは。」
 「あんな事?ああ、あれか。感じたままを言っただけだが。」
 「いや、かっこよかった。誰もが思っていながら、仲々言えない事を、よく
言ってくれた。一種の憧れ、尊敬さえ感じるよ。言い忘れてた。僕の名前は剣
持。剣持絹夫。」
 「よろしく。自分は、榊沢古人という。」
その後、榊沢は、校則について、不満をぶちまけた。
 「だいたい、これには、校則の改善要求をするときの手続きが記されていな
い。頭ごなしに、ただ、守れと言っている。」
 「そうだなあ。それに、何で守らなきゃならないのか、分からないのもある
な。この、<ソックスは無地に限る>と言うのなんか。」

 榊沢は、日が経つに連れて、不満を募らせていき、生徒会長や担任、校長・
教頭に掛け合ったりしたが、無駄であった。その一方、どんどん、友人を作っ
ていった。何のためか?もちろん、意味があるのだ・・・。

 「君達も大変だねえ。いくら姉妹校提携を結んだからって、休みの時に、交
流に出向かなくちゃならないなんて。」
藤川九郎が言った。本山永矢が答える。
 「姉妹校ではありませんよ。強いて言えば、姉妹部です。文芸部同士、提携
を結んだんです。と言っても、口約束ですが。」
 「何でまた、そんな事に?」
 「あたし達の先輩の中に、向こうから転校してきた人がいたんです。」
木原真子が答えた。そして続けて尋ね返す。
 「藤川さんこそ、忙しいんでしょう?興信所の仕事が・・・。」
 「興信所じゃない。法律事務所だ。」
憮然とした表情で、木原の言葉を正す藤川。
 「あら、でも、やっている事は同じじゃないですか?」
 「君達だって、文芸部と名乗っているにしては、探偵紛いの事をやっている
じゃないか。」
 「そりゃ、そうです。でも、ここに来たのは、ちゃんとした理由があっての
事です。藤川さんの理由は・・・、何と言ってましたっけ?」
 「破怪博士、だよ。この辺りに破怪博士の伝説があるんだ。伝説と言うには、
歴史が浅くて、大げさなんだが。そいつに、今度の依頼者が関係してるんだ。」
 「歴史って、何年ぐらい前です?」
 「だいたい、30年前。」
 「あ、見えたわよ。ん?おかしいわね。何だか、様子が・・・。」
 「何だあ?学校の周りを大勢の人が取り囲んでいる・・・。」
確かに、様子はおかしかった。休日にも関わらず、大勢の人がいる。それも生
徒ではない輩が、校内に入れなくて往生しているようだった。
 「どうかしたんですか?」
やっとたどり着いた三人は、近くの人に質問をした。
 「生徒が立て篭ってるんですよ!全く、何考えてんだか・・・。」
 「はあ?それって、どういう意味で?」
 「何も知らんのかい。一年生の一人が扇動者になって、一年生の殆ど全員と、
数名の二、三年生が校舎に篭城しちまって、誰も入れようとはしないんだ。」
 「え?そ、それで、その生徒の名は?」
 「何つったかな。そうそう、榊沢古人だったかな。」
 「どんな事を要求しているのですか。」
 「第一次要求として、校則の改善を。第二次以降は、まだだ。」
 「ははあ。あ、どうもありがとう。」
藤川は礼を言うと、他の二人と共に、その場を離れた。
 「変な事になっている。破怪博士伝説どころじゃない。」
 「僕らだって。でも、気になるなあ。」
 「何が。」
 「その榊沢という子、文芸部の新入りだって、聞いていたんですよ。フルネ
ームまでは聞いていなかったから、断言は出来ないけど、恐らく・・。」
 「何だって?それじゃあ、君達の同輩も中に?」
 「分かりません。だいたい、どうやって、そんなにも多くの生徒を扇動出来
たのか、不思議です。」
 「フン。」
藤川が鼻を鳴らした。興味を持ってきた証拠である。彼には元々、探偵の素養
があるようなのだ。
 「一丁、調べてみるか。」
 「うん。他にする事、ないしね。」
木原が同意した。本山は黙ってうなずく。そして言った。
 「今日、一日しかないから、最後まではつき合えないかも知れないけど、や
るだけやろう。とりあえず、僕達は友達のとこを訪ねてみます。藤川さんは、
学校の周りの人に聞込みを。」
 「分かった。2時間後にここで。」
三人は、二手に別れた。

 2時間経過・・・。
 「どうだい?」
 「殆ど、篭城に参加してるみたいで、苦労しました。知ってる人で参加して
いなかったのは、二人だけ。で、話を聞いたところ、榊沢ってのは、入学式の
時から、校則なんかに反発していて、色々と問題を起こしているようです。で
も、人付き合いが悪いかと言うと、そうではなく、積極的に友達を作っていっ
たようです。ビデオメールなんか、渡したりして。」
 「ビデオ?金、かかるんじゃないのか?」
 「テープは安くはなってますが、一年生全員、約250名ともなると、やは
り・・・。それにしても、これだけの事で、一年生の殆どがこんな事をするな
んて、考えられない。あ、もう一つ。破怪博士の事を、よく語っていたそうで
すよ、榊沢ってのは。何と言うか、敬意を持って。」
 「ほほう。そこに破怪博士が絡んでくるのか。なおさら知りたいね、真相を。
それだけかい?」
 「そう。」
 「では、こっちだ。いろんな人に聞いて回ったんだが、かなり、準備をして
いるよ、あいつらは。立て篭っていると言っても、校舎を閉め切った訳じゃな
いんだ。校舎の内の2号館と言うらしいんだが、そこの3階にある家庭科室と
2階にある理科室、1階にある職員室及び宿直室を押さえたらしい。食料は大
量に用意し、家庭科室の大型冷蔵庫に保管していると考えられる。水道も通っ
ている。理科室には色々と武器になり得る物があるから、占領したようだ。職
員室は外部との連絡のための電話が、宿直室にはシャワーがある。」
 「周到ですねえ。」
 「そうだ。長期戦も辞さない気構えだ。篭城に加わっている生徒の正確な人
数は分からないが、約200名。95%以上が一年生と思われる。」
 「考えてみると、これって、藤川さんの言ってた破怪博士伝説に少し、似て
ますね。」
 「言えるな。どうやって、これだけの人数の子供を操れるのか。謎だな。」
この後、事件の真相を知るべく、精一杯、努力したが、いかんせん、時間が少
なすぎた。心残りながらも、本山と木原は帰った。だが、藤川は残って調べて
みることにした。

 学校の姿勢は、要求、受け入れられず。

 夜になっても帰ってこない生徒の親が、やって来る。遊びに行っているもの
と思っていたわが子が、「反乱」を起こしていたなんて・・・。学校側と、対
策を議論。警察に連絡を、と主張する学校側。飽くまで穏便に、と親側。結論、
出ず。

 真夜中。突如、ヘリコプターが飛んで来た。2号館の屋上に降り立つ。一人、
生徒が乗り込み。再び去って行く。それから2時間後・・・。

 「どういう事なんです、藤川さん。いま、ニュースを見ましたが、学校が全
焼したんですって?」
 「学校が、じゃない、2号館が、だ。生徒達はみんな死んでしまった。逃げ
る気配すらなかった。ただ、榊沢らしき生徒の遺体は見当たらなかった。多分、
ヘリに乗り込んだのが、榊沢だったんだ。」
 「じゃ、時限発火か何かの細工でも?」
 「そんなものはなかった。原因は、天カスさ。」
 「天カス?」
 「あいつら、夜にてんぷらを作ってみんなで食ったようだ。その時に出た天
カスを、まとめてダストシュートに放り込んだんだな。冷めきっていない天カ
スが集まると、火事を起こすくらいの熱になるんだそうだ。」
 「それは・・・、榊沢の仕業でしょうか?」
 「分からない。逃げ出したってのは怪しいが、どこに行ったか、さっぱりな
んだ。ヘリを操ってきた奴も、不明だ。」
 「結局、解決にはなってないんですか。あ、僕、あれだけの人数の洗脳の仕
方、推測してみました。」
  「何か、いい考えでも?」
 「はい。ビデオメールの中に、一箇所だけ、いや、一コマだけ、何でも言う
ことを聞かせられるような画像・低音を入れたんだと思います。サブリミナル
コントロールと言うんでしたっけ。」
 「ああ、聞いた事がある。人間の深層心理に影響を及ぼして、知らないうち
に洗脳されるという・・・。この種のコマーシャルは禁じられていると聞いて
いる。」
 「それですよ。あとは、ビデオを手に入れれば、証拠があがると思います。」
だが、不可解なことに、榊沢がみんなに手渡したというビデオメールは、全て、
紛失していた。

 二日後、学校で、補償問題等を話し合う会議が体育館で開かれた。そこへ、
「あの」時のヘリコプターが飛来し、体育館に突っ込んだ。操縦士はもちろん、
体育館にいた父兄・教師も全員死亡。操縦士は、伝説の破怪博士に似ていたと
言う。また、父兄の殆どは、破怪博士の下で教わったことのある人達だった。

 ああ、これは、ひょっとしたら、とてつもなく恐ろしいことではなかったの
でしょうか。破怪博士は、かつて受けた汚名を虚構だと証言してくれなかった
子供達に恨みを持った。そこで、まず、自分の一番信じている者に裏切られ、
死なれた悲しみを思い知らす為に、彼らの子供を殺した。次にかつての教え子
と共に心中をした・・・。
 では、榊沢という少年は?まさか、破怪博士の子供・・・?だとしたら、こ
れからも怨念を受け継いで、誰彼の区別なしに、復讐をしていくのでしょうか。

 −了−





前のメッセージ 次のメッセージ 
「CFM「空中分解」」一覧 永山の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE