#77/569 ●短編
★タイトル (AZA ) 03/03/08 23:15 (273)
踊る顔文字 永山
★内容
いよいよだね。凄く楽しみ。最終確認の手紙だよ。(^_^)
この間のテスト、どうだった? 私は社会がまただめでした。(;−;) あれ
だけ集中して勉強やったのに、前と変わらないなんて。
気分転換に映画『ワーキングガール』見ました。これがいいんだあ。なみだ
なみだでした。(;◇;) アレックス=オニール、格好いいし。おすすめ。あな
たも好きでしょ?(=O=)
休み、デートしないときは何してるの? 野球もサッカーも、いつもメンバ
ー集まるとは限らないよね。
私はひまさえあれば、家でお菓子作り。この前は和菓子に挑戦。手順は簡単
なのに、形を作るのが難しい。でも、ちょっと不揃いになったけれど、我なが
ら上出来。(^−^) 味もOK。それなのに、うちのお父さんと来たら、「甘す
ぎる」の一言。娘の努力健闘をたった一言で片付けるな、ばかやろー(キ゚O゚)
って感じ。
これであなたにまで「まじぃ」なんて言われたら、私ゃ泣いて怒るよ、もう。
(H_H#) たのむからおいしいと言ってよ! 持って行くからね。
それにしても、もうすぐやな季節が来るわねえ。花粉症だよ。あ〜(==)、考
えただけで、目がしょぼしょぼしてきた。(=_=) かゆいかゆい。
薬飲んだら、まあまあきくけど、かわりにねむくなるんだよ〜。(~O~)
……ふぅ。(-_-) ゆううつになるような話はやめやめ。滅入る。
次のデートのこと考えよう。
あ、新しい服を着ていくから、ほめるのを忘れないようにネ。
それじゃ、またね。(^^) 二人きりで会うのが本当に楽しみです。
忘れたり遅れたりしちゃいやだよ。(キTT)
* *
「ラブレター、だね」
「やっぱり、そう思うよな」
「うん。どう読んでもラブレター。誰かがこの坊主に宛てて書いたのか。羨ま
しいねえ。最近の小学生は進んでいる」
「軽い脳震盪ぐらいは天罰だって顔をしているな」
「そんなことは思ってもいないよ。それに、この坊主が意識をなくしたのは、
脳震盪じゃなく、単なる疲労の可能性が高い」
「何だと」
「きっかけは、出会い頭におまえさんと交錯したことかもしれないが、そのと
き軽い脳震盪で、緊張の糸が切れ、今まで溜まっていた疲れが一気に出て、す
やすやと眠ってしまった……」
「何。寝てるだけか、こいつは」
「おいおい、乱暴はだめだよ。土曜の昼前、食事に出掛けるのを中断して、気
を失った子供を家まで運んで休ませた、心優しい君はどこに行ったんだ」
「それはだな、大ごとになると思って、とりあえず。救急車呼ぶほどじゃねえ
よなと思って、知り合いのおまえを呼んだんだ」
「結果論だけど、それで正解だったよ。それで、この坊主の連絡先が分からな
いから、持ち物をひっくり返して調べてみた、と」
「ああ。持ち物と言っても、身一つだったんで、あちこち探ってみたら、ズボ
ンのポケットからその紙切れが出て来た訳さ」
「念のために聞くが、ぶつかったときとそれからあとの状況は」
「説明するほどでもないが、家の門を出た途端、左の腰の辺りに強い衝撃を受
けて、よろめいた。左手から走ってきたこいつは、カウンターパンチを食らっ
たボクサーみたいに、すっころんで仰向けに倒れていた。やれやれと思いつつ、
この坊主に声を掛けたが、目を覚まさなかった。放って置く訳にもいかないん
で、家の中に運んだんだ」
「デートに急いでたのかねえ」
「恐らく。寝てるだけなら、さっさと起こしてやるか」
「……いや。大事を取って、もうしばらく休ませておこう」
「……おまえ、小学生相手にひがんで、デートをぶち壊そうとか思ってねえ?」
「その思惑がゼロとは言わないが、僕は坊主の体調を心配してやったまで。こ
んなに簡単に熟睡できるほど疲れてるのなら、デートは控えた方がいいだろ。
恋人の前では張り切って大丈夫だろうが、その反動で疲労が上積みされる。今
叩き起こしてデートの待ち合わせ場所に急がせても、焦りと興奮とで危なかろ
う」
「少し胡散臭い論理展開だが、まあいい。でもな、坊主の相手はどうする」
「ん?」
「こいつの彼女がこの寒空の下、心配して待ってるだろうってこと。おニュー
の服を着て、手作りの菓子を持ってな。かわいそうと思わないか」
「なるほど。この坊主の家に電話しても、『もうとっくの昔に出掛けましたよ』
なんて返事が待ってるだけか。あ、電話と言えば、この坊主は携帯電話を持っ
ていなかったのか?」
「なかった。転んだ拍子に落とした可能性も多分、ないと思う。家の前の道路
をざっと見たからな」
「そうか。それで、今どき手紙なのかな。携帯電話を持っているのなら、デー
トの約束ぐらい、メールで充分」
「そうだな……待てよ。別に携帯電話じゃなくても普通に電話すれば済むこと
だぜ」
「親に内緒の交際なのかねえ。……うん? 何にしろ、手書きじゃないのはお
かしい気もするな」
「手書き?」
「このラブレター、プリントアウトした物だよ」
「見れば分かる。どこのどいつが手書きで顔文字まで書くかよ、七面倒くさい」
「てことは、自宅にはパソコンがあるのか。今の世の中パソコンを持ってるの
なら、ネットに接続可能な環境であると見ていい。なのに電子メールでやり取
りをしないなんて」
「女の子の家にはパソコンがあるが、この坊主の家にはないのかもしれん」
「じゃあ、手書きでもいいのに。その方が女の子らしい気がする。まさか、顔
文字のためだけに、ワープロなりエディタなりで打って、印字したのかねえ」
「他に考えられない」
「いやいや、色々と想像はできる。たとえば……女の子の家にパソコンはない。
だが、今や小学校でもパソコンの使い方を教えるような時代だ。学校にはパソ
コンがあるだろう。そして、授業中にこっそり書いたラブレターをプリントア
ウトし、坊主に渡した、とか」
「ふむ。ないとは言えないな」
「あるいは……両家ともパソコンを所有しており、電子メールのやり取りも可
能。この坊主は彼女からのメールを受信し、プリントアウトした物を携え、待
ち合わせ場所に向かった、なんてのも考えられる」
「そうか。待ち合わせの場所や時間なんかをいちいちメモするよりは、印刷の
方が早い……って、おかしいぞ、それ」
「どこが?」
「この手紙には、場所も時間も書かれてないじゃねえか」
「……そうだね。最終確認とか言ってる割には、何の確認にもなってない。愛
情の確認か?」
「馬鹿」
「冗談だよ、気にするなよ。それにしても、よくよく見ればおかしな手紙だ。
相手の名前も自分の名前も一切書いてない」
「いや、それは大した問題じゃないさ。二人の間だけで交わされる手紙なんだ
から、当事者にさえ通じればいい」
「経験者は語る」
「うるさい」
「おかしいのはまだある。今見つけたんだが、顔文字の使い方の一部が変じゃ
ないか?」
「ああ。俺も気付いてたよ。『好きでしょ?(=O=) 』のこのマーク、意味が分
からん。だが、間違えただけかもしれないし、気にすることないんじゃねえの」
「顔文字の不自然さは、そこだけじゃないよ。どうして『ばかやろー(キ゚O゚)』
なんだ。怒っているときは、傷マークじゃなく、ぴきぴきマークだろ」
「傷マークに、ぴきぴきマーク?」
「キと#のこと。最後の文『いやだよ。(キTT)』も妙だ」
「ああ……。怒りを表すのは、確かにそうだな。だけど、それも単純なミスっ
てことで片がつく」
「これだけ顔文字を多用しながら、あってもおかしくない位置に顔文字がない
のも、不思議だ。『ほめるのを忘れないようにネ』の後ろには、ぽっと頬を染
めた(*^^*)マークがあってもいいんじゃないかねえ。経験豊かな人の意見を聞
きたいな」
「確かに、あっておかしくないが……うっかり忘れた、とか」
「君の見解を全て受け入れたら、ミスが多過ぎるんじゃないか? 彼氏のこと
で頭がいっぱいで、舞い上がっていたにしても、ちょっとひどい」
「要するに、おまえは何が言いたい訳? これがラブレターじゃないとでも?」
「それは分からないけれど、子供らしい、何ていうか、秘密の文章が隠されて
いるんじゃないかと思う」
「秘密の文章……暗号か?」
「そうそう、暗号という言い方があった。デートの場所や時間といった大事な
ことは、暗号になってるんじゃないかねえ」
「何のために」
「万が一、友達に見られたときのために決まってる。経験浅くても、この程度
は断言するぞ」
「ああ、そうか。それじゃあ、やはりこの手紙は、学校のパソコン室みたいな
ところで作られたんだな」
「そういう想像が、ぴたりと当てはまる気がするよ。二人だけの秘密があった
方が、より楽しいだろうし」
「しかし……どこに暗号があるんだよ。それらしきものはないぞ」
「それらしい暗号なんて、下の下だよ。見た目にも暗号っぽかったら、それを
見た友達が怪しむ。ひょっとしたら、暗号を解かれてしまうかもしれない」
「講釈はいい。一体全体、この手紙の何が暗号になっているんだ? あぶり出
しとか言うなよ」
「言わないよ。顔文字が暗号になってると思う」
「……何で?」
「理由はない。ただ、他に思い浮かばないだろ? 消去法で顔文字しかないん
だよ」
「うーん。暗号なら、それを解いて、秘密の文章を再現してくれないと、何と
も言えねえな」
「やってみるか。解いてる内に、この坊主も目を覚ますだろう。書く物を」
「ちょっと待ってくれ。――これでいいな?」
「上等、上等。えーっと! 使われているのは……(^_^)(;−;)(;◇;)(=O=)
(^−^)(キ゚O゚)(H_H#)(=◇=)(=_=)(~O~)(-_-)(^^)(キTT) の十三個。だぶり
なし。顔の輪郭は全部に共通してるから、特徴にならない。つまり、無関係だ
と思うんだ」
「ふむふむ」
「顔文字の目と口、それに傷マークとぴきぴきマークが鍵だよ。そこでそれぞ
れを分解して、抜き出すことにするよ。目は^;=゚H~-Tの八つ。口は_−O◇と
口のない“口無し”、都合五種類ある」
「ん? ストップだ。口にはもう一種類、半角のOがあるぜ。ほら、Oって」
「それについては、別に考えていることがある。口の種類の内、半角なのはそ
れだけだろ? 何か特殊な文字なんじゃないかな」
「ま、ひとまず、それでよしとしよう」
「口が五種類。五種類と暗号と聞いて、まず浮かぶのは、母音だよね」
「はあ? だーれも連想しないぞ。五種類と暗号でボインなんて」
「……」
「……」
「……こっちの母音だよ。ほら」
「……ああ。この字を書くのか。それならそうと早く言ってくれ」
「日本語は五十音から成り立っている。母音と子音を組み合わせることで、五
十音は表現できる。そう、ローマ字だ。小学校も高学年なら、ローマ字を習っ
ているだろうねえ」
「パソコンを触れるような子供は、自然と覚えるかもしれないしな」
「子供は目新しい物を使いたがると思うしね。さて。口が母音なら、目は子音
だと仮定してもいいだろう。ただ、どの目や口が、どのアルファベットを表す
のかは、すぐには分からない。ここで注意したいのが、顔文字に付いた装飾。
傷とぴきぴきマークだ。二種類ある。元々何らかの字を表す顔文字に、さらに
装飾をして別の字にする……これは、五十音での濁音や半濁音の働きと同じだ
ね」
「傷マークとぴきぴきマークは、それぞれ丸か点々のどちらかってんだな」
「そうだよ。しかも、簡単な推測ができる。キは ゚とT、#はHに付いているけど、
ここで、暗号を作る側の心理を考えてみるよ。秘密にしたい事柄ではあるが、
国家に関わる大げさなものではない。そういうケースなら、暗号を作る側も、
なるべく覚えやすい方法を取ると考えられる」
「覚えやすいと言うと……」
「目や口の記号に対し、でたらめにアルファベットを割り振るよりも、一部で
も関連性を持たせた方が、覚える手間が省ける。この暗号では、H という目は
アルファベットのHを表すことにしておけばいい」
「もしそうだとしたら、#は半濁音だな。半濁音はハ行にしか付けないから。キ
は濁音か。ついでに言えば、TはTだと類推できるな」
「全く同じ考えだよ。さらに付け加えるなら、口のOは当然、母音としてのO
を表すんじゃないかねえ」
「おお、それも言える」
「相槌が早いよ。次に着目したいのは (=O=)だ。唯一、口が半角の顔文字。口
が半角ということは、他よりも小さいことにつながる。言い換えると、これは
小文字を表現すのではないか?と推理するのは、さほど無理のない思考だよね」
「おお! 小文字ってのは、ぇ、っ、ゃ、ゅ、ょのどれかだな」
「まあ、ぁぃぅぉを使う人もいるけれど、一般的な文章には不要だろう。だか
ら、(=O=) は小文字かつ母音がOとしていいだろう。ぇ、っ、ゃ、ゅ、ょの中
で条件に当てはまるのは、ょ、だけ。よって、= はYを表す」
「だいぶ分かってきたな」
「まだまだだよ。それに当たっているかどうか、まだ心許ないし。さあ、次は
……半角が小文字を表すことと、パソコンの特殊性を照らし合わせて考える」
「パソコンの特殊性? 難しげな言い回しだな」
「いや、適当な言い方を思い付かないだけで。今、言いたいのは、パソコンで
使う文字記号には、半角にできるものとできないものがあるってこと」
「ああ……あったな。口に使われている文字や記号の内、_と−とOは半角に
できるが、◇は半角にできない。しようとすると、確かになっちまう」
「そうそう。補足すると、口無しも当然、半角にはできない。五つの母音の内、
二つは半角にできない。ということは、◇と口無しは、半角にする必要のない
母音が当てはめられているんだよ、きっと」
「なーるほど。半角にする必要がない母音は、ぇ、っ、ゃ、ゅ、ょに使われて
いないんだから……Iだな。あれ? 一個しかないぜ?」
「うん。多分、もう一つはEなんじゃないかな。ぇは確かに必要だけど、YE
で代用したんじゃないかと思うんだ」
「YEは普通なら、“え”だな。だが、“え”を表す顔文字は二つもいらない
から、片方をぇにしたと」
「そう。実際、使われている顔文字には、(=◇=)というのがあるしね。ところ
で、顔文字でローマ字表現を行うとしたら、困ることがまだある。“ん”は顔
文字にならないんだ。口無しにも母音をあてがったおかげで、“ん”は目だけ
にならざるを得ない」
「そうすると……YIを“ん”にするか」
「それが自然な発想だろうねえ。じゃあ、口無しと◇、どちらがIでどちらが
Eか? その判断のために、(H_H#)(=◇=)(=_=) を検討してみる。分かった
ところだけ変換すると、『P_ぇY_』か『P_んY_』になる。_には同じ
母音で、AかUが入ると分かっているから、考えられる言葉をリストアップす
るのは簡単だよ。やってみよう。『ぱぇや』『ぷぇゆ』『ぱんや』『ぷんゆ』
の四通りしかない。単語あるいは文章の途中だとしても、意味のありそうなも
のは、『ぱんや』だけと言っていいね」
「おっ、凄いな! てことはだ、(=◇=)が“ん”であると分かったばかりか、
◇がI、口無しがE、_がAも確定だ。あ、残る−がUなのも決まった!」
「『ぱんや』は『パン屋』で、当然、待ち合わせ場所だね。この町に、『パン
屋』と言うだけで通じる店があったっけ?」
「『パン屋という名のパン屋さん』てのが、有名だぞ。そこじゃないか?」
「多分、それだ。この坊主の遅刻を少しでも短くしてやるなら、まずその店に
行ってみればいいね」
「そんな気、ないくせに言うなよ。その気があれば、暗号解読なんかしてない
で、叩き起こせばいいんだからな」
「ふふ。では、暗号解読を続けるとしよう。(キ゚O゚) は“ご”“ぞ”のいずれ
かと言えるけど、そこから先は決め手なし。ただ、いずれにしろ、そのあとに
『パン屋』とつなげるには無理がある。『ぞぱんや』や『ごぱんや』なんて、
聞かないだろう?」
「ああ、ないな」
「つまり、(キ゚O゚)と(H_H#)の間で、文章が一旦切れるんだ。(H_H#) 以下の
文は、パン屋が主語で、待ち合わせ場所を表していることが確実視できる。判
明した分を書けば、『ぱんや~O-A^Eで』となる」
「パン屋OAEで……。場所を表すのだから、『パン屋の〜で』『パン屋と〜
で』辺りか」
「(~O~)は“と”ではないよ。タ行はTとしたんだから」
「そうだった。じゃ、『パン屋の〜で』で決まりだろ。パン屋のAEで……あ
えで……これ、『パン屋の前で』しか考えられなくないか?」
「同感。これを認めることにより、~はN、-はM、^はA ……というかア行に
なる。全体での判明分をまとめると、 『あ;U;Iょう゚O パン屋の前で』だ
ね。残る子音は、KSRWで、゚ は濁音になり得るのだから、カ行のKかサ行
のS。一方、; はWではない。WUやWIは必要のない形だからね。これらの
条件を元に、考えられる文字列をリストアップすると、『あくきょうぞ』『あ
すしょうご』『あるりょうご』『あるりょうぞ』の四通り。意味が通じるのは、
『あすしょうご』だけであり、『明日正午』と解釈すれば、待ち合わせの時間
を示しているのだろうという推測にも合致する。きっと、昨日の金曜に学校で、
最終確認のこの手紙をもらったんだろうね」
「やったぞ! まさか、こんなにきれいに解けるとは、思ってもみなかった!」
「いやいや。仮定を積み重ねた挙げ句の結論だから、合っているとは限らない。
当人に聞かないことには……おっ、さっき大声を出したおかげで、お目覚めの
ようだ」
「よっ。坊主。さっきは悪かったな。ところで、パン屋に急いでるところじゃ
なかったのか? 送ってやってもいいぞ。ちょっと手遅れかもしれないけどな」
――(^O^)(;◇;)(-_-)(^◇^)