AWC 公園の背広男 2   永山


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#152/598 ●長編
★タイトル (AZA     )  03/06/11  21:26  (290)
公園の背広男 2   永山
★内容
「うん。わしもこんな時刻にここにいるのは初めてだが……」
 甲斐は公園内に一歩踏み入れ、いささか意外な心持ちでぐるりと見渡した。
あるいは季節柄のせいかもしれないと思い直す。夏も本番に差し掛かるこの時
季、昼日向の陽射しはきつくなる一方だ。
 今はとにかくベンチである。中を横切り、一直線に目指す。甲斐と有木はち
ょっと顔を見合わせ、ほぼ同時に座った。
「木々が見えるぐらいだのう」
 第一の感想はそれだった。実際、そのあとに続くものがない。街並みは木の
緑に遮られて、よく見えないのである。少し角度を上向きにすれば青空、下向
きにすればグリーンのネット。さらに下げると縁石か地面だ。
「背広男の座っていた様子を、できる限り忠実に再現してみてくれんか」
 立ち上がった有木の要請に従い、甲斐は思い出しながら姿勢を調節し始めた。
足を開き気味にし、左肘を太股の上につく。左手は耳や頬の辺りに添えられ、
右手の方は右膝やベンチの上をしきりに触っていた。
「こんな感じだった気がする。ずっと石みたいに固まっていた訳じゃあないの
は、言うまでもないがのう」
「耳の辺りを触っていたのは、イヤホンの存在を裏付けると言えなくもない。
口元にマイクロフォンはなかったか?」
 甲斐は力なく首を左右に振った。
「覚えていない。と言うよりも、見えんかったな」
「仕方がない。マイクなんて、随分と小さい物があるからな。さて、他に何か
分かることは……」
 有木はベンチの周りをぐるぐると歩いた。甲斐も続こうとして、ベンチに手
を突いた際、ふとそれに気付いた。座面に何か記号のような物があった。
「あ……これは?」
 見る向きを色々変えてみる内に、甲斐は立ち上がった。左手でベンチを示し、
右手で有木を手招きする。
「ゆーさん! ここ! これを見てくれ!」
「何だい、大きな声を……」
 足を止め、肩越しに振り返った有木は苦笑を浮かべながら引き返し、甲斐の
指差したベンチのとある箇所――先ほど甲斐が右手を置いた付近――に顔を近
付けた。すると、見る間に表情が険しくなる。
「『リカ』と読める」
 ベンチの座る面には、硬い物で擦ったような真新しい痕跡があった。横書き
のそれはやけにぎこちなく、しゃちほこばった字体だったが、甲斐達の位置か
らは確かにリカと読めた。
「背広男が座っている間、彫りつけたのかのう?」
「それ、大いにありそうだな。指や爪じゃあ無理だから……安物のボールペン
を、キャップを取らずに使えば、こんな具合の傷が残る気がする」
「ボールペンを持っていたかどうか、覚えていないが、まあ、見えな買ったと
しても不思議じゃないし、ポケットにでも差していたのを使ったのかもしれな
い」
「リカ、か……子供の名前だとしたら、真っ先に誘拐が思い浮かぶ」
「誘拐? じゃ、じゃあ」
 どもる甲斐に、有木は落ち着けとばかり、二の腕を叩いた。そのまま意見を
述べる。
「誘拐説に基づいて、考えを推し進めるとだな。背広男はリカという名の女児
を誘拐して、脅迫電話を掛けていた。ベンチに名前を残してしまったのは、恐
らく無意識の行動で、名前を言い間違えないようにとボールペンを持った指が
勝手に動いたのだろう。顔色の悪さや緊張感溢れる表情は、本来肝っ玉の小さ
い奴だという証と言えるしな」
「のう、ゆーさん。名前を間違えちゃまずい理由があるかい?」
「警察による逆探知を恐れて、コンマ一秒でも早く電話を切りたい。それが誘
拐犯の心理ってもんさ。現実には、携帯電話ならすぐに判明するがね。不正に
取得した携帯電話を使えば問題ない」
 有木は懐から小さなカメラを取り出し、ベンチを写真に収めた。数度シャッ
ターを切って、大事そうに仕舞う。甲斐はその動作の終わりを待って、尋ねた。
「八日も公園に来ていたのは、どうしてなんだろう? それに内七日は十時に
なると出て行き、最後の一日は十時を五分過ぎて出て行った。これは何なんだ
ろうか」
「共犯がいて、そいつから首尾を聞いた上で動いていたと考えりゃどうだい? 
最初の七日間は都合が悪く、行動を起こさなかった。八日目に条件が揃うか何
かして、遂に動いた」
「もし当たっているなら、あのときわしは、追い掛けるべきだった……」
 苦渋に満ち溢れた顔つきで、甲斐は肩を落とした。
「これで決まりって訳じゃあないよ、甲斐さん。それにな、もしも誘拐犯だと
したら、我々が下手に介入することは、かえってまずい事態を招きかねん。誘
拐犯の常套句は警察に知らせるな、だからな。我々が背広男の腕を引っ掴まえ
て詰問でもしようものなら、警察介入と誤解した共犯者が、リカという子供に
危害を加えることだって充分にあり得る」
 有木の説明は安心させるためだったのかもしれない。事実、多少は気が楽に
なった甲斐。
「なあ、ゆーさん。確証はないが、もしも誘拐だとしたら、わしらはどうすれ
ばいい? 警察に一応知らせるべきじゃあないか? 警察が既に密かに動いて
るならそれでよし。被害家族が警察に通報していないのであれば、意に反する
だろうが、捜査してもらうべきだと思うんだがの」
「どうかねえ。警察に信じてもらえるかどうか甚だ心許ないな。信じてもらっ
たとしても、リカだけでは手がかりにならんよ。うーん、どうやら想像が過ぎ
たようだな。必要以上に、甲斐さんの不安を煽ってしまった」
 有木は前頭部から髪に指を突っ込み、かきむしった。
 甲斐はその見方を素直に認め、頷く。
「誘拐と断定されれば、わしも勇気を奮って、警察に飛び込むところだが、今
のままだと宙ぶらりんで、徒に時間を潰すほかない」
「そこまで言うなら……今からじゃ遅いが、背広男が去って行った方角に進ん
でみるか。目撃者がおるかもしれんし」
 甲斐は有木の案に乗った。公園を駆け足で出ると、車に乗り込む。
「背広男が消えたのはどっちだい?」
「**駅まで通じている道だよ」
 やや早口で応じ、甲斐は手で左を差した。有木はゆっくりと車をスタートさ
せたが、その目は躊躇と困惑の色を浮かべていた。
「一本道だったな。枝道もあるにはあるが、車じゃ入れないところがほとんど
のはずだぞ。歩くべきか」
「……いや、ゆーさん。先に駅まで行ってみよう。駅で目撃者探しをして、背
広男を見掛けた人物がおれば、背広男が駅まで来たことははっきりする。いな
いなら、背広男は枝道のどれかに入ったことになるから、来た道を引き返しな
がら調べる。どうかの?」
「甲斐さん、冴えてるな。**駅はここいらを通る路線で最大の駅だし、利用
した可能性は充分にある。そっちを先に調べるのは極めて合理的だ」
 有木は口元に笑みを浮かべ、車の速度を上げた。

 一番手近な北口で聞き込みを掛けたところ、駅員の一人と売店店員が覚えて
いた。甲斐が背広男の特徴を告げると、確かに昨日そんな男性が来ていたとの
証言が得られたのである。
「何だか挙動不審だったわねえ。だからこそ印象に残ったんですけどね」
 売店の中年女性は客を捌きつつ、平然と答えてくれた。ちなみに駅員の方は、
仕事があるからあとにしてくれと言ったので、言葉通り、後回しにした。
「挙動不審と言いますと、具体的には?」
「ほら、そこにコインロッカーあるでしょう」
 店員は「はい、おつり」と客の相手をこなしながら、顎を左に振った。それ
でコインロッカーの位置を示したつもりらしい。
 有木と甲斐は、数歩歩いて売店横のコインロッカーを確認した。ざっと見た
感じで縦に四列、横に二十列ほどか。向かって左、売店に近い側から401、
402……と番号が振ってある。天井近くの高さに張られた利用案内によると、
駅には他にも三箇所、こうしたコインロッカー設備があるらしい。
「多分、東、南、西口それぞれのコインロッカーは、百番台、二百番台、三百
番台があてがわれているんだろうな」
 有木のつぶやきは店員にしっかり届いていたようで、「東口が百番台でした
ね。南と西のどっちがどっちだったかは忘れたけれども」なる補足があった。
「それで、ロッカーがどうしました?」
「あなたの言った長髪で背広姿の男性が、ロッカーの位置を聞きに来たんだよ」
「ほお?」
 有木と甲斐は横目で互いを見合った。誘拐犯であるなら、少し意外な展開で
ある。てっきり、コインロッカーを利用した身代金ダッシュ計画だと思ってい
たのだが、肝心のロッカーの位置を事前に知らなかったとなると、辻褄が合わ
ない。
 店員は手漉きになったところで一息ついたが、それでもお喋りはやめない。
「こういう風に、鍵を私の方に見せてね。『このコインロッカーはどの辺にあ
るか、お分かりでしょうか』って」
 手のひらを上にして、腕を恐る恐る突き出す動作を交え、彼女は言った。や
や赤みを帯びたその手には、鍵が載っているかのようだった。
「鍵を持っていたのですか」
 意外感を隠さず、有木が質問を重ねる。店員は大きく頷いた。
「番号が見えたんで、ああ、そこのコインロッカーだって分かったから、教え
てあげた。そしたら、どうも、と言い残して足早にロッカーの方に」
「鍵が何番だったか、覚えています?」
「えっと。411か417、それとも471か477だわ。ここの鍵の札に書
いてある番号って、7が細くて1と見間違えることがたまにあるのよねえ」
「なるほど。分かりました。そのあと、男性が何をしたか、ご覧になっていま
せんか?」
「ああ、残念。壁があるんで、見えやしないわよ」
 店員は手の甲で、売店の横壁を軽く叩いてみせた。
 そこへ団体客がやって来たので、潮時と見た有木と甲斐は、相手に礼を言っ
てその場を離れた。
「駅員は……忙しそうでもないが、相手にしてくれそうもないな」
「かと言って、仕事が終わってから話を聞こうとしたら、あの手のタイプは謝
礼を求めてきそうだのう」
「とりあえず、先にロッカーだ」
 有木のあとについて、甲斐もコインロッカーに向かう。
「411、417、471、477のどれかだったな。しかし、いくら1と7
が似ていても、並んでいれば違いは何となく分かるもんだ。だから、411か
477のどちらかだと睨んでる」
 独りつぶやき、有木はコインロッカーに接近した。まずは411番に手を伸
ばす。単純な仕組みで、手練にかかれば鍵がなくても開けられてしまえそうな
代物だ。
 有木は少々屈んで把手を引き、がたがたと音を鳴らした。
「……開かねえな」
 それが当然だという風に肩をすくめた有木。顎に手を当て、しばしの思慮を
挟んで、今度は477番の前に立つ。腕を伸ばして把手を引くが、これも乾い
た音がするばかりで開かなかった。
「念のため、残り二つも見とくかい?」
 甲斐が尋ねると、有木は忙しなく頷いた。いかにも適当で、期待を掛けてい
ない様子だった。
 甲斐は471番と417番のロッカーを調べた。二つとも軽く開いた。中は
どちらも空だった。
「元から背広男と無関係なのか、背広男が使ったが、もう中身を取り出したあ
となのか、判断しようがないのう」
「……勘違いしていたぜ」
 唐突な有木の発言に、甲斐は空っぽのロッカーを見つめていた目を、急いで
振り向けた。
「何だ何だ、ゆーさん? 勘違いってのは」
「リカじゃなかったのさ。冷静に考えてたら、最初っから明らかだったっての
に。くそっ、間抜けめ」
 吐き捨てる有木は、その場で円を描くように歩き始めた。せかせかした足取
りに、甲斐も声を掛けにくい。
 だが聞かなくとも、有木の方から話し始めた。
「背広男は多分、いやいや、きっと加害者ではなく被害者だ。それはコインロ
ッカーの位置を知らなかった様子や、にもかかわらず鍵を持っていたことから
想像できる。誘拐はあったのかもしれんし、なかったのかもしれん。だが、何
らかの脅迫が行われた可能性は高そうじゃないか」
 不意に立ち止まり、同意を求めてきた。甲斐は慌て手首を縦に振った。
「犯人は背広男に何かを要求し、コインロッカーにその何かを入れるよう、電
話で指示した。背広男はコインロッカーの番号を忘れぬよう、急いでベンチに
傷を付けた」
「ベンチの傷はリカでは」
「反対から見れば、だよ。甲斐さん」
 苦笑いをなす有木。
「俺達は立って、ベンチの真正面からあの傷を見た。だが、背広男は座ったま
ま、刻んだんだぜ。つまりだな、あの傷は座ったまま読まなきゃいかん」
「逆さまに見てたってことかい。だが、逆さにしたって、日本語になるのやら」
「リカを逆さにすれば、411になるじゃあないか」
「はあ? 何だって?」
 素っ頓狂な声で反応した甲斐は、気恥ずかしくなって口をつぐんだ。事実、
乗降客の視線が一時的にではあるが、甲斐に注がれたようだ。
「リは棒が二本、並んでいる感じで、カは頭のところが開いた4をひっくり返
した形になるだろ」
「……ああ、言われてみれば」
 有木の指示に従い、ベンチにあった文字を忠実に思い浮かべ、脳裏でひっく
り返してみる。思い込みをなくすと、411と読めた。
「411番に、まだその何かが入っているのかねえ?」
「うむ……ここのロッカーは、三百円で二十四時間の保管が利くが、それを超
過しても四十八時間が経過するまでは、料金追加を受け付けるとあるな」
 利用案内に目を凝らしながら、有木は言った。
「追加がなかったときだけ、更に二十四時間の経過を待って、管理者が空けて
中身を調べることになっているらしい。何にしろ、昨日の今日の出来事につい
ちゃあ、まだまだ大丈夫って訳だ」
「見張っていれば、取りに来る人物を目撃できるんだな」
 そこまでつぶやいた甲斐は、はたと気が付いた。有木に身を寄せ、音量を極
度に落とした声で囁く。
「もしかすると、警察が今まさに張り込んでいるのでは?」
「ないとは言い切れんが、多分、警察はいないと思うよ。被害者が通報してい
ないだろうから」
「何故そんなことが」
 問いを重ねる甲斐を引っ張り、有木はコインロッカーから遠ざかった。駅舎
から外に出たところで、改めて語る。
「ちょっと調子に乗ってたな。犯人が俺達を刑事と勘違いしたらまずい。離れ
ておこう」
「あ、そうか。そうだな」
「犯人は被害者に対して、八日目になってやっと具体的な指示を出した。それ
までの七日間は、公園に来させるだけ来させて待たせるのみだったと考えられ
るだろう?」
「ああ、そうなるのう」
「犯人がそんな真似をしたのは、恐らく警察の介入のないことをはっきりと確
認するためだったんじゃねえかと思う。見通しのよい公園に一人で来させ、ど
こかから観察していたのさ。警察が捜査に乗り出していたのなら、何らかの動
きが出てしまうものだ。一週間ともなると、張り込みの体制を変えずにいたら
気付かれ易いから、二日毎ぐらいに変える必要が出て来る。だが、変えること
自体が犯人の目に着く。警察だって無意識の内に隙を見せちまう」
「一週間、異常が見当たらなかったから、犯人はいよいよ動き出したという訳
かい。なるほどな。あの背広男は公園で連日、まんじりともせずに連絡を待っ
ていた……十時になると立ち去ったのは?」
「十時までに連絡がなければ、こうしろという命令が犯人から示されてたに違
いねえ。内容は想像するしかないが、さっさと家に帰れとか、別の場所に移っ
て指示を待てとかな」
「そうかそうか。じゃあ、昨日受けた指示は……」
「金か何か知らんが、ブツを駅のコインロッカーに入れるように言われたんだ
ろう。鍵はどこか人目に付かぬ場所に貼り付けてりゃいい。その場所を教わっ
た背広男自身が、剥がして手に入れた。ブツを入れてロックしたら、鍵をどこ
そこに貼り付けろってな指示まであった。こんなところじゃないかね」
「ううむ。これから犯人が来るのだと思うと、いよいよ捕らえたくなってきた。
だが、勝手なことはできんし」
「我々にできることと言えば、尾行して、犯人のアジトを突き止めるぐらいか」
 肩越しにロッカーの方を見やる有木。甲斐は落胆のため息をついた。
「どうした、甲斐さん」
「わしは、腕っ節には往年の力がないし、脚力もない。文字通り、足手まとい
になるだけだのう」
「おいおい、そんなことでしょげ返らんでくれ。見えなかった事件の端緒を掴
んだのは、甲斐さんの手柄だぜ」
「しかし……他に何かできることは」
「そうさなあ」
 本職らしく、コインロッカーへの注意を怠ることなく、有木はしばし考え、
程なくして答えた。
「犯人がロッカーからブツを持ち去ったあとで、可能性は薄いが、被害者が姿
を見せるかもしれん。背広男かもしれないな。そうなったとき、うまいこと接
触して、何が起きてるのかを探ってみてくれるかい?」
「うーん、難しそうだが……」
「何なら、その人物を尾行してくれたっていい。犯人を尾行するよりは楽なは
すだ」
「分かった。やるよ、ゆーさん」
 決心を固めるべく、甲斐が自らの胸をどんと叩いたそのとき。
「ちょっと失礼」
 背後から肩を叩かれ、甲斐はゆっくりと向き直った。
「あ、やっぱり。こいつです」
 髪の長い背広姿の男性がそこにいた。公園で見掛けた背広男が、今、甲斐を
真正面から指差している。
「こいつに間違いありません。私が高遠で待ち続けた間、ずっと私のことを見
ていた」
 背広男が自分に気付いていたこと自体、甲斐には意外だったが、それ以上に
誤解されているらしいと感じ取った。慌てて距離を詰めようとする。
 が、それはならなかった。背広男の隣にいた、長身で肩幅の広い男性が、間
を割るようにして立ちふさがった。状況を飲み込めないでいる甲斐が、有木と
顔を見合わせようとすると、長身の男は重々しい調子で言った。
「話を聞かせてもらいます。まず、あなた方は何をされていたのか」
 そして若干遅れ気味に、こういう者ですと付け加え、警察手帳を示した。
「何をって」
 答に窮したのは、相手の眼光の鋭さを感じ取ったため。これはもしや相当ま
ずい状況に……と、甲斐は有木をもう一度見た。
「どうしよう、ゆーさん?」
「どうしようったって、甲斐さん。ここは一つ、正直に――」
「こ、こ、こいつら、年寄りのくせに、『ゆー』に『かい』だなんて符丁で呼
び合ってますよ。誘拐をやらかす上に、ふざけた連中です!」
 有木の台詞が終わらない内に、背広男が声高にまくし立てた。
「こいつらが犯人に決まってます。一度うまく行ったからといって、また要求
してきたのが運の尽きだぞ。罠に掛かったんだ、おまえらはっ」
 推測通り、誘拐が起きていたことは察せられた。
 それと引き換えに、事態がどんどんおかしな方向に進んでいるのもまた事実。
誤解を解くのは案外大変そうだと思えて、嫌な汗を額に覚えつつ、橋は口を開
いた。
「あのですな、お巡りさん」

――終





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