連載 #7447の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「それから、遠山君。拳銃の携帯を継続することになるが、ヂエの狙いは拳銃 にあるかもしれない。『頭に気を付けて』とあることからも、防弾の方も万全 を期し、くれぐれも注意して慎重に行動するように。頼んだぞ」 「了解しました」 言ったあと、口中の渇きを急速に覚えた。汗がずいぶん遅れてやってきた。 上野署に戻り、ヂエの新たな予告文を解読せんと、検討に入った。 「この辺見徳江と武藤裕というのは、東京の方で殺された二人ですか」 細田は、念押しする風に、ホワイトボードに書かれた人名二つを指し示した。 うなずいてから、首を捻る遠山。 「共通点があるとは、思えないんだが」 だいたい、東京にいる連中に解けないのに、そこから遠く離れた土地にいる、 何の資料も持たない自分達に解けるものか? ――疑わざるを得ない心持ちに させられる遠山だった。 嶺澤も同じ思いらしく、なかなか口を開かない。 そんな中、細田一人が糸口を見つけようと奮戦する。 「女子大生とコンビニの店長さんでしたよね。接点があったとは考えられませ んか。辺見が武藤の店によく来ていた、なんていう」 「位置関係から言って、ないでしょう。武藤のコンビニエンスストアは、辺見 の自宅からも、通っていた大学からも、距離がありすぎる。手近にもっと便の よい店がいくらでも並んでいた」 「じゃあ、アルバイト先という可能性もないでしょうなあ。あとは……同郷の 出身ではないですかね?」 これには嶺澤が、メモを見ながら応じた。 「違うようです。辺見は東京生まれの東京育ち、武藤は宮城県の生まれで、高 卒と同時に東京に出て来た、とありますから」 「ううん。まさか、東京が共通点ではないでしょうしねえ」 材料が切れた。東京の捜査本部では、大場警視が指揮を執って、より詳細な 身辺調査が行われていることだろう。その情報が、こちらに流れてくるのは、 いつになるやら。 「井上氏というのも、よく分からない……」 遠山は、別の手掛かりを求めて、低く呟いた。 「事件関係者に、井上という人は?」 「今のところ、線上に浮かんでませんね」 細田と嶺澤のやり取りも、接ぎ穂を失い、すぐに途絶える。 遠山は黙って席を立った。嶺澤が見咎め、「どちらへ?」と聞いてきたので、 「電話してくる」 振り返らずに、短く答えた。民間人に意見を求めるためだとは、同僚に知ら れる訳にいかない。 近野創真は自宅にいた。遠山の側に呼び出し音が聞こえる前に、送受器が取 り上げられた。電話を枕にしていたのではないかと思えるほど早い。 遠山が名乗ると、近野はうめき声を発し、次いで自嘲的に言った。 「悪いことをした。上野違いだったようだな」 「ああ……ニュースで見たのか」 「伊賀上野の可能性も、当然、勘付くべきだった。失態だ」 「いや、それは違う。気にしないでくれ。我々警察が気付いてしかるべきなん だ。おまえのせいじゃない」 「そう言ってもらえると救われるが、やはりあれは敗北に違いない」 相当落ち込んでいたらしい。こんなときに新たな難問を持ちかけるのは、ど うなのだろう。ヂエに一矢報いるため奮い立つのか、自信をなくして放棄する のか。迷う遠山。 「特に、外尾とその遺族には会わせる顔がない」 先に近野が口を開いた。 「そう、それそれ。近野、おまえは外尾栄美子を覚えていたか? 俺はすっか り忘れていたんだ」 「覚えていたさ。何の因果か、人の名と顔を覚えるのは昔から得意でね。自然 と記憶に残ってしまう。外尾は飼育係を積極的に務めていた。活発だが、おっ ちょこちょいな面もあったな。笑い上戸、いや、上戸かどうかは知らないが、 つまんないことにもすぐ笑う。給食で牛乳飲んでるときに笑わされて、結構頻 繁に吹き出してたぜ」 「言われてみれば……」 遠山の脳裏に、昔日のシーンが蘇った。外尾かどうかまでは定かでないが、 女子が一度、床に牛乳を派手にぶちまけたことがあって、その後始末を麻宮レ ミが手伝っていた。そのとき遠山は内心、「さすが麻宮さん。性格もいい」な どと賛美したものだ。 「それで遠山。二度目の電話は、この愚か者を非難するためじゃないとしたら、 何の用だ?」 「あ? ああ、実は次のパズルが来ている。同じ犯人からだ」 ついさっき、迷ったのも忘れ、遠山は聞かれるままに答えた。すると近野か らは、勇ましい声が返って来た。 「名誉挽回のチャンスをくれるのか。喜び勇んで起つぜ」 「頼む。俺もおまえが頼りなんだ。これ以上、犠牲者を増やせない」 それから遠山は、ヂエの新たなパズルの内容を、熱のこもった調子で語って 聞かせた。 「――どう思う?」 「今度は、前回と違って、厳密な意味での殺人予告ではないんだな。その代わ り、君の身が危険にさらされるかもしれないようだが? 頭に気を付けろとは 穏やかでない……」 「そこは覚悟できている。刑事になったときから」 もちろん死にたくはない。しかし、経験が浅く、死体を見慣れてさえいない 自分のような者でも、危険から逃げはしない。キャリアだからと言って、机に へばりついているだけでは務まらない。 「それよりも、答だ。どこか分かるか?」 「恐らく、津だ」 「……三重県の?」 「他に同じ地名があるかもしれないから、断定は避ける。答は仮名の『つ』に 間違いない」 「説明を頼むよ。さっぱり分からない」 メモを取る準備は万全だ。遠山は送受器に耳を強く押し当てた。 「ア行を頭に思い浮かべるんだ」 「ああ?」 「アは何の上にある?」 「一番上だろう」 「ちゃんと聞け。何の上にあるか、だ」 「……イ、だよな。どう考えても」 「その通り。どう考えても、アは、イの上だ。これがつまり、井上氏がア行の アであるってことさ。『イの上』は『井上』に通じる」 アクセントを変え、「イの上」と「井上」を言い分ける近野。 遠山にもそれは理解できた。理解できたが、馬鹿馬鹿しさに呆れてしまった。 「何だそりゃ。まるっきり、子供の遊びじゃねえか!」 「そう、遊びだ。一つ目のパズルだってそうだった。犯人はこういう奴なのだ と割り切るのが得策だと思うね」 「ふむ。それで、そこからどうやって、『つ』が出て来る?」 「<辺見徳江>と<武藤裕>に共通するモノを考えればいい。まともに考えて はだめだ。遊び――言葉遊びとして考える。二つの人名を平仮名に直し、共通 する文字を探してみろ」 遠山は紙に、<へんみとくえ>と<むとうひろし>と書き記し、その中空に ペン先を何度か走らせた。答はじきに見えた。 「『と』か! 仮名の『と』だ」 「『と』こそ、<辺見徳江><武藤裕>に共通のもの。さっきの井上云々の理 屈を当てはめると、タ行のトの二つ上を見ればいい」 「それで、ツ。なるほど」 「時間の方は、言うまでもあるまい。この間と同じように解けばいい。ああっ と、外尾が殺された時刻は、午後一時五分二十七秒二七だったのか。確認して おかなければ」 「さすがに、そこまで細かく限定するのは難しいが、検死の結果、死亡推定時 刻の幅に入った。おおよそ間違いないだろう」 遠山が答えると、近野の満足そうな息が返って来た。 「近野、二度も助けてくれて、感謝してる」 「そんなことはどうでもいい。やられないように、気を付けろよ」 「少なくとも、体力面なら、おまえに心配される必要はない。ははは」 「……予告文にないということは、裏を返せば、誰を狙ってくるか分からない 訳だな」 「うん?」 「犯人がどんな恨みを持っているか知らんが、再度、おまえの同級生を狙って くる可能性だってある」 「……ありがたくない指摘だなあ。知り合い全員を守らねばならないとなると、 身体がいくつあっても足りない。警察も、そこまで人員を割けやしない」 「――おい、麻宮レミのこと、今も好きか?」 「薮から棒に何だよ、それは」 動揺しつつ、笑い飛ばそうとする遠山。対照的に、近野は真剣な口調だ。 「犯人がおまえを個人的に憎んでいて、おまえの同級生をターゲットにするつ もりだとしたら、麻宮レミを狙うんじゃないか?」 「待てよ、待て」 空いている手で、髪をかきむしった。膝が台に当たり、ペンが床に落ちた。 「ヂエの奴は、今度の事件で俺を知ったんだ。電話で会話したから、確かだ」 「ヂエとは何だ?」 早口で問い返してきた近野。 暫時、ぽかんとしてしまった遠山だが、ヂエという名を公表していないこと を思い出した。 「すまん、今のは聞かなかったことにしてくれ」 「……了解した。口は堅いつもりだから、安心しろ。自分としては、麻宮レミ が無事でいれば、かまわない」 「……おまえ、麻宮レミが今、どこでどうしているのか、知っているのか?」 遠山のこの言葉は、個人的興味が職務意識を圧倒していた。 「知っているよ。おまえは知らないのか? 住所ぐらいは知っているだろう。 賀状や暑中見舞いで」 「大学までは受け取っていたが、刑事になってからは仕事柄、住所が変わるこ とが多くて、ぱったり……」 「じゃあ、教えてやるよ。比較的、俺の田舎の近所なんだ」 住所を読み上げようとした近野を遮り、遠山は上擦った口調で聞いた。 「まさか、近野。麻宮さんと付き合い……」 「安心しろ、それはない。どうやら彼女、理想の異性を求めて、現在も男と深 い付き合いをしてないようだ。なに、風の便りに聞いただけだが」 「理想の異性、か」 急に酒を飲みたくなる。浴びるほど飲んで、酩酊したい衝動に駆られる。が、 事件を抱えている最中、それは想像だけで、実現することはない。 近野が住所を告げ始めたので、遠山は意識を戻した。ペンを探し、床に落ち ているのを拾い上げ、相手の言葉を急ぎ、記録する。 「これ、どこだ?」 書き上がったメモにあるのは、聞いたこともない地名の羅列だった。唯一、 県名だけは兵庫と分かる。 「瀬戸内の小島だそうだ。麻宮家の別荘が元々あって、レミはそこに暮らして いるらしい。と言っても、世捨て人とは違うぜ。絵を描いている」 「確か、画家になりたいようなことを言っていた時期があったが、そうなのか。 彼女、芸大に入ったんだし」 「絵で食ってる訳じゃあないと思う。芸大に入って絵を勉強して、出てきて、 そうそううまく行くもんか。彼女のところは裕福だからな」 麻宮レミの身分なら、趣味に生きても、充分遊んで暮らせると言いたいらし い。遠山は近野の言い方に憮然としたものの、内容自体は紛れもない事実と承 知している。 「必要があると少しでも思ったら、その住所に飛んでくれ。刑事の君にとった ら、知り合いが狙われるなら、誰彼なしに守らねばならないだろうが、俺は麻 宮レミだけが無事であればいい」 「俺だってな……いや、何でもない」 話は終わった。 東京の大場警視ら上官と、地元三重県警捜査陣とが回線を通じて行った検討 の末、七日の午後九時四十四分に遠山本人はJRの津駅に着き、他の人員を同 駅や近鉄の津駅、県庁などの周辺に配するという決定がなされた。それ以前に、 検問や捜索をヂエを刺激しない程度に行い、不審人物並びに不審物の発見を期 す。 「もし、県庁や駅で殺しをしでかすとしたら、とんでもない奴ですよ」 細田は笑いながら言った。そんなふざけたことは絶対にあり得ない、と信じ て疑っていない。 「県警本部のお膝元です。目と鼻の先だ」 「まあ、予告文を素直に読めば、ヂエが殺しをすると決まった訳じゃない。そ う憤慨しなくても」 遠山は、逸る気持ちを落ち着かせようと、柔らかい物腰に努め、息を腹の底 から吐き出した。 「憤慨しとる訳じゃありません。県警本部のすぐ近くで殺しをしでかすなどと いう馬鹿げた真似は、間違いなく阻止してやります。その決意の表れだと思っ てください」 「それは結構ですが、あまり目立つと、ヂエに気付かれる」 「承知していますよ。ただの交通検問と非常線、ヂエとかいう奴にも区別でき ますまい」 「だといいんだが」 得体の知れない敵だけに、楽観できない。 ――続く
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