連載 #7434の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
遠山は拳銃と、新たに持たされた携帯電話の位置を、再々確認した。 「問題は、十時半を前にして、津駅発の最終が出てしまうことですかね」 時刻表を見ながら、嶺澤が言った。 「電車がないのに、プラットフォームでぐずぐずしていたら、ヂエの奴に気付 かれかねませんよ」 「しかし、それはヂエの方も同じはず。フォームにいれば、嫌でも我々の目に 着いて、怪しまれる訳だ」 「遠山さんの身の安全が……」 「大丈夫だろう。捜査員の何名かは、清掃夫や若者の旅行者に扮して、見張り に着いてくれる。自然な情景だ。何なら、鉄道会社に協力を要請して、ついで に駅員に化けさせてもらうかな」 遠山が軽口で付け足すと、嶺澤も勇気づけられ、緊張がほぐれたかのように、 苦笑いをした。 そして――午後八時、出陣まで約一時間という頃になって、伊賀上野署に遠 山を訪ねてきた者がいた。 「遠山さん、近野創真と名乗る男が、ぜひ話したいことがあるから会いたいと、 来てますが、どうします?」 伝えに来た細田には、近野を追い返したがっているか、悪くすれば疑ってい る節が見られた。 「近野? 近野なら、私の旧知の男です。信用できる人物だから、すぐにでも 入れてやってください」 「大丈夫ですか」 「ええ。はるばる訪ねてきたのを、むげに追い返す訳にもいかないし……彼、 事件について話があると、言ってきてるでしょう?」 「まあ、そんな感じでした。切羽詰まってるような」 「――じゃ、なおさら早く、会わねばならないな」 胸騒ぎを感じたが、平静な言動に努める遠山。回転椅子から腰を上げ、空い ている部屋を確認した後、そこへ近野を通すように頼んだ。 一分ほど遅れて、近野が姿を現した。固い調子で短い挨拶を交換し、案内し てきた所員が立ち去るのを待つ。扉が閉じられてから、二人は立ったまま、強 い握手をして、互いの顔を真っ直ぐに見合った。事件の最中でなければ、もっ と喜びに満ちた表情もできただろうが、今はそうもいかない。 安物のソファに並んで腰掛け、友人同士の言葉遣いで、会話がスタートする。 「驚いた。三重まで来るとは。しかも突然」 「許せ、緊急事態だ。あれから気付いたことがあってな」 近野は、ジャケットの右ポケットから、くしゃくしゃに丸まった紙を取り出 した。広げながら、続けて言う。 「間違いだったかもしれん。津じゃなく、木津だと思う。危うく、引っかかる ところだった」 早口で捲し立てられ、遠山は困惑した。手をかざし、中断させる。 「待った待った。それは、ヂエのパズルのことか?」 「当然じゃないか。でなければ、仕事を放り出して、ここまで飛んで来たりす るものか。いいか、ヂエのパズルにあった場所は、津ではなく、恐らく木津だ」 「木津っていうと……どこだったかな」 「京都にある。他にもあるかもしれんが、調べてない。あったとしても、今か ら指定時刻までに行けるのは、京都の木津くらいのものだろうさ」 「何故、木津なんだよ」 遠山が問うと、近野は手の上で広げた紙を、強く指差した。 「おまえからの電話を切ったあとも、考え続けていた。伊賀上野と上野のよう に、この犯人には、パズルで人を引っかける兆候がある。だから、気になって な。パズルの文面を紙に書いて、じっと睨んでいたら、不自然なフレーズがあ ることに気付いた。『あたまにきをつけて』だ」 紙片にある文面は、全て平仮名で書かれている。 「これのどこが、おかしいんだ?」 「一見、おまえへの襲撃予告に取れなくもない。だが、犯人は、パズルが解け なかったときは何が起こるか分からないと、警告している。この両方を採用す るなら、パズルが解けても解けなくても、悪い事態が待ち受けていることにな る。少し、奇妙だと思わないか」 「思わないでもないが、相手は殺人鬼だ。まともに考えても仕方あるまい」 「いや、ヂエは極めて理屈に執着する性質だね。パズルを出す輩なんて、そう いうものさ。それに、このパズルは電話で伝えられたと、言っていたよな?」 「あ、ああ。聞いたのは、自分じゃなく、警視の大場という人なんだが」 「そこもポイントだ。耳で聞いただけの文章に、勝手に漢字を当てはめる。そ こに落とし穴がある」 そう考えたからこそ、近野はパズルの出題文を平仮名に直してみたのだろう。 彼はメモのそこここを指先で示しながら、雄弁に語った。 「『あたまにきをつけて』は、『頭に木を着けて』ではないか、と考えてみた」 「木?」 「『頭に気を付けて』より前の部分のパズルの答は、『つ』で間違いない。三 重にいるおまえは、津を連想する。これも当然だ。そして、これこそがヂエの 引っかけだったんだな。津の頭、つまり前に木を置けば、木津になる。本当の 答は、木津で決まり。どうだ?」 感嘆した。ため息が出た。しかし、警察の人間として、軽々しい判断は下せ ない。呻くようにつぶやく。 「……確証がない」 「ヂエの性質を、考慮することだ。伊賀上野を上野と思わせた奴のやり口は、 このパズルでも如実に表れている。わざわざ危険を冒して、警察に電話でパズ ルを伝えるなどという方法を採ったのも、仮名の持つ曖昧さを活かしたかった からに違いない」 近野の言に説得力を感じた。昔、パズルでやり込められた経験が、遠山をそ うさせるのかもしれない。 「よし、木津だとしよう。だが、今から木津に変更すると、京都府警への連絡 必要なんだが、際どいタイミングになる」 「際どいなら、なおさら急げ。何が起こるか分からない状況ほど、不気味なも のはないぜ。いざとなったら、君の独断で行動したことにすればいい」 「できるかよ」 頭を片手でかきむしった遠山。時間が押し迫っているのは事実だ。大場警視 に一報を入れ、判断を仰ぐ余裕もない。 「仕方がない。考えられる可能性全部に、できる限りの策を講じないとな」 決断した。 正解は、木津だった。 近野の指摘を受けた遠山は、津周辺の警戒態勢はそのまま維持し、自身は木 津駅に向かった。その結果、犯罪めいたものは何ら発生せず、木津駅でヂエか らのアプローチがあった。 と言っても、ヂエ本人が姿を現したのではなく、駅員を介しての接触であっ た――。指定時刻を緊張して迎えた遠山の耳に、駅のアナウンスが届く。 <東京よりお越しの遠山竜虎様、お忘れ物が届いておりますので、当駅事務室 までお越しください> 即座に反応し、駅員に事務室の所在を聞いて、駆け込んだ。 「この携帯電話は、あなたの物でしょうか」 示されたのは、薄いピンク色のボディをしたPHSだった。見覚えがない。 その辺りを曖昧に返事し、遠山はどんな状況でこれが届けられたのか、尋ねた。 「本日十八時頃でしたか、帽子を被ったサラリーマン風の男性が、改札口で、 布に包んだこれを、私に押し付けてきたのですよ。『駅で拾った。詳しいこと は、中のメモにある』と。呼び止めようとしたのですが、足早に去って行かれ てしまって」 肩をすくめ、困惑顔の駅員。 「仕方なく、布を開けると、メモ用紙が一枚と、携帯電話が入っていました。 メモ用紙は、こちらで」 駅員は、電卓の下敷きになっていた紙切れを取り、遠山に示した。 指紋のことが気になったが、ヂエの奴が指紋を残すような真似をしたとは思 えないし、仮にあったとしても、消えているだろう……。 メモには、鉛筆書きで、「今日二十二時五十分頃に、遠山竜虎という人物が、 ここへ来る。この電話は、その人の落とした物だから、渡してほしい」と記し てあった。筆跡をごまかすためか、それとも走行中の車内で書いたためか、非 常に乱れた文字だ。 「それで、我々としましては、ここにある通りにしただけなんですが……違い ましたか、この電話?」 「……実は」 遠山は身分を明かし、つまらない脅迫状が警察に届いたので、念のためにこ こへ足を運んだのだと、半分真実、半分嘘の説明をした。それからPHSと布、 メモ用紙を押収する旨を告げ、ひとまず関係部署に連絡を入れた。 津の方で何ごとも起きていないと知らされ、安心すると、遠山は駅員から話 を聞きにかかった。 「男性だったのは、間違いないんだね?」 「最近は分からないけれど、外見は男に見えました」 「人相を覚えてないかね?」 「一瞬の出来事だったので、無理ですよ。ソフト帽にグレーのサマーコートと、 やや年齢の行った方とお見受けしましたが」 「体格は?」 「どちらかというと痩せてたと思いますが、背はまずまず、高かったような。 自信ありませんが、低く見積もっても、刑事さんぐらいの身長はあったんじゃ ないでしょうか」 遠山の身長は、およそ一七七。問題の男は、一八〇はあったということか。 しかし、帽子を被っていた点も、勘案しなければなるまい。 次の質問を模索する遠山の前で、PHSが軽快な音を鳴らした。一瞬、びく りとし、反射的に時計を覗き込む。午後十一時十一分十一秒、と読み取れた。 計算の上か、偶然か……。 「私が出ます」 手袋をした手でPHSを取り、通話状態にする。番号は非通知だった。 当然、あの耳障りなヂエの声が流れてくるであろうと、強張った面持ちでい た遠山だが、予想は裏切られた。 「録音機能 を 作動させなさい」 遠山の呼び掛けを無視して、機械的な女性声が一方的に告げる。録音された ものなのか、サンドペーパーで粗くこすったような音だった。ざらついている。 同じフレーズを三度、繰り返すと、沈黙が来た。 「くそっ」 耳から離し、PHSを凝視する。ボタンを一つずつ眺める内に、録音機能付 きと分かる。通話を何分間か保存できるらしい。 「作動したぞっ」 怒鳴りつけるような口調で、遠山。 五秒ほど置いて、変わらぬ女性声が、新たな声明を発し始めた。 「PUZZLE 遠山竜虎警部は、次の問題の答の人の住むところへ、八日の正午ま でに到着すること。なお、その際に警察関係者を連れて来てはならない。約束 を違えた場合、答の人物の身の安全は保障しかねる。 ――問題。T山くんは、二十代の画家とお付き合いを始めたいと考えていま す。以下の条件を元に五人の候補の中から、T山くんの相手となる人の名前を 当てなさい。1.二人は三十歳未満、三人は三十歳以上 2.二人は画家で、 残る三人は先生 3.麻宮レミと千林孝子は別の職業 4.千林孝子とす がたあきらは同じ年齢層 5.鹿沼恵と寺下良美は同じ職業 6.麻宮レ ミと寺下良美は別の年齢層――」 回線は切られた。 遠山は焦燥感を押さえつけ、メッセージの再生をした。急いで耳にあてがう が、そうせずとも、充分な音量が流れてきた。 (――麻宮レミだって? ヂエは、やはり、最初から私を知っていた!) 遠山は確信した。 真夜中の会議室は、奇妙な空気に支配されていた。 何ごとも起こらなかった安堵感と肩透かしを食らった脱力感、新たなパズル から受けた困惑と驚愕……様々なものが入り混じっている。 PHSの持ち主は、勝俣栄美子と判明した。ヂエが彼女を殺害後、持ち去っ たと推測されていたが、その通りだった訳だ。これまでの犯行同様、布で表面 を拭い去りでもしたのか、指紋は駅員のもの以外、検出できていない。 「新たなパズルに登場する五人に、お心当たりは」 嶺澤の問いが聞こえた。遠山は、書き起こした文面を見据えながら、後頭部 をゆっくりさすった。そして、「問題文が音声のみ故、漢字が一致している確 証はないが」とあらかじめ断ってから、応える。 「麻宮レミは、小学生から高校まで、同じ学校だった。クラスもよく一緒にな ったから、覚えている。千林(ちばやし)というのは、恐らく、私が中学のと き、担任だった人だ。下の名前は記憶にないが、間違いなかろう。鹿沼恵(か ぬまけい)は確か、高校一年か二年のとき、同級生だった。寺下良美は、大学 でやってた部活の先輩のことだと思う。すでにOBだったが、割合、顔を出し てくれて、印象に残ったから覚えているのかもしれないな。問題は、すがたあ きらなんだが、この名前だけ覚えがまるでない」 紙の上の文字を、ペン先で示す。便宜上、「姿晶」としてあるが、無論、こ れで正しいとは限らない。色々と漢字を当てはめてみたが、遠山の記憶を刺激 する字面を構成しないのだ。もしかすると、幼稚園の頃の知り合いか?という 考えがよぎった。 「こりゃあ、遠山さんの出た学校の名簿、全部揃える必要がありますな」 細田が、半ば呆れ気味に苦笑いを浮かべる。 「それは、東京の方でやってもらうからいいとして、我々が今やるべきは、こ れの答を見つけることです」 「遠山警部が現在、付き合うとしたら、誰にします?」 真顔で聞いてきた嶺澤に、遠山は一瞬、絶句した。 「……そういうことじゃないだろう」 「しかし、T山とありますが」 ――続く
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