連載 #7420の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
前回の話でなんとなくお気づきかと思うが、佐野祭というのは本名なのである。 これは当時のものを書く人間としては結構珍しいことかも知れない。偉そうな 号や、ペンネームをつけるのがむしろ当たり前であった。 二葉亭四迷の名前が「くたばってしまえ」からつけられたというのは有名なエ ピソードである。他にも漱石の名は前述したとおりだし、石川啄木の啄木はキツ ツキの意味である。正岡子規の子規はホトトギスだし、芹沢鴨の鴨はカモのこと だ。 そんなわけで祭は悩んでいた。 「なあ大門」祭は大門に相談した。「私のウェブがいまいち人気があがらないと いうのも、やはり、ちゃんとそれらしい名前を名乗らなければいけないのではな いか」 「好きにしたら」大門はそれほど暇ではなかった。 「おぬしはそのまんまで号のような名前だからいい。私のこの祭という名は、な んというか、威厳がなさすぎるのではないか」 「かもね」 「そうだ。だいたいがこの祭というひたすらめでたいだけの頭空っぽのお気楽名 前がいかんのだ。だから人々が私の書いたものを読もうとしないのだ。こんな祭 なんてお調子者で甲斐性なしで薄っぺらい名前だから」 いや、そりゃ自分の名前だから何を言ってもいいけど、それを継ぐ羽目になっ た私の立場はどうなるのよ。少しは二代目のこと考えて発言しなさいよ。 「うむ、やはり新しい名前を名乗ろう」 「なんと名乗るのだ」 「それだ。今一番人気があるものはなんだろう」 「そりゃ、なんと言ったって、東郷元帥だろう」 実際当時の東郷平八郎人気はすざまじいものがあった。日露戦争でバルチック 艦隊をうち破り、一躍日本の名を世界にとどろかせた東郷平八郎元帥の人気は頂 点に達していた。 祭はしばらく考えていたが、筆をとるとさらさらとなにやら紙に書き付けた。 「これで行こう」 大門がのぞき込むと、紙にはこう書かれていた。 「グレート東郷」 大門がこれは何かと尋ねると祭はにやりと笑った。 「英語で偉大なる東郷ということだ。いまや首相の名は知らなくとも東郷平八郎 の名を知らぬものはない、という時代だ。この東郷元帥にあやかり、さらに敬意 を表する意味で偉大な、という意味のグレートをつけたのだ」 もちろんこのとき、五十年後のアメリカにグレート東郷と名乗る日系人プロレ スラーが現れ、下駄履きスタイルの悪役として人気を集め、模倣したレスラーが 続出し七人のトーゴーと呼ばれるようになり、さらにインディーズマットで活躍 しているミスター・ポーゴはアメリカ遠征中に東郷というリングネームにするつ もりだったのだが誤植でTがPになり、ポーゴというリングネームになったのだ などということは祭は知るよしもないし、プロレスファン以外の読者だって知る よしもない。 かくして祭はグレート東郷を名乗った。今でいうハンドルのはしりである。た ちまち祭の掲示板は、 「東郷元帥閣下を馬鹿にするのか」 「お前のようなものが東郷を名乗るのは恥さらしだ」 「貴様のようなやつがいるからロシアが条約調印しないのだ」 とごうごうの非難をでいっぱいになった。さらに、 「祭死ねっ」 という書き込みが百連発でアップされた。今でいう「荒らし」の元祖である。 残念ながらこのとき最初に荒らしをやった人間の名は伝わっていない。記録が あれば、日本最初の荒らしとして名を残すことができたであろうに。そんなもん で名を残してどうする、という見方はあるがどんなことであれ名を残すというの は大変なことである。 確実なのは、祭が日本で最初に荒らしにあった掲示板管理者であるということ である。 荒らしと戦う方法は現在いくつか確立されており、ひたすら削除しまくる、I Pアドレスにより書き込み制限をかけるなどの手段が日常使われている。が、当 時はまだこれらの手段は確立していない。 そこで祭がとった手段は、現代では考えられない手であった。 「祭死ねっ」という書き込み一回につき、「祭は生きる」という書き込みを一回 書いたのである。差し引きゼロというわけである。 相手も負けん気を起こして「祭死ねっ」を書き込む。負けじと祭も「祭は生き る」を書き込む。 こうして「祭死ねっ」という二百六十三回の書き込みに対して二百六十三回目 の「祭は生きる」を書き終えたとき、祭はすっかり自分の名前がそのときグレー ト東郷であることなど忘れていた。 正直言って私はほっとしている。もしこのままグレート東郷の名が定着してし まったら、襲名するったってグレート東郷の二代目(か何代目か知らないが)を 名乗らなければいけないところであった。明治の人々の良識に感謝する。 しかし、この一連の騒動で祭ががっかりしたかというとそうでもなかった。こ のとき受けたごうごうの非難は、祭がいままでウェブで活動してきた中で一番反 応が多かったからである。今も昔も、反応があるということはよいことなのだ。 続く
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