連載 #7408の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
1904年、読売新聞がニュースを今で言うメールマガジンで配信していたの をご存じだろうか。 もちろん当時のことであるから電子メールはない。しかしそれの原型とも言え るメディアがあった。 電報である。 重大ニュースが発生したとき、電報で希望読者に知らせたのだ。当時は日露戦 争の真っ最中。まさに戦局は国民の関心事だったのだ。 ちなみにこれは本当の話である。いや、それ以外も本当の話である。 それに先立つこと数カ月、祭もメールマガジンの構想を持っていた。 当時も当然、郵便による雑誌の配達は存在した。しかし文章をデジタル化する ことで送信し、即時性がある電報は祭にとって魅力的なメディアであった。 祭はメールマガジン、いや、電報雑誌に掲載する小説を一本書き上げると電報 局に向かった。 電報局の職員は祭の原稿を一目見てつきかえした。 「漢字はダメ。カタカナで書いて」 祭は二時間かけて原稿を全部カタカナになおした。その原稿を三十分かけて打 電したあと、職員は何やら他の職員と話していたが、祭に向かって言った。 「これだけ長いと電報の用紙に打てないそうだ。もっと短くして」 長いと言ってもそんな原稿用紙で何百枚あるわけではないのである。せいぜい が十数枚、という原稿なのだが電報としては十分長かった。 ウェブ作家というものは編集者がいるわけではないので、人に原稿直しを依頼 されるという機会はまずない。しかもこの場合相手は編集者ではなく、電報局の 職員である。 今となってはNTTが昔電電公社であったことを知らない人も増えているので はなかろうか。以前は三公社五現業といって電話事業は国営だったのである。そ れを記憶している世代だって、三公社とは何かと聞かれたらはっきり覚えてない 人が多く、電電公社、専売公社、交通公社と答える輩がいる。というのを読んで どこが違うのだろうと悩む人がいるだろうからついでに書いておくと、正解は交 通公社(JTB)ではなくて国鉄(現JR)である。 そんなわけで相手はばりばりのお役人なのだ。原稿直しに慣れてない祭はぶつ ぶつ言ったのだが、なにしろこっちが送れなくても職員の方は一向に困らない。 しぶしぶ祭は原稿を削った。 それでも打電には十五分かかった。さらに百人分の宛先に送るのに半日かかっ てなおかつ終わらなかった。 これでは即時性も何もあったものではない、改良の余地があるなと祭が家に帰 って考えているところに一通の電報が届けられた。 今も昔もレスポンスがあるというのは嬉しいものである。祭はわくわくしなが らその電報を開いた。その電報にはこんなことが書かれてあった。 「カタカナ ハ゛カリテ゛ ヨミツ゛ライ」 祭はその電報を破り捨てた。 こうして今一なスタートを切った祭のメールマガジンだったが、さらに大きな 障害が待ち受けていた。電報代が莫大なものになったのである。 これはもっと文面を切りつめねばならないと祭は工夫を重ねた。祭が送ったメ ールマガジンの第二号はこんな内容だった。 「トナリノ ウチニ カコイガ テ゛キタツテネ。ウン。」 続く第三号。 「コノ ホ゛ウシ ト゛イツンタ゛。ハンカ゛リー。」 そして第四号。 「コマネチ」 ……正直言って二代目の私でも、先代の作風のすべてがわかるかといったらそう でもない。それゆえ万人受けしなかったのだと評する評論家もいるが、私として はそれ以前に何か大衆的人気を勝ち得るための欠点があったのではないかと考え ている。 さて、いくら短いと言っても毎回毎回百人に電報を打っていたら金が持たない。 こうして祭のメールマガジンは四号で挫折した。 そんな頃である、読売新聞が電報ニュースを出したのは。 連中は大資本で、記事は新聞のものをそのまま持ってくればいいからできるの だ。資本もなく中味も自分で書いていたらこんなものもつもんか。と祭は思った が、やはり気になる。どういうことをしているのだろうと、まずその広告の載っ ている読売新聞を入手した。 新聞を見て祭は驚いた。 読売新聞のメールマガジンは、電報代読者持ちだったのである。 その手があったかと、祭は歯がみした。よし、俺もこの手で再開しようと一気 に読者募集の案内を書き上げ、再開創刊号の原稿を用意したところで冷静に戻っ た。自分で電報代を払ってまでこれを読む読者がいるのだろうか。 別に自分の書いているものに自信がないわけではない。しかし、人に金を払わ せるということはそれ以上のプラスアルファが必要なのである。それがわからな いほど祭はバカではなかった。あまりそうは思えないかも知れないが、バカでは なかった。 そんなとき、祭の元を一人の男が訪れた。メールマガジンを出してみないかと いうのである。 「しかし、金がかかるでしょう。読者持ちにするのですか」 「それでは人が集まりません。そこで我が社では新しい方法を編み出しました。 広告を載せるのです」 「広告」 「電報の費用は広告主が払うのです。そのかわり電報雑誌の頭には広告が載る。 読者と作者の出費はありません」 祭は目からうろこが落ちた。なによりもまた電報局で職員とああだこうだしな くてもいいというのが魅力だった。さっそく電報雑誌の発行を申し込んだ。 それから数カ月、電報雑誌の発行も軌道に乗ったころ。 祭は大門と話していて、ふと思いだし自分の電報雑誌をどう思うか聞いてみた。 大門はその名を聞いて一瞬顔をしかめて答えた。 「ああ、あれはやめた」 「やめた? なんで?」 「あれを頼むとな」大門は思いだしたくもなさそうに答えた。 「毎日毎日電報雑誌社から電報雑誌の案内の長い長い電報が届くのだ。広告入り のな」 やはりただより高いものはないのであった。 続く
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