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1943年11月20日 1000時 一航艦旗艦「天鶴」作戦室 「規定の方針に従って、マーシャル東方沖で来寇する敵艦隊を補足、撃滅する」 指揮官会議の席上で、小沢中将はそう切り出した。 「出撃準備は、本日夕刻には完了する予定だ。明日トラックを出撃し、会敵予定地 点へ向かう」 居並ぶ幕僚や艦長連の間から、どよめきのような声が上がる。 「本作戦は、今後の戦いの趨勢を決する重要な一戦だ。何としても勝つつもりで、 各員全力を尽くして欲しい。そのための策も、用意してある」 そう言うと小沢長官は、米空母機動部隊への攻撃を成功させるための「必勝の 策」の説明を始めた。 昼過ぎ 「天鶴」艦上 「今度の作戦は、久々の一大決戦だな」 「艦長、何ガラにもなく感慨に耽ってるんですか?」 「……やっぱり似合わんか?」 「全くとは言いませんがね……」 小林と清藤の間で、冗談混じりの会話が交わされている。 「しかし、緊張するものは緊張するさ。俺も昨日から武者震いが止まらん」 「2年ぶりですからね、一航艦と二航艦が総出撃するのは」 「おう。2年前の栄光よ再び……と行けばいいがな」 「今度の相手は、戦艦じゃなくて空母ですからね……米軍の航空機対策も進んでま すし、簡単には行かないでしょうね。それこそ、母艦航空隊をすり潰すくらいの覚 悟で臨まないと」 「おいおい、すり潰しちまったら後が続かんだろうが」 「例えですよ、例え。だいいち、一度や二度の合戦ですり潰されるような兵力です か、これが。内地には、予備の機体と搭乗員がまるごと一会戦分待機してるんです からね」 「そりゃ判らんぞ。米軍の空母も、20隻以上いるそうだ」 「そこを何とかしていただくのが腕の見せ所だ……艦長の口癖でしたよね?」 小林が、苦虫を噛み潰したような表情になる。すぐそばで配置についていた当直 の見張り員は、笑いを噛み殺すのに苦労するあまり、肩で息をしていた。 同日夜 すっかり陽が落ちた頃、酒保開けの号令と共に、全艦隊のそこかしこで無礼講の 大宴会が始まった。「天鶴」の艦内からも、やけくそ気味な喧騒が聞こえてくる。 出撃前の恒例とも言える光景だった。 ほとんど人気のない飛行甲板を一人歩いていた小林は、艦橋の近くに人影を見つ けた。背丈は180センチ近い。この時代の日本人としては相当高い部類だ。 足音を聞きつけたのか、人影が振り返る。月明かりに照らされて、その顔がはっ きりと見えた。一度見たら二度と忘れられない「鬼瓦」の異名を取るしかめっ面。 小沢長官だった。 「艦長か……」 慌てて敬礼しようとする小林。 「おっと、今夜は無礼講だぞ」 小沢はそれを片手で制すると、海の方へ向き直った。視線の先には、一航戦を始 めとする一航艦の各艦が停泊していた。今頃は、形式や規模こそ違え、全ての艦で 出撃前の壮行会が盛大に行われていることだろう。 「彼らのうち、果たして何人が生きてここに戻って来られることやら……知ってい るか? 山本さんは、開戦前から殉職した部下の名前を、全員ノートに書き記して いたが、GF長官を降りられたときには、そのノートは床から1メートル近くも積 み上げられていたそうだ。そのことを随分と嘆いておられたよ」 遠くを見るような目つきで、小沢は呟いた。 「相手があることです。ある程度の犠牲は避けられますまい。問題は、どこまで ----」 「『ある程度』を少なく抑えられるか。それが腕の見せ所、だろう?」 一瞬前の顔つきから一転、悪戯っぽく微笑む(とはいえ、この面相では非常に不 気味だ)小沢長官。台詞の先を取られて、口をぱくぱくさせかねない調子で絶句す る小林。同時に、さっきの表情が半分は演技だったと気付く。 ----くそっ、ハメられた! 「正直なところを聞きたいんだが、どう思う? 今回の作戦」 真顔に戻った小沢が訊ねる。 「勝算は十分と見ていいでしょう。例の策も、有効だとは思いますが……」 一旦間を置いて、小林は続けた。 「通用するのは今回だけでしょうね。アメリカ人は、徹底した合理主義の徒です。 次回からは彼我の条件は同じ……いや、もっと悪くなるかもしれません。悔しいで すが、戦訓を活かすノウハウに関しては彼らの方が数等上ですから」 すると小沢は、自嘲気味の笑みを浮かべた。 「山口君や加来君(加来止男「雲鶴」艦長)も、同じことを言っていたよ。次回か ……さて、その頃我々は戦う力を残しているかな。ことによると、GFそのものが すり潰されてしまうかもしれん」 「それでも、やらなきゃならん時は来るでしょう。いずれにせよ、我々にできるこ とと言えば、全力を尽くすのみです。その一番苦しいときこそ----」 『腕の見せ所!』 台詞が重なり、次の瞬間、二人の笑いが甲板上に弾けた。 「どうだ、艦長。スコッチのいいのがあるんだが、一緒にどうかね?」 小沢は、海軍内でも名うての酒豪として知られていた。海大(海軍大学)時代に は、アルコール依存症で通院歴まである。 「光栄です。お言葉に甘えるとしますか」 何万人もの男達それぞれの思いと共に、トラックの夜は更けて行く。 11月21日 「ひのふのみ……こりゃすげぇや。ジャップども、観艦式でもおっぱじめようって のか」 環礁のすぐ外からトラック基地を監視していたガトー級潜水艦「マスケランジ」 のジェフ・ピットバイン艦長は、潜望鏡に映った光景を見て、思わず口笛を吹いた。 「どうしました?」 副長のハリー・ニコルス少佐が訊ねる。 「奴ら、ありったけの空母をかき集めて出撃させるつもりらしい。ショウカク級に タイホウ級、キイ級まで揃い踏みだ」 潜望鏡を回しながら興奮気味に答えるピットバイン。その動きが、ある一点で静 止した。 「あれは……テンカク級!? 二隻もいやがったのか!」 天鶴級の情報は、米軍内部でも知れ渡っている。従来型の正規空母が軽空母にし か見えないような巨大空母がトラックに入港したというニュースは、太平洋艦隊の 将兵に少なからぬ動揺と興奮をもたらしていた。しかし、二番艦の存在が確認され たのは、これが初めてだ。 「雷撃しますか?」 ニコルスの問いに、ピットバインは首を横に振った。 「やめておこう。空母も多いがそれ以上に駆逐艦が多い。無理して通報前に沈めら れたら、せっかくの努力が水の泡だ。狙うなら、輸送船が無防備でいるところにで もぶち込んでやるさ」 そこに、聴音室から緊急報が入った。 「10時方向に駆逐艦! 感三、近付きます!」 「いけねっ、見つかったか! 急速潜航、急げ!」 やがて、沈降を続ける「マスケランジ」の頭上から次々と着水音が響き、周囲で 無数の爆雷が炸裂を始めた。 「こいつをしのいだら、司令部に通報だ。何としても生き残るぞ!」 上下左右に揺さぶられ、パイプの継ぎ目から海水が噴出する艦内で、ピットバイ ンはなお闘志をあらわに叫んだ。
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