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第四部 劫火の征途 第一章 再戦の刻 1943年11月15日 ハワイ 「とうとう戻ってきたぞ……この最前線にな!」 旗艦の舷門のラッタルを駆け降りるなり、海軍帽をかぶり直して岸壁を踏みしめ るように気合を入れたのは、新編成された空母機動部隊を率いるウィリアム・ハル ゼー中将だ。 「久しぶりだな、ウィル。この前サンディエゴまで見舞いに行ったときとは見違え たぞ。すっかり血色がよくなって、まるで別人みたいだ」 冗談じみた科白と共に両手を広げて出迎えたのは、南太平洋開戦の後に太平洋艦 隊参謀長に舞い戻った、親友のレイモンド・スプルーアンス中将。 「当たり前だろう、レイ。俺の元の顔を忘れたとは言わせんぞ」 苦笑混じりに言い返すハルゼー。さすがに、「牡牛」とあだ名される自分の面相 がどのようなものかは、わきまえているらしい。 「それはそうと、俺が入院した頃とは随分な変わりようじゃないか?」 小高い丘陵に建てられた太平洋艦隊司令部の窓越しに、ざっと真珠湾軍港を見渡 して、ハルゼーが訊ねる。 「気のせいか、軍港まで狭く見えるぞ」 「この一年でずいぶん艦艇が増えたからな」 スプルーアンスが、昔を懐かしむように答えた。 「もっとも、一番の原因は、君が連れてきた彼女達じゃないか?」 「違いない」 二人が苦笑して見たのは、新生機動部隊の中核を成す4隻の空母----「オハイ オ」 「メイン」「ニューハンプシャー」「ルイジアナ」だ。ほかの艦よりも二回りは大 きく、異様な存在感と威圧艦を周囲に放っている。州の名前を冠した艦名から 判るように、工事途中の戦艦の設計を変更して建造されたもので、当初の計画通り 完成すれば、排水量60000トンを超え、長砲身16インチ砲を12門搭載する 世界最大の戦艦となっていた艦だけに、船体の容積や甲板の面積の余裕が大きく、 空母としても申し分のない艦に仕上がっている。装甲や艦上構造物の減少によって 多少軽くなったとは言え、基準排水量は56000トンに達し、合衆国海軍で最大 の艦となった。また、戦艦譲りの重防御は、雷爆撃に対して高い抗堪性を持ち、全 長281メートル、全幅37メートルの巨体の中に設けられた二層の格納庫には、 120機の艦載機が収容可能だ。182000馬力を誇る機関は、最大戦速30ノ ットを発揮するに十分なものだし、防御火力も、38口径5インチ両用砲24門、 40ミリ機銃四連装21基84門と、申し分ない。全幅が広すぎてパナマ運河を通 行できないため、ホーン岬(南米大陸最南端の岬。沖合いは海流が速く荒天も多い ため、世界でも指折りの航海の難所として知られる)経由で太平洋に回航しなけれ ばならなかったが、その手間に見合うだけの強大な戦力であることは疑いない。 そしてもう一隻。ハルゼーにとって愛着の深い「エンタープライズ」が、旗艦と して編入されている。アベンジャーやヘルキャットなど、艦載機が大型化したため に、搭載機数は10機ほど減少して90機となっていたが、依然として強大な攻撃 力に変わりはなかった。 さらに、ハワイに配備されている母艦戦力は、これだけではない。 エセックス級正規空母。開戦前から整備が進み、去年の夏から今年の春にかけて 実に12隻が次々と竣工した、次世代の主力正規空母だ。アベンジャー、ヘルダイ バー、ヘルキャットといった新型艦載機を最大100機搭載可能で、防御力や対空 火力も、従来型のヨークタウン級とは比較にならない。ネームシップの「エセック ス」は、既にソロモン戦線で初陣を飾っており、日本軍の艦載機による猛攻を受け て大破しながらもパールハーバーまで生還を果たし、そのしぶとい戦いぶりは、太 平洋艦隊の将兵の間で語り草となっていた。 インディペンデンス級軽空母は、6隻がハワイに配備されている。クリーブラン ド級巡洋艦の船体を流用した設計ながら45機を搭載し、その実力は侮れない。 23隻合計の搭載機数は、実に2040機。これだけの艦載機を一度に運用でき る艦隊は、世界中どこを探しても他にない。 これらの錚々たる空母群を守るのが、「ニュージャージー」「サラトガ」「レン ジャー」の高速戦艦群と、バルチモア級重巡、クリーブランド級軽巡、フレッチ ャー 級駆逐艦といった新造艦だ。真珠湾に在泊する艦艇だけで、優に三個空母機動部隊 を編成するだけの戦力となる。しかも、その数は今後も続々と増え続ける予定だっ た。 「ウィル、正直言って君が羨ましいよ」 スプルーアンスが、ため息と共に羨望の表情を向けた。 「これだけの母艦兵力を統一指揮する機会に恵まれたのは、我が合衆国の歴史上、 君が初めてなのだから」 航海局次長や作戦本部次長などを歴任してきただけに、事務屋のイメージが強い スプルーアンスだが、実際は水雷畑の出身で、航空戦にも造詣が深い。その彼なら ずとも、これだけの大艦隊を目にすれば、海軍士官ならば一度は指揮して見たいと 夢見るのは性分というものだ。 「ああ。ようやくここまで来れたんだからな。無様な戦にはできん」 ハルゼーが、柄にもなく感慨深げに応じる。 「今まで、劣勢な母艦戦力でここまで戦ってこれたんだ。これだけの母艦戦力が揃 った以上、そうそう劣勢に立たされることもないだろう----まぁ、ひとつよろしく 頼むよ」 スプルーアンスは、ハルゼーの肩を軽く叩いて笑った。 太平洋における米軍の一大反攻の口火を切る作戦----「パワーホイール作戦」が 発動され、真珠湾に集結した一大艦隊が出撃するのは、この4日後のことだった。 目指すは、マーシャル諸島----英雄キンメルが15隻の戦艦と共に眠る、因縁の 地だ。 11月19日 トラック環礁 「『雲鶴』入港します」 見張り員の報告に、「天鶴」艦長の小林允大佐は前方を見遣ると相好を崩した。 軽巡「長良」と駆逐艦「涼月」「若月」に先導されて、小山のような巨大空母が 環礁の中に入ってくる。8月に竣工した「天鶴」の姉妹艦だ。 「帝国海軍空母機動部隊の全員集合ってわけだ。これだけあれば、まぁ負けるよう なことはないだろ」 小林の言い分にも一理ある光景だった。 「天鶴」と「雲鶴」は、共に紀伊級に代わる一航艦の主力として建造が進められ た超大型空母だ。全長278メートル、全幅39メートルという桁違いに大きな艦 体は、それまで世界最大の空母の座に君臨してきた天城級と比較しても、全長で一 回り大きく、全幅はほとんど2倍近い。飛行甲板には、最大厚147ミリと言う戦 艦並みの重装甲が施されている。防水区画も極限まで細分化されていたほか、艦底 部も三重構造となっており、艦政本部では、魚雷5本の命中を受けても作戦遂行能 力に支障なしと太鼓判を押していた。 装甲以外の防御対策も充実しており、格納庫内に防火カーテンを設け、送油管を 舷外に這わせ、航空燃料タンク周囲にコンクリートを充填し、消火装置も炭酸ガス 式と泡沫式の二段構えとし、注排水ポンプや消火装置への電源系統を複層化し、と およそ考え付く限りの方策が講じられている。 重装甲化によるトップヘビーを避けるために格納庫の容積が制限され、搭載機数 は常用72機+補用5機と大きさの割に少ないが、卓越した防御力と充実した作業 設備は、数の不利を補ってなおお釣りがくるほどだ。また、天鶴級空母は、航空艦 隊主力としての任務のみならず、他の空母で手に余るような損傷を被った艦載機に 対する修理作業を受け持つ、前線応急修理工場のような役割も持っていた。 これらの設備を艦内に呑み込んだ結果、排水量は59000トンに達したため、 168000馬力の高出力機関を以ってしても、速力は27ノットとやや物足りな い。しかし、全長:全幅比を低く取ってコンパクトにまとめた船体のおかげで、 転舵の際の旋回性能は極めて良好だった。 それだけでなく、航空艦隊の陣容も開戦時とは大きく変わっている。 第一航空艦隊は、航空本部長から横滑りしてきた小沢治三郎中将が直率する主力 艦隊だ。もともと、小沢は日本海軍における航空主兵主義のパイオニアとして知ら れており、ようやく適任の部署が回ってきた格好だ。 筆頭の第一航空戦隊は、旗艦「天鶴」と「雲鶴」に、天城級の生き残りである 「高雄」「愛宕」がついている。 第三航空戦隊は、紀伊級空母四隻から構成され、大西瀧治郎少将が率いる。 これを、第三戦隊の「金剛」「榛名」と、新設された第一・第二防空戦隊が守っ ている。戦隊旗艦は、主砲を高角砲に積み替えた軽巡「長良」「名取」だが、麾下 の駆逐艦は、全くの新顔だった。 秋月級駆逐艦。増大する航空機の脅威に備えて、急ピッチで量産が進んでいる対 空砲専用艦だ。当初の計画では、65口径10センチ高角砲8門と25ミリ機銃多 数を装備し、魚雷発射管まで備えた結果、2700トンと言う駆逐艦としては異例 の大きさになる筈だったが、早急に数を揃える必要が生じたために設計を徹底的に 簡略化し、雷装も取りやめとなった。結果、排水量は1900トンまで減少し、速 力も低下したが、反面建造は極めて容易となり、呉や横須賀のみならず、佐世保、 舞鶴、大湊といった中小の工廠や、民間の造船所でも大増産が始まっていた。なに せ手間の掛かる魚雷発射管や次発装填装置、水雷方位盤などの複雑な機器が必要な く、小口径の高角砲や機銃、対潜爆雷だけ装備すれば用が足りる艦だ。それほどの 技術力のない中小の民間造船所でも、簡易設計の船体だけなら十分建造は可能だっ たのだ。艤装類は、進水後に工廠まで回航して行えばよい。それでいて、搭載火器 は10センチ高角砲8門、25ミリ機銃14丁と、極めて強力な対空能力を持って いた。 第二航空艦隊は、開戦時と比べて大幅に強化された。司令官には、闘将として知 られる山口多聞が、中将に抜擢されて昇格している。直率する第二航空戦隊は、 旗艦「瑞鶴」を筆頭に、同型艦「翔鶴」、雲龍級空母「雲龍」「雷龍」と、第二次 ソロモン海戦の頃と同じ顔ぶれだ。 歴戦の第四航空戦隊も、開戦時と同じ陣容が揃っている。率いるのは猛将角田覚 治少将。本来なら、山口より角田の方が海兵の卒業年次で上なのだが、角田はそれ を承知の上で、敢えて山口の指揮下へと入っていた。 さらに、新設された第七航空戦隊。雲龍級の中でも比較的新しい、「嵐龍」「大 龍」「海龍」から成る。指揮官は、前「高雄」艦長の、有馬正文少将だ。 これらの空母群の護衛に、戦艦「比叡」「霧島」、軽巡「阿賀野」「由良」と、 防空駆逐艦14隻が守る。 第三航空艦隊は、改装空母中心の部隊だ。「隼鷹」「飛鷹」の五航戦を直率する のは、松永貞市中将。陸攻隊の指揮官から転身した人物だ。 これに、「龍鳳」「祥鳳」「瑞鳳」「千歳」「千代田」と5隻の軽空母を擁する 六航戦が続く。指揮官は城島高次少将。 護衛は、第九戦隊の重巡「利根」「筑摩」と、軽巡「阿武隈」「五十鈴」、駆逐 艦12隻だった。 26隻の空母の搭載機数を合計すると、1658機となる。米艦隊には及ばない ものの、個々の艦載機の性能と熟練搭乗員の力によって、互角以上の戦いができる と期待されている。 ハワイ近海に展開中の潜水艦から、「太平洋艦隊出撃す」の電文が届いたのは、 その日の夕方近くだった。
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