連載 #6778の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
しばらくして、廊下の向こうから、にぎやかに飛び跳ねながら二つの笑い声が近づ いてきて、教室に飛び込んでくるなり弾けた。 「ヤッタッヤッタッヤッタァァァッ!!」 「舞子っ、トドメを刺してきたよぉぉぉっ!!」 場の雰囲気を全く無視して、興奮しきった二人が、茫然自失のあたしの周りをピョ コピョン跳ね回る。 「ちょ、ちょっとぉ、何が? どうして? どうなったのよぅ!?」 あたしは知美の腕を捕まえて、訳を尋ねた。 「ウフフフフ、あの湧って子を、ギャフンッ☆ て言わせてやったのよ!!」 「そうそうっ! ああぁ、スッキリしたあぁぁ!!」 二人は、得意満面で笑顔をキャッチボールし合っている。 そんな二人に静かな怒りをにじみださせながら、梁子が後ろから歩み出た。 「キャンキャン駄弁ってないで、ちゃんとスジ通して、アタシらに分かるように話 てみなっ」 二人は、たちまちクリスマスツリーの光りが消えたようにシュン…となってしまい 知美に肘で脇腹を小突かれた沙世が、代表して話し出した。 「知り合いの1年生に聞いたんだけど、あの子今、クラス中からシカト(無視)さ れてるんだって」 あたしは、前に教室で見た湧ちゃんを思い出した。 「どうして…?」 手品のタネあかしの要領で、沙世がもったいぶりながら証しだす。 「ホラ、あの子、結構可愛いじゃない? だから男子達にすごく人気あったらしい のよ。だから一部の女子達からは嫌われてたらしいわ。それがこの間、教室に校 長先生が来て、それから一気にクラス中からシカトされだしたんだってさ」 ここで沙世が一息つくと、直ぐさま知美がその先を喋りだした。 「あの子が女子に妬まれてたのって、男子にモテるからだけじゃなかったらしいよ 。影じゃ、男子の間でも評判悪かったんだってさ。特に掃除なんか”汚いっ”て 言って、しょっちゅうサボったり、代わりの男子にやらせたりして、わがままし 放題だったんだって」 その光景がハッキリ思い浮かぶ。 「ねぇ、校長先生、何しに来たの?」 今度は沙世が知美を押しのけて話し出す。 「それがねぇぇぇ、あの子、散々掃除サボってたくせに、最近、良い子ぶってゴミ 置き場のゴミ拾いしてるんだって。それが校長先生の耳に入って、わざわざ教室 まで褒めに来たのよ。その事が女子だけじゃなくて男子達にも反感買っちゃった のね。今じゃ、他のクラスの子達からもシカトされてるらしいわよ」 湧ちゃん‥‥ 「ホント、狡賢いったらありゃしない。だから1年生達と組んで、あたしらが”舞 子からのプレゼントだよっ”て、あの子の前で、あの残飯をぶちまけてやったっ て訳よっ」 笑いをこぼしながら知美が続ける。 「そん時のあの子の顔ったらなかったわ。ま、泣かないのは残念だったけど、あれ で懲りて二度と舞子にも近づかないよ」 「そうそう。これで舞子も解放されるし、性格の悪さも直るかもしれないし、一石 二鳥だねっ!」 バシッ☆ ビシッ☆ あたしは怒りを原動力として弾走していた。髪の毛やスカートの乱れ、息の苦しさ 他人の眼、そして生まれて初めて体験した手のひらの痛みさえも気がつかなかった。 違う‥‥湧ちゃんは良い子ぶってゴミ拾いしてたんじゃないっ‥‥ 湧ちゃんっ、湧ちゃんっ、湧ちゃぁぁぁんっ!! /// 普段、人気のない校舎隅にあるゴミ置き場では、十数名の1年生の女の子達が集ま って、ターゲットを槍玉に挙げて嘲笑っていた。 一人一人はごく普通の少女であっても、複数になると圧倒されるもので、その手前 では、近づくに近寄れないでいるゴミを捨てに来た生徒達が、立ち往生していた。 そんなゴミ当番達の注目を背中に浴びながら少女達の群に斬り込んでいくと、その 中に、たった一人で残飯をゴミ箱に集めている栗色の髪をした小柄な女の子がいた。 背中を向けてしゃがんでいる少女は、間違いなく湧ちゃんだった。 湧ちゃんは後ろにいるあたしに気付かずに、小さな手で生ゴミを拾い続けている。 あたしはキッ! と、1年の女の子達を一人一人睨みつけて追い払うと、そっと湧 ちゃんの横にしゃがんで、ゴミを拾い始めた。 「汚れますよ」 いつもと違う、素っ気無い口調で湧ちゃんが振り向かずに言った。顔の横に垂れお ちた自分の髪の毛のせいで、あたしだと気付いていないようだ。 泥で汚れた小さな手に、一生懸命生ゴミをかき集めている湧ちゃんからは、ひしひ しと、大勢の女の子達に負けまいと、突っ張っている気迫が伝わってくる。 それは、何人たりとも自分に近づけまいとするもので、あたしはまた一つ、湧ちゃ んの隠れた一面を垣間見た気がした。 しばらく無言でゴミをかき集めていると、それをうざったがる様に湧ちゃんが、前 に垂れ落ちた髪の毛を後ろに振り切って、ふてくされた顔で睨み付けてきた。 「あっ!」 眼が合って、横に居るのがあたしだと気付くと、パッと顰めっ面がガラス玉の様に 砕け散った。 「……」 二人の間で、ゆっくりと様々な思いが交錯してはいるものの、肝心な言葉が出てこ なくて、そのまま並んでゴミを拾うしかなかった。 ゴミを拾う手つきは互いにぎこちなく、なかなかきっかけがつかめなかったけど、 偶然手と手が触れた瞬間、同時に言葉も触れ合った。 「あ、ごめん」・「あ、すみません」 それを機に、堰を切ったように言葉が溢れ出してきた。 「あ、いいわ。はいっ」 「いえ、せんぱい、どうぞ」 残飯を譲り合うという奇妙な状況に、あたしはプッと噴き出し、湧ちゃんも誘爆し た。 「湧ちゃん、意地悪しちゃってごめんね」 勝ち取った残飯をゴミ箱に捨てながら言うと、湧ちゃんが首をブンブン振って否定 した。 「せんぱいは悪くありませんっ。ユウが至らなかったんですぅ」 「そんな事ないわっ。あたしが自分勝手だったのよ!」 「いいえっ。ユウの毛が、3本足りなかったんですぅ!」 湧ちゃんは、ガンとして謝らせてくれそうもなかった。けど、それではあたしの気 が晴れずに、いつまでも梅雨のままだ。 こんな時、男同士だったら、一発ずつ殴り合ってチャラという解決方法もあるのに ……女同士っていうのはホントにやっかいだ。 「じゃ、こうしましょうっ」 湧ちゃんが突然、困っているあたしの手をとって立ち上がり、意外な提案を差し出 した。 「ジャンケンして、負けた方が悪かったコトにしましょう」 「そんなっ、ジャンケンなんかで決める事じゃないわよっ」 「いいんです。いきますよぉぉぉ!」 湧ちゃんは、すっかりその気になって、両手を交叉させると、クルンと反転させて その中を覗きこんで、やる気まんまんだった。 まぁ、湧ちゃんらしいと言えば、らしいアイデアだし、それにもう、わざわざ仲直 りする必要もないだろうから、ここは遊び気分でそのアイデアにのる事にした。 「最初は”グー”ですよぉぉぉ!」 「ええっ、いいわよっ!」 あたしと湧ちゃんは息を合わせて、 ”さっいしょっはっグーッ…!” で、拳を出し合い、 ”ジャッンケッンッ、ポンッ!!” で、あたしはパーッ! 湧ちゃんは、…チョキをだした。 「うわぁぁぁいっ!! ユウの勝ちですぅぅぅっ!! 悪かったのは、せんぱいで すよぉぉぉっ!!」 あたしは飛び出そうになった言葉を飲み込むと、嬉しそうにはしゃいでいる湧ちゃ んを眺めながら、女同士もいいなと思った。 /// 「ねぇ湧ちゃん。これから映画見に行こうか?」 昇降口の手洗い場で、洗った手をハンカチで拭きながら言うと、湧ちゃんが、眉間 に小さなシワをつくってジッ‥と、見つめ返してきた。 「やだなぁ、そんな眼で見ないでよぉぉぉ。もう嘘なんかつかないわよ。ホラ、信 用できなかったら、一緒に湧ちゃん宅まで行って、そのまま映画館に行ってもい いよ」 あたしがポッケから自分のチケットを出して見せると、湧ちゃんは首を振って自分 もチケットを取り出して見せた。 「このまま行かないと、信用できません」 「あはっ、オーケーッ!」 と、話はまとまり、5分後に校門で待ち合わせる事にした。 /// 教室へカバンを取りに向かう途中、階段で、あたしのカバンを持った梁子に出くわ した。 「あ、梁子っ。ありがとっ!」 「ああ、」 晴れ晴れとしたあたしの表情から、湧ちゃんと仲直りできた事を察したのか、梁子 は何も尋ねてこなかった。 でもこんな時には、溢れる喜びを誰かに伝えたいもので、校門まで歩く間、あたし は、マシンガントークで梁子に事の次第を話して聞かせた。 「なるほどね」 一瞬の隙をついて、梁子が感心した風に言った。 「何が?」 「ん…いや、きのうの風船の話だよ。パンパンだったら空気を抜くだけじゃなくて 、もっとデカイ風船に取り替えるって方法もあったんだなってさ」 「うんっ! 今はどんなに湧ちゃんが空気入れてきても破裂なんかしないわっ!」 「アハハハハ、デカくでたね。でもさ、湧の風船は、アンタ一人でパンパンかもし れないね。きっとアドバルーンで、”舞子せんぱい大好きっ!”なんて垂れ幕付 きでさぁ」 「ええぇぇぇぇぇっ!? やだあぁぁぁぁぁぁっ!!」 梁子も冗談がうまくなったものだ。それとも…本気で言っているのだろうか? 校門に着いてからも、梁子を足止めして話続けていたあたしは、一息ついて腕時計 に眼をやった。すると、もう約束の時間から20分も過ぎていた。 「…遅いなぁ」 あたしは少し心配になってきた。いくら押し込めても頭の中に”仕返し”と言う湧 ちゃんの言葉が沸々と泡立ってくる。 やっぱり湧ちゃんは昨日の事をまだ怒ってるんじゃ‥‥ううん、そんな事ないわ。 ちゃんと仲直り出来たじゃない。でも‥‥‥ あたしは湧ちゃんが、ジャンケンで後出ししたのを思い出していた。 でも、あそこでもし、あたしが勝っちゃってたら後味悪かっただろうし、湧ちゃん にしても、あたしが謝りやすいようにジャンケンで負けるように策略してくれたのだ ろう。だから、あれはあれで良かったのだ。 でも、本当に湧ちゃんは、そこまで計算して後出ししたのだろうか…… そんな不安の泡を吹き飛ばしてくれたのは、梁子の思いがけない一言だった。 「アイツ等、手間取ってんのかな…」 「えっ…知美達のこと?」 「心配ないよ。アイツ等、アンタに叩かれた後、ショボクレちまってさ。湧に誤り に行ったんだよ。少しやりすぎだったけど、アイツ等もアイツ等なりに舞子の事 を思ってしたんだから、許してやんな」 聞かされて、初めて手のひらに残る違和感に、教室での事を思い出した。 明日…知美と沙世に謝らなくちゃ… 湧ちゃんがカバンを抱えて一生懸命走ってきたのは、それから更に10分ほど経っ てからだった。 転がるように掛けて来た笑顔の砲丸が、あたしの胸にドコンッ☆ と、飛び込んだ 瞬間、息が数秒止まった。 当たりは今までで一番強く、梁子の機転で抱き支えられなかったら、そのまま後ろ にひっくり返ってしまったかもしれない勢いだった。 「ハァ、ハァ、ハァ、良、良かったあっ! せ、せんぱいっ、待っててくれたんで すねぇぇぇっ!!」 汗をキラキラさせながら、息を弾ませて嬉しそうに笑われると、何でも許してしま う。 「あ、当たり前じゃない。ゲホッ‥ それより、知美達の事なんだけど、許してあ げてね…ゲホッ‥ゴホッ‥」 「はぁ…??」 顔をあげて息を整えながら湧ちゃんが、大きな瞳をクリクリ動かして、不意に、思 い出したような顔をした。 「あぁ。あの人達ですかぁ? それなら、執行猶予10年にしときました」 湧ちゃんの不可解な発言に、あたしと梁子は顔を見合わせて、詳しく聞き返した。 「許しますけど、あの人達、懲りずにまたユウ達の仲、引き裂きそうだったから、 10年間、何もしなかったら許してあげることにしたんですけど…いけませんで したかぁ?」 4本指を口唇に添えて、伺うような瞳で恐縮する湧ちゃんに、あたしと梁子は爆笑 で答えた。 /// それから3人で駅まで行って、あたしと湧ちゃんは、梁子にカバンを預けて電車で 映画を見に行った。 −−第8章 おしまい! 第9章 最終回に、つづく…−−
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