連載 #6512の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
第2章 ひとりじめ! 「ばぁぁぁか…」 学校を出たあたしは、そのまま駅向こうにある、梁子(りょうこ)のバイト先の、 カフェ『あくありゅうむ』に入った。 // あたし達の高校のある側が、自然との同居を目指した環境開発で発展してきたのに 対して、駅の向こう側は娯楽中心で、オシャレなショップや、パチンコ店、ゲームセ ンターなどがひしめき合い、一方では飲み屋や風俗店などの歓楽街もあるので、付近 一帯の学校間で組織されるPTA組合では、第1級有害立ち入り禁止区域に指定して いる。 それでも放課後のこの時間には、ゲームやショッピング目当ての学生達が、どこか らともなく集まってきて、あたし達”コドモ”には、大人が決めた規則なんか全然関 係なかった。 梁子の働く喫茶店は、居酒屋やスナック関係の飲み屋がひしめき合う通称”オヤジ 通り”と呼ばれている道の外れの、細い路地を入った雑居ビルの3階にある。 入り口には、人ひとりがやっと通れるくらいの狭い階段の前に小さな看板があるだ けで、常連客でない限り、ここに喫茶店があること事態気付かないかもしれない。 だからこそ、9時以降はスナックに変わるこの店で、学生の梁子がバイトできてい るんだと思う。 // ブルーを基調とした薄暗い店内には、いつも通り、お客さんは一人もいなかった。 あたしのぷりーすの裾をずっと握りしめてついてきた湧(ゆう)ちゃんは、およそ 喫茶店には見えない奇妙な店内を、物珍しそうにキョロキョロと見回している。 不可思議なダークブルーの照明で満たされた店内のあちこちには、マスターが趣味 で集めた、奇妙な異国のエスニックな調度品が、オブジェとして大事そうに飾られ、 中央に配置された大きなガラス張りの水槽には、珍しげな色彩で煌めく熱帯魚達が何 も考えていない風に、ゆったりボコボコまどろんでいる。 カウンターの内では梁子が、あたしから訳を聞いて、呆れた顔をしていた。 「だから行っただろ!? あんな手紙ほっとけってさ」 「そんな…今さらそんなこと言ったって……」 「で、どうすんのさ。このままあいつと付き合うのかい?」 見ると湧ちゃんは、背中を向けて水槽にへばりついていた。突き出したお尻がリズ ミカルに上下にモコモコ動いている。 「変な言い方しないでよっ。あたし達は普通にお友達として仲良くなっただけなん だから。それに湧ちゃんって、とっても素直で良い子よ。梁子も仲良くしてあ げてよね」 「ふぅぅん……」 もういちど湧ちゃんを観た梁子はなにか言いた気だったけど、何も言わなかった。 「湧ちゃん、こっち来なよ。何たのむ? ごちそうするわ」 「うわぁぁい! ありがとうございますぅ!!」 湧ちゃんは、嬉しそうにあたしの横の椅子にチョコンと座ったかと思うと、目の前 の梁子と視線を交した途端、ジッと、外敵を威嚇する子猫のような瞳で、梁子の顔を 睨んだまま動かなくなった。 「アタシのツラ(顔)に、何かついてるかい?」 梁子も臆することなく、天空から獲物を捕らえる鷹を思わせる鋭い眼光で、湧ちゃ んを威圧した。 これまで、数えきれないくらいのイタイケな幼児を泣かせてきた鋭い眼なのに、湧 ちゃんも負けずに睨み返している。あたしの記憶が確かなら、こんなに長時間、梁子 と睨み合っていられた子はいない。 先にしかけたのは湧ちゃんだった。 「せんぱい、この、オ・バ・サ・ン・と、どうゆう関係なんですか?」 湧ちゃんは、あたしの耳に手を添えて小さな声で聞いたんだけど、いつもの舌足ら ずな可愛い声とはうって変わって、ハッキリとした滑舌の良い声を出したもんだから、 梁子にもハッキリ聞こえちゃったみたいで、梁子の顔がピキピキ険しくなっていった。 「あはっ、梁子はオバさんなんかじゃないわ。あたしのクラスメイトで親友なの」 たしかに梁子は、スラリとした長身で、端正な顔だちにキリリとした切れ長の眼を しているので、その年齢以上の艶っぽい色気がある。ましてやメイクをしてシックな ワンピース姿だから、なおさら大人じみて見えるのかもしれない。 梁子があたしと同じ年齢だと知ると湧ちゃんは、青筋をたてている梁子の顔を、マ ジマジと舐め回すように見つめてから、また、耳に顔を寄せてきた。 「せんぱい、早くこの人と別れた方がいいと思います。なんだか性格悪そうじゃな いですか。きっと近い将来、カード破産してせんぱいに泣きついてきて、骨の髄 までしゃぶり尽くされちゃいますよ」 わざと聞こえるように言っているのか、またしてもしっかり、梁子の耳にはいって いるみたい。 「性格悪いのはどっちさっ!!」 「梁、梁子っ、落ちついて。湧ちゃんには悪気はないのよっ」 エプロンを外して今にもカウンターを乗り越えて、飛びかかろうとしている梁子を 宥めるあたしの肩ごしから湧ちゃんが梁子に向かって、”びっ!”と赤い舌を出す。 どうも二人は犬猿の仲らしい…。 どうにか梁子を落ちつかせたあたしは、しきり直しにと、湧ちゃんにメニューをみ せたんだけど‥ 「ずいぶん品揃えのわるい店ですねえ。従業員のしつけもなってないし」 悪気はない…のに、湧ちゃんの口からでるセリフは、ことごとく梁子の気をさかな でてしまう。 「安心しな。客には手ださないよ」 心持ち無いあたしの様子に気付いてくれたのか、梁子が低くドスのきいた声でつぶ やいた。でも、そんな不自然な笑顔で言われても…… 悪態をついたワリには、えらく迷ったあげく、湧ちゃんは”いちごパフェ”に決め た。 その後も、しばらく大きな瞳をクリクリさせて、メニューに見入っている姿が、子 リスの様で可愛かった。 「はいよ、お待ちどうさまっ」 あたしに”ホットチョコ”をだしてからしばらくして湧ちゃんの”いちごパフェ” も出来た。 さすがに梁子は大人で、あたしの顔を立ててくれようと、いちごパフェは大盛りで トッピングのイチゴもかなり多めにしてくれていた。 目の前に置かれた高さ約20センチ程のスペシャルパフェに、思わず湧ちゃんも眼 をランランと輝かせて、賞嘆のため息を漏らしている。 「すごいじゃない梁子っ。ありがとね!」 「ま、あんたの知り合いだからね。特別さ」 照れくさそうに梁子が笑って言った。 学校では、梁子を恐がって避けたり、不良だと決めつけたり、根性がネジ曲がって るとか…陰口言ってる子も多いけど、あたしは梁子が本当は優しくて心の温かい素敵 な子だっていう事を誰よりも知っている。 「あれ? どこ行くの」 突然、湧ちゃんが、パフェの生クリームをスプーン一杯すくって、熱帯魚の水槽の 方に向かって歩み出した。 そして、椅子を引き寄せて…靴を脱いで…その上に乗って……水槽のフタをずらし て…スプーンを?!?!?!! 「お、おいバカッっ! 何するつもりだよっ! やめろおぉぉぉ!!」 梁子のひきつった声が椅子の上の湧ちゃんにつきささる。 「湧ちゃんっ、駄目よっ!!」 あたしの叫びで、今にもスプーンの生クリームを水槽の中に落としそうだった湧ち ゃんは、クルリとこっちに振り直って、血相を変えた梁子にむかって、 「毒でもはいってるんじゃないかと思って」 と、平べったい声を投げかけた。 肩をうち震わせている梁子を見て、湧ちゃんは、満足そうにニタリと微笑みながら スプーンをパクリと含み、ギュッと瞳をつぶって身震いした。 しばらくの間、固まったままホッペを赤らめて、まったりした表情を見せていた湧 ちゃんは、惜しむように耳の下を両手で押さえてコクリとノドを鳴らすと、ゆっくり 瞳をひらいてニタリと白い歯を見せた。 そして最後に、また瞳を閉じて、口の中いっぱいにひろがっていた甘味をたどるよ うに上下の口唇をペロンと舐めると、初めからその気はなかったらしく、湧ちゃんは、 あっさり、ヒョイッと身軽に飛び降り、椅子を元にもどしてから、あたしの横に戻っ てきて、スプーンいっぱいにしゃくったアイスクリームを、鼻孔をふくらませながら おいしそうに食べだした。 「舞、舞子…ア、アタシの一生に一度の願いを…き、聞いてくれるかい」 「い、いいけど……暴力は駄目よ梁子!」 あたし達がお店を出た後も、梁子の側頭部の血管は、ヒクつき続けて、止まること はなかった……という話だ。 −−第2章 おしまい! 第3章 ふたりでお弁当! に、すぐつづく…−−
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