連載 #6348の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
二〇〇某年某月某日、ある銀行の応接室で、大蔵省職員が金融検査を行っている のを頭取が応対していた。そこへ女性行員がコーヒーとお菓子を盆で運んで持って きたので、二人は暫し仕事を中断してそれを食していた。 その応接室内にいきなり二、三人の男が入ってきた。 「何だね! 君たちは?」頭取が驚いて、その男達に怒鳴った。 「我々は『国家公務員倫理審査会』の者です」男達の代表が名刺を差し出した。 「公務員倫理規定が健全に守られているか立入検査をしにやって参りました」 「わざわざこんな所まで来ることはないだろう。私達は別にやましいことは何もし てないよ」大蔵省職員が抗議した。 「しかしあなた方は今、コーヒーとケーキを召し上がっていますね」 「それがどうかしたかね。まさかこれが賄賂か献金だなんて言うんじゃないだろう ね」 「そのコーヒーとケーキが高価なものであるとすれば話は別です」 「馬鹿馬鹿しい。このケーキが高価なものだなんてわかるわけないでしょう」頭取 は言った。 「それがわかるんですよ」審査会の男はドアの外へ合図した。やがて一人の女性、 −隅田和世−が入ってきた。 「彼女が、そのコーヒーとケーキの判定を行います」男は和世に目配せした。 「失礼します」和世はテーブルへ歩み寄ると、頭取と大蔵省職員が食していたケー キをいきなり手づかみで食べ出した。二人はその傍若無人ぶりに唖然としていた。 「いっへんモグモグ、なんれもないモグモグ、ハッフルハイひたいれふへろ」和世 は言った。 「口の中にものを入れながら喋ってんじゃねーよ」和世の上司は注意した。 「申し訳ありません」和世は頬張っていたケーキを飲み込んだ。「一見何でもない アップルパイみたいですけど、本場ウィーンのアップル・ストゥリューデルですね。 日本の高級菓子店で作ったもので、一切れ千円以上する代物です」 銀行家と官僚の顔色が変わった。和世は、次にコーヒーカップを取り上げて中身 を飲み干した。 「これはブルーマウンテンですね。これとケーキ合わせても五千円以上する筈です」 そこへ今度は、東京地検特捜部の捜査員が入ってきて、二人に言った。 「あなた方を収賄罪と贈賄罪の容疑で逮捕します」 二人は観念した様子で首をうなだれた。 「君がいなかったら、ここまでうまくはいかなかったよ。ありがとう」和世は捜査 員に感謝された。 「・・・・ということが、今の与党の公務員倫理法案ではあり得るかもしれないの よ」和世は、自分の空想話を母親に語って聞かせていた。二人は買い物の途中で喫 茶店に立ち寄っていた。 「だから何なの?」信子は娘に冷ややかな視線を向けていた。 「だから今の内に、全てのコーヒーとお菓子の味に精通してる『コーヒー及びケー キソムリエ』の能力を身につけておけば、将来必ず設置される筈の『国家公務員倫 理審査会』への就職が有利になるってわけよ。私、親孝行するからね、お母さん」 和世は、ウェイトレスに別のケーキのおかわりを注文した。 <どうかお願いしますから、この馬鹿娘が卒業するまでの間に、コーヒーとケーキ も禁止するもっと厳しい基準の法案を提出し直して下さい> それが信子の切実な願いだった。 (98/04/17)
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