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第二部第四章 復讐の艦隊 1942年4月25日 大海令(大本営海軍部命令)第17号 一.連合艦隊は陸軍と協力し、ニューギニア及びソロモン諸島を攻略すべし 一.細項に関しては、軍令部総長を通して指示せしむ 1942年5月4日 ハワイ 太平洋艦隊司令部の長官執務室に、情報部のロシュフォート中佐が飛び込んで来 た。満面に、会心の笑みを浮かべている。 「長官、日本軍の次の攻撃目標が割れました。ポートモレスビーです!」 「よし、よくやった!」 ニミッツは、腰を浮かせて叫んだ。 日本軍は、どこに侵攻して来るのか……? 太平洋艦隊司令部では、喧々囂々の議論が飛び交っていた。 暗号文の内容から、次の攻勢が準備されている事は間違いない。問題は、攻略目 標がどこであるかだ。 既に、それらしき符号は割れている。暗号表の中で、「SR」と表記されている ものがそれだ。問題は、それがどの地点を示すかだ。ハワイ、ミッドウェイ、フィ ジー、パルミラ、ポートモレスビー……様々な地点が論議されたが、結論は出なか った。 ここで一計を案じたのが、情報部が誇る暗号部隊「マジック」である。 合衆国では、開戦前から日本軍が使用する暗号の解読を進め、この時点ではその 大半を筒抜けとする事に成功していた。これを利用して、日本軍の攻略目標と目さ れているいくつかの基地から、平文で電文を打たせたのだ。 中でも決め手となったのが、ポートモレスビー基地から打電された、 「機雷運搬船が港外にて沈没、積み荷の機雷1000個余りが流出した模様」 と言う欺瞞電だった。 これに対して日本軍は、 「SR攻略部隊には、掃海艦艇多数を同行させる必要ありと認む」 と言う報告電を飛ばしたのだ。 「早速今夜から作戦会議だ。忙しくなるぞ!」 ニミッツの頭の中では、早くも日本軍の侵攻をいかにして防ぐかと言う構想が形 を成し始めていた。 1942年5月8日 呉 連合艦隊旗艦「陸奥」 「長門」「陸奥」の長期改修に伴うドック入りによって、一時的にGF旗艦とな った戦艦「日向」の長官室を訪れた福留繁軍令部第一部(作戦部)長は、分厚い作 戦書を読み終えると、溜め息を吐いた。 「MO作戦」と題されたそれは、GF主力の過半数を投入し、ニューギニア島南 東端のポートモレスビーを落とすと言うものだった。ポートモレスビーは珊瑚海に 突き出した半島の突端に位置し、アメリカとオーストラリアを結ぶ連絡線上の要衝 だ。ここを落としてしまえば、確かに米豪ラインは遮断されてオーストラリアは孤 立し、アメリカはフィリピン奪回の足掛かりを奪われ、加えてニューギニアと言う 戦略上の要衝を確保出来る。そればかりか、この作戦を実施すれば、合衆国太平洋 艦隊の残存部隊を引っ張り出し、一網打尽にする事も望める。 しかし…… 「一足飛びにポートモレスビーというのは、性急に過ぎると思いますが。途中のラ エやブナも押さえなければなりませんし、場合によってはソロモンまで攻略しなけ ればならない。上策とは思えません」 「俺もそう思ったんだが、陸軍の方から強硬に要求して来たんだ。海軍ばかりが目 覚ましい戦果を挙げて、自分達は東南アジアを取っただけと言うのが気に食わんら しい」 「最前線で活躍させろ、ですか……モレスビーには、ソロモンを落とした後で掛か りたかったんですがね。それに、ソロモンやニューギニアよりも、南方をしっかり 押さえる方が遥かに重要でしょう」 「しかし、ソロモンにせよモレスビーにせよ、うちの陸戦隊だけで取る事は出来な いんだ。ここは妥協も必要だよ」 「妥協して元も子も無くすような事にならなければいいんですが……」 5月10日 呉 戦艦「日向」作戦室 当時山本は、東京を空襲されて焦っていた節がある。MO作戦に充てられる第八 艦隊は、二航戦を中心に三航戦から「天城」「赤城」を抽出し、これに、南方作戦 を終えた第三戦隊の「榛名」、第七戦隊の「最上」「三隈」「鈴谷」「熊野」、第 八戦隊のうち、オーバーホールを終えた「古鷹」「青葉」それに軽巡「由良」「夕 張」、駆逐艦「夕雲」「秋雲」「巻雲」「風雲」「長波」「巻波」「玉波」「藤波」 「早波」「海風」「山風」「江風」「涼風」と言うものだった。司令官は、一航艦 司令長官としての実績を持つ南雲忠一中将である。 だが、オーバーホール中の一航戦と四航戦、それに三航戦の「高雄」「愛宕」の 工事終了を待てば、モレスビー作戦も余裕を持って遂行出来ると言う声もあった。 マーシャル沖海戦、インド洋作戦と連戦していた一航艦と二航艦は、機関や各種艤 装の整備補修、損傷箇所の修理などのためにドック入りする必要があった。だが、 16隻もの空母のオーバーホールを一度に行うにはドックの数が足りず、やむなく 順次ドック入りさせる事になったものの、大破して長期補修に入っていた「金剛」 を始めとする戦艦や、重巡のオーバーホールと重なってしまい、一度に3隻しかド ック入りさせる事が出来なかったため、作戦予定日の5月下旬に間に合うのは、 「天城」「赤城」「翔鶴」「瑞鶴」「蒼龍」「飛龍」の6隻のみだったのだ。 その声を裏付けるように、この日行われた図上演習では、作戦の拙さが浮き彫り になる形となった。 赤青の両軍に分かれて行われた演習において、赤軍(米軍)指揮官となった松田 千秋大佐は、4隻の空母を集中運用した上に、ポートモレスビーの航空隊との巧み な連携攻撃を仕掛け、第八艦隊は「天城」「蒼龍」「瑞鶴」の三空母と「榛名」が 行動不能に陥り、「翔鶴」を中破されると言う大損害を受けたのだ。これには、居 合わせた多くの者が青ざめた。だが、演習統監の宇垣纏少将が次に発した言葉には、 誰もが絶句した。 「只今の命中爆弾及び魚雷は、各艦一発ずつとする。これなら、いずれの艦も戦闘 続行可能だ」 たちまち、作戦室全体がざわつき始める。そんな無茶苦茶な、という声が、今に もそこら中から上がりそうな雰囲気になった。 「そんな八百長みたいな話があるか!」 大西瀧治郎三航戦司令官が、宇垣に食って掛かった。宇垣とは海兵の同期である だけに、遠慮と言うものが一切無い。 「今の判定ではっきりした事は、実際の戦闘でもこのような事態は十分に起こり得 ると言う事ではないか。MO作戦全体を含めて、もう一度検討し直すべきだ!」 だが宇垣は、鉄仮面とあだ名される仏頂面で、平然と言ってのけた。 「米軍の練度が我が軍のそれに遠く及ばない事は、この場にいる誰もが知っている 事実だ。これでも多すぎるくらいだと思うが」 大西は、呆れたような顔で宇垣を見つめた。 (この男、正気で物を言っているのか!? 今回の図上演習の判定基準には、彼我の 練度差も当然加味されている筈だ。それに、これは想定されうる最低限の被害だ。 その判定を覆すなど、一体どういう了見だ、宇垣!) 「赤軍指揮官」 宇垣は、大西の沈黙を了解と受け取ったらしく、今度は松田大佐に声を掛けた。 「もう少し、米軍の実力を考えた作戦行動を取るように」 「お言葉ですが、米軍がマーシャル沖以来やられっぱなしでいるとは考えられませ ん。当然、戦訓の調査は行われているでしょうし、それに3月以降の一連の空襲に よって、練度も向上している筈です。決して侮る事は出来ないと思いますが」 「だからと言って、我が軍のごとき空母の集中運用などするものではない。仮にも 敵の取っている戦法を真似するような、恥知らずな軍隊があるものか」 (馬鹿な) 大西は、宇垣の言う事が信じられなかった。 (米国人は、たとえ敵の戦法であろうと、それが効果的と知れば採用するのに躊躇 しない。合理性を貴ぶ彼らの国民性からして、次は間違いなくこちらと同じ事をし て来る筈だ。我が軍も面子にこだわってばかりはいられないと言うのに……) こんなとき、山口や長官がいてくれれば「「と思わずにはいられない大西だった。 知勇兼ね備えた名将として知られる山口多聞一航艦参謀長は、今は「高雄」の補修 作業の打ち合わせのために、横須賀に出張していて不在である。そして、知米派の 山本GF長官は、持病の回虫が悪化して、東京の自宅で療養中だった。 (これはひょっとすると、空母の一、二隻が沈没するくらいの事はあるかも知れん ぞ……) だが、この程度の見通しではまだまだ甘かった事を、大西は後に思い知らされる 事になる。 5月16日 0630時 ハワイ 真珠湾軍港 埠頭に押し掛けた数万の将兵が、帽子を振って見送る中、一群の艦船がゆっくり と、汽笛の音も高らかに真珠湾を出港して行く。米豪連絡線の要であるポートモレ スビーを守るために、勇躍出撃して行く勇者を、昇ったばかりの朝日が祝福するよ うに照らし出している。開戦前は真っ白に塗られていた船体は、今は青灰色の戦時 迷彩に覆われている。だが、それでもオレンジ色に輝く船体は、それを見つめる多 くの将兵の目には、これからの合衆国を待っている輝かしい勝利に満ちた未来を照 らし出しているように映った。 だが、チェスター・ニミッツ太平洋艦隊司令長官は、決して楽観はしていなかっ た。出来る限りこちらに有利な条件を揃えたものの、依然として日本軍の戦力は、 こちらを上回っている。一艦当たりの搭載機数は多少有利と思われるが、それでも 空母隻数6対4というのは重いハンデだった。 (マッカーサーが、もう少し聞き分け良くしてくれれば……) そう思わずにはいられないニミッツだった。 太平洋艦隊司令部としては、ポートモレスビーを一旦放棄して日本軍を誘いこみ、 補給線を寸断して弱ったところを、一気に袋叩きにする計画だった。 だが、豪州方面軍総司令官のダグラス・マッカーサー大将は、ポートモレスビー の放棄には頑として応じなかった。 そのような海上補給線を断つような戦術には未だ先例が無く、そのような不確実 性の多い作戦に、対日反攻作戦の拠点となるべき重要な基地の運命を委ねる訳には 行かないと言うのが、表向きの理由だった。 しかしニミッツは、その裏に隠されたマッカーサーの本心を読み取っていた。マ ッカーサーは、「日本軍相手に二度も退却を重ねた怯将」という評判が立つのを恐 れたのだ。確かに、ニューギニア陥落によってオーストラリアが動揺し、下手をす れば連合国から脱落する可能性が無い訳ではない。だが、それを説得してオースト ラリアを繋ぎ止めておくのもまた、マッカーサーの仕事ではないか。 (あの見栄っ張り爺さんが……!) モレスビー死守の方針を堅持したマッカーサーのおかげで、海軍は何としても、 日本軍を珊瑚海で食い止めねばならなくなったのだ。迷惑もいいところだが、味方 を見捨てるわけにはいかない。結局ニミッツは、再建途上の太平洋艦隊の全力を挙 げて、ポートモレスビーを守らねばならない羽目に陥ったのだった。 「貴官には申し訳ないが、あと一年だけ現有戦力で頑張ってくれ。そうすれば、新 型の戦艦や空母が、続々と竣工して来る。日本軍相手に不利な戦いを強いられる事 も無くなるんだが」 出撃前のブリーフィングで、申し訳無さそうに言うニミッツに、ハルゼーは快活 な表情で答えたものだ。 「いかなる場合でも全力を尽くすのが、海軍軍人というものでしょう。それに、今 回はマーシャル沖よりもずっと、ジャップどもの航空戦力は手薄だ。この程度なら 一気に蹴散らしてご覧に入れますよ」 ともかく人事を尽くした以上、後は天運に縋るしかない。ニミッツは祈るような 気持ちで、水平線上に遠ざかって行く艦隊を見送っていた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− Vol
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