連載 #5168の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
槙善は、ますます調子に乗った。 「分かっているのなら、実行をすることだ。早く、だぞ。わしは将来、中央に 打って出る人間だ。くだらん傷は、大怪我の元。広がらぬ内に治しておかねば ならん」 ゆったりとした室内着に替えると、槙善は煙草を手に取った。 「ああ、くそっ。利根のところの支持を固める件。これも迅速に進めんとな。 細工は流々、あとは仕上げを御覧じろ……といかねば」 「あなた、お食事ですか? それともおふ」 「飯だ」 衣吹が皆まで言わぬ内に、怒鳴るように命じた。 「口に出さなくとも、察するようになれ。そうなってこそ、できた妻というも のだ」 「はい。できる限り努力しますわ」 「そうだ。国会議員になるには、おまえにも完璧な妻になってもらわんと、わ しに迷惑がかかる。肝に銘じておくんだぞ。いいな」 言い捨てると、その瞬間に妻の存在を忘れたかのごとく、槙善は歩き始めた。 そのまま書斎に向かう。 「飯ができたら、呼んでくれ」 これが槙善のスタイルだった。こうすることが、格好いいと信じていた。こ れからも、変わらないだろう。 もはや一刻の猶予もならない。 急速に感じた都奈達は、警察への通報を考えた。 今日何度目かの電話ボックス探しを丈や秀美らと共に始めようとした矢先、 折りよく、彼らと出くわした。 「あの人は……」 見覚えのある二人組。片方は、その職業の人間にしては特徴的な髪型をして おり、間違えるはずもない。 「刑事さん!」 叫びながら、駆け出すと、向こうもすぐさま気付いたらしく、振り返った。 そして距離を詰める。 「君は平和田さん……それに張元君。どうしたんだね?」 三人目の倉敷秀美に、いくらか不審げな目を向けながら、桑田が言った。 「覚えてくれてました?」 「もちろん。だが、もうそろそろ暗くなる時間だ。せめて、事件が解決するま では、家で大人しくしているのがいい。いくら保護者付きとは言っても、見た ところ、君達は学校帰りのようだ」 「桑田警視、らしくないこと言ってないで」 顔をしかめながら、虎間が口を挟んできた。 「どうやらこの子達、何か用件があるみたいじゃないですか。聞いてあげまし ょう」 「分かっているよ。一通り、大人としての注意をしてみたまでだ。−−さて、 話があるんだね?」 陽気な調子の桑田に、いくらか気後れしつつも、都奈は話す決意を固める。 丈や秀美と一度ずつ顔を見合わせてから、唇を解いた。 「それが……妙子がいなくなってしまったんです」 「……妙子とは、誰?」 「倉敷妙子、私のクラスメートで……あ、あの、こちら、妙子のお姉さんの秀 美さん」 右手で示すと、秀美は桑田へせわしないお辞儀をして、すがりつくように腕 を伸ばした。 「刑事さん、妹が。いなくて、どうしたらいいのか。探したんです。でも、ア ルバイト先にいなくて。平和田さん達も色々、当たってみてくれたんです、心 当たりを。でも、それでも見つからなくて」 「−−分かりました」 桑田は一つ大きくうなずくと、虎間へと何やら目で合図を送る。 虎間も軽く首肯し、秀美の前に立った。 「倉敷さん、どうか落ち着いてください。お話は私が伺います。あなたは、順 序よく、答えていってください」 なだめるような調子で言うと、秀美の肩をそっと押す形で、虎間は都奈達の 輪から離れた。 「君らの相手は、僕がしよう」 消えない不安から秀美を見送っていた都奈は、桑田の言葉に視線を戻した。 丈も同様にする。 「倉敷妙子という女生徒がいなくなった、と言うんだね? どんな風にしてそ う思うようになったのか、手短に、しかも順序立てて話してくれないか。早く 手配をしたい」 桑田の包み込むような物腰に助けられて、都奈と丈は改めてあらましを話し 始めた。 「正直に言え! おまえ!」 甲高い声は、自分の物ではないようだった。 しかし、自分が怒鳴ろうとすれば、その音が聞こえるのだから、やはりこれ は自分の声なのだろう。 そう判断する意識が、彫弥の頭の片隅にまだ残っていた。 彼の手は、女の左手首を掴み、きつくねじ上げている。 見れば、相手の顔は苦しげにゆがんでいる。状況が違えば、彫弥は彼女の表 情に性的興奮を覚えたかもしれない。 が、今はすでに、別の意味で興奮し、頭に血が昇ってしまっている。彫弥に とって、捕まえている女は幽霊のような存在。 「放してよっ」 強く腕を振り、空いている手で彫弥の手を押しのけようとする相手に、彫弥 は業を煮やす。 「この、ふざけやがって!」 女の髪の毛を掴もうとする彫弥。 そのとき、彼の肘が固い物に当たった。 傍らに立てていた自転車が、派手な音と共に倒れる。買い物袋が、篭から飛 び出してしまった。 どこかが破けたらしく、何かの液体が染み出てきて、コンクリートの床に黒 い模様を作っていく。 「痛い!」 悲鳴に呼応した訳ではないだろうが、その叫び声と同時に、警官が走って来 た。 「何をしてる!」 恫喝され、彫弥は一瞬の内に、我を取り戻した。 四角い眼鏡をかけた制服警官の顔を、肩越しにちらと覗き見るや、女から離 れ、勢いよく駆け出す。 「待て! 待たんか!」 グラウンドで競走したのであれば、あるいは若い彫弥は逃げおおせたかもし れない。 だが、状況が悪かった。自転車置場の近くは、剥き出しの地面と打ちっ放し のコンクリートとででこぼこしている上、買い物に来た人出も徐々に増えてき ている。それらをかわして逃げ切るには、スタートダッシュの時点で、失敗し ていたと言えた。 「あっ!」 結局、大きな買い物袋を抱えた中年女性とまともに衝突し、尻餅をついた彫 弥は、呆気なく御用となった。 (ありゃま、弱っちいぜ。ほりぃ、かっこわるーい) 他の買い物客に紛れて、捕り物まがいの一部始終を見ていた音実は、人知れ ず、肩をすくめた。 しばらく観察を続けていたが、彫弥が警官達−−あとからやってきたもう一 名と最初の奴−−に挟まれるようにして、半ば引きずられて行くのを目にし、 興味を失った。 (案外馬鹿だねえ、あいつも。何も、こんなところで騒ぎを起こさなくたって さ。うまいやり方、他にいくらでもあるっていうのに) ぶらぶらと歩いて、元いた花壇の脇に戻った。 (もったいないことしたかもしれないな。さっき、ほりぃが暴走し出す前に止 めて、あいつから聞き出せばよかった。あいつ、生徒会長の事件で、何か知っ てるんだわ) 宙に頬杖を着く格好をしながら、考える。 (じゃなきゃ、あそこまでうろたえたりはしないわよねぇ。ま、ほりぃが犯人 だなんてことは、一億分の一もないでしょうけれど。探ってみる価値、ありそ うじゃないの) ほくそ笑むと、背伸びする要領でまた立ち上がる音実。 「やったるか。夏休みの自由研究ってところだね」 自分の言い方が気に入って、思わず、声を立てて短く笑った。 (へへへ。真面目な話、殺人犯人を見つけたら、何かもらえるかな? 金一封 って言うけれど、どんぐらい入ってんだろ?) 倉敷妙子の行方を追って、緊急の手配がなされる中、北勝と武南の二人も命 令を受け、湖畔邸主人の自宅に到着した。たまたま、近くを通りがかっていた ので、急行した訳だ。 「ごめんくださーい! 八神さん、八神憲代さん! おられますか!」 根がせっかちなせいもあるが、大声でわめきながらドアをノックする武南。 その横で、静かに腕組みをしていた北勝が、不意に腕を伸ばした。 「ブザーを押すべきだったんじゃないか」 「え?」 きょろきょろと頭を動かし、やっとそれらしきボタンを発見する武南。 「い、今は緊急事態ですから」 「それもそうだな。お。出て来た」 北勝のくぐもった声に面を上げると、さっきまで叩き続けていたドアが押し 開けられ、細くできた隙間から、女性が顔を覗かせている。 「どちら様でしょうか」 警戒心が露だが、決して怯えていない、しっかりした口調である。 武南は一歩下がり、一礼した。 「どうも、失礼しました。警察の者ですが」 「刑事さん……?」 目つきが鋭くなった。 「あ、あの、八神さん?」 「とにかく……手帳を見せてください」 求められるがまま、武南は警察手帳を示し、名乗った。後方にいた北勝も同 じようにする。 八神憲代はほっとした風に息をつき、ドアを大きく開けた。 化粧気はなく、引っ詰めにした髪にエプロン姿だが、それがよく似合ってい た。レストランを取り仕切っている女主人には、ちょっと見えない。 「どういったご用件でしょう?」 「こちらで……じゃなかった、失礼。湖畔邸のオーナー兼経営者ですよね、八 神さんは?」 「さようですが……」 「湖畔邸でアルバイトをしている女子高生のことについて、いくつかお伺いし たい点があるのです。ご協力をお願いします」 「それは……もちろん、できる限りの協力は、させてもらいますわ。一体、誰 のことをお調べなのです?」 「倉敷さんです。倉敷妙子さん。雇われているでしょう?」 さっき頭に叩き込んだばかりの名前を口にし、相手の反応を待つ。 「ええ。よく働いてくれます。真面目でいい子です。お姉さんとも仲がよくて、 二人で」 「あ、あ、そういった話は、ちょっとお待ちを。倉敷さんは、今日、お店の方 には来ましたか?」 「いいえ。−−と言いますか、今日は臨時休業にしたものですから、来ていな いと思います。お店を閉めることは、ちゃんと連絡は入れておきましたし」 「では、ここへは?」 「いえ、来ておりません。それうよりも、刑事さん。妙子ちゃんに何かあった んでしょうか? 少し前に、彼女のお友達からも電話がありましたが……」 「ほう」 武南は、平和田都奈達が電話したのだろうと見当を付けた。そのことを確か めてから、さらに重ねて聞く。 「電話口で、平和田さんはあなたに何か言いましたか? その、倉敷さんのこ とについて」 「特に……。切る間際に、小さな声で、『どこに行ったのかしら』なんて言っ てるのは、聞こえましたけれど。……ひょっとして、妙子ちゃんの行方が分か らなくなっている、なんて……」 八神の勘のいい推測ぶりに、武南は迷った。 北勝とアイコンタクトをし、事情を明かしておくべきだと結論付ける。 「実はですね、八神さん。どうやら、その通りでして……」 曖昧な言い方ながら、説明を始めた。 高井戸喜子は、狭い事務所の中で立ち尽くしていた。 ぱんと、一度だけ両手をはたき合わせ、満足そうに室内を眺めやる。 そうして、さっき外したばかりの薄手の手袋を、再びはめた。ぴっちりした 手術用の物にも関わらず、手際よい。ゴム風船に似た匂いが、かすかに漂った。 彼女は机上の電話から送受器を取り上げると、タイプライターで速記するか のようにボタンをプッシュした。 コール音は三度。向こうの電話と回線がつながる音がした。 「−−」 念のため、相手を確かめてから、高井戸は落ち着いた口調で告げた。 「準備終了しました」 −続く
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