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第二部第二章 暗雲の影 1942年3月1日 真珠湾 汽笛を高らかに響かせて、一群の空母が真珠湾に帰って来た。ハルゼー率いる、 第四任務部隊だ。どの艦も、本国のサンディエゴ港で受領した新品の艦載機を満載 し、甲板上に整列して敬礼する将兵の顔にも、こころなしか、数ヶ月前まではかけ らもなかった精気のような物が感じ取られる。 埠頭に押し掛けた将兵も、手に手に星条旗の小旗をうち振り、歓喜の叫び声を上 げ、新たな戦力の到着を祝っていた。 「何とか間に合ったな」 マーシャル沖での功績を認められて、この日付で大佐に昇進し、新たに第四任務 部隊に編入される戦艦「コンステレーション」艦長に就任した、元同艦砲術長の マクワイルド大佐が、艦橋からその様子を見て呟いた。「コンステレーション」は、 2日前に損傷箇所の修理と対空火器の増設を終え、真珠湾のドックから出て来たば かりだった。主砲と副砲はそのままだが、対空砲は3インチ単装砲8基だったもの を、5インチ連装砲8基16門と2倍に増やし、機銃も従来の物に加え、まだ合衆 国のどの艦も装備していないスウェーデン・ボフォース社製の40ミリ機関砲を、 連装12基24門搭載している。空母の護衛艦として、防空能力を重視した改装が 施された結果だった。これによって排水量が約1000トン増えて50250トン となり、速力が32ノットに低下したものの、その対空火力は開戦前と比べれば段 違いに強力になっている。姉妹艦の「サラトガ」「レンジャー」「ユナイテッドス テーツ」は、修理に時間がかかる分、より徹底的な改装が施される予定だった。 合衆国海軍の兵備は、今や完璧に航空主兵へとシフトしていたのだ。 「早速だが、貴官にやってもらう仕事というのは、これだ」 到着の報告に司令部に顔を出したハルゼーに、ニミッツは一束の書類を差し出し た。ハルゼーは、書類を受け取ってざっと目を通すと、にんまりと顔を綻ばせた。 「この作戦に必要とされるのは、大胆な冒険心と敏速な艦隊指揮能力だ。貴官は、 その両方を持ち合わせていると見込んでの作戦なのだが」 「面白い。有頂天になってるジャップどもに、一泡吹かせてやりましょう」 長官公室を後にしたハルゼーは、まるで新しい玩具を買ってもらって、どうやっ て遊ぼうか思案している子供のように、興奮を押さえきれないといった表情をして いた。 1942年3月16日早朝 ウェーキ島近海 東の水平線に太陽が輝き始めた頃、定時哨戒に当たっている九七式飛行艇の偵察 員が、太陽の方角に奇妙な黒点を発見した。不審に思って見つめるうちに、それは 中翼単葉の単発機の姿を取ってきた。すっかりルーチンワークと化した偵察飛行で 鈍った判断力を総動員して、機種の見当をつける。こんな所を飛んでいる単発機は、 艦載機以外には有り得ない。味方の零戦でも、あんな方角から無着陸で飛んで来る ことは不可能だ……まてよ、見方には中翼の単発機は無い筈だ。するとあれは「「 まさか……まさか! 事の重大さを悟った偵察員は、咄嗟に操縦席に向かって叫んだ。 「2時方向に敵機!」 だが、機長はまるで取り合う素振りを見せなかった。 「どうせ目の錯覚だろう。マーシャル沖であれだけ叩きのめされた米軍が、何だっ てこんなところまで遠征してこなけりゃならんと「「」 そこまで言ったところで、外を見ていた全員の目は、驚愕に見開かれた。機影識 別表で頭に叩き込んでいた米軍のF4Fと同じ機影の飛行機が、急速に迫って来た からだ。それも、1機や2機ではない。200機を超える大編隊が、昨年末に日本 軍が占領したばかりのウェーキの方角を目指して、真っしぐらに突き進んで来たの だ。 「し、司令部に打電だ! 我、敵艦載機の大編隊と遭遇せり!」 だが、その言葉が電文となって放たれることはついに無かった。四方八方から襲 いかかって来た12.7ミリ機銃弾が、電文を打つべき電信員の肉体ごと通信機を 粉砕してしまったからだ。瞬時に胴体に無数の弾痕を穿たれた九七大艇は、次の瞬 間燃料に引火して大爆発を起こし、無数の破片を空中に撒き散らしながら落下して いった。 この日ウェーキを襲った米軍機は、F4F80機、ドーントレス70機、デバス テーター70機の合計220機だった。哨戒機が警報を送る間もなく撃墜されたこ ともあって、攻撃は完全な奇襲となった。3ヶ月前にこの島を襲ったのと同じ光景 が、規模を数倍して再現された。 滑走路上に並んでいた零戦や一式陸攻が、機銃掃射を浴び、爆弾に直撃されて木 っ端微塵に砕け散る。破壊された機体に搭載されていたガソリンや機銃弾が誘爆し、 機体の破片が鋭利な刃物となって飛び回り、逃げ惑う基地要員達を辻斬りよろしく 斬り倒して行く。 燃料集積所に1000ポンド(454キロ)爆弾が落下し、巨大な黒煙と炎の雲 が天高く立ち昇り、ひしゃげたドラム缶が高々と宙を舞う。 他の基地に敵襲を告げる無線が発信され始めたが、半分も打ち終わらないうちに 通信所を銃爆撃の嵐が襲い、無線機と通信アンテナを一緒くたに吹き飛ばした。 司令部や兵舎、格納庫、対空砲座といった施設にも、次から次へと1000ポン ド爆弾が降り注ぐ。ドーントレスのみならず、デバステーターも大胆な低空飛行で 侵入し、水平爆撃を加えて行く。崩壊した格納庫の中では、生き埋めになった整備 兵達が、破壊された機体から漏れ出したガソリンに引火した火災の炎で焼かれて行 く。 滑走路は、30発以上の1000ポンド爆弾を叩き込まれて、隅から隅まで徹底 的に掘り返された。野戦病院にも容赦なくF4Fの機銃掃射が加えられ、室内では 運び込まれた負傷者や軍医や衛生兵が、血飛沫を上げて倒れて行った。 米軍機が去ったとき、ウェーキは、開戦時に日本軍によって被ったよりも遥かに 甚大な損害を受け、激しく炎上する瓦礫の堆積場と化していた。辛うじて生き残っ た数少ない基地要員達が、虚脱したような表情で、一瞬にして荒野へと変貌した基 地を見つめていた。 「攻撃隊より入電! 『我奇襲に成功せり』」 電信員の声に、第四任務部隊旗艦「エンタープライズ」の艦橋は沸き返った。 「第一目標は達成したわけだ。次の攻撃目標をどうするかだが……」 ハルゼーが、作戦地図を前に、幕僚と向かい合って言った。 「ルートとしては2つある。一つは、マーシャルとギルバートを叩いて帰投するコ ース。これだと、主要目標はクェゼリン、ルオット、マロエラップとなる。もう一 つは危険だが、成功した場合の効果が大きい。すなわち「「」 ハルゼーは、そこで一瞬の間を置いて続けた。 「マーカス(南鳥島)とマリアナを叩くルートだ。俺としては、こっちのルートで 行こうと思う」 一瞬、誰もがハルゼーの言ったことの意味を掴みかねて、ぽかんと間の抜けたよ うな表情を見せた。だが、次の瞬間、ことの重大さに気付いた幕僚達が、一斉に目 を剥いた。 「マーカスを叩くんですか!?」 「東京から1000マイル強しか離れていない基地を!?」 「それは無茶です、提督!」 だが、ハルゼーは不敵な笑いを浮かべて言った。 「無理なことは、いくら努力したところで成算はなきに等しい。だが、無茶なこと は、やりようによっては十分成功が望めるものだ」 「小官も賛成です」 ベイツ参謀長が助け船を出した。 「先程ウェーキで、我々の攻撃隊が殆ど抵抗を受けなかったことからもわかります が、日本軍はどうやら緒戦の大勝に慢心しているようです。マーカスまで深入りし ても、索敵網に引っ掛かる可能性は少ないと思いますが」 「誰か反対する者はいるか?」 ハルゼーの問いに、幕僚達は何となくすっきりしない不安を抱きながらも、この 作戦案に同意した。勇猛猪突で知られるハルゼーはともかく、冷静かつ理論的な判 断で知られるベイツまで賛成しているのでは、反対意見を唱えたとしても説得力に 乏しかった。 3月22日 マリアナ東方沖 「敵艦隊はまだ発見出来んのか!?」 第四航空戦隊司令の大西瀧治郎少将は、苛立った表情で幕僚に訊ねた。 ウェーキに続いて大胆にもマーカスを襲った米空母部隊は、そのまま姿をくらま していた。マーカスの救援に向かった大西は、基地のあまりの惨状に、愕然とした ものだった。建物は一棟残らず破壊され、滑走路には幾つもの大穴が開き、そこら 中に地上撃破された航空機の残骸が転がっており、辛うじて屋根の数箇所に穴が空 いただけで残った倉庫や、奇跡的に爆弾の直撃を受けなかった防空壕の中で、生き 残った基地要員達が、身を寄せ合うようにして、折りしも降り出したスコールをし のいでいた。 (このようなことが二度とあってはならない) 責任感と使命感に燃えた大西は、麾下の全艦に、全力を挙げての索敵と敵艦の撃 滅を命令していた。護衛の重巡「筑摩」と軽巡「阿武隈」「五十鈴」が搭載する、 10機の水偵を総動員して索敵を行っていたが、敵艦隊の足取りは杳として掴めな い。 針路を間違えたのでは、そう思い始めたとき、伝令が艦橋に駆け込んで来た。 「5時方向に敵偵察機!」 「馬鹿な、こっちはようやく敵機動部隊を見つけたところなんだ。4対4で互角以 上に戦える各個撃破のチャンスだと言うのに、長官は一体何を考えてるんだ!」 苛立っていたのは、ハルゼーも同じだった。ウェーキに続いてマーカスへの空襲 も見事成功させ、さあマリアナを叩こうと言う段になって、突然ハワイの司令部か ら帰投命令が出されたのだ。ハルゼーは30分以上も荒れ狂ったが、命令は絶対だ。 彼は渋々、全偵察機に帰艦命令を出し、引き上げに掛かった。 (結局新長官は、口先が達者なだけの臆病者じゃないか!) ハルゼーは、憤懣やる方ないと言う表情だった。 「結局遭遇出来ず終いか……」 敵偵察機を発見したものの、これを取り逃がしてしまい、ついに第四任務部隊を 発見出来なかった二航艦は、燃料補給のためマリアナに向かっていた。 「せめて、二航戦がいれば……」 本来二航艦には、「翔鶴」を旗艦とする高速の第二航空戦隊もいる筈なのだが、 陸軍からの要請で始まったインド洋作戦がたけなわとなっている現在、二航戦は一 航艦に引き抜かれて、今はベンガル湾にいる。 「二航戦がいれば、敵を捕捉撃滅出来るものを……」 それだけに、大西は諦め切れない思いで一杯だった。 1942年3月31日 ハワイ 「どういう事ですか、あれは!?」 艦隊がハワイに到着するや、ハルゼーは真っ先に、ニミッツの所に怒鳴り込んだ。 「敵の空母は、こちらと同じ4隻だった。あの状態で戦えば、十分勝算はあったん だ! ジャップどもの忌々しい空母を各個撃破する、絶好の機会だったのに、それ を……それをあんたは……」 「まぁ、話を聞きたまえ。文句はその後でも遅くないだろう?」 執務机に両手を叩きつけ、口から唾を飛ばさんばかりの剣幕で食って掛かったハ ルゼーを、ニミッツは片手で制して宥めた。だが、その程度で収まるハルゼーでは ない。皮肉ぶった口調で、唇を歪めて言い返した。 「すると何です? まさか、話を聞けば東京を空襲に行かせて貰えるとでも?」 「よく判ったね」 「……は? ……今、何と?」 ハルゼーは、呆気に取られた表情でニミッツの顔をしげしげと見つめた。瓢箪か ら駒とはこの事だ。勢いのままに口から出任せを言ったつもりが、本当になってし まったのだ。 「だから、東京を空襲に行けるんだよ。貴官は、あの後マリアナ辺りを叩いて帰投 するつもりだったんだろうが、叩いてもいずれ修復されてしまう航空基地を叩くよ りも、ヒロヒトの上に爆弾でも落として、敵を心理的に揺さぶってやる方が面白い とは思わんかね? これは、陸軍からも提案があったんだが「「」 そう言いながらニミッツは、作戦の概要が書かれた紙片をハルゼーに渡した。そ れを一読した途端に、ハルゼーは興奮を押さえ切れないといった様子で応じた。 「面白い、実に面白そうな作戦だ! 分かりました。ジャップどもに一泡吹かせる どころか、奴らの軍への信頼をガタガタにしてやりましょう」 さっきの怒気は何処へやら、ハルゼーは口笛を吹き吹き、太平洋艦隊司令部の廊 下を歩いていった。先程ハルゼーが怒鳴り込んで行くのを見て、半分腰を抜かして しまっていた当直の兵曹などは、あまりのハルゼーの機嫌の変わりように、中で一 体何があったんだ、と首を傾げていた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− お待たせしました。第二章をお送りします。米軍の名物提督ハルゼーのキャラク ターを、認識して頂ければ…… 感想お待ちしてます Vol
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