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第二部 逆襲の星条旗 第一章 輝ける帝国 1942年1月4日 真珠湾 幽霊船もかくやと言う姿となった太平洋艦隊は、この日の昼過ぎになって母港に 辿りついた。よろめくようにしてブイへ向かい、錨を降ろして行く。魚雷を多数受 けて浸水の進んでいた「ペンシルバニア」などは、接岸するのももどかしいとでも 言うかのように、陸地のすぐそばのブイまで辿りついたところで着底してしまった。 接岸した艦の舷門からは、担架に括りつけられた重傷者が続々と下ろされて来る。 特に、戦艦など乗組員の多い(そして負傷者も多い)艦からは、それこそ溢れるよ うに負傷者が降りて来た。 「酷いものだな……」 惨澹たる様子を岸壁から眺めながら、その男は呟いた。テキサス辺りの初老の農 夫を思わせる顔には、苦渋の色がはっきりと浮かんでいる。つい2週間ほど前に太 平洋艦隊司令長官に就任した、チェスター・ニミッツ大将だ。 「航海局(人事担当の部署)長をやっていた時は、こんな大役を仰せ付かるとは思 っても見なかったが……」 世界最強「「もはやその言葉は似つかわしくないかもしれないが「「の合衆国海 軍において、最も有力な太平洋艦隊の司令長官への就任、と言えば大抜擢に思える が、その実たるや、ボロボロになった敗残の艦隊を率いて、強大な日本軍の新たな 攻勢に立ち向かう「「と言う、一見不可能事にも思える任務が待っていた。 だが、ニミッツには、途方に暮れている時間は与えられなかった。さし当たって の仕事が、嫌と言うほど山積みになっていたからだ。 まず、キンメルと一緒に全滅してしまった太平洋艦隊の司令部スタッフを、再編 成しなければならなかった。それが終わったら、損傷艦の修理の手配、戦訓と敗因 の調査、新造艦の建艦計画の見直しと、当面の作戦目標の策定、そして沈滞しがち な将兵の士気の鼓舞と、一息つく暇もなかった。 まず、司令部スタッフの筆頭を固める参謀長には、第三任務部隊指揮官として、 困難なマーシャル沖からの退却行を指揮した実績を持つ、スプルーアンス少将を引 き抜いて来た。そして、損傷艦のリストと修理計画が纏まるまでの間を利用して、 時間の許す限り現場に顔を出し、将兵と交流して士気の高揚に務め、その一方で、 1月15日には戦訓調査会議を開いた。 会議の席上ではハルゼーが熱弁を揮い、航空機の威力と有効性を声高に主張した。 「今回の海戦で、空母と航空機の有効性ははっきり示された。叩きのめされたのが 我々だと言うのが気に食わんが、戦艦は飛行機に勝てないことがあれほどはっきり と証明されたんだ。かくなる上は我々も、空母と航空機の大量配備によってジャッ プに対抗し、奴らの艦隊を一隻残らず海底に送り込んでやるべきだ!」 「貴官の言う事は正しいが、結論を急ぐべきではない」 スプルーアンスが、嗜めるように言った。 「空母の数だけが問題なのではないだろう。仮に三年計画戦艦が、全てヨークタウ ン級空母だったとしても、日本軍にはかなわなかったに違いない。特に、彼らの戦 闘機の空戦性能は群を抜いている。F4Fでは、まず歯が立たないだろう」 「ばかな。ジャップの戦闘機が、F4Fを上回る性能を持っていることなどありえ ん! あの時我々が空中戦において圧倒されたのは、奴らの数が多かったせいだ!」 食って掛かるハルゼーに、スプルーアンスは冷静な口調で答えた。 「私は、彼らの戦いぶりを見ていたんだ。彼らの戦闘機が、こちらのF4Fよりも 遥かに小さな半径で旋回し、易々と後ろに廻り込んで、恐らく20ミリと思われる 大口径の機銃で次々とF4Fを仕留めて行く様子を」 「航空戦だけではありません」 メリーランド級戦艦4隻を率いて参加したものの、僚艦3隻を撃沈されたトーマ ス・キンケイド少将が発言した。 「あの海戦において、日本軍の砲撃の命中率は、明らかに我が軍のそれを凌駕して いました。特に、序盤における命中率の差は歴然としており、こちらの最初の命中 弾が『ノースカロライナ』の第15斉射だったのに対して、敵の砲撃は初弾から夾 叉を出し、第2斉射から次々と命中弾を送り込んで来ました。この点から言っても、 我が軍があの戦いで勝利を収める事は困難だったと思われます」 「発射速度の速い新型50口径16インチ砲を以ってしても、日本軍の戦艦には歯 が立たなかった「「そういう事かね?」 ニミッツの問いに、キンケイドは躊躇なく答えた。 「命中率の改善がなければ、発射速度は意味がありません。仮に、16インチ砲が 18インチだったり、50口径が60口径だったとしても同じ結果が出たでしょう」 「撃沈された戦艦の半数近くは、水上部隊によるものです。結局我々は、戦艦同士 の戦いにおいても日本軍に歯が立たなかった事になります」 サウスダコタ級唯一の生き残りである「インディアナ」の砲術長で、艦長が戦死 した後の指揮を引き継いで艦をハワイまで引っ張って来た、マクワイルド中佐が同 意した。 「航空戦でも砲撃戦でも「「か。ジャップの実力が我々の予想を遥かに上回ってい たと言う事だな」 ハルゼーが、憮然とした顔で呟いた。骨の髄まで日本人を毛嫌いしているハルゼー だが、これだけの証拠が眼前に突きつけられている以上、事実は事実として認めな い訳には行かなかった。 「マーシャル沖での敗因がはっきりしたところで、戦備計画の検討に移ろう。最初 に、喪失艦の補充についてだが「「まず、参謀長から被害集計について報告しても らおう」 ニミッツが、スプルーアンスに話を振った。スプルーアンスは、立ち上がって一 礼してから、書類を取り出して報告を読み始めた。 「駆逐艦については、所属と隻数のみの報告とします。まず戦艦ですが「「」 スプルーアンスがレポートを読み上げるに従って、室内に引きつった空気が漂っ て行く。 ・沈没……戦艦「サウスダコタ」「マサチューセッツ」「アイオワ」「モンタナ」 「ノースカロライナ」「ウェストバージニア」「コロラド」「ワシント ン」「レキシントン」「コンスティテューション」「テネシー」「カリ フォルニア」「アリゾナ」「オクラホマ」「ネヴァダ」……計15隻 重巡「ソルトレイクシティ」「チェスター」「アストリア」……計3隻 軽巡「ホノルル」「ヘレナ」「ラーレイ」「デトロイト」……計4隻「「 「続いて、損傷艦の報告です」 戦艦「インディアナ」……艦橋全壊。第一・第三主砲塔全壊。右舷補助火器全滅。 本国の工廠にて徹底修理の必要あり。 戦艦「メリーランド」……被弾4発、魚雷1本命中。損傷軽微なれど、船体の一部 に歪みが発生した疑いあり。本国の工廠にて検査・補修 の必要あり。 戦艦「ペンシルヴァニア」……兵装全滅。火災による損傷大。本国の工廠にて修理 の必要あり。 戦艦「サラトガ」……魚雷5本被雷。本国の工廠にて修理の必要あり。 戦艦「レンジャー」……火災による損傷大。主砲全滅。本国の工廠にて修理の必要 あり。 戦艦「コンステレーション」……損傷軽微。応急修理にて、戦列への復帰が可能。 戦艦「ユナイテッドステーツ」……艦首喫水線下損傷。本国の工廠にて修理の必要 あり「「 「現在、これらの戦艦の補充として、大西洋艦隊から『ニューメキシコ』『ミシシ ッピー』『アイダホ』『アーカンソー』が回航中だ。さらに、先程届いた情報によ ると、建造中のアラバマ級戦艦及びエセックス級空母を、全て太平洋に回すことが 決定した」 「回航中の4隻を加えたとして……」 ニミッツの報告に、キンケイドが呟いた。 「現在我々が直ちに使用出来る艦は、戦艦5、空母4、重巡6、軽巡1、駆逐艦54 そして潜水艦8……と言ったところか。これでは、日本軍には対抗出来んな」 「さし当たっての最重要課題は、本国「「ハワイ「「オーストラリアのラインの確 保だ。キング作戦部長から、積極攻勢は控えるよう申し渡されている」 「ジャップどもが嵩に掛かって攻めて来たらどうします?」 ハルゼーの問いに、ニミッツはにやりと笑って答えた。 「それを防ぐのが、貴官の役目だ。直ちにサンディエゴに行って艦載機の補充を受 けてくれ。帰って来たら、また一働きして貰うことになると思う」 1月6日 ワシントン この日、ルーズベルトはラジオで演説を行い、「日本は騙し討ちによって太平洋 艦隊を決闘の場に引きずり出し、しかも自分は正々堂々と戦わずに、一対一の決闘 の場にマシンガンを持ったギャングの集団を連れて現れ、キンメルを始めとする太 平洋艦隊の艦船と将兵を撃ち殺した」とマーシャル沖海戦を形容し、全国民に対し て、合衆国の正義と戦争への協力・理解を訴えた。これは、まさに図に当たった。 合衆国の世論は沸騰し、ある新聞が見出しに使った「リメンバー・マーシャル」の スローガンが、全国に広がっていった。 一方でルーズベルトは、側近のハリー・ホプキンスに対して、非公式にこう語っ ている。 「太平洋艦隊の戦艦が沈んだとはいえ、この戦いで航空機に勝てないと判った戦力 が壊滅したところで、大した痛手ではあるまい。それよりも、空母4隻が無傷で残 ったことの方が大きい。我が国は多くの民間パイロットを抱え、しかも戦艦よりも 航空機の方が明らかに調達は容易だ。彼らは自ら、我が国にとって最も戦いやすい 方面へと戦争の流れを変えてくれたのだ。しかも、この敗北で国民の戦意は最高点 まで沸騰し、世論は挙って打倒日本を叫ぶことだろう。さらに、これでヨーロッパ への介入も可能となった。その代価と考えれば戦艦の10隻や20隻など安いもの だと言えよう。これで、我が国の勝利は決まったも同然だ「「」 同時に、東海岸の一部の造船所で、動きに変化が現れた。建造中の新型戦艦4隻 の船体から、一部の装甲板が剥ぎ取られ、代わりに上甲板のさらに上に、艦の全長 に渡って構造物を設ける準備が始められた。それは明らかに、空母への改造を意図 したものだった。 1月19日 東京 嶋田繁太郎海軍大臣と永野修身軍令部総長を紀尾井坂の私邸に迎えた伏見宮博恭 前軍令部総長は、至って上機嫌だった。 「米戦艦15隻を撃沈し、7隻を撃破。我が方の損害は駆逐艦2隻のみ「「まさに 日本海海戦を上回る大勝だ。贅沢に慣れきった米英など、我が精鋭の敵ではないこ とが証明されたではないか」 伏見宮は、まるで自分の手柄でもあるかのように戦果を評した。 「GF司令部から、これを機会に対米講和を申し出てはどうかと意見具申して来て いますが」 「問題外だな」 嶋田の提案を、伏見宮は言下に却下した。 「徹底的に叩き潰して、ワシントンで城下の盟を立てさせるか、全土を占領するま では、講和を申し出るなどもってのほかだ。こちらから弱みを握らせては、奴らは 嵩に掛かってつけ上がるだろう」 「万一、向こうから講和を申し出て来たらどう致しますか?」 永野の問いに、伏見宮はさも意外「「と言う顔で応じた。 「万一などと、根拠が弱いような言い方をするものではない。奴らは間違いなく、 講和を申し出て来るに違いないのだ」 「しかし、あの合衆国が向こうから講和を申し出て来るとは思えませんが」 異議を唱えた嶋田を、伏見宮は不機嫌そうな表情で睨みつけた。お前が現在の地 位にあるのは、誰のおかげだ「「とでも言いたげな顔だった。 「奴らは贅沢に慣れきった国民だ。戦時下の窮乏生活に耐えられる精神力など、持 ち合わせている訳が無い」 「しかし、山本GF長官も言っていましたが、合衆国は豊かな国です。国民に耐乏 生活など強いずとも戦争を遂行出来るだけの経済力が、彼の国にはあるのではない でしょうか」 「冗談は休み休み言いたまえ」 伏見宮は、手を振りながら言い放った。 「どこの世界にそんな国家があるものか。山本は、あの国を過大に評価しておるの だ。さもなくば、奴が臆病者であるかのどちらかだな」 伏見宮は、有無を言わさぬ調子で言った。 「とにかく、こちらから講和を申し出ることは絶対にならん。敵が音を上げるまで、 徹底的に攻め続けるのだ」 嶋田も永野も、黙って従うしかなかった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− Vol
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